2020.11.25 (公開 2020.11.25) 水槽・器具
カルシウムリアクターの仕組み・使用方法・注意点
カルシウムリアクターはカルシウムなどを含んだメディアを溶出させ、水槽に供給しカルシウムの濃度をあげたり、KHを維持させるためのアイテムです。従来から「メタハラ」「スキマー」とならび、ミドリイシ飼育の三種の神器と称されてきましたが、調整にはコツがいることや、緑色の大型ボンベを使用する必要があること、などから取り扱いには注意が必要なアイテムといえます。今回はカルシウムリアクターの基本についてご紹介します。
カルシウムリアクターとは
カルシウムリアクターは造礁サンゴを飼育するのに役に立つ器具です。水槽にカルシウムメディアの内容物を溶出させ、水槽内にカルシウムを供給しKHを安定させるというものです。従来は「プロテインスキマー」「メタルハライドランプ」とならび、ミドリイシ飼育の三種の神器的な存在でしたが、現在はプロテインスキマーは使用しているが、照明はLEDで、カルシウムリアクターは使用していない、というアクアリストも多いです。しかしながら、多くのミドリイシを飼育するためにはいまでも重要なアイテムであり、より安定して飼育できる、という意味ではあったほうがよい器具といえます。
なお、リアクターは「反応装置」とかそのような意味があります。市販されているマルチリアクターというのは主に流動ろ過のろ材やバイオペレットなどを入れるためのものであり、カルシウムリアクターとしては使えないので注意が必要です。
カルシウムリアクターが欲しいサンゴ
カルシウムリアクターはどんなサンゴ飼育にも役に立つのですが、サンゴ水槽に必須、というものではありません。しかし、カルシウムリアクターを使用することによりサンゴの飼育がしやすくなることがあります。とくに10~15年くらい前には先述のようにミドリイシにはカルシウムリアクターが必須、なんていわれていたこともありました。
ミドリイシ
飼育するのに高いKH値を維持しなければならないサンゴの代名詞がこのミドリイシです。KHが低すぎるとミドリイシは白化してしまいます。添加剤でのKH維持も可能ではありますが、カルシウムリアクターを使用したほうが安心して飼育できるでしょう。
コモンサンゴ、ほかSPS全般
▲コモンサンゴの仲間にも高いKHが重要
コモンサンゴはミドリイシ科のサンゴではありますが、それでもある程度丈夫なため飼育しやすいサンゴといえます。しかしやはり飼育にはある程度高いKHが重要で、成長のためにはカルシウムも必須です。このほか、SPSと呼ばれるハナヤサイサンゴ、ショウガサンゴ、トゲサンゴなども同様です。そうなるとカルシウムリアクターを使ったほうが飼育しやすいでしょうが、添加剤の定期的な添加によっても維持・成長させることはできます。
ハナガタサンゴ・キクメイシ
▲アザミハナガタサンゴも高いKHの飼育水を好む
ハナガタサンゴの類は骨格の密度が大きいため高いKHでの飼育が望ましいといえます。キクメイシの仲間も丸い骨格のものなどは成長が遅いため、成長させたい場合にはカルシウムリアクターが役に立つでしょう。
なお、ここに挙げた種類のサンゴだけでなく、各種ハードコーラル(イシサンゴ)やアオサンゴ、イソギンチャクであってもKHのそれなりに高い水が欲しいところですので、添加して損するということはありません。
カルシウムリアクターの仕組み
カルシウムリアクターは筒の中にカルシウムメディアと呼ばれるものを入れ、そこに二酸化炭素(CO2)を添加してメディアを溶かし、その溶けた水を水槽に添加しますが、その添加量の調整は注意しないと水槽のpHが大きく変動してしまい魚やサンゴが全滅してしまうこともあります。
機種によってはセカンドステージがついているものもあります。これは残ったCO2をしっかり消費させるものです。水槽内にCO2が入るともったいないし、pHが低下し、水槽が崩壊する、なんて恐ろしいことがおこる危険もあります。最近はセカンドリアクターを使用せず、OCTOやPRSのリアクターのようにCO2リサイクル機能を取り入れたものもあります(後述)。
カルシウムリアクターを動かすのに必要なもの
二酸化炭素(CO2)ボンベ
