2020.03.16 (公開 2018.08.28) 海水魚図鑑
ニシキベラの飼育方法~キュウセン・ホンベラとの見分け方や混泳事例も紹介
ニシキベラは温帯性のベラの仲間です。丈夫で飼育しやすい魚ではありますが、遊泳性が強いため大きめの水槽で飼育してあげたいものです。色彩が鮮やか、他の魚との飼育もでき、餌もよく食べるなど、海水魚飼育の魅力がつまった魚といえます。今回はこのニシキベラの飼育方法をご紹介します。
標準和名 | ニシキベラ |
学名 | Thalassoma cupido (Temminck and Schlegel, 1845) |
英名 | Cupid wrasse |
分類 | スズキ目・ベラ亜目・ベラ科・カンムリベラ亜科・ニシキベラ属 |
全長 | 15cm |
飼育難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめの餌 | メガバイトレッド など |
温度 | 20~25℃ |
水槽 | 60cm~ |
混泳 | 肉食魚やおとなしいハタタテハゼなどとの混泳には向かない |
サンゴ飼育 | 可 |
そのほか | 遊泳のためのスペースを広く取りたい。病気予防のため殺菌灯もあった方がよい。もちろんフタも忘れずに |
ニシキベラってどんな魚?
▲ニシキベラ
ニシキベラは、ベラ科カンムリベラ亜科・ニシキベラ属の魚です。鮮やかな色彩が特徴ですが、千葉県以南の各地で普通に見られる温帯性の魚です。琉球列島にも分布していますが、多くはありません。ニシキベラ属の魚の中には南アフリカからイースター島にまでみられるキヌベラのように広い分布域をもつものもいますが、このニシキベラは分布域が狭く、海外では朝鮮半島や台湾にいるだけです。
ベラ科の魚は雌雄で色彩が大きく変わります。ニシキベラの雄は雌に比べてかなり青みが強いのが特徴ですが、他のベラの仲間と比べて雌雄の差は顕著とはいえません。磯釣りではよく釣れてくる魚ですが、ほとんど食用にはなっていません。
ニシキベラ属 Thalassoma
▲ニシキベラ属のオトメベラ
ニシキベラ属は三大洋の熱帯・亜熱帯域に28種が知られており、日本近海にも10種が分布しています。オトメベラやヤマブキベラ、ハコベラなど一部の種類は観賞魚店でみることができ、ほかの種類も四国や九州などで採集することができます。どの種もニシキベラ同様遊泳性が強く、飼育には大きめの水槽を必要とします。なかにはキヌベラのように40cmオーバーになる大型種もいます。
長い吻(口)が特徴的なクギベラ属との違いはほとんどなく、同一の属である可能性もあります。そうなれば属の標準和名や学名が変更されるものと思われます。どの種も夜間は岩の陰で休息しますが、砂の中に潜ることもあります。
ニシキベラに似ている・間違えやすいベラ
ニシキベラと同様、温帯性で派手な色をしたベラの仲間が何種類かおりますが、これらの種がニシキベラと間違えられることもあります。逆に食用とされるキュウセンがニシキベラと間違えられることもあります。
キュウセン Parajulis poecilepterus
キュウセンも派手ないでたちで熱帯魚と思われることも多いのですが、北海道南部と、本州~九州のほぼ全沿岸に生息する温帯性の魚です。主に岩が混じる砂底に生息しています。
なお「キュウセンベラ」という名前を標準和名としていますがこれは誤りで、キュウセンが正しい標準和名です。このほか、雄はアオベラ、雌はアカベラとも呼ばれています。かなり美味な魚で、とくに関西で喜ばれます。
キュウセンは従来はHalichoeres属の中に含まれていましたが、現在ではキュウセンのみからなる1属1種のものとされています。ただこの2つの属は本当に分けられるべきなのか疑問です。飼育方法などについては、また別の項目でご紹介します。
ニシキベラとは腹部の赤い模様は点線となっていること、頭部がややとがることなど、雄の体に大きな黒色斑が出ることなどで区別することができます。キュウセンの雌は赤みを帯びた色で、ニシキベラとは容易に見分けることができます。
ホンベラ Halichoeres bleekeri
▲ホンベラの雄
▲ホンベラの雌
もう1種ホンベラもニシキベラと間違えやすいベラといえます。ホンベラもキュウセン同様温帯性が強く、関東の磯でも初夏に幼魚と出会うことができます。磯採集ではキュウセンよりも出会う機会が多いかもしれません。
属名Halichoeres属の標準和名は従来キュウセン属でしたが属の和名になっていたキュウセンが独立した属となってからはHalichoeres属の標準和名はホンベラ属となっています。
ニシキベラは腹部に赤い線が入りますが、ホンベラの雄は腹部が全体的にオレンジ色になるため区別できます。またホンベラの雌は体側に目立つ模様が入らないのも特徴です。幼魚は緑色、または橙色で、背鰭と尾の付け根に目玉模様が入ります。ホンベラ属はベラの仲間でもとくに多くの種を含む属で、アクアリストにお馴染みのライムラスやコガネキュウセンも同属です。ホンベラ飼育の方法はまた別にご紹介します。
キュウセンとホンベラはニシキベラと異なり、睡眠・危険が迫ったときには砂中に潜るタイプのベラです。このタイプのベラの飼育方法はこちらもご参照ください。
ニシキベラに適した飼育環境
水槽
▲60cm水槽での飼育例
