2020.09.26 (公開 2019.04.23) サンゴ図鑑
ツツウミヅタの飼育方法~ソフトコーラルの仲間ではやや飼育が難しい
ツツウミヅタはウミヅタ科のソフトコーラルです。サンゴ礁の浅場に見られ、派手な色彩ではないものの、雪の結晶のような形のポリプがきれいなサンゴです。ウミヅタ科のサンゴにはほかにもハナヅタや、スターポリプという名前で流通するムラサキハナヅタなどが知られていますが、ツツウミヅタはこれらのサンゴと比べるとやや飼育が難しい種類ですので、初めてソフトコーラルを飼育するときは前述の2種を飼育して、この仲間の飼育の基礎を学ぶようにした方がよいかもしれません。
ツツウミヅタってどんなサンゴ?
ツツウミヅタはウミトサカ目ウミヅタ科の八放サンゴの仲間で、骨格を持たないソフトコーラルの一種です。
同じウミヅタ科のソフトコーラルにはムラサキハナヅタがいます。これはアクアリウムの世界では一般にスターポリプと呼ばれるサンゴで、とても丈夫で飼育しやすく初心者にもおすすめのサンゴです。ですから同じ科のサンゴであるツツウミヅタも当然飼育は簡単…というものではありません。
スターポリプはやや硝酸塩が蓄積されていても、水がよどんでいても死んでしまうことが少ないサンゴですが、このツツウミヅタはスターポリプやウミキノコ、カタトサカといったサンゴよりも硝酸塩の蓄積に弱いようです。また水流は強めを好みます。光もある程度強い方がよいのですが、強すぎるとコケに覆われてしまい死んでしまうことがあります。
同属のサンゴとしてはハナヅタがいます。ハナヅタはツツウミヅタよりも小型で背が低く、ツツウミヅタほどのボリュームはないのですが、こちらのほうが幾分飼育はしやすいようです。
カラーバリエーション
▲ベージュカラーのツツウミヅタはよく見られる
▲緑色が強めの個体。このタイプも多い
ソフトコーラルは全般的にカラーバリエーションに乏しく、本種もベージュで中心が緑色のもの、全体的に緑色のもの、ピンク色のものが多いですが、ポリプにオレンジ色のラインが入るものもあります。
ツツウミヅタ飼育に適した環境
水槽
背が高くなるサンゴというわけではなく小型水槽でも飼育は可能ですが、ツツウミヅタはカタトサカやウミキノコの類よりもやや難しい種類で、水質にも敏感なため、この仲間を飼育するのであれば大きめの水槽で飼育するのが望ましいといえます。これは大きめの水槽では小型水槽よりも水質が安定しやすいからです。できるだけ60cm以上の水槽で飼育したいものです。
水質とろ過システム
ツツウミヅタは栄養塩が低い環境を好みます。上部・外部・外掛けろ過槽などを用いた強制ろ過システムでの飼育も可能ではありますが、魚の少ないベルリンシステムなどでの飼育がベストといえます。ミドリイシなどのSPSが飼えるような環境で飼育するとよいでしょう。
水温
▲奄美諸島の潮だまりで見られたツツウミヅタの群体
水温はある程度耐性があるかもしれません。この種は非常に浅い潮溜まりでもよくみられるためです。ただ実際に飼育するのであれば、あまりにも高すぎたり変動があるようではよくないでしょう。25℃前後がよさそうです。
水流
水流はどのようなサンゴであれ重要ですが、とくにツツウミヅタの場合は重要です。水流がないとサンゴの上にデトリタスがたまり呼吸が出来なかったり、その上にコケが生えてしまい、死んでしまうこともあります。ただし強い水流を四六時中直接当てると長生きしません。ほどほどの強さの水流が間接的にあたるような水流が理想です。
照明
浅場に生息するソフトコーラルですので、当然強い照明を好みます。ミドリイシなどが飼育できるような強い光のもとで飼育したいサンゴといえます。しかしながら強い光のもとではコケが発生することがあり注意が必要です。トロロ状のコケがツツウミヅタを覆い尽くして殺してしまうこともあります。スポイトで吸い取ったりしてコケを取り除きましょう。
照明は従来はメタハラが推奨されましたが、現在はメタハラは廃れ、ハイパワーのLED、もしくはT5蛍光灯になります。ただし、ハイパワーLEDの直下はツツウミヅタには強すぎるかもしれません。蛍光色をもつものは青色LEDを使用すると蛍光色に輝く様子をみることができます。
置き場所
▲水槽の上方に置きたい
強い光を好むのでレイアウトの上方に置きたいソフトコーラルといえます。毒性は弱いため、カタトサカやディスクコーラルなど、毒性が強めのサンゴとは触れさせてはいけません。同種同士、もしくは近縁種であり、同じくらいの毒性のハナヅタ位にとどめた方がよいでしょう。
餌と添加剤
餌
▲H&Sのマリンデラックス。サンゴに最適なフード
