2020.02.24 (公開 2019.12.05) サンゴ図鑑
初心者に難しい好日性サンゴ5種とその理由
海水魚店へ行くと、さまざまなサンゴが販売されているのを見ることができます。しかしその中には、初心者向けでないサンゴも多数販売されています。愛好家が多いミドリイシ、ハナサンゴ類、長いポリプが特徴的なハナガササンゴ、ソフトコーラルのウミアザミ、ハナヅタはサンゴ飼育初心者には難しいサンゴといえます。これらのサンゴはなぜ初心者には難しいといわれるのでしょうか。
初心者に難しい好日性サンゴ
海水魚店で販売されているサンゴはどれも家庭の水槽で飼育できます。しかしその中には初心者に難しいサンゴもいます。理由としては「照明や水質を維持するのに必要な器具が高価」であったり、「水質悪化に極めて弱い」であったり、なかにはハナガササンゴのように「まだ飼育方法が確立されていない」ものもいます。今回はそのようなサンゴ5種をピックアップします。
なお、ここで「好日性サンゴ」と括ったのは、光を必要としない陰日性サンゴはどの種も餌を必要とし、餌を頻繁に与えなくてはならないことからベテランでも飼育が難しいサンゴであるためです。サンゴ飼育初心者であれば、光合成によって必要なエネルギーを得ることができるサンゴの方が飼育しやすいといえます。ただし、そうであっても飼育が難しいものがいます。
なお、逆に初心者におすすめのハードコーラルについてはこちらをご覧ください。
ミドリイシ―最もハイレベルな水質と照明、水流が必要
▲ミドリイシの仲間
ミドリイシはマリンアクアリウムの最高峰といわれます。ミドリイシは硝酸塩の蓄積に非常に弱く、極めてきれいな海水を必要とします。また浅い場所や、潮の流れが激しい場所に多くみられるため、照明、水流ともにハイレベルなものが必要となります。
水槽システムはベルリンシステムや、最近はやりのゼオビットシステムなどの超低栄養塩システムが向いています。レッドシーの「No3PO4-x」などを使用したシステムでの飼育もよいでしょう。また、魚は栄養塩を沢山排出するので、少なめにすることが重要です。もちろんチョウチョウウオなどはミドリイシのポリプを食べてしまうので、入れないようにします。
ミドリイシはSPSと呼ばれるグループのサンゴです。同じミドリイシ科のSPSであるコモンサンゴや、ハナヤサイサンゴの仲間(ハナヤサイ、ショウガサンゴ、トゲサンゴ、フトトゲサンゴなど)は比較的飼育は容易ですが、それでも硝酸塩が多い環境での飼育は難しいところがあります。はじめてSPSを飼育するならシコロサンゴや、コモンサンゴが最適です。とくにポリプがよく伸びるシコロサンゴは初心者でも飼育しやすいサンゴですのでおすすめです。
ハナサンゴの仲間―ミドリイシほどでないが求められるものが多い
▲ナガレハナサンゴ
ハナサンゴ(チョウジガイ)科のハナサンゴやナガレハナサンゴは、水流になびく触手が美しく人気があるサンゴのひとつです。ただしハナサンゴ科のサンゴはやや飼育が難しいところもあり、初心者向けとはいえません。硝酸塩の蓄積や、魚につつかれる、すり寄られること(とくにクマノミの仲間)に弱いようで、ベルリンシステムなどでの飼育が適しているように思います。餌は基本的に必要ないですが、ヨウ素や微量元素などの欠乏によわいところもあります。システムは生物ろ過システムを採用した水槽でも飼育できますが、ベルリンシステムのほうが飼育しやすいでしょう。
また、輸送でダメージを受けていることもあるため、入荷状況はしっかりチェックします。しかしながら状態がよい個体を水槽に導入しても、水質、成分などの要求はミドリイシほどではないにせよハイレベルなものが要求されます。またスイーパー触手は大変強い毒をもち、触れたハードコーラルを溶かしてしまいます。
ナガレハナサンゴはいろいろなお店で「初心者でも飼えますよ」という説明がなされていることもあります。実際に初心者でもうまく飼えているようなケースはありますし、ベルリンシステムでの飼育は簡単かもしれません。しかし初心者のアクアリストは魚をどうしても沢山入れがちなので、ベルリンシステムでの運用自体も難しいといえます。そのため、あまり初心者向けのサンゴとはいえないところがあります。
ハナガササンゴ―飼育方法が不詳
