イトヒキベラとクジャクベラの種類と飼育方法 | 海水魚ラボ

イトヒキベラとクジャクベラの種類と飼育方法

世界で500種以上知られるベラの仲間ですが、その中でもアクアリストにとって魅力的なのは、イトヒキベラやクジャクベラの仲間です。この仲間はカラフルなものが多く、アクアリストやダイバーに高い人気があり、さらに毎年のように新種記載されるなど、注目度が高い仲間です。

ここでは、イトヒキベラ・クジャクベラの仲間の基本的な飼育方法をまとめました。

イトヒキベラ属 Cirrhilabrus

雄と雌で色彩が異なる種が多く、通常雄のほうが雌よりも派手で、鰭も良く伸び、美しくなります。海域により斑紋や色彩に微妙な差があるものも含まれ、その中には未記載種と思われるものもいます。世界ではインド-中央太平洋から50種をこえる種数が知られ、日本では少なくとも11種が知られています(水中写真からの報告によるものも含む)。

イトヒキベラ属の主な種 (★は日本にも分布する種)

★イトヒキベラ Cirrhilabrus temminckii Bleeker, 1853

腹鰭が非常に長く伸びるタイプの種類です。生息海域によって色彩の変異も多く、いくつかの種類に分かれる可能性があります。観賞魚としてはフィリピンから輸入されることもありますが、国産の個体が販売されることもあります。また浅場にもみられ、自家採集も可能です。

★ゴシキイトヒキベラ C. katherinae Randall, 1992

別名キャサリンラス。雄の腹鰭が伸びイトヒキベラに似た種類で、胸鰭基部に黒色斑があるのが特徴です。幼魚や雌は体が赤く腹部が白い感じです。比較的浅いサンゴ礁に生息している種です。全長は8cmほど。

ベルティッドフェアリーラス C. balteatus Randall, 1988 (マーシャル諸島)

マーシャル諸島に生息する種で、胸鰭基部に黒色斑があり、ゴシキイトヒキベラによく似ている種です。体側には大きな赤色横帯があるのも特徴の一つです。雌は赤い体で腹部は白色という色彩もゴシキイトヒキベラに似ています。

★ニシキイトヒキベラ C. exquisitus Smith, 1957

インド洋から中央太平洋に生息する、イトヒキベラの仲間としては分布域が非常に広い種で雄の色彩や模様には変異が見られる種類です。雌は赤褐色で地味ですが尾の黒色斑でほかのイトヒキベラと見分けられます。やや大型になりますので大きい水槽が必要になります。

★ベニヒレイトヒキベラ C. rubrimarginatus Randall, 1992

腹鰭が少し伸びるタイプのイトヒキベラです。水深30mを超える深場の種で、大きさも12cmをこえる大型種。背鰭の外縁や尾鰭の後方が赤くなるのが特徴で、雌は体が薄いピンク色になります。西太平洋から南太平洋、キーリング諸島に分布します。

★クレナイイトヒキベラ C. katoi Senou and Hirata, 2000

数年前までは日本にのみいると思われていた種類ですが、最近になってフィリピンの深場で採れたものが入ってきました。学名のうち種小名の「Katoi」というのは加藤昌一氏に献名されたもので、同氏は「ネイチャーウォッチング ベラ&ブダイ」を執筆されました。雄の背鰭が美しい種です。

★ツキノワイトヒキベラ C. lunatus Randall and Masuda, 1991

雄の尾が三日月状になるのが特徴のイトヒキベラです。鰓蓋の後方にある黄色斑も特徴です。幼魚や雌は尾鰭が三日月形ではなく、赤みを帯びた色彩で体側には白色の細い縦線が多数入ります。成魚は全長10cmになり大きめの水槽がほしいところです。

ダークフェアリーラス C. brunneus Allen, 2006

ツキノワイトヒキベラに似たイトヒキベラの仲間で、インドネシアの特産種です。英語名は「黒ずんだ」という意味で実際にツキノワイトヒキベラを黒くしたような色彩の種類です。

★ハリオイトヒキベラ C. isosceles Tea, Senou and Greene, 2016

ツキノワイトヒキベラに似ていますが、尾鰭がひし形になっているので区別は容易です。また体側の青い線も目立ち、ツキノワイトヒキベラと比べて豪華な感じです。雌にも薄らとこの帯がありますが幼魚はツキノワイトヒキベラの幼魚との区別は困難です。八丈島以南にいますが観賞魚としてはフィリピンなどから入ってきます。2016年に新種記載されたばかりの種です。