二酸化炭素が充填された緑色のボンベです。これがないとカルシウムメディアを溶かすことができないので、カルシウムリアクターを使用することはできません。写真は2.5リットルの液化炭酸ガスボンベです。
ボンベのコスト
一般的にカルシウムリアクターは緑色のCO2ボンベを使用します。よく観賞魚店でみられる酸素入りのボンベが黒、塩素が黄色、水素が赤で炭酸ガス(CO2)は緑色と、ガスの種類別に色が決まっています。大体2.5リットルのボンベで20000~25000円くらい、数か月~半年に一度、充填費用が4000円くらいかかります。水草用の小さなCO2ボンベも使用可能ですが、頻繁な交換が必要になります。
レギュレーターと逆止弁、スピードコントローラー
レギュレーターはボンベからCO2を排出させるためのアイテム、逆止弁は逆流を防止するもので、必ず備え付けておく必要があります。スピードコントローラーは添加のスピードを調整するのに重要です。レギュレーターも10000円ほどと結構高くついてしまうので、できるだけ専門店の方と相談して決めるようにしましょう。
カルシウムメディア
カルシウムを水槽に供給するには、そのカルシウムのもとになるものが必要です。これがカルシウムメディアです。リアクターメーカーなどから販売されていますが、どれも炭酸カルシウム鉱物のアラゴナイト(アラレ石)です。これは死んだサンゴの骨格や、サンゴ砂などと比べて溶けだしやすいという特徴があります。基本的にリアクターのメーカーが推奨するものを使用するのが一番ですが他社製のメディアでも問題ないとのこと。たとえばH&S製のリアクターであればH&Sのメディアを使用するのが一番ですが、他社製でも粒が大きいものであれば問題ないということです。
黒い紙
カルシウムリアクターのカルシウムメディアを入れる場所には黒い紙をテープなどで貼ってもよいでしょう。これは明るい場所にさらされるとメディアにコケが生えてしまうことがあるためです。ただし、メディアの量や状態を確認するために、貼ったりはがしたりできるようにすることが理想です。
主なメーカーのカルシウムリアクター
一部国内メーカーのものもありますが、市場に出ているものでは海外製品が多いです。
H&S(エムエムシー企画レッドシー事業部)
ドイツの老舗メーカーです。我が家の水槽でも使用しているプロテインスキマーHS850が有名ですが、カルシウムリアクターも製造。日本のアクアリウム市場で流通しているのは「CA-0」、「CA-1eco」、そして「CA-2eco」の3種類です。サンプ内で使用することが前提ですが、CA-1eco、そしてCA-2ecoについてはオプションパーツを使用することで外部式に変更することも可能。メディアについてはH&Sリアクター専用メディアを使用します。
OCTO(旧リーフオクトパス:LSS研究所)
中国の人気メーカー、OCTOもプロテインスキマーで有名ですがカルシウムリアクターも販売しています。自社製のACポンプを搭載した「クラシック カルシウムリアクター」と、中国製らしくDCのVariosポンプを使用した「カルシウムリアクター」の2シリーズを用意。水槽のサイズに合わせ、クラシックは2種類、カルシウムリアクターは3種類から選ぶことができます。どちらの商品も残ってしまった二酸化炭素をリサイクルする「CO2リサイクルバイパス」がついています。
PRS
「雲海」スキマーなどで知られている埼玉県のメーカーですが、リアクターも製造しています。OCTO同様に二酸化炭素をリサイクルする仕組みをもち、DCポンプで稼働します。従来はセカンドリアクターがあるモデルを製造していましたが、最近はシングルタイプのもののみのようです。ただしオプションパーツとしてチャンバーなども販売されており、つなげてセカンドリアクター的に運用することも可能です。
カルシウムリアクターの運用とメンテナンス
水槽崩壊を招くおそれがある
カルシウムリアクターは水槽崩壊を招く危険性がある器具です。これはカルシウムリアクターの使用により低いpHの水が水槽に供給され、水槽の酸化や酸欠によって最悪水槽が崩壊してしまうことがあるのです。さらに価格も高価であり、安定したフルオート化で運用しようものならコントローラーや電磁弁、エレクトロ―ドなど高額な費用がかかってしまいます。どんな器具でもそうですが、とくにカルシウムリアクターのような高価であったり、水槽崩壊を招くこともある危険なものは店員の方やアクアリストに相談するなどして納得いくチョイスを心掛けたいものです。
