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2020.08.22 (公開 2020.05.01) 海水魚図鑑

イトヒキベラの飼育方法~水温と水槽サイズには注意が必要

イトヒキベラの仲間は熱帯性のものが多いのですが、このイトヒキベラという標準和名をもつ種は温帯域にも生息していて、本州から九州の磯で釣れることもあります。一見地味なものではありますがよく見るときれいな魚で、とくに婚姻色の出た雄は極めて美しいものです。その代わり、やや大きめの水槽で飼育する、高水温に注意する、など気を付けるべき点もあります。今回はこのイトヒキベラの飼育方法をご紹介します。

なお、ここではイトヒキベラという種の飼育方法をご紹介しています。イトヒキベラの仲間全体の飼育についてはこちらをご参照ください。

標準和名 イトヒキベラ
学名 Cirrhilabrus temminckii Bleeker, 1853
英名 Threadfin wrasse
分類 スズキ目・ベラ亜目・ベラ科・イトヒキベラ属
全長 10cm
飼育難易度 ★★☆☆☆
おすすめの餌 メガバイトレッドシグマグロウなど
温度 23℃前後、フィリピンなどのものは25℃前後でよいかもしれない
水槽 90cm~
混泳 大きめのハナダイとの相性は悪いかもしれない
サンゴとの飼育 問題なし。魚の遊泳スペースをとるように配置する

イトヒキベラって、どんな魚?

イトヒキベラは日本の本州から九州沿岸、琉球列島、フィリピン、インドネシア、オーストラリアの東インド―西太平洋に生息しているベラの仲間です。この仲間は熱帯域に多いのですが、本種は温帯性で、日本の太平洋岸にもよく見られ、上記の分布域の魚は別種である可能性も指摘されます。またほかのイトヒキベラの仲間の多くと同様、雌雄で色彩や体つきに違いが見られます。雄は写真のように腹鰭が長くのび色彩もより美しくなります。体は背中が赤く腹部がダークグレーという色になり、婚姻色の出た雄の色は極めて派手です。

イトヒキベラ属の魚

▲ラボックスラス

イトヒキベラの仲間はベラ科の中でも最大級のグループのひとつです。いずれも鮮やかな色彩のものが多く、ほとんどすべての種が観賞魚として輸入されています。飼育しやすいものが多いのですが、中には大きくなるものや遊泳性が強いものもおり、そのような種を飼育するのであれば大型水槽が必要になります。イトヒキベラは全長10cmほどでこの仲間では中型といえます。

イトヒキベラの近縁種

今一般的に「イトヒキベラ」と呼ばれているものの中にはいくつかの種が混じっているといわれています。実際Rudie H Kuiterの「Labridae Fishes: Wrasses」では3つのタイプに分けられています。Temminck’s fairy wrasse (Cirrhilabrus temminckii)、Blue-stripe Flasher (Cirrhilabrus cf temminckii 1)、Peacock Flasher(Cirrhilabrus cf temminckii 2)と呼ばれるものです。

このうち日本(とおそらく韓国にも分布)にすむものはTemminck’s fairy wrasseです。いずれにせよ標準和名イトヒキベラ、Cirrhilabrus temminckiiの学名はこの種にあてられるべきのようです。

Kuiterの図鑑でBlue-stripe Flasherとされるものはインドネシアやフィリピン、台湾、琉球列島に分布するもので、フィリピンタイプとも呼ばれています。連続する青い縦線や雄の体側の白っぽい腹部などが特徴的です。フィリピンから来る「テミンキーズフェアリーラス」はこの種のようで。婚姻色にも違いがあります。ただし種が分けられれば「テミンキーズフェアリーラス」の名前は使用しないほうが賢明です。この名称は人名由来の学名に由来していますが、Cirrhilabrus temminckiiの学名は日本の長崎で獲れたものを指すため、それと同種であればこの学名を使えますが、別種とされれば同じ学名は使えなくなるからです。

Peacock Flasherはアブロルホスやモンテベロ諸島などの西オーストラリアに生息しており、日本産のものよりも緑が強い印象です。ただし生息地が保護区の島嶼域に限定されておりよほどのことがないと入荷することはないといえそうです。

イトヒキベラ飼育に適した環境

水槽

水槽は最低でも60cm水槽が必要になりますが、できれば90cm以上の水槽で飼育するようにします。イトヒキベラはこの属では平均的なサイズではありますが、遊泳力が強く水槽内でもよく泳ぎ回るからです。

水質とろ過システム

イトヒキベラの仲間はベラの仲間としてはきれいな水を好みます。できるだけ高いろ過能力を得るためにしっかりとしたろ過能力を持ったろ過槽を選びましょう。オーバーフロー水槽を使用するか、上部ろ過槽と外部ろ過槽を一緒に使うとよいでしょう。外部ろ過槽だけ使用するというのはよくありません。一方ろ過槽のないベルリンシステムでも飼育することができます。ただしベルリンシステムはサンゴを中心としたシステムであり、このシステムで飼育するのであれば魚は多く入れられないので注意しなければなりません。