ジョンソンズフェアリーラス C. johnsoni Randall, 1988

ツキノワイトヒキベラによく似た三日月のような形の尾鰭をもつ、マーシャル諸島やカロリン諸島周辺の特産種です。雄は赤い背鰭とオレンジ色の体が特徴で、体側の斑紋はクジャクベラの仲間を思わせます。高価な種です。

★ヤリイトヒキベラ C. lanceolatus Randall and Masuda, 1991

伊豆諸島から沖縄本島周辺のやや深場に生息する日本固有種です。ひし形の尾が特徴で、近縁のロウズバンデッドフェアリーラスとは腹鰭の斑紋の様子で見分けられます。水深40m以深に生息する大型種なので飼育には広い水槽と低めで一定な水温がポイントになります。

ロウズバンデッドフェアリーラス C. roseafascia Randall and Lubbock, 1982

大型種が多いヤリイトヒキベラのなかでも特に大きくなる種で、雄は鮮やかなピンク色の体と、ひし形の尾が特徴です。ヤリイトヒキベラに似ていますが腹鰭の黒い模様の位置が異なります。フィリピンなどからたまに入りますが、15cmを超える大型種で小型水槽での飼育は困難です。

ラボウテスフェアリーラス C. laboutei Randall and Lubbock, 1982

オーストラリアやニューカレドニアなど南太平洋に生息する大型種です。雄の体側の模様が特徴的で、腹鰭は伸びないで臀鰭棘の棘が伸長するという変わった特徴を持つ種類です。雌は赤みを帯びた体で薄ら模様が入る程度、臀鰭棘は伸びません。

★クロヘリイトヒキベラ C. lyukyuensis Ishikawa, 1904   

ブルースケイルドフェアリーラス C. cyanopleura (Bleeker, 1851)

クロヘリイトヒキベラは研究者によって学名の扱いが分かれる難しいグループです。西太平洋からインド洋にかけて分布し、潮通しのよい浅いサンゴ礁域や岩礁域に生息します。大きくなり(12cmほど)、遊泳性も強いため小さな水槽での飼育は困難です。

ソロールフェアリーラス  C. solorensis Bleeker, 1853

インドネシア産の種で、雄は緑色の体、白色の腹部、鰓蓋付近と背中が黒く、赤い頭部という非常に鮮やかな色彩、雌は頭部が赤く体が青というもので、雌雄ともに美しい色彩が特徴です。残念なところは比較的大型になる種なので水槽も大きめのものが必要、というところです。

ランドールズフェアリーラス  C. randalli Allen, 1995

オーストラリアの北西岸にのみ生息する種でこの種も全長10cm近くになります。黒っぽい頭部、赤みを帯びた背中、そして体側の非常によく目立つ黄色い縦帯が特徴ですが、観賞魚として入ってくる見込みがない種です。

イエローバンデッドフェアリーラス C. luteovittatus Randall, 1988

全長12cmにもなる大型種です。雄はオーストラリアに生息するランドールズフェアリーラスの雄によくにている種で、体側の橙色の線が特徴です。マーシャル諸島やカロリン諸島に生息します。

オレンジバックフェアリーラス C. aurantidorsalis Allen and Kuiter, 1999

インドネシアに生息するクロヘリイトヒキベラに似た種類です。紫色の体に体側の背部が鮮やかなオレンジ色に染まるので、他の種類と区別は容易です。大きいものは10cmに達し大型水槽で飼育するべき種です。

★トモシビイトヒキベラ C. melanomarginatus Randall and Shen, 1978

イトヒキベラの仲間ですが緑色の体が特徴的な種です。雄は背鰭、臀鰭が赤く、雌は背鰭が青みをおび、臀鰭が赤いという変わった色彩。幼魚は黒っぽい体に白い縦線が多数入ります。大型で全長15cmになります。八丈島以南、西太平洋、フィジーに分布します。

スコッツフェアリーラス C. scottorum Randall and Pyle, 1989

南-中央太平洋に生息するトモシビイトヒキベラの近縁種です。灰色の体で斑紋については個体差が激しい種類です。集めてみたくなりますが全長15cm近くになる大型種であり、飼育には大型の水槽が必要になります。

