2020.10.19 (公開 2019.12.11) サンゴ図鑑
フラグサンゴにしやすいサンゴとしにくいサンゴ
最近はインドネシアなどの採集規制もあり、サンゴをカットし、プラグに接着した「フラグサンゴ」というものがよく販売されています。しかしながらサンゴの種類によってはフラグサンゴにしやすいものと、そうでないものがあります。どのようなサンゴがフラグで入手しやすく、どのようなサンゴが入手しにくいのでしょうか。
フラグにしやすいサンゴ
ミドリイシの仲間
▲枝を折って接着することで増やすことができる
ミドリイシは枝を折って接着して増やせるサンゴで、フラグサンゴとして流通されていることも多いサンゴです。しかしよく知られているように、ミドリイシは飼育が難しく、清浄な水、適切な水流、強い光が重要です。「フラグサンゴは飼いやすい」という印象がありますが、ミドリイシの仲間はフラグサンゴとして販売されていても、簡単に飼育できるような種類ではありませんので注意が必要です。
従来のインドネシア産やトンガ産のほか、スパスラータやストロベリーショートケーキなどオーストラリア特産の種類もフラグ化されて販売されています。
ハナヤサイサンゴの仲間
▲トゲサンゴなども枝を折ってフラグ化させやすい
ハナヤサイサンゴ科には科の和名の由来となっているハナヤサイサンゴのほか、ショウガサンゴやトゲサンゴ、フトトゲサンゴなどが含まれます。これもミドリイシと同様SPSの仲間で強い光、太くうねる水流、きれいな水が必要ですが、ミドリイシよりはまだ飼育しやすいサンゴといえるでしょう。とくにピンク系のショウガサンゴは人気があります。
写真のようなタイプのトゲサンゴなども枝を折ってフラグサンゴにできますが、枝が細いぶん、ミドリイシよりフラグ化させやすいかもしれません。
コモンサンゴの仲間
▲コモンサンゴのフラグ
ミドリイシ科のサンゴでありながら丈夫で飼育しやすく、硝酸塩蓄積にもある程度耐えられるコモンサンゴもフラグサンゴにされることが多いです。渦を巻くような形に成長するウスコモンサンゴ、枝状に育つエダコモンサンゴ、そのほかさまざまなコモンサンゴがおり、なかには強い蛍光色が美しい種類もおり、人気のあるフラグサンゴのひとつです。ウスコモンサンゴは割って、枝状のコモンサンゴは枝打ちして、被覆状のものは専用のソーでカットしてフラグサンゴにします。
なお、フラグ化したものに限ったことではありませんが、コモンサンゴの仲間にはウミウシが寄生していることも多いので、購入の前には「コーラルRXプロ」で薬浴してウミウシを落としてあげましょう。下手すると爆発的に増えてしまうこともあるため、薬浴は特に重要です。
シコロサンゴ・センベイサンゴなど
▲シコロサンゴ。カットしたら土台を覆うように大きくなる
▲センベイサンゴはややデリケートな面がある
どちらも入荷の少ないSPSですが、飼育は簡単なことが多く、特にシコロサンゴのポリプをふさふさ出すタイプははSPSの仲間はもちろん、イシサンゴ(ハードコーラル)の類の中でももっとも飼育しやすいものといえるでしょう。そのため、はじめてフラグサンゴを購入するなら本種のような丈夫な種が望ましいかもしれません。成長も非常に早く、すぐに大きくなりサンゴを育てる喜びを味わえるサンゴです。その一方センベイサンゴや、あまりポリプを出さないタイプのシコロサンゴは、ポリプをふさふさ出すシコロサンゴよりも若干デリケートな面があります。
またシコロサンゴの仲間に似たアミメサンゴの仲間も同じようにフラグ化されています。
ハマサンゴの仲間
▲ベルベットエダハマサンゴのフラグ
ハマサンゴの仲間はめったに販売されていることがなく、入手が極めて難しいサンゴです。飼育はシコロサンゴよりはデリケートですが、ミドリイシよりは丈夫で飼育しやすいように思います。おなじハマサンゴ科で、LPSとされるアワサンゴやハナガタサンゴなどもフラグサンゴとして販売されることがあります。アワサンゴは長期飼育しやすいサンゴですがハナガササンゴはベテランでも長期飼育が難しい種ですので注意が必要です。
ハナサンゴの仲間
▲ナガレハナサンゴ
ハナサンゴ科のサンゴにはミズタマサンゴ、ハナサンゴ、ナガレハナサンゴなどがいますが、骨格が枝状になるようなものはカットしてフラグ化しやすいといえます。しかしながら飼育や輸送などについてはシコロサンゴよりもかなり弱いところがありますので注意が必要です。部分的にはげた部分があったり、変なコケがついているものは購入しないのが賢明でしょう。
キッカサンゴの仲間
