2020.11.10 (公開 2020.11.10) サンゴ図鑑
イソギンチャクの飼育は難しいの?初心者用イソギンチャク飼育ガイド
「ニモ」などの映画や、ダイビングで見たカクレクマノミとイソギンチャクの共生するようすを水槽で再現したいと思っている初心者アクアリストも多いでしょう。しかし、イソギンチャクは残念ながら初心者には難しい生き物です。今回はイソギンチャクの飼育がなぜ難しいのか、どのようにすればうまく飼えるのか、どの種類が飼育しやすいのかなど、イソギンチャクの仲間をはじめて飼育するときの注意点をご紹介します。なお、この記事は「ある程度サンゴ飼育にチャレンジして成功した方がイソギンチャクを飼育する」ということを前提に作成しております。
イソギンチャクとは
イソギンチャクは刺胞動物門・花虫綱・イソギンチャク目に含まれる動物の総称です。一見植物にも見えるのですが、サンゴやクラゲなどと同様に刺胞をもつ刺胞動物門というグループに含まれています。英語ではSea anemone(海のアネモネ)と呼ばれており、イソギンチャクと共生するクマノミの仲間もAnemonefishと呼ばれています。イソギンチャク目に含まれる動物は磯でごく普通にみられるミドリイソギンチャクやタテジマイソギンチャク、時に大量発生し毒でサンゴを弱らせたりするセイタカイソギンチャク(通称カーリー)なども含まれますが、ここでは原則としてクマノミと共生するタイプのイソギンチャクの飼い方を中心に紹介します。
サンゴとの違い
▲イソギンチャクと間違えられやすいオオナガレハナサンゴ
イソギンチャクはよくサンゴと間違えられることがありますが、大きな違いがあります。それは、イソギンチャクには「足」があり、水槽内を動き回るということです。サンゴは一部の種をのぞき移動することはできないのですが、イソギンチャクは筋肉質の体をもち、水槽内を歩き回ります。そしてこの「動く」習性がイソギンチャクの飼育を難しいものにしている理由の一つです。
またサンゴは体に骨格を有していますが(ソフトコーラルにも骨片がある)、イソギンチャクは骨格のない筋肉のかたまりです。ただしサンゴとして販売されているディスクコーラルやヘアリーディスクなどはイソギンチャクに近い仲間とされています。マメスナギンチャクはスナギンチャク目の生物でまた別の仲間です。なおイソギンチャクの仲間は六放サンゴ亜綱で、トサカやウミアザミ、ウミヅタなど多くのソフトコーラルが含まれる八放サンゴ亜綱とは異なった分類群です。
サンゴ水槽でイソギンチャクを飼育しているアクアリストもいますが、後述の理由からあまりおすすめしません。
イソギンチャクの飼育が難しいといわれる理由
よく歩く
イソギンチャク飼育のうえで最大の問題が「よく歩く」ということです。水面ギリギリにあるオーバーフローのスリットに詰まって水をあふれさせたり、ストレーナーに詰まって水の循環を止めてしまったり、水中ポンプのスリットに挟まれポンプのペラーでちぎれたりと、イソギンチャク飼育で起こりやすいトラブルの多くが、イソギンチャクが歩くことに起因しているともいえます。とくにサンゴイソギンチャクとセンジュイソギンチャクは非常によく歩き回るため注意が必要です。また動けないサンゴ、とくにハードコーラルの上に乗っかり毒でダメージを与えることもあります。よく歩くイソギンチャクはサンゴ水槽での飼育はまったく不向きです。
きれいな水を好むが水を汚しやすい
イソギンチャクは粘液を出したりすることもあって、水を汚しやすい生き物といえます。そのため水質に気をつかう必要があります。しっかりとしたろ過装置を使ったり、プロテインスキマーを使用することは重要です。そして水を汚しやすいくせに、水質に関してはきれいな海水をもとめるものが多くいます。とくにハタゴイソギンチャクは清浄な海水を必要とし、それが飼育しにくい理由のひとつとなっています。そのほかのイソギンチャクもできるだけきれいな海水で飼育してあげたいものです。また弱ってしまったら早いうちに隔離しなければなりません。死んでしまうと水質を著しく悪化させ崩壊の危険もあるからです。
強めの光が必要