★ラボックスフェアリーラス C. lubbocki Randall and Carpenter, 1980

沖縄以南の西太平洋に生息しますが日本では少ない種です。雄は体側が鮮やかな青色のものと、紫色っぽい体で側線に沿うように黒い線が入るものの二つのタイプが知られますが雌は赤く尾付近に黒い点が入るだけで近縁種との区別は困難です。最大全長8cmほどの小型種で小型水槽での飼育もできます。

イエローフィンフェアリーラス C. flavidorsalis Randall and Carpenter, 1980

西太平洋に生息しますが日本では見られません。ラボックスラスの近縁種で雄は体側の赤い横帯と黄色い背鰭が特徴です。雌はラボックスラスと酷似しており区別は困難。ラボックスラス同様あまり大きくなる種ではなく小型水槽でも飼育可能です。

アドーンドフェアリーラス C. adornatus Randall and Kunzmann, 1998

インドネシアに生息するラボックスラス近縁の種で、雄は背中に大きな赤い斑紋があり、背鰭が赤くなるのが特徴です。雌はオレンジ色で腹部は白っぽく、尾部に黒色斑があるという他のラボックスラス近縁種との区別は困難です。全長8cmほど。

マージョリーズフェアリーラス C. marjorie Allen, Randall and Carlson, 2003

フィジー特産の種です。雄は背中が赤く、体側に数本の縦帯があるのが特徴で、また尾鰭は三日月形か、中央が突出る二重湾入形です。雌は尾鰭の付け根に黒色斑があるのが特徴です。深場にすむ種で、ごくまれに流通しますがラボックスラス近縁種としては非常に高価な種です。

ワリンディフェアリーラス C. walindi Allen and Randall, 1996

ニューギニア島からソロモン諸島に生息するラボックスラスに近い仲間の小型イトヒキベラです。雄の体側背部、背鰭に黒い斑点が数個あるのが特徴です。雌はラボックスラス近縁種の他種と似ています。観賞魚としての流通はほとんどありません。

センデラワシフェアリーラス C. cenderawasih Allen and Erdmann, 2006

名前はインドネシアの西パプアにあるセンデラワシ湾にちなみます。雄はワリンディフェアリーラスに非常によく似ているのですが、体側中央の黄色と体側背部から背鰭にかけての黒い多数の斑点が特徴的です。

パープルフェアリーラス C. beauperryi Allen, Drew and Barber, 2008 (西太平洋)

パプアニューギニアやソロモン諸島に生息する種で、腹鰭が長くなるタイプのイトヒキベラの仲間です。雄の体は青みを帯びた色彩で、小さな青白い斑点が入るという美しい種です。比較的浅い場所に生息します。

ドテッドフェアリーラス C. punctatus Randall and Kuiter, 1989

南西-中央太平洋に生息する種で、やはり腹鰭が長く伸びるイトヒキベラの仲間です。分布域はオーストラリア、ニューカレドニア、バヌアツからフィジーまでと広いですが地域変異がありそれぞれ別種の可能性がある種です。

ラインドフェアリーラス C. lineatus Randall and Lubbock, 1982 (西太平洋)

オーストラリア東岸、ニューギニアなどに生息する種です。ローンボイドフェアリーラスに似た種で、全長10cmを超えます。大きめの水槽で飼育したい種です。尾鰭後縁は成魚でも丸みを帯びた形をしています。

ローンボイドフェアリーラス C. rhomboidalis Randall, 1988 

パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシアに生息する、黄金色と青い色が特徴的な種類です。ひし形に近い大きな尾鰭も特徴的な種類です。人気のイトヒキベラですがやや深場にすみ、値段もやや高価です。

コンデズフェアリーラス C. condei Allen and Randall, 1996

雄の腹鰭はのびるタイプの種です。南太平洋に生息する種で、赤い体と黒い背鰭が特徴の種類です。インドネシア、ソロモン諸島、パプアニューギニアなどに生息しますが、最近になってこの名前で呼ばれるものも2種に分かれたようです。

パイルズフェアリーラス C. pylei Allen and Randall, 1996

腹鰭が長くのびるタイプのイトヒキベラのなかでも極めて長い腹鰭が特徴です。西太平洋やインドネシアの深い海に生息する種ですが、生息地によって色彩が若干異なりますがこれらはそれぞれ別種であるとされることもあります。