キッカサンゴは薄い骨格のものもあり、コモンサンゴのように割って増やすことができます。そのためブリード個体が出回りやすいサンゴですが、日本ではまだまだマイナーなものです(そもそもキッカサンゴ自体人気がイマイチ)。色が綺麗なものも多く、とくに青色LEDのもとで光り輝くものが人気です。特に欧米での人気は高く、レインボーカラーのものなどは大変美しいですが大変高価です。飼育自体は大して難しいものではなく、細かいプランクトンフードなどをたまに与えると成長をうながすのでよいでしょう。
スリバチサンゴ
▲豪州産スリバチサンゴの仲間のウィスカーズコーラルのフラグ
最近は好日性キサンゴの仲間であるスリバチサンゴの仲間のフラグも販売されています。またオーストラリアに生息するウィスカーズコーラルのような近縁種も枝を折ってフラグ化しやすいといえます。ただし骨格の部分は硬く、専用のソーなどを使用してカットする必要があります。
カクオオトゲキクメイシ・オオタバサンゴ
▲オオタバサンゴはカットすれば増やせる。これを基にフラグサンゴにしてもよい
カクオオトゲキクメイシはオオトゲサンゴ科のサンゴです。成長は早くはないのですが、キクメイシほど遅くはありません。非常にカラフルな色彩をしたものもおり、青系のLED照明の下で光り輝きます。ただし何色も入ったマルチカラーの個体は非常に高価です。
また近縁とされるオオタバサンゴも同じようにカットして増やすことができます。どちらも丈夫で飼育しやすいサンゴなので、フラグサンゴ入門には最適なもののひとつです。ただし、しっかり土台についていて、変なコケが生えていないものなど、フラグサンゴ特有の注意点もあるため、気をつけなければなりません。
ソフトコーラル各種
▲マメスナギンチャクのフラグサンゴたち
▲美しいウミアザミのフラグ
ソフトコーラルもフラグにされて販売されています。岩などに付着したマメスナギンチャクやウミヅタ系は岩ごと接着し、ウミキノコやトサカの類であればカットしてプラグに接着して販売されています。とくにマメスナギンチャクのフラグはカラフルで丈夫で誰にでも飼えるため人気があります。
一方、トサカは接着剤との相性が悪いようでプラグにくっつきにくく、中央部が尖った形状のプラグを作りそこに刺すなど工夫が必要です。最近は写真のようなウミアザミのフラグも見られますが、ウミアザミは硝酸塩の蓄積に弱いところがあり、トサカ以上に水質に気をつけるべきです。またヨウ素の添加も重要となります。
フラグにしにくいサンゴ・できないサンゴ
一方、サンゴの中にはフラグ化しにくい種類やできない種類もいます。このようなサンゴはフラグ以外のものを入手するしかありません。
ハナガタサンゴ・オオバナサンゴ
▲オオバナサンゴ。奥のサンゴがおそらくHomophyllia australis
ハナガタサンゴやコハナガタサンゴ、オオバナサンゴの仲間はフラグでは見られないものです。このうちマルハナガタサンゴなど枝状の骨格をもつものはフラグ化されており、販売されている店舗もあります。またオーストラリア近辺のアザミハナガタサンゴHomophyllia australisについては4分割にカットして増やすこと自体は成功しています(コーラルフリークス誌Vol.14 116ページ)が、まだまだ安定して流通させるには至っていないようです。
キクメイシ
キクメイシのフラグはハナガタサンゴやオオバナサンゴと比べると少しは見られます。平たい形に育ったものが専用のソーなどでカットされてフラグサンゴとされたものが販売されることもあります。その一方で写真のように円形に育ったものはカットするのが難しいです。またかなり骨格が密で、成長が遅くてフラグ化しても大きく成長させにくいサンゴといえます。
クサビライシ
クサビライシの仲間もカットしてフラグ化するということはしにくいサンゴです。ただしクサビライシは「芽」さえあれば増えるという独特な生態を持つサンゴで、増やすことは不可能ではありません。またワレクサビライシという種類は勝手に割れて増えていきます。
まとめ
- サンゴの中にはフラグサンゴにしやすいものとそうでないものがいる
- ミドリイシやトゲサンゴなどは枝を折って増やすことができる
- コモンサンゴも割ったり枝を折って増やせる
- シコロサンゴは触手がフサフサでているものは飼いやすい
- ハマサンゴやハナサンゴの仲間はシビアなので要注意
- キッカサンゴ・スリバチサンゴ・カクオオトゲなどもフラグサンゴにされる
- ソフトコーラルもフラグサンゴ化されるが、プラグに加工が必要なことも
- ハナガタ・オオバナ・キクメイシなどのサンゴはフラグ化しにくい