イソギンチャクは餌のほか、光からもエネルギーを得ています。そのためある程度強めの光が必要となります。ただ光は強ければ強いほどよい、ということはなく、あまりに光が強いと色が飛んでしまうこともあります。最近の水槽用照明としてはLEDが主流ですが、スポット的なものが直接当たるようだとイソギンチャクにとっては明るくなりすぎることもあります。そうなってしまうと色が抜けて弱ってしまうことがありますので、イソギンチャクと照明の適切な位置関係を見つけたいところです。
魚を食べてしまう
▲ギンポやハゼの仲間は捕食されやすい
これも大きな問題です。イソギンチャクは刺胞に毒があり、触れた魚を麻痺させて食べてしまうのです。そのため、クマノミ以外の魚との飼育には向かず、イソギンチャクの種類によってはある程度大きなヤッコなども食べてしまうことがあります。ですからクマノミ以外にも魚がいろいろ入っている水槽にイソギンチャクはいれないほうがよいといえます。特にハゼの仲間やカエルウオ、ネズッポ、タツノオトシゴなどは注意が必要です。
輸送でダメージを受けていることがある
▲色が抜けてしまったイソギンチャク
イソギンチャクの仲間は採集のとき岩などからはがすときにダメージを受けてしまうことがあります。とくにハタゴイソギンチャクなどは採集や輸送によってダメージを受けやすいので、選ぶときは慎重にしたいものです。また、色が飛んでいるものは強い光にさらされるなどして褐虫藻が抜けている可能性もあるので選ばないほうがよいでしょう。ベテランであれば褐虫藻が抜けつつあるようなものでも回復させられますが、イソギンチャク飼育初心者であるならこういうのは選ばないほうが無難です。また、ぐったりしていて触手がだらん、と下がってしまっているものも購入するべきではありません。
イソギンチャク飼育難易度
クマノミの仲間と共生するタイプのイソギンチャクはいろいろな種類が知られていますが、種によって飼育難易度は異なります。今回は各イソギンチャクの飼育方法について、コーラルタウン店主の小沼さん(町長さん)にお伺いしました。
サンゴイソギンチャク(比較的飼いやすい)
サンゴイソギンチャクは温帯でも見ることができるイソギンチャクです。おもにクマノミやハマクマノミ、スパインチークアネモネフィッシュが共生しますが、飼育下ではほかの種類のクマノミとも共生します。この水槽ではハナビラクマノミと共生していました。カクレクマノミも共生することがあります。熱帯だけでなく温帯域の磯でも見ることができます。
「サンゴイソギンチャクはイソギンチャク初心者の方にはいいかもしれないですね、難点があって、よく動くけど。光もちょっと弱めでいいと思います。ただカクレクマノミはなかなか入りにくいですね」(町長さん)
タマイタダキイソギンチャク(比較的飼いやすい)
タマイタダキイソギンチャクはサンゴイソギンチャクによく似ていますが、先端が丸いのが特徴です。習性などもサンゴイソギンチャクとあまり変わらず、よく動くのでその対策さえしてやれば初心者にも飼育可能と思われます。クマノミやハマクマノミなどがよく共生しています。
「タマイタダキイソギンチャクはサンゴイソギンチャクとあまり変わらないですね。光も強くなくていいし、丈夫です。サンゴイソギンチャクと混同されて来るのであまり来ないですね」(町長さん)
ロングテンタクルアネモネ(比較的飼いやすい)
その名の通り長い触手を持つイソギンチャクで、「LT」と略されていることもあります。多くのクマノミの仲間と共生させることができ、飼育下では写真のようにカクレクマノミも入ることがあります。写真のような褐色のものから濃いグリーン、パープルまでカラーパターンがいくつかありますので好みのものを購入するとよいのですが透明感があるものは避けたほうがよいでしょう。本種は砂に潜るため、サンゴ砂を敷いてあげたいものです。
「難易度的にはタマイタダキイソギンチャクやサンゴイソギンチャクとあまりかわりませんね。小さい個体さえ手に入れば、初心者にもおすすめだと思います。砂を掘ってすみ水槽の中だと底のガラスにくっついたりしてますね。一度落ち着けばほかのイソギンチャクと比べるとあまり移動もしませんのでそこも初心者によいところといえそうです」(町長さん)
「シライトイソギンチャク」(種類や状態によって難易度は異なる)
▲シライトイソギンチャクの名前で売られていた(キッカイソギンチャク?)