水温

水温は日本近海のものであれば23℃、東南アジアのものであれば25℃前後が快適です。もちろん温度が一定に保たれていることが重要です。ヒーターとクーラーを用いて年中同じ温度をキープするようにしましょう。

水流

イトヒキベラの仲間はよく泳ぎ、水流が強めの場所に多いため、水流ポンプを使用してある程度の水流を作ってあげたほうがよいでしょう。

フタ

イトヒキベラは何かに驚いたりすると飛び跳ねたりすることもあるので、フタはしっかりしましょう。

隠れ家

イトヒキベラは砂に潜らないタイプのベラで、夜間は岩の影などで休息します。そのためライブロックやサンゴ岩などの隠れ家を作ってあげたいものです。サンゴ水槽で飼育しているとサンゴの隙間などで眠ることもあります。

イトヒキベラに適した餌

イトヒキベラは海の中ではプランクトンなどを捕食していますが、飼育下では基本的によほどの大きなサイズの個体でなければ配合飼料などもすぐに食べてくれるはずです。あまり大きな粒だと食べにくいこともありますので、「メガバイト」であればSサイズを与えるなどの配慮も必要です。幼魚はもっと小粒の餌、たとえばシグマグロウのBなどを与えるのもよいでしょう。どうしても餌食いが悪いときはホワイトシュリンプやコペポーダなどを与えてもよいのですが、これらの冷凍餌は与えすぎると水質悪化につながりやすいので注意します。とくに小型水槽で飼育するときは要注意です。

イトヒキベラをお迎えする

▲高知県で採集したイトヒキベラ。体側の青い点線がつながっていてフィリピンタイプのようにも見える

イトヒキベラは採集することもできますが、基本的には観賞魚店で購入することが多いでしょう。一般的な海水魚店ではフィリピンなどから輸入されてくることも多いようですが、たまに近海産のものも入ってきます。どこで獲れたのかお店の人に相談するとよいでしょう。釣りや磯で潜って採集することもできるのですが、深い場所から釣れてひっくりかえったものなどは飼育には向きません。

購入するときは鰭や体表に白い点やただれがあるもの、体表や吻などに傷があるもの(鰭が傷ついても治ることは多いが初心者にはあまりおすすめしない)などは選んではいけません。じっといているものは隠れていたり、休息しているだけのこともあり、あまり気にする必要はないのですが、できるだけ元気に泳いでいるものを購入するようにします。

イトヒキベラとほかの生物との関係

ほかの魚との混泳

▲意外と威張るケラマハナダイ

イトヒキベラは雄同士では争うことがあります。雄雌で飼うか、ほかの魚と飼育するのがベストでしょう。それ以外では多くの魚と飼育することができますが意外なことに生息域が被る大きめのハナダイ系との相性がいまいちなような気がします。今回写真でご紹介した個体はケラマハナダイなどと飼育していましたがストレスになっていたようで弱って死んでしまいました。そのほかの魚であれば概ね問題ないのですが、形が似ているメギスの仲間や気が強いスズメダイの仲間、肉食性の強い魚との混泳はしてはいけません。

サンゴ・無脊椎動物との相性

サンゴには無害です。浅場にも見られミドリイシ水槽で飼育してもよい魚です。もちろんLPSやソフトコーラルとの相性はよいのですが、クマノミが共生するタイプのイソギンチャクは餌にしてしまうのでよくありません。とくに小さめの水槽では襲われる危険があります。ディスクコーラルやスナギンチャクの類との飼育は問題ありません。

ベラの仲間ですが甲殻類との相性はおおむね悪くありません。しかし小さなエビは食べてしまうことがあり、イセエビの類や大きめのエビ、大きめのカニ、大きめのヤドカリはイトヒキベラを襲うことがあり、一緒に飼育するのは避けます。このほかオトヒメエビは夜間活発に活動し、寝ている魚を襲うことがあるので、岩陰で完全に眠る習性があるイトヒキベラとの飼育はやめたほうがよいでしょう。

イトヒキベラ飼育まとめ

  • 温帯域に生息するイトヒキベラの仲間
  • 雌雄で斑紋がやや異なり、雄の婚姻色は派手になる
  • 海域により模様がことなり一部は別種になるかもしれない
  • 飼育にあたっては最低でも60cm、できれば90cm水槽が欲しい
  • オーバーフロー、もしくは上部ろ過槽と外部ろ過槽の両方を使用して飼育したい
  • 水温は23℃前後が最適
  • 水流もあったほうがよい
  • 夜間は岩陰で眠る。隠れ家は用意しよう
  • 小粒の餌を与えたい。冷凍の餌は水を汚すので与えすぎには注意
  • 購入することも採集して飼育することもできるが状態には注意したい
  • 大きめのハナダイの仲間との相性はあまりよくないかも
  • スズメダイの大きいのやメギスとの飼育も避けたい
  • サンゴには無害だがイソギンチャクは避ける
  • 甲殻類との飼育も可能だが大きい甲殻類はだめ
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