2020.09.21 (公開 2019.03.22) 海水魚図鑑
ツノダシ(ギル)の飼育方法~サンゴとの相性も悪く初心者に難しい魚
ツノダシは熱帯魚らしい色彩と形が特徴の海水魚です。一見チョウチョウウオの仲間に見えますがニザダイに近い仲間で非常にすばしっこく泳ぎ回ります。やや餌付きにくくて病気になりやすいため飼育が難しく、ニザダイの仲間としてはやや気が弱く混泳には注意が必要です。
さらにサンゴを食べてしまうおそれがあるなどの問題もあります。これらのことを考えると初心者が飼育するのには適していませんが、いつかは飼いたくなる魅力あふれた魚といえます。ある程度ほかの魚の飼育で経験を積んでから飼育するようにしましょう。
標準和名 | ツノダシ |
学名 | Zanclus cornutus (Linnaeus, 1758) |
英名 | Moorish idol |
分類 | 条鰭綱・スズキ目・ニザダイ亜目・ツノダシ科・ツノダシ属 |
全長 | 20cm |
飼育難易度 | ★★★★☆ |
おすすめの餌 | メガバイトグリーン、海藻70など |
温度 | 22~25℃ |
水槽 | 90cm~ |
混泳 | ややおとなしめ。幼魚のうちは混泳に注意 |
サンゴとの飼育 | ハードコーラルはつつくおそれあり |
ツノダシってどんな魚?
ツノダシはスズキ目ツノダシ科に含まれる1科1属1種の魚です。従来はトゲツノダシという種類も知られていましたがこれは現在ツノダシの異名とされています。一見チョウチョウウオの仲間に似ていますが、異なる仲間で、ニザダイ亜目の魚とされます。図鑑によっては、ニザダイ科のなかに含められていることもあります。特徴は背鰭が非常に長く、体側に黒い縞模様があることで、体側が黄色になるという美しい色彩で、熱帯性海水魚の代表的な魚、といえるでしょう。
日本では観賞魚とされていることが多いのですが、熱帯域、日本においても沖縄では本種を食用としており、かなり美味とされます。日本国内では青森県八戸以南の太平洋岸および山口県から琉球列島、小笠原諸島まで広い範囲に分布していますが、熱帯サンゴ礁域が分布の中心です。
映画「ファインディング・ニモ」では「ギル」という役で登場し、美しく熱帯魚らしい見た目から観賞魚として人気がある…と思われがちなのですが、餌付きにくく飼育がやや難しいこと、サンゴを食べてしまうおそれがあること、病気になりやすいことから、最近はあまり人気がないようです。初心者は水槽で「ニモ」の世界を再現したくなるものですが、この「ギル」と「ドリー」(ナンヨウハギ)の飼育は初心者には難しいので、まずはほかの魚を飼育して経験をつんでから挑戦するとよいでしょう。またツノダシ、ナンヨウハギやキイロハギ(バブルス)はよく泳ぎ、飼育下でも大きめに育つため小型水槽での飼育は不可能です。
ハタタテダイとの違い
▲ツノダシとハタタテダイの見分け方
ツノダシによく似ている魚としては、チョウチョウウオ科のハタタテダイがいます。しかし、ハタタテダイは尾鰭が黄色なのに対し、ツノダシは尾鰭が黒くてその後縁が白く縁どられること、吻部に橙色の斑紋があることから、容易に見分けられます。なお、ハタタテダイと近縁な種にムレハタタテダイがいますが、ムレハタタテダイとツノダシも同様の特徴で区別できます。
ツノダシに適した飼育環境
水槽
▲よく泳ぐので大きめの水槽で飼育する
最低でも90cm水槽を用意するべきでしょう。できれば120cm以上の水槽での飼育が理想的です。ツノダシはニザダイに近い仲間で、おっとりしているように見えてびゅんびゅん泳ぐことがあります。そのため比較的広い遊泳スペースが必要になるからです。
水質とろ過システム
ツノダシはニザダイに近い仲間の魚で、ニザダイ科魚類同様にキレイな海水で飼育したいものです。
上部ろ過槽でも飼育できますが、おすすめのろ過槽はオーバーフロー水槽にしてサンプでろ過を行うことです。またサンゴを飼育するためのシステムであるベルリンシステムなどで飼育することもできますが、オオバナサンゴやキクメイシなどのLPSは食べてしまうこともあるので注意が必要です(後述)。
水流
水中ポンプなどを使用して水流をつくり、水槽内に水がよどんだところを極力つくらないようにします。水中ポンプを使用するときは吸盤ではなく、マグネットで水槽に固定するタイプのものを使用する必要があります。これは吸盤を使用するタイプでは吸盤の寿命が来ると落っこちてしまい、砂を巻き上げるおそれがあるからです。砂を巻き上げてしまうと砂がサンゴの上にかかりサンゴが死んでしまうだけでなく、白点病などの病気になってしまうおそれもあります。
水温
水温は25℃を確実にキープします。ツノダシは白点病にかかりやすい魚ですので、とくに水温を常に一定に保ちたい魚です(もっともほかの魚であっても水温のキープは重要)。
ツノダシに適した餌と添加剤
雑食性ですが藻類や付着生物などを主に捕食します。「海藻70」など植物質の餌をメインに与え、たまにメガバイトレッドなどの配合飼料を与えるとよいのですが、配合飼料にはなかなか餌付かないこともあり、最初のうちはライブロックなどに付着する生物を食べさせなければいけないこともあります。