レッドフィンラス C. rubripinnis Randall and Carpenter, 1980

見た目はイトヒキベラやゴシキイトヒキベラなどに似ていますが、雄は大きな背鰭が美しい種です。フィリピンやインドネシアのサンゴ礁域に生息する中型のイトヒキベラで、丈夫で飼育しやすく入手も容易な種です。

ソーシャルフェアリーラス C. rubriventralis Springer and Randall, 1974

この仲間は雄の背鰭の背鰭棘前方が長く伸び、腹鰭も大きく長く伸びます。西インド洋や紅海に生息する小型種で、鰭を広げた雄は非常に格好良いです。成魚でも7cmほどの小型種なので小型水槽でも飼育できます。モルディブなどに生息するものは別種とされています。

ナオコズフェアリーラス C. naokoae Randall and Tanaka, 2009

ソーシャルフェアリーラスの近縁種で、雄の背鰭の背鰭棘前方が長く伸び、腹鰭も大きく長く伸びます。雄の体側に太い黄色縦帯があるのが特徴です。インドネシアのインド洋岸に生息し、近年は観賞魚店でもよく見ます。

ハマンズフェアリーラス C. humanni Allen and Erdmann, 2012

インドネシア特産のイトヒキベラの仲間です。背鰭の前方が伸び、腹鰭も大きいのが特徴の種類です。背鰭や臀鰭、腹鰭は赤みを帯び、体側に目立つ黄色い縦帯がないこと、背鰭前方の棘があまり長く伸びないのも特徴です。日本未入荷と思われます。

モンスーンフェアリーラス C. hygroxerus Allen and Hammer, 2016

北西オーストラリアとインドネシアに生息する種です。背鰭前方の棘はソーシャルフェアリーラスほど長くなく、雄は背鰭、腹鰭、臀鰭の色が赤みを帯びています。雌は赤色。2016年に新種記載されたばかりの種で、日本にも極めてまれに入りますが高価です。

モーリソンズフェアリーラス C. morrisoni Allen, 1999

西オーストラリアに生息するイトヒキベラの仲間で、赤黒い体が特徴的な種です。背鰭、腹鰭、臀鰭、尾鰭も黒っぽい色彩です。恐らく日本未入荷の種と思われ、入荷してもかなり高価でしょう。

ジョアンズフェアリーラス  C. joanallenae Allen, 2000

背鰭前方の棘が非常に長く伸びるソーシャルフェアリーラスの近縁種です。腹鰭の色が真黒であることもソーシャルラスと区別する上での大きな特徴です。全長8cmほどとあまり大きくならない種で、分布域はソーシャルフェアリーラスよりも東側のアンダマン諸島、インドネシア方面です。

クアズールフェアリーラス C. africanus Victor, 2016

アフリカ東岸に生息するソーシャルフェアリーラスによく似た種です。体側や背鰭に青い小さな斑点がならび、雄の大きな腹鰭も特徴的です。ケニアと南アフリカに生息するもので特に南アフリカ産のものは色彩がユニークです。

パープルボーンドフェアリーラス C. blatteus Springer and Randall, 1974

紅海に生息する大型のイトヒキベラで、ヤリイトヒキベラに近い仲間とされます。水深40m前後の深場で小さな群れを作りますが、アクアリウム界にはまだ登場していない珍種です。全長15cmを超える種で大型水槽が必要でしょう。

レッドスケイルドフェアリーラス C. rubrisquamis Randall and Emery, 1983

全長8cmほどとヤリイトヒキベラの仲間では小型種です。インド洋のモルディブやチャゴス諸島に生息しており、前者や後者とくらべればよく流通される魚です。体側前半部の鱗が赤く縁どられるのが特徴です。

レッドブロッチドフェアリーラス C. sanguineus Cornic, 1987

モーリシャス特産のイトヒキベラの仲間です。尾鰭がひし形で、ヤリイトヒキベラなどに近い仲間です。体側にある大きな赤い斑紋が特徴的な種ですが、やや深場にすむことや、その産地からめったに出会う機会がない種です。

フィラメンテッドフェアリーラス C. filamentosus (Klausewitz, 1976)

背鰭の中央からフィラメントが突出すという、クジャクベラの仲間のようにも見える変わったイトヒキベラの仲間です。このほか臀鰭が黄色いのが特徴です。分布域は狭くて、現在のところインドネシアからのみ知られています。あまり多くは流通しません。