定期的なpHとKH、カルシウムのチェック
カルシウムリアクターというのは二酸化炭素を供給するため、pHが下がりやすいという問題があります。そのためpHは頻繁にチェックしたほうがよいでしょう。水槽内のpHが極端に下がっているなら即刻リアクターを止めなければなりません。
もちろんKHがしっかり上がっているかのチェックも欠かせません。リアクターから出てくる水はKHが20~30dKH、水槽内のKHは7~12dKHがそれぞれの目安です。カルシウムは380~450ppmが目安です。
pHをチェックする
KHをチェックする
カルシウムをチェックする
メディアの交換と補充
カルシウムメディアは成分を溶出させるために使っているうちに減っていきます。できるだけ早いうちに交換しておきたいものです。汚れてきたら洗浄しますが、あまりに細かくなると目詰まりを起こしやすいので交換するのが望ましいです。
CO2ボンベの交換と充填
リアクターを動かすためには二酸化炭素が必要ですが、この二酸化炭素を貯蔵しておくCO2ボンベは交換もしくは充填が必要となります。先述のように数か月~半年に1回の交換が必要になります。水草用の安価なボンベについては初期投資が緑色のボンベと比べ低く抑えられるものの、頻繁な交換が必要となります。
カルシウムリアクターの代わりになるもの
▲カルシウムリアクターの効果を再現する「リキッドリーフ」
近年はカルシウムリアクターの代わりをするものが販売されています。これはカルシウムリアクターに使用されるCO2ボンベの充填や交換が必要であることや、カルシウムリアクターそのものが高価であり初期投資がかかる、初期設定が若干難しく失敗すると生物を全滅させる危険性がある、などの問題があります。近年は添加剤でも、カルシウムリアクターの代わりとなるものが市販されており、このようなものを使用するアクアリストも多いようです。
有名なものは日本国内ではマーフィードが取り扱っているケントの「リキッドリアクター」ですが、マーフィードのホームページではカタログ落ちしてしまっています。そのため、やはりマーフィードが日本で取り扱うブライトウェルアクアティクス社の「リキッドリーフ」を使用する方法があります。これはアラゴナイトから溶け出すのと同じ比率でカルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、ポタシウムを水槽に供給します。
レッドシーによる「リーフケアプログラム」のサブプログラム「リーフファンデーションプログラム」も同様です。カルシウム、KH、マグネシウムなどをサンゴに必要な濃度で維持します。欧米では近年CO2ボンベが危険物で敬遠されているようで、リーフキーパーはそれを補う必要があるのでしょう。これらの商品を使う上でのメリットは安価で使用できること、CO2の添加が不要であり充填コストが抑えられる、pHが低下して水槽が崩壊する危険性がないところがあげられます。逆にデメリットとしてはミドリイシを詰め込みすぎたような水槽では対応できない場合があること、添加剤を頻繁に購入するなら結局ある程度の出費が必要になるということがあります。
カルシウムリアクターまとめ
- アラゴナイトのメディアを溶かしてサンゴに適したKHやカルシウム値を維持する
- 従来はスキマー、メタハラとともにミドリイシ飼育にとっては欠かせないものだった
- 今でもミドリイシをぎっしり詰め込んだ水槽ではよく使用されている
- ミドリイシのほかLPSやソフトコーラル、イソギンチャクなどにも有効
- 本体のほかにCO2ボンベやカルシウムメディア、レギュレーターなどが必要
- CO2ボンベは定期的な充填や交換が必要
- 調整を間違えると水槽が崩壊してしまう危険性も
- pHとKH、カルシウムの数値はチェックしたい
- メディアは細かくなると目詰まりしやすいので早めに交換したい
- 添加剤を使用してリアクターの効果を得る方法も