マーフィードが輸入するブライトウェルアクアティクス社の添加剤に「エンジェリクサー」というものがあります。エンジェリクサーは導入時の餌付けに最適な添加剤で、アミノ酸とタンパク質を魚に供給します。ツノダシのほかヤッコの類やチョウチョウウオなどの餌付きにくい魚に最適と言えます。
このほかヨウ素や微量元素も供給してあげましょう。
ツノダシをお迎えする
購入する
非常に広範囲な分布域をもち、南アフリカの東海岸からペルーまでのインド-汎太平洋域に分布しています。ただし観賞魚としては主に東南アジアやインド洋などから入荷します。
海外から輸入されるものは値段は安価です。沖縄からくるものは若干高価ではありますが輸送時間が短いため状態よく届くことが多いといえます。全く「初心者向きの魚」とはいえないのですが、はじめてツノダシを飼育するのであればこのような個体がよいでしょう。
餌を食べているかもどうかのチェックも重要です。餌を食べていないのはまだ慣れていないという理由のほかに、内臓に疾患があるおそれがあるからです。ただ、お店で餌を食べていても家の水槽で飼育できるという保証はありません。
採集する
▲奄美諸島の浅瀬をおよぐツノダシ。採集できそうに見えるが非常に素早い
▲三重県の漁港で撮影したツノダシ
ツノダシは海で採集することもできます。分布域は広いですが、一般に磯や防波堤などで見られるのは房総半島以南の太平洋岸、季節は概ね晩夏~秋になります。
しかしながらニザダイの仲間らしく、すばしっこく泳ぎ回るので採集は簡単ではありません。防波堤などにいる個体を長い柄の網を使って採集します。ハタタテダイやムレハタタテダイはプランクトンや甲殻類を捕食しているため、餌を使って釣ることができますが、付着生物などを捕食するツノダシは釣りで採集することは困難といえます。
ハタタテダイの仲間は幼魚を採集することもできますが、ツノダシの幼魚は外洋性なのかほとんど見ることがありません。それも採集が難しい理由といえるかもしれません。本種に限らずニザダイの仲間は長く外洋を浮遊しているようです。浮遊期間が長いことにより非常に広い範囲に分布域を広げられたのかもしれません。
魚病対策
ツノダシは白点病などの病気にかかりやすいです。白点病対策には殺菌灯やオゾナイザーは有効ではありますが、それ以前の問題としてヒーターとクーラーを使用し、水温を一定に保っておくことが重要です。もし発生してしまったら銅イオンやグリーンFゴールド顆粒で治療しなければならないのですが、その前に病気になりにくい飼育環境を整えることのほうが重要です。
ツノダシと他の生物との関係
複数飼育
▲巨大な水槽では複数飼育も可能。写真は150cm水槽での複数飼育例
ニザダイの仲間としては珍しく複数での飼育も可能です。ただし狭い水槽に多くの個体を入れたらけんかしてしまいますのでできるだけ大きな水槽で飼育します。複数飼育であれば小さくても120cm、できれば150cm水槽を用意するようにしたいものです。
ほかの魚との混泳
▲ツノダシとほかの魚との混泳例
鰭が長くつつかれやすいため、スズメダイやニセスズメなど、小さくても気が強い魚との混泳はストレスになりやすいので避けるようにします。大きめのクマノミの仲間(ハマクマノミなど)や大型ヤッコなども気が強く避けた方が無難でしょう。
90cm水槽で混泳させるのであれば遊泳性ハゼ。カエルウオ、ハナダイの仲間くらいにしておいた方がよいかもしれません。150cm以上の巨大水槽であれば小型ヤッコやチョウチョウウオとの混泳も可能です。ただしベントス食性のハゼは水槽の砂を大きく動かすので、白点病になりやすいツノダシと飼育しないほうがよいでしょう。
サンゴ・無脊椎動物との相性
ツノダシはオオバナサンゴやオオトゲサンゴなどのLPSをつついて食べてしまうこともありますので、このようなサンゴとは組み合わせないようにしましょう。サンゴを組み合わせるならSPSやソフトコーラルがよいかもしれませんが、このようなサンゴであればつついて食べてしまうようなことがない、という保証はできません。できればサンゴは入れない、魚混泳水槽で飼育した方がよいといえます。
ツノダシの飼育まとめ
- チョウチョウウオの仲間ではなくニザダイに近い仲間
- 「ニモ」にも登場するが初心者には飼育が難しい
- ハタタテダイに似ているが尾と吻の色彩で区別できる
- 遊泳力が強いので大きな水槽が必要になる
- きれいな海水で飼育するように心がける
- オーバーフロー水槽での飼育がおすすめ
- ポンプを使って水流を起こしよどみをなくす
- ポンプは吸盤ではなくマグネットで固定するものが望ましい
- 水温は25℃前後で安定していることが大事
- 植物質の餌をメインに与えたい
- 餌付かない時はライブロックを入れておく
- 購入は沖縄産のものがおすすめ。餌を食べているものを選びたい
- 病気にかかりやすい。殺菌灯は必須
- 大型水槽であれば複数飼育も可能
- 気が強い魚とは一緒にしない方がよい
- サンゴなどは食べてしまうおそれがある
謝辞
今回のツノダシの飼育記事作成にあたってはご協力いただいた大栗靖彦さんに感謝します。ありがとうございました。