トノズフェアリーラス C. tonozukai Allen and Kuiter, 1999 

これもインドネシア固有のイトヒキベラの仲間です。前種と同様に背鰭の中央部が少し伸びるという、イトヒキベラ属としては変わった特徴をもつ種です。臀鰭の色彩は赤色。

ディープシーフェアリーラス C. bathyphilus Randall and Nagareda, 2002

英名からもわかるように、数あるイトヒキベラの中でもとくに深い海にすんでいる種類です。雄は体の前方が赤くて後方が黄色いという鮮やかな色彩が特徴的で、雌は赤みを帯びています。サンゴ海に生息します。

ナハッキーズフェアリーラス C. nahackyi Walsh and Tanaka, 2012

2012年に新種記載された種です。南太平洋のフィジーやトンガに生息する種で、雄は背鰭の前端が黒くて少し伸びるのが特徴です。腹鰭は小さく、他のどの仲間にも似ていない変わったイトヒキベラの仲間です。雌も鮮やかなオレンジ色が美しい種です。日本にもまれに輸入されますがかなり高価です。

クレアズフェアリーラス C. claire Randall and Pyle, 2001

南太平洋に生息するイトヒキベラの仲間の珍種です。クック諸島やタヒチに生息するようですが、生息地により鰭の色彩が違い、今後は別種になるかもしれません。やや深い場所に生息する高価な種類です。

フレームラス C. jordani Snyder, 1904

イトヒキベラの仲間は中央太平洋からも色々入ってきますが、そのうちハワイ諸島に生息するのは本種くらいのものなので貴重です。雄は背鰭・尾鰭の赤色と臀鰭の黄色が非常にきれいな種類です。ハワイ諸島周辺の固有種で、フィリピンからくるのは近縁の別種です。

アールズフェアリーラス C. earlei Randall and Pyle, 2001 

やや細い体に細い縦縞が多数入るという美しい色彩のイトヒキベラです。西太平洋に生息する種ですが生息地はパラオやその周辺に限られており、さらに深場(水深70m以深)に生息するためほとんど入ってこず、また流通しても非常に高価な種です。

名前について

今回の記事のイトヒキベラの種名のうち、きちんとした標準和名がついたものは標準和名を、和名がついていない種については原則として、ネコ・パブリッシングから発行されている雑誌「コーラルフリークス」vol.14のイトヒキベラ・クジャクベラ特集で採用されている名称を採用しました。

観賞魚店ではこのほかに現地シッパーや愛好家がつけた名称などで販売していることがあります。両方を覚える、または学名で覚えるのがよいでしょう。学名は全世界共通なので、できれば学名を覚えるようにしたいものです。

イトヒキベラ:テミンキーズフェアリーラス(英名)

ゴシキイトヒキベラ:キャサリンラス

ニシキイトヒキベラ:エクスクイジットラス(英名)

ハリオイトヒキベラ:ピンテールラス(英名)

ソロールフェアリーラス:レッドヘッドフェアリーラス

レッドフィンラス:ルソンイトヒキベラ

レッドスケイルドフェアリーラス:パープルフェアリーラス

ナオコズフェアリーラス:イエローラテラルフェアリーラス

ソーシャルフェアリーラス:ファイティングラス

ナハッキーズフェアリーラス:トンガフェアリーラス

クジャクベラ属 Paracheilinus

クジャクベラ属の特徴は、雄の背鰭の鰭条がフィラメント状に長く伸びることです(伸びない種類もいます)。全長10cmまでの小型種が多く、小型水槽でも楽しめるものがいます。また体の色彩を瞬時に変えるフラッシング行動もとります。20種が知られ、インド-西太平洋、紅海に分布し、日本から確実な記録がある種類は1種しかいませんが、ベルズフラッシャーラスと思われるものが西表島で撮影されています。

最近になってインドネシアからこの仲間の新種記載報告が相次いでいますが、このようなものは残念ながらまだ日本には入ってきていないようです。

クジャクベラ属の種 (★は日本に分布する種、未確定のものも含む)

★クジャクベラ Paracheilinus carpenteri Randall and Lubbock, 1981 

小型種で入手しやすく、飼育もしやすい種ですが、背鰭の鰭条が3本のびてフラッシングすると極めて美しく安価であっても侮れない種です。日本でも見ることが出来ますが、観賞魚としては主に東南アジアからやってきます。