「シライトイソギンチャク」と呼ばれて販売されているイソギンチャクには複数のタイプがあり、それぞれ種類も飼育難易度も異なります。そのため一概には説明しにくいところもあるようです。本家シライトイソギンチャクだけでなく、キッカイソギンチャクやチクビイソギンチャクなどの種類も「シライト」として販売されることがあります。見分けが難しいため同一の名称で販売されておりますが、飼育難易度が異なっており、それがシライトイソギンチャク=難しいという認識につながっているのかもしれません。
「シライトイソギンチャクっていってもいろいろあって、よくお店でも売ってる真っ白なのは色が抜けているからハタゴイソギンチャク以上に難しい。褐色で先端ピンクの、ウチにあるようなタイプのイソギンチャクはそれほど難しくないですね。種類や個体により光にも気をつかうべきかもしれません」(町長さん)
センジュイソギンチャク(やや難しい)
センジュイソギンチャクはサンゴ礁に生息する大型のイソギンチャクで、メータークラスになることもあります。カクレクマノミもよく共生しています。しかし、イソギンチャクのなかでも飼育は難しいとされています。
「センジュイソギンチャクは難しいですね〜。やっぱり、よく動きますからね。要求する光についてもハタゴイソギンチャクほどではないですが、ある程度強い光がいります。状態もハタゴイソギンチャクよりはよいものが多いんだけど、まあ、でっかいですよ」(町長さん)
ハタゴイソギンチャク(難しい)
ハタゴイソギンチャクは人気のカクレクマノミがよく共生するため、もっとも人気の高いイソギンチャクのひとつとされます。その一方で「ハタゴイソギンチャクは難しい」というのは多くのアクアリストにとって共通の認識、となっているところがあります。しかしながら町長さんはこうおっしゃります。
「ハタゴイソギンチャクは難しいといわれるのですが、そのまえに状態が悪い個体が多いように思います。状態のよい個体さえ購入できれば、飼育することができます。照明は強いのがいいですね、調光できるのがいいかと、水質もきれいな海水が望ましいですね。あまり動いて移動するような種類ではないです」(町長さん)
一方刺胞の毒性が強く、ほかの魚を捕食してしまいますので注意しなければなりません。またヒトに対しても有毒であり、素手で触れないように取り扱うべきイソギンチャクといえます。
イボハタゴイソギンチャク(やや難しい)
イボハタゴイソギンチャクはハタゴイソギンチャクによく似ている種類ですが、触手がやや短めです。上の写真の手前がイボハタゴイソギンチャク、奥がハタゴイソギンチャクで、触手の長さを比べたら違いがわかりやすいでしょう。主にトウアカクマノミなどが共生するイソギンチャクで、カクレクマノミは時間をかければ入ってくれることがあります。カラーバリエーションが豊富で、極めて美しいグリーンや写真のようなパープルのものも見られますが、強い毒をもっているため注意が必要です。
「ハタゴイソギンチャクと飼育方法は似ているのですが、ハタゴイソギンチャクよりは飼いやすいですね。比較的よい状態で来るのが多いからかもしれないですね。ただ毒性が非常に強いので注意しなければなりません」(町長さん)
イソギンチャクの飼育に適した機材
ここでは難しいといわれるイソギンチャクを上手く飼育するための機材について考えてみます。写真はコーラルタウンに設置されているイソギンチャク飼育水槽。複数のロングテンタクルアネモネをメインに、ウミキノコ、各種トサカ、ツツウミヅタを入れています。魚はカクレクマノミ複数とテンジクダイ科のマンジュウイシモチ2匹、マガキガイ、各種コケ取り貝です。
水槽
できるだけ安定した環境で飼育したい生物ですので、水槽も大きめのほうが当然ながら有利になります。写真の水槽は60cm水槽で、オーバーフロー水槽ではない単体の水槽です。写真からもわかるようにイソギンチャクの種類によっては60cm規格水槽でも飼育できるでしょうが、やや小さいため初心者には不適かもしれません。また、イソギンチャクが大きく広がった状態をイメージし、触手をのびのびと広げられるような広い水槽のほうが飼育しやすいでしょう。
オーバーフロー水槽での注意
飼育がやや難しいイソギンチャクを上手く飼育するのには水量が豊富で安定したオーバーフロー水槽での飼育が最適!と思われがちなのですが、じつは大きな落とし穴というのがあります。というのはよい場所をもとめて歩きまわるということです。歩き回っているうちにオーバーフロー水槽のフロー管に詰まってしまうなどのトラブルが起こることもあります。そうなると水があふれてしまうこともあります。カクレクマノミが入るセンジュイソギンチャクは非常によく歩き回りこのような事故が起こりやすく、初心者向けともいわれるサンゴイソギンチャクも同様に歩き回ったりしますので、気をつけなければなりません。
ろ過槽
ろ過槽は外掛け、外部、上部、底面などいろいろありますが、この水槽は外部ろ過槽のみです。水の吸い込み口であるストレーナーにはスポンジがしてあります。これはイソギンチャクがストレーナーに詰まったというトラブルがよく起こるためです。スポンジをつけ、さらに岩組みで隠すことができればより完璧でしょう。以前は底面ろ過槽が吸い込み口がなくイソギンチャクに適しているとされましたが、ロングテンタクルなどが詰まったり、掃除が面倒であることから最近はあまり見なくなりました。
