ブリードの海水魚を購入するときの注意

観賞魚店で販売される海水魚は海で採集された「ワイルド」のものと、飼育下で養殖された「ブリード」のものがあります。海水魚は淡水魚とは異なり、ほとんどがワイルドものでしたが、近年はカクレクマノミを中心にブリードものも流通するようになりました。このブリードは単に海水魚を安定供給する以外にも大きな意義をもっています。今回はブリードされる海水魚の種類とその選び方などをご紹介します。

ブリードもの

観賞魚店で販売される海水魚にはおおむね「ワイルド」ものと「ブリード」ものがあります。前者はその名の通り海で採集されたもので、後者は「カルチャードフィッシュ」とか「キャプティブブリード」とか呼ばれる飼育下で繁殖させた個体をいいます。淡水魚では小型のカラシン類、コイ類(ドジョウ類はのぞく)、コリドラスやプレコなどのナマズ、シクリッド、アナバスの仲間から巨大になるアロワナやピラルクまでブリードものが見られますが、海水魚でブリードが成功しているものはまだまだ少ないといえるでしょう。

しかし最近は海水魚を繁殖させる業者も増えてきました。また業者だけでなく、カクレクマノミなどは愛好家でも増やすことができます。まだまだ種類は少ないのですが、海水魚もブリードものが主流になる時代が来るのかもしれません。

ブリードされる海水魚の種類

ブリード個体が販売されている海水魚は以下の通りです。

クマノミの仲間

▲ミッドナイトクラウン。説明がなければだれもカクレクマノミとは思わないであろう

カクレクマノミは家庭でもブリードが可能な数少ない海水魚のひとつです。現在ではアクアリウム関連企業がカクレクマノミのほかにもハナビラクマノミや、スパインチークなどのクマノミの仲間の繁殖に成功し、流通しています。

また、カクレクマノミは色々な改良品種が生みだされています。「ブラックオセラリス」と呼ばれる、オレンジ色の部分が黒くなっているものや、全身が真っ白な「プラチナ」、全身が真っ黒な「ミッドナイト」、全身がオレンジ色の「ネイキッドオセラリス」などです。これらの名称はキンギョの「和金」「琉金」などと同様品種名であり、いわゆる「標準和名」や「学名」などとはまた異なりますので注意が必要です。

ヤッコの仲間

ヤッコの仲間も近年はブリードものが販売されることがあります。従来は高級な種であったヤッコも、ブリードすれば安価で手に入る、と思いきや依然高めのままです。ヤッコの仲間は一般のアクアリストには繁殖させられないタイプの繁殖行動をとる魚だからです。超巨大な水槽であれば産卵・採卵まではできるかもしれませんが、産まれてそれ以降、稚魚まで育てるのは困難です。

ワシントン条約の付属書Ⅱに分類されているクラリオンエンゼルフィッシュは商業的に輸出入が禁止されている、というわけではないのですが、それでも証明書が必要など条件が厳しくなるため、インドネシアでは少なくとも2013年ごろからブリードが行われ、2018~2019年ごろには養殖物が日本に一部流通しましたがそれでもきわめて高価なのは変わりません。

メギスの仲間

メギスの仲間もブリードものが販売されることがあります。全身が紫色で美しいオーキッドドティバック(通称フリードマニー)は紅海にのみ分布していますが、現在ではブリードのものがアメリカから輸入されるほか、日本でもブリードされています。

タツノオトシゴの仲間

▲タツノオトシゴの仲間

タツノオトシゴもすべての種がクラリオンエンゼル同様CITESの付属書Ⅱとされています。これは中国の漢方薬の需要があり、乱獲されているからです。幸いにもタツノオトシゴは比較的養殖は(ほかの魚と比べれば)容易で、現在は卸問屋だけでなくアクアリストによるブリードも行われています。主にカリブ海産の種を国内で繁殖させたものがよく出回っています。ただし繁殖は容易なものの飼育は初心者には難しく、とくに混泳水槽では短命になってしまいやすいです。

ハゼの仲間

▲ライブロックに産卵するイレズミハゼ

ハゼの仲間はまだまだブリードは進んでいませんが、最近はギンガハゼなど一部のハゼがブリードされています。ハゼ科の魚は知られている限りすべての種が付着卵を産み、イレズミハゼやイソハゼの類など、個人アクアリストでも産卵させ、孵化させるところまではいくのですが、産まれた仔魚を育てるまでには至っていません。