★ベルズフラッシャーラス P. bellae Randall, 1988 (西太平洋。おそらく西表島にも)

フィラメンタスラスに似ている種で、背鰭の鰭条が5本前後のび、また尾鰭の上下も長く伸びるという非常にゴージャスな特徴を持った種です。西太平洋の島嶼に生息し日本では西表島で確認されています。

フィラメンタスラス P. filamentosus Allen, 1974

クジャクベラに次いで入荷が多い種です。背鰭のフィラメントの数はクジャクベラよりも多く、また尾鰭の形もクジャクベラと異なります。日本からの記録はないのですが、主に西太平洋で採集されたものが入ってきます。

マッコスカーズフラッシャーラス P. mccoskeri Randall and Harmelin-Vivien, 1977

インド洋産のクジャクベラの仲間で、背鰭のフィラメントは1本しかありません。尾鰭はまるみをおび臀鰭は赤みを帯びるのが特徴です。イエローフィンフラッシャーラスや、レッドテールドフラッシャーラスとは近縁です。流通量は少なくなく、比較的安価な種です。

イエローフィンフラッシャーラス P. flavianalis Kuiter and Allen, 1999

背鰭のフィラメントが1本でまるい尾鰭が特徴のグループ。赤みを帯びた臀鰭のマッコスカーズフラッシャーラスと異なり、黄色い臀鰭が特徴の種類です。生息地はインドネシアと北西オーストラリア、つまりインド洋の東端です。

レッドテイルドフラッシャーラス P. rubricaudalis Randall and Allen, 2003

マッコスカーズフラッシャーラスに似ている種で背鰭の後方や尾鰭が赤くなる極めて美しいフラッシャーラスです。英語名や学名もそこから来ています。前2種がインド洋に生息するのに対し、本種はフィジーやバヌアツ、ニューギニア島など太平洋に生息する種です。

スカーレットフィンフラッシャーラス P. lineopunctatus Randall and Lubbock, 1981

背鰭のフィラメントが5~6本伸びる豪華なフラッシャーラスです。フィリピンなどの東南アジアに生息する種です。ブルーフラッシャーラスに似ていますが尾鰭の形はマッコスカーズラスやクジャクベラに似た感じです。

ブルーフラッシャーラス P. cyaneus Kuiter and Allen, 1999

スカーレットフラッシャーラスに似ていますが、尾鰭の形はフィラメンタスラスに似ている三日月形で、背鰭のフィラメントの数も多いのが特徴です。青い発色が極めて美しい種類です。インドネシアからやってきます。

ロイヤルフラッシャーラス P. angulatus Randall and Lubbock, 1981

背鰭にはフィラメントがなく、大きい個体は背鰭、臀鰭、尾鰭上下の鰭条が長く伸びます。他のフラッシャーラスの多くの種同様西太平洋に分布していますがあまり観賞魚店でみることがない種です。

セイシェルズフラッシャーラス P. attenuatus Randall, 1999

その名の通りアフリカ東岸沖合に浮かぶセイシェルに生息する種類です。フィラメントが1本しかなくそれも弱々しいもので、尾鰭の形もマッコスカーズフラッシャーラスとことなり菱形になるという特徴をもちます。全長8cmとやや大きくなる種です。

エイトラインフラッシャーラス P. octotaenia Fourmanoir, 1955 

紅海に生息するフラッシャーラスの種で、背鰭にフィラメントがなくて各鰭がきわめて大きいこと、体側に青白い細線があるのが特徴です。大きいもので10cmになるためあまり小型水槽での飼育に向かないのが残念です。

エレガントフラッシャーラス P. piscilineatus (Cornic, 1987)

当初イトヒキベラ属の魚として新種記載されたフラッシャーラスです。ロイヤルフラッシャーラスなどと同様背鰭にフィラメントがない種で、オレンジ色の体と体側を通る2本の青い太い縦線が特徴の種。モーリシャスなどインド洋に生息し、価格も極めて高価な種です。

ハーフバンデッドフラッシャーラス 

 P. hemitaeniatus Randall and Harmelin-Vivien, 1977

これもマダガスカルやコモロ諸島などの東アフリカの島に生息する種です。エレガントラスの近縁種で背鰭にフィラメントを有さず、尾鰭の上下が少し伸びます。日本に入ってきたかどうかは不明ですがもし入ってきても極めて高価となるでしょう。