プロテインスキマー
イソギンチャクは水を汚しやすいという特徴があります。そのためプロテインスキマーが欲しいところです。H&SのHS850や各社のコーンスキマーはスキミング能力が高いのですが、オーバーフロー水槽以外では使えないというデメリットもあります。最近はオーバーフロー水槽以外でも水槽に引っ掛けるタイプのプロテインスキマー(ゼンスイのQQ1など)が市販されていますのでそれを使うのもよいでしょう。引っ掛けるタイプのプロテインスキマーといえばエアーリフト式を思い浮かべるアクアリストも多いようですが、エアーリフト式のスキマーはパワーが弱いのでおすすめできません。上記の60cm水槽ではQQ1を使用していました。
水流
水流も欲しいところですが、水中ポンプのスリットにイソギンチャクの体が挟まり、ポンプのプロペラでイソギンチャクが傷ついたりすることもあります。そのためよく動くタイプのイソギンチャクにはおすすめしません。この水槽では外部ろ過槽、プロテインスキマーからの水流のほか、サーフェススキマー(水表面のごみを取る装置)の一種であるエーハイムスキマーからの水流もあてています。
照明
照明については種類も多いので選ぶのが難しいです。海水魚店による「こだわり」もあるということで、照明については海水魚店に相談してみるべきかもしれません。なお上記の水槽ではゼンスイ製のLEDライト「ナノレビル ブルー&ホワイト」を使用しています。強い光を好むハタゴイソギンチャクはこれだけだと難しいかもしれませんが、あまり強い光のいらないロングテンタクルであればこれでも十分といえそうです。
水温
水温は25℃前後で問題ないでしょう。それ以上の高水温にも耐えられる種はいます。特に浅場のイソギンチャクは高めの水温への耐性が強いようですが、高すぎると水が悪くなりやすいので注意します。ヒーターはそのまま設置するとイソギンチャクがやけどしてしまうことがありますので、ライブロックやサンゴ岩を組んでヒーターを隠すか、オーバーフロー水槽で飼育したいところですが、先述したようにオーバーフロー水槽での飼育には注意が必要なところもあるので注意しましょう。
ライブロックとサンゴ岩
海でのイソギンチャクは岩にくっついていることがほとんどです。ハタゴイソギンチャクも砂の上にポツンと置いてあるように見えますが、実際には岩などにしっかりと付着しています。ロングテンタクルアネモネも砂にただ埋もれているだけでなく、砂の中の岩についているようです。またストレーナーやヒーターなど、イソギンチャクに近くに来られるとまずいものを隠したりするときにも使います。
底砂
イソギンチャクの仲間には砂地にも見られます。ハタゴイソギンチャクなどは砂中の岩などにくっついていることが多く、水槽でもできるだけそのような生息環境を再現してあげたいところです。底砂はパウダー~やや粗目の砂を均一に引くとよいでしょう。
餌と添加剤
ここであげたイソギンチャクは褐虫藻を共生させており、光だけでも飼育は不可ではないのですが、たまに餌を与えるとよいでしょう。専用のアネモネペレットが英国のバイタリスから販売されています。日本においてもエムエムシー企画レッドシー事業部から販売されていますので入手は難しくはないでしょう。やわらかく消化しやすいのでイソギンチャクに最適です。なお、イソギンチャクのほかにもハナガタサンゴやオオナガレハナサンゴといった、捕食性の強いLPSにも最適なフードです。
ただし食べないときやイソギンチャクの調子が悪そうなときは消化しやすい生の甘エビなどを与えたほうがよいかもしれません。添加剤はカルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、ヨウ素、微量元素、炭酸塩など。つまりサンゴ飼育と同様のものがいります。
イソギンチャク飼育まとめ
- イソギンチャクの飼育は初心者には難しい
- 骨がなく筋肉質の足で歩き回りトラブルの原因となりやすい
- オーバーフローパイプに詰まって水をあふれさせたりサンゴにダメージを与えることも
- 足や体の一部がポンプのプロペラなどでちぎれることも
- 綺麗な水を好むが水を汚しやすい
- 種類によっては強い光が必要
- 魚を食べてしまうこともあるのでハゼやカエルウオなどは避けたい
- 白っぽくなっているものは購入しないほうがよい
- ロングテンタクルアネモネ、サンゴイソギンチャク、タマイタダキは飼いやすい
- シライトイソギンチャクは種類や状態による
- センジュイソギンチャクはよく動きあまり初心者向けではない
- ハタゴイソゴンチャクやイボハタゴイソギンチャクは状態次第だが難しい
- イソギンチャクが広がるのをイメージして大きめの水槽で飼う
- 外部ろ過槽などがよいがストレーナーはスポンジでふさいでおきたい
- 外部ろ過槽を使うならプロテインスキマーは欲しい
- 好む照明はイソギンチャクの種類によって異なる
- 水温は25℃をキープしておく
- ライブロックだけでなく種類によっては砂も重要
- 餌も与えるのが望ましい
- 添加剤はサンゴと同様なものが必要