ツツウミヅタはマメスナや陰日性ソフトコーラルとは異なり、あまり積極的に餌を食べるようなことはないソフトコーラルです。もし給餌するのであればH&Sの「マリンデラックス」など、ソフトコーラル用のリキッドフードをあたえます。ポリプをよく開いているときに、水流を止めてポリプに直接与えるのですが、あまり与えすぎるのもよくありません。基本的には光による光合成でエネルギーを得る種です。
添加剤
まずはヨウ素や微量元素を添加します。ストロンチウム、マグネシウムはハードコーラル向けと思われがちですがソフトコーラルにも有用な元素なので添加剤で供給しましょう。カルシウムは添加剤で添加してもよいのですが、イオンバランスを崩しやすいので過剰添加にならないよう気をつけましょう。もちろん添加剤を入れたら水かえはしなくてもよい…というものではありません。硝酸塩などを取り除いたり、崩れがちな成分のバランスをリセットする、という意味でも水かえは重要です。
水槽内で成長させる
ツツウミヅタはランナーを出して増えるタイプのソフトコーラルですが、ソフトコーラルの中では増やすのは難しい種といえます。まずはきれいな水、強い光、ほどほどの水流、適切な添加剤の使用、ツツウミヅタを食べるような魚を入れないなど、基本的なことを守るようにしましょう。
ツツウミヅタをお迎えする
ツツウミヅタは国内でも採取可能なソフトコーラルですので、インドネシアなどの東南アジア産のものだけでなく、沖縄県産のものも流通しています。沖縄県産の個体は輸送時間が短く状態よく到着する可能性が高いので、はじめてツツウミヅタを飼育するのにはおすすめといえます(はじめてサンゴを飼育するのにおすすめというわけではない)。購入するときはよくポリプが開いているものを購入しますが、ポリプが小さく減退しているもの、もやっとしたコケに覆われているものなどは購入しない方がよいでしょう。
なお、ツツウミヅタを専門に食べるウミウシの仲間がついている可能性もあるため、導入前に「コーラルRXプロ」や「リバイブ」などの専用の薬で薬浴を行うようにしましょう。
ツツウミヅタと他の生物との関係
ほかのサンゴとの関係
基本的には硝酸塩の濃度が低い水を好むサンゴです。ですからLPSのハナガタサンゴなど餌を与えたいサンゴとの飼育にはあまり向いていません。ミドリイシや、コモンサンゴなどのSPSとの飼育に向いた種類です。また、先述のように毒性が弱いためほかのサンゴと接触させないように注意しなければなりません。
魚・無脊椎動物との関係
▲クマノミさんの水槽でのヤッコとツツウミヅタ(ヒレナガヤッコ雌の後方)の飼育例
ヤッコやチョウチョウウオなどはツツウミヅタを捕食してしまうおそれがあるので注意が必要です。ハゼやベラ、テンジクダイ、スズメダイなどであれば問題なく組み合わせられますが、ウミキノコやカタトサカよりはきれいな水を好むため、水を汚してしまいやすい魚は少な目にしましょう。
写真はHN「クマノミ」さんの水槽で、ツツウミヅタや各種ハードコーラルとヤッコを組み合わせています。サンゴをつつきにくいとされるゲニカンの仲間であるヒレナガヤッコや、やはりソフトコーラルをつつきにくいとされるブラックバンデッドエンゼル(バンディットエンゼル)と組み合わせています。ただしヤッコは種類だけでなく個体によっても性格が大きく異なり、個体によってツツウミヅタをつついてしまう可能性は否定できません。ヤッコとサンゴを組み合わせるのであれば、どちらかを退避できるような水槽が必要です。
無脊椎動物の中ではクモガニの仲間に注意が必要です。ある種のクモガニはソフトコーラルをちぎり、その破片をその体に貼りつける習性があります。サンゴが付着した岩に擬態して身を守るようです。
ツツウミヅタ飼育まとめ
- スターポリプと同じ仲間ではあるが飼育はやや難しい
- 硝酸塩の蓄積を好まない
- 小型水槽でも飼育できるが、水質が安定する60cm以上の水槽で飼育したい
- 飼育システムはベルリンシステムがおすすめ
- デトリタスがたまらないよう強い水流が欲しいが、直接強い水流が当たるのはだめ
- 光はやや強めを好む
- コケが生えることもあるのでスポイトなどで取り除きたい
- 餌は不要。ソフトコーラル用のリキッドフードを与えるくらいに
- 添加剤はヨウ素、微量元素、ストロンチウム、マグネシウム、カルシウムを与えたい
- 硝酸塩の蓄積をふせぐため水替えもきちんとする
- 水槽に導入する前に薬浴を行う
- ほかのサンゴとの接触に注意
- ヤッコやチョウチョウウオなどの魚にも注意
- クモガニはソフトコーラルをちぎることも