トギアンフラッシャーラス P. togeanensis Kuiter and Allen, 1999

インドネシア スラウェシ島のトミニ湾にあるトギアン諸島に生息するフラッシャーラスで鰭が大きくなります。尾鰭の形はロイヤルフラッシャーラスや、フィラメンタスラスなどによく似た三日月タイプです。

ウォルトンズフラッシャーラス P. walton Allen and Erdmann, 2006

ナーサリムフラッシャーラス P. nursalim Allen and Erdmann, 2008

レニーズフラッシャーラス P. rennyae Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2013

英名なし P. alfiani Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2016

英名なし P. paineorum Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2016

英名なし P. xanthocirritus Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2016

これらの種類はここ10数年ほどの間にインドネシアから記録されたものです。インドネシアは10,000を超える島々からなる国家で、インド洋と太平洋というふたつの海に挟まれ魚の種数も極めて多いのですが、イスラム教国家であり近年は治安の悪化、「イスラム国」など過激派の勢力もあり、魚とりどころではなくなった地域もあるようです。これらの魚が流通される日を夢見て待ちましょう。

名前について

ここで使用したクジャクベラの名前はイトヒキベラと同様に、原則、コーラルフリークスvol.14のイトヒキベラ・クジャクベラ特集で採用されている名称を採用しましたが、この他にも以下のような別名で呼ばれていることもあります。

クジャクベラ:カーペンターズラス、ピンクフラッシャー (英名)

スカーレットフィンフラッシャーラス:スポットラインドフラッシャー

ロイヤルフラッシャーラス:ロイヤルラス、アンギュラーフラッシャーラス

初心者におすすめの種

丈夫な種が多く初心者にもおすすめできる種が多いのですが、一部おすすめできない種もいます。

おすすめできない種 1.遊泳性が強い大型種

クロヘリイトヒキベラやヤリイトヒキベラなどは全長15cm位になる大型種で、水槽もかなり大きなものが必要になります。60cm水槽ではきびしい面もあり、少なくとも90cm、種類によっては120cm水槽が欲しくなることもあります。クジャクベラの仲間は比較的小型ですがフィラメンタスラスなどは10cm近くなることもあり注意します。

おすすめできない種 2.高水温に弱い種

やや深海性のものや温帯の魚は高水温に注意します。ヤリイトヒキベラの仲間やアールズフェアリーラス、クレアズフェアリーラス、日本近海のイトヒキベラ、ハワイ産のフレームラスなどは高水温に注意した方がよいかもしれません。

おすすめできない種 3.高価な種

深場にすむ種や島にすむ高価な魚は慎重に採集、輸送、梱包されるので、状態よく日本のお店に届きます。しかし、数万、数十万する高級なイトヒキベラやクジャクベラの仲間は初心者にはおすすめしにくいです。

初心者におすすめの種は…

初心者におすすめの種はやや小ぶりの種で、浅いサンゴ礁に生息し、値段も安価な魚ということになります。ラボックスラス、イエローフィンフェアリーラス、アドーンドフェアリーラス、レッドフィンフェアリーラス、ソーシャルフェアリーラス、クジャクベラなどがお勧めです。もちろん、最初から90cm水槽で飼育できるのでしたら、他にも多くの数のイトヒキベラやクジャクベラの仲間を選ぶことができます。

選び方

イトヒキベラもクジャクベラも丈夫な魚ですが、日本に届いて数日しかたっていないものは避けるようにします。また怪我をして体に傷がついているような個体も避けた方がよいでしょう。

この仲間はペアで販売されていることもありますが、そのようなときは片方の個体ではなく両方の個体を見るようにします。

イトヒキベラとクジャクベラ 飼育に適した水槽

水槽

▲60cm水槽と上部・外部フィルターで飼育しているマッコスカーズフラッシャーラス。

イトヒキベラの仲間は遊泳性が強く、水槽は広ければ広いほどよいです。特にクロヘリイトヒキベラやスコッツラスといった種は大型になりますので、水槽も大型のものが必要になります。このような種は小さくても90cm、理想は120cm水槽が欲しいところです。

一方イエローフィンフェアリーラス、ラボックスラスといったやや小型の個体は60cm水槽でも飼育できます。クジャクベラの仲間のクジャクベラ、マッコスカーズラスもあまり大きくならないため、60cmで飼育可能です。ただしクジャクベラの仲間でも紅海のエイトラインフラッシャーラスのように大きめのがいますので注意します。