バンガイカーディナルフィッシュ

▲バンガイカーディナルフィッシュ

学名から「プテラポゴン」とか「カウデルニィ」などと呼ばれる、1属1種のテンジクダイの仲間です。テンジクダイ科の中でも美しい魚で、黒い体に白い斑点があり、鰭が長いのも特徴です。他のテンジクダイの仲間と同様口腔内で卵を育てるマウスブルーダーですが、他のテンジクダイ類は孵化したらあとは独り立ちですが、この種はある程度大きくなるまで子を守ります。そのため海水魚の中では比較的繁殖がすすんでいるといえます。なおこの種もIUCNレッドリストでは絶滅危惧種(EN)、CITESのⅡ種とする提案がなされましたが、撤回されています。

ブリード海水魚を購入するメリット

クマノミの仲間

▲クマノミは病気になることもある。初心者は要注意

クマノミは比較的皮膚が弱い種類が多く、スズメダイの仲間としてはやや病気にかかりやすい面があります。ブリード個体はそれに比べれば丈夫で初心者にも飼育しやすく、うまく飼えば初心者でも10年くらい飼育することができます。初心者がはじめてクマノミの仲間を飼育するのであれば、ブリードものを選ぶのがよいでしょう。またカクレクマノミはとくに人気がありますが、春夏秋冬、晴れの日も嵐の日もいつも店頭でその姿を見られるというのはブリードされたことによる恩恵といえるでしょう。

また、先述の通り、クマノミの仲間はまるでキンギョや錦鯉、熱帯魚のグッピーなどのように改良品種がいろいろと作出されていますので、このようなものが欲しい方は購入してもよいでしょう。

タツノオトシゴの仲間

タツノオトシゴの仲間の飼育は餌の確保が重要となってきますが、養殖個体は比較的冷凍イサザアミ(キョーリンから出ているクリーンホワイトシュリンプなど。とくにカミハタブリードの個体は餌付きやすい)に餌付かせやすいため、タツノオトシゴを飼いたい!というのであれば、養殖個体から飼育をスタートするのがおすすめです。しかし、飼いやすくなったとはいえそれでも飼育はほかの海水魚と比べて難しいので、ある程度ほかの海水魚を飼育し、その飼育に慣れてから飼育することをおすすめします。また、タツノオトシゴのほか、先述したクラリオンエンゼルフィッシュのようにCITESに記載され取引に規制がある魚などの保全にも役に立つというメリットがあります。

ブリード海水魚を購入するときの注意

ブリード個体だからとくに魚体を見なくても問題ない、というのは誤りです。とくにカクレクマノミは簡単にブリードできるため、お店によっては1000円弱という値段でも販売されていることがありますが、安い魚はどの種も扱いが雑になりやすく、とくに注意しなければなりません。そのためブリードの海水魚を購入するときも、海で採集された魚を購入するときのように、健康状態をチェックするのが大事なのです。

海水魚のブリードを行う意義

海水魚のブリードは確かにお金がかかります。しかも売れても1匹あたり1000円前後。大きな儲けは期待できません。しかし海水魚のブリードにはお金儲け以外に大きな意義があるのです。

今回の記事で登場した魚のうち、タツノオトシゴの仲間やクラリオンエンゼルフィッシュ、そしてバンガイカーディナルフィッシュは数の減少に伴い絶滅が危惧されるようになりました。しかし、それらの魚も養殖が成功したことにより、そのぶん、海から獲られる数を減少させることができます。その結果種の個体数の回復が促されることになるのです。もちろんマリンアクアリウムという趣味を持続可能にするという意味でも大きな意義があるといえます。

そして最近すばらしいニュースが入ってきました。オーストラリアでリーフィーシードラゴンのブリードに成功した愛好家が、世界中の水族館や観賞魚問屋にリーフィーシードラゴンを出荷したのです。この種はオーストラリアでは保護されており採集や販売などが禁止されているのですが、愛好家が許可を申請して繁殖を成功させたものを大きく育てて出荷させたのです(詳細はマリンアクアリスト誌 2020年冬号 No.94も参照のこと)。日本では希少な淡水魚を採集や販売することを禁止したりする法律(種の保存法)がありますが、それは愛好家が繁殖させたものの流通も禁止するというものであり、やはり世界のほかの国と違い生物の保全にたいして遅れているという印象があります。

また、希少な海水魚を養殖して保全するだけの目的だけでなく、一般アクアリストも繁殖に関連したユニークな生態を観察することができますし、うまい人ならそれに関して文章を書いたりすることもできます。これもまた海水魚飼育の楽しい点といえるでしょう。

ブリード海水魚まとめ

  • 海水魚はブリードが少なく、多くが海で採集されたもの
  • クマノミの仲間やタツノオトシゴの仲間、メギスなどがブリードされている
  • ブリードされたクマノミは海で採集されたものよりも丈夫で初心者向け
  • クマノミの改良品種もいる
  • ブリードのタツノオトシゴはホワイトシュリンプもよく食べる
  • ブリードであっても購入前には状態をよくチェックする
  • 海水魚のブリードは保全に役立ちマリンアクアリウムを持続可能なものにする

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