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2020.09.15 (公開 2020.09.10) 海水魚図鑑

名前に「タイ」がつくけどタイの仲間ではない魚たち

我が家ではロクセンスズメダイクロオビスズメダイフチドリハナダイイトヒキテンジクダイなど様々な魚を飼育しています。

実は日本産魚類のうち、種の標準和名に「~ダイ」(タイの意味)とつくものはたくさんおりますが(423種)、そのうちタイ科に含まれるのは9種類だけです。今回は日本に分布し「~ダイ」という名前がついていてもタイ科ではない魚と、タイの仲間について解説します。

「~ダイ」と名前についていてもタイ科ではない魚

▲キンメダイはタイの仲間ではない。「目」のカテゴリから異なる

日本産魚種で、和名に「タイ」を意味する「~ダイ」という名前がついている魚は423種います。基本的に体がよく側扁していて、細長くなく、やや体高の高い種には「タイ」の名前がつくことが多いように思います。おもにスズキ目・スズキ亜目の魚にこの名前がつくことが多いのですが、イボダイ亜目のイボダイやメダイ、カサゴ亜目のアコウダイ、ベラ亜目のコブダイやキツネダイ、ブダイなどにも「~ダイ」とついているものがいます。中にはマトウダイ(マトウダイ目)、キンメダイ、エビスダイ(ともにキンメダイ目)のように、上位階級の「目」の時点でタイの仲間が含まれるスズキ目と異なっている種がいます。

アクアリウムでお馴染みの魚

▲イトヒキテンジクダイ

「~ダイ」という名前がついている魚でアクアリウムの世界でお馴染みなのは、スズメダイの仲間です。遊泳性の強いスズメダイ属の魚を飼育しているとわかるように、水槽の中を燕ほどとはいいませんが、俊敏に泳ぎ回ります。このほかにも冒頭でご紹介しましたイトヒキテンジクダイなどのテンジクダイ類、キンギョハナダイなどのハナダイ類、飼育は難しいのですがチョウチョウウオ科のハタタテダイ、トノサマダイなどもお馴染みでしょう。このほか、イロブダイ、オキナワサンゴアマダイ、ヒメフエダイ、コロダイなどもマイナーですが観賞魚店でみることがあります。しかし、これらの魚はタイの仲間ではありません。本当に「タイの仲間」といえるのはタイ科の魚だけといえるでしょう

タイの仲間の特徴

タイ科の魚は種類が多いのですが、おおむね10~13棘、10~15軟条、(少なくとも日本産の種類は)前鰓蓋骨より前方に鱗があるが涙骨上は鱗に覆われない、などの特徴を有しています。

タイ科とひとくちにいってもいくつかの亜科に分けられています。主に歯の形状から日本産種は3つの亜科に分けられていますが。ヘダイ亜科はクロダイ属とヘダイ属を含み、3列以上の臼歯をもち、体色は赤くなく灰色から銀色っぽいです。マダイ亜科はマダイとタイワンダイ、チダイ属からなり、赤い体と2列の臼歯をもちます。キダイ亜科はホシレンコ、キダイ、キビレアカレンコの3種からなり、1列の円錐状歯をもちますが、歯というのは食性に応じて変化していくものであり、あまり亜科を分ける目安にならないかもしれません。

日本には14種のタイ科魚類が分布しており、海水魚の種類が非常に多い東南アジア近海ですがタイ科は15種ほどしか知られていません。5000種もの魚が生息しているとされるオーストラリアでも9種または10種と少ないです。一方で南アフリカでは47種類、地中海では30種以上が見られ、このあたりがタイ科の「本場」といえるでしょう。なお。アメリカの東岸でも20種前後はいますが、アメリカ西岸では数が極端に少なくわずか3種のみが知られます。

日本に生息するタイ科の魚14種

ヘダイ / Rhabdosargus sarba (Forsskål, 1775)

北海道以南の日本海岸、宮城県以南の太平洋岸、琉球列島。沿岸から内湾、汽水域。

クロダイ / Acanthopagrus schlegelii (Bleeker, 1854)

琉球列島や小笠原諸島を除く各地の海、汽水域でごく普通にみられる。

キチヌ / Acanthopagrus latus (Houttuyn, 1782)

岩手県、千葉県以南の太平洋岸、兵庫県以南の日本海岸、東シナ海、小笠原諸島(琉球列島にはいない)。内湾から汽水域に多い。

ミナミクロダイ / Acanthopagrus sivicolus Akazaki, 1962

屋久島と琉球列島。内湾や汽水域に入る。沖縄ではクロダイにかわり本種が分布するようである。

オキナワキチヌ / Acanthopagrus chinshira Kume and Yoshino, 2008

沖縄島と石垣島近海。内湾域。数はやや少ない。

ナンヨウチヌ / Acanthopagrus pacificus Iwatsuki, Kume and Yoshino, 2010

久米島と八重山諸島。内湾や汽水域に住み、マングローブ域などにもいる。

イワツキクロダイ / Acanthopagrus taiwanensis Iwatsuki and Carpenter, 2006

台湾に分布するとされたが日本でも鹿児島県笠沙の定置網で漁獲された。

マダイ / Pagrus major (Temminck and Schlegel, 1843)