ろ過槽

多くのろ過を確保できるオーバーフローろ過槽がおすすめですが、それが不可能な場合は上部ろ過槽を使うとよいでしょう。外部ろ過槽は殺菌灯やクーラーを接続しやすいというメリットがありますが、その一方でろ材に酸素がいきわたりにくいというデメリットがありますので他のろ過装置を併用したり、エアレーションをしたり、あるいはプロテインスキマーなども使って酸素が水槽にうまくいきわたるように工夫します。ただし外掛け式のスキマーだとフタをするのが難しいこともあり、その点はマイナスといえます。

水温

水温は基本的に25℃前後を保つようにしますが、この仲間は水深40m深場に生息しているものも多いため、そのような場所に生息するものは22℃くらいのやや低めの水温で飼育するようにします。浅いところにすむ種類でも、イトヒキベラのような温帯性の種類は高水温を避けます。

水流ポンプ

イトヒキベラやクジャクベラの仲間はサンゴ礁のやや深い、潮通しの良い場所に多く生息しています。水槽内でも水流があった方がよいでしょう。

フタ

イトヒキベラやクジャクベラの仲間は闘争することが多く、勢い余って飛び出してしまうこともあります。これを避けるためにはフタが必須です。単独飼育でも常に遊泳しているので何かあると飛び出すことがあります。やはりこれらの仲間を飼育する上でふたは「マストアイテム」といえるでしょう。

メンテナンスや餌やりのときなどでフタを開けるとき、開けっ放しにしないように注意が必要です。

イトヒキベラとクジャクベラの餌

イトヒキベラやクジャクベラは動物プランクトンなどを主に捕食しています。ですが、わざわざプランクトンフードを与えなくても、一般的に販売されている海水魚用の配合飼料で十分です。ペレットフードであれば飼育しているベラの口の大きさに合わせて粒の大きさを選ぶようにします。

プランクトンフードを与えたいのであれば、配合飼料をメインにして、たまに与える程度で十分です。冷凍餌は水も汚してしまいますので、たくさんあげるのは禁物です。

他の魚との混泳

▲イトヒキベラとスズメダイの仲間のオヤビッチャを混泳させている水槽。

イトヒキベラやクジャクベラの仲間の良いところは他の多くの魚と飼育することができるということです。大型のハナダイ、ヤッコ(キンチャクダイ)の仲間、小型のスズメダイの仲間、カエルウオ類、テンジクダイ類、キュウセンなど砂に潜るベラの仲間、など色々な魚と組みあわせることが出来ます。

難しいのは同じイトヒキベラやクジャクベラの仲間との飼育です。この仲間は種類によっては激しく争いますので、小型水槽では同種の雄同士一緒に飼育するのは難しいことです。またモチノウオの仲間やキツネベラの仲間などは気が強いので要注意です。

クロヘリイトヒキベラ、ラボウテスラスなどのように大型になるイトヒキベラの仲間は遊泳力が強く、狭い水槽でほかの魚と・・・というのには向きません。小魚と混泳させるのにこれらの魚は強めですので、大きな水槽で大きめの魚と飼うのに適していますが、極端に攻撃的なスズメダイの仲間など、混泳に向かない種もいます。もちろん、イトヒキベラの仲間を捕食してしまうような肉食性の魚なども避けます。

サンゴ・無脊椎動物との相性

▲イトヒキベラはサンゴにいたずらをしないので多くのサンゴと組みあわせられる。

派手な色彩のイトヒキベラやクジャクベラの仲間はサンゴ水槽が似合います。サンゴにいたずらをすることはないのですが、逆に大きなイソギンチャクには食べられてしまうおそれれもありますので注意します。生息場所や水温などを考えますと、浅場のミドリイシの仲間との組みあわせでも問題ないのですが、やや深場に生息するLPS(ポリプの大きなハードコーラル)やソフトコーラル、深場ミドリイシの仲間と飼育するのもよいでしょう。ただし陰日ソフトコーラルは飼育が難しいため初心者におすすめすることはできません。

イトヒキベラの仲間は他のベラに比べて大人しいほうではありますが、それでも大きめのイトヒキベラと甲殻類との組み合わせには気をつけるようにします。

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