ニシキベラは全長15cmほどの小型の魚ですが、遊泳性が強いので最低でも60cm、できれば90cm以上の水槽で飼育するようにしたいものです。
水質とろ過システム
▲上部ろ過でもよい
ベラの仲間は餌をよく食べますので、残り餌や排せつ物を分解するためにしっかりとしたろ過槽が必要です。おすすめはろ材を多く入れられ、しかも酸素がろ過バクテリアにいきわたりやすい上部ろ過槽で、外部ろ過槽や外掛けろ過槽も使用可能ですがこれらは酸欠になりやすかったり、ろ材を入れられるスペースが少なかったりするので単用を避けほかのろ過槽と組み合わせるようにします。
できればろ材をたくさん入れたオーバーフロー式の水槽で飼育したいところです。魚の数を減らすことができればベルリンシステムなどでの飼育も可能です。
水温
温帯性の魚ですが25℃前後でも飼育できます。海では温度変化のある潮溜まりでも見られることがあり、水温の変化には強いといえそうですが、病気対策のため水槽内ではできるだけ水温を一定にするようにしましょう。
フタ
ニシキベラは遊泳性が強く、勢い余って飛び出してしまうという事故を起こすこともあります。フタをしっかり閉めて飛び出し事故を防ぎましょう。
ライブロック・サンゴ岩
▲夜間サンゴ岩のかげで眠るニシキベラ
ニシキベラは夜間、岩陰で眠るので飼育するのに砂を敷く必要はありません。ただし夜間は岩陰で休息しますので、ニシキベラが休めるようなベッドとしてライブロックやサンゴ岩などを入れてあげるとよいでしょう。複数飼育するのであれば、それぞれの個体が休息できるように多数ライブロックやサンゴ岩を入れる必要があります。
ニシキベラに適した餌
▲おすすめは海水魚用の粒状餌
釣りではオキアミなどを餌に釣りますが、これらの餌には防腐剤などの添加剤が含まれていたり、栄養が偏っていたり、あるいは水を汚しやすかったりするためこれらの餌は使わない方がよいでしょう。
ニシキベラは配合飼料に餌付きやすいためわざわざ冷凍餌をあげなくてもよいでしょう。どうしても食べないときや、若干やせ気味、あるいは水槽に入れてすぐのときに冷凍餌を使うようにしますが、冷凍餌は水を汚しやすいので注意しなければなりません。
ニシキベラの入手方法
▲ニシキベラの幼魚
観賞魚店ではほとんど販売されていませんので自分で採集することがベストといえます。温帯性の種で5月の連休の際には幼魚を採集することができるでしょう。
ニシキベラは非常に素早い泳ぎをするので大きいものを網で採集することは難しいといえます。幼魚であれば2本の網を使ってタイドプールにいるものを掬うことも可能です。成魚は釣りで採集することもできます。サヨリ針などの先端にオキアミや剥いたエビなどをつけて容易に釣れますが、針を深くのみこんで弱ってしまったものは残念ながら飼育には向きません。
成魚はたいへん丈夫で病気にはあまりかかりませんが、幼魚のうちは白点病などの病気にかかりやすいところがあります。殺菌灯をつけたりして対応しますが、水温が安定していることが一番重要です。
ほかの生き物との関係
ニシキベラは同じ種同士では争うこともあります。自然の海では群れているのですが、狭い水槽では縄張りをめぐって争います。これは他の魚でも同じことがいえます。
ほかの魚との混泳
▲ソラスズメダイと混泳している例
ほかの魚との混泳もできますが、ニシキベラは結構気が強くタフなので弱い魚は怯えて出て来なくなってしまうこともあります。大きめの個体は、ソラスズメダイなどと飼育するのにも適しています。ただしさすがに性格が強すぎるミツボシクロスズメダイなどには負けてしまいますので注意が必要です。
カクレクマノミやチョウチョウウオの成魚、ゴンベ、ハギ、メジナなど性格がやや強めの魚との混泳にも適しています。ヤッコの仲間も小型・中型・大型問わず組み合わせられますが臆病なシマヤッコなどとの組み合わせは注意しましょう。
肉食性のハタやカサゴなど口の大きい魚食魚との混泳は捕食されるおそれがあるためやめましょう。逆におとなしいハゼなどもやめたほうが無難ですが、小さいうちは強い魚に負けやすいです。
サンゴ・無脊椎動物との関係
ニシキベラはサンゴには無害でソフトコーラル、ハードコーラルとわず飼育することもできます。ただし、ケヤリムシなどのゴカイの仲間、シャコガイなどはつつくこともありますので、一緒に飼育するのはなるべく避けたいところです。
一方甲殻類などの無脊椎動物は捕食してしまうおそれがあるので、クリーナーシュリンプをのぞき一緒に飼育することはできません。ただしオトヒメエビは大きなハサミでニシキベラが寝ているところを襲うこともあり、要注意です。逆にイセエビ類、大型のカニやヤドカリなどもニシキベラの寝ているところを襲うこともあるので、こちらも一緒に飼育するのは避けたいところです。
ニシキベラ飼育まとめ
- 熱帯性のように見えるが琉球列島では少ない温帯種
- キュウセンやホンベラと間違えられやすい
- 遊泳性が強いので60cm以上の水槽で飼育したい
- 上部ろ過などのろ過槽がおすすめ
- 水温は25℃でもよい
- ジャンプすることもあるのでフタはしっかりと
- ライブロックやサンゴ岩で休息場所をつくる
- 配合飼料をすぐ食べてくれる
- 幼魚は病気になりやすいので要注意
- スズメダイの仲間との混泳も可能
- 肉食魚や温和な魚との混泳は避ける
- 甲殻類やケヤリムシなどは捕食されるおそれも