ほぼ日本各地。奄美諸島以南では少ない。水深200m以浅の海にすみ、養殖も盛ん。

タイワンダイ / Argyrops bleekeri Oshima, 1927

土佐湾、奄美大島以南。やや深場に生息する。

チダイ / Evynnis tumifrons (Temminck and Schlegel, 1843)

北海道南部~九州までの各地。大陸棚のやや深場に生息しているが浅場の定置網でも獲れることがある。
※釣り人が「ハナダイ」といった場合チダイを指すことが多い。

ヒレコダイ / Evynnis cardinalis (Lacepède, 1802)

南日本の太平洋岸、山口県にもいるが少なく東シナ海に多い。大陸棚の深場にすみ底曳網で漁獲される。

キダイ / Dentex hypselosomus Bleeker, 1854

青森県~屋久島、東シナ海。大陸棚縁辺の深場にすみ釣りや底曳網で漁獲される。

キビレアカレンコ / Dentex abei Iwatsuki, Akazaki and Taniguchi, 2007

小笠原諸島、奄美大島、喜界島、沖縄島、伊平屋島。水深50~150mの岩礁に住み釣りで漁獲される。

ホシレンコ / Amamiichthys matsubarai (Akazaki, 1962)

奄美諸島特産種。200m以浅の海底にすみ釣りにより漁獲される。

「~ダイ」と名前についていないタイ科の魚

ホシレンコ

タイ科の魚は日本に14種が知られていますが、そのうち5種類については「~ダイ」という名前がついておりません。キチヌ、オキナワキチヌ、ナンヨウチヌ、キビレアカレンコ、ホシレンコです。

これらの種のうち、キチヌ、ナンヨウチヌ、オキナワキチヌの3種は「チヌ」という名前がついていますが、これはクロダイの別名の「チヌ」によるものです。チヌという名の由来は大阪湾の別名「茅渟の海」から。キビレアカレンコ、ホシレンコの2種類はキダイ(別名レンコダイ)と同じDenticinaeに属するからと思われます。ホシレンコは従来学名はCheimerius matsubaraiとされていましたが、近年は属名が変更されAmamiichthys matsubaraiとなっています。その属の学名(奄美の魚の意)の通り奄美諸島にしかいない固有種で、ただでさえ少ないのに同じような環境を好むマダイの種苗放流が近年、奄美大島でも行われているようで、マダイと競合して個体数を減らすおそれがあります。放流についてもうちょっとよく考えてほしいものです。

タイ科魚類とアクアリウム

▲マダイの若魚

海水魚店ではタイ科の魚はめったに見られません。ごくまれに近海魚に強いお店でキダイやチダイなどが販売されていることがありますが、これらはやや深い海に生息し減圧症が出ていることもあるため衝動買いせず、じっくり個体を見て決めたほうがよいでしょう。また高水温も禁物で、一般的なサンゴとは一緒に飼育できません。

採集してもよいのですが、マダイの場合種苗放流もされるなど産業上重要種で、サイズにより放流しなければならないこともあります。またキチヌやクロダイは大きくなると結構気が強くなり、混泳水槽の住人としてはあまり適していないところもあります。しかしながら稚魚や幼魚に限ってはスレ傷や水質悪化に弱いところがあります。幼魚から成魚まで、いずれも餌食いは抜群によく、配合飼料もよく食べてくれます。

海外のタイ科魚類

世界には様々なタイ科の魚が知られ、ゼブラやデーン、ダブルバーブリームなど美しい種も知られています。これらが入ってくれば少しは人気が出てくるかもしれません。しかしこれらの種は南アフリカや中東に分布し、一般的な観賞魚ルートではまず入ってこない希少な魚といえます。またダブルバーブリームはクロダイ属ですので結構気性が荒い可能性もあり、それなりに大きくなるのでもてあます可能性もあります。日本では水族館での飼育実績がありますが、大きな水槽でなければほかの魚との混泳は難しいかもしれません。

タイと名前のつく魚まとめ

  • 海水魚飼育の世界では「~ダイ」という名前で呼ばれる魚が多い
  • 「~ダイ」と名前の付く魚は423種もいるがタイ科の魚は14種しかいない
  • 温帯や深場のものも多くサンゴと飼いにくい種も
  • クロダイやキチヌなどは混泳水槽には不適切な種も
  • タイ科は丈夫で買いやすいものが多いが性格には要注意
  • タイ科は大きく育つものが多いため大型水槽が必要になる
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