▲ハナガササンゴ
ハナガササンゴは大昔「飼いやすいサンゴ」と紹介されていたこともありました。短期であればすぐポリプを開き、飼いやすいように見えるのですが、長期飼育は難しく、ベテランのアクアリストでも難しいという意見をきくことが多いサンゴです。理由は不明ですが、何か月かうまく飼育できていっても、徐々に歯抜けの状態になって、最後は消滅してしまうというケースも多いです。ハナガササンゴレッドとして販売されているものは、その中ではまだ長期飼育しやすいといわれていますが、初心者が手を出しても、長期飼育することは困難な種類といえます。
ウミアザミ―水質悪化に弱い
▲ウミアザミ
ウミアザミは薄いピンク色が綺麗なサンゴで、やはり水流になびく触手が美しいサンゴです。ソフトコーラルの仲間で繁殖力旺盛、環境が合うと爆発的に増えていきます。
ただし、このウミアザミは水質悪化に弱いサンゴです。状態よく飼育できていても、何らかの理由で硝酸塩が蓄積されていくと、次第に小さくなったり、溶けるようにして消えてしまいます。そのため水質には気を配りたいものです。生物ろ過でも水かえをしっかりしていれば飼育できないことはないのですが、やはりベルリンシステムが理想でしょう。また適度な水流と、ヨウ素、微量元素などの添加が必要です。さらに寄生性のウミウシの仲間にも注意が必要です。
このほか輸送にも弱く、とくに夏場は弱っていることもあるのでこの点も注意すべきポイントです。
ツツウミヅタ&ハナヅタ―こけがはえると厄介
▲ツツウミヅタの飼育はやや難しい
雪の結晶のような見た目のツツウミヅタや小さなお花のようなハナヅタは「飼育しやすいサンゴ」とされているムラサキハナヅタ(スターポリプ)と同じ仲間ですが、スターポリプよりもずっと飼育は難しいです。
飼育しているともやっとした、あるいはひげ状のコケが生えてくることがあります。コケが生えるのを防ぐのであれば、水流ポンプをよどみなくまわすなどの配慮も必要になるのですが、直接ツツウミヅタやハナヅタに当たるのはよくありません。アシナガモエビなどはコケを食べてくれますが、できるだけ早いうちに対応することが重要になります。
水質面としてはウミアザミほどではないのですが、水質悪化に弱く、きれいな海水が必要になります。さらに添加剤(ヨウ素・微量元素など)も重要になります。またウミヅタ類を専食するウミウシの仲間もいるようで、チェックしておきたいところです。そうしないと徐々に減退してしまいます。ウミウシ類の防除については薬浴が重要です。「コーラルRXプロ」などに浸してサンゴをゆらし、表面を洗浄するのです。
難しいサンゴを飼育するならベルリンシステムが最適
今回紹介したような飼育が難しいサンゴを飼育するのであれば、ベルリンシステムが最適です。ベルリンシステムであればここで紹介しているサンゴの多くを飼育することができます。ミドリイシであればゼオビットなどのシステムもよいのですが、LPSであれば栄養塩を取り除きすぎてしまうということもあります。ただしベルリンシステムはマリンアクアリウム初心者の方にはおすすめできないシステムです。なぜならば初心者の方は魚をたくさん入れたがるので、ベルリンシステムを運用するのが難しいからです。
また、栄養塩を減らすためのバクテリアの餌となる、レッドシーの「NO3PO4-X」というものを使用するのもよいでしょう。これは低栄養塩を実現するための添加剤です。この低栄養塩を実現するのにゼオビットなど高価な機材が必要になったり、VSVメソッドのように運用が難しかったりしますが、このNO3PO4-Xはベルリンシステムを運用している水槽にそのまま使用できるというメリットがあり、致命的なダメージが発生しにくいというメリットもあります(プロテインスキマーが必須となります)。
難しいサンゴ5種まとめ
- ミドリイシはハイレベルな水質と強い光、水流が必須
- ハナサンゴ科はミドリイシほどではないがきれいな水が重要
- ハナガササンゴはまだ飼育方法が確立されていない
- ウミアザミは水質悪化に弱い。ヨウ素の添加も重要
- ツツウミヅタやハナヅタは水質悪化にやや弱くコケにも注意
- これらの飼育にはベルリンシステムが最適
- レッドシーの添加剤「NO3PO4-X」を使用するのもよい