2018.09.10 (公開 2017.08.10) 水槽・器具
海水魚・サンゴの照明【LED・蛍光灯・メタハラ】それぞれの役割
熱帯の太陽光が照りつける海で育った魚やサンゴ。これらの生き物を水槽で飼育するには「光」が必要です。しかし、その照明の強さ・弱さについては、魚の種やサンゴの種によって好みがあります。そのため、飼育したいそれぞれの生物に合った照明を選択する必要があります。
マリンアクアリウムにおける照明の役割
サンゴ礁の生き物すべてにとって太陽の光は重要です。太陽光によりサンゴはエネルギーを得て、サンゴ礁における生態系の土台を築きます。長い時間が経ちサンゴが死ぬと薄らと藻類が生え、それが植物食性の魚や甲殻類の餌になり、それを大型の肉食性の魚が捕食します。そして重要なことに藻類は光合成をおこなうことにより、酸素を供給します。浅場の魚は太陽の光を浴びて美しい色になります。
そのような光を水槽で再現するのには外で飼育するのが一番良いようにも思われますが、実際には一般の家庭において外でサンゴ礁の魚を飼うのは現実的ではありません。水槽内でサンゴ礁を再現するには、照明が不可欠。LEDやメタルハライドランプ、蛍光灯から発する光が、水槽内でサンゴをはぐくみ生態系を再現します。
しかし、照明は強ければよいというものでもありません。強い照明は場合によっては有害になってしまいます。たとえば、深い海の魚はこれにより色があせてしまったり、黒ずんでしまうことがあり、その目的・用途を理解する必要があります。
照明の種類
照明は従来は蛍光灯か、メタルハライドランプが主流でしたが、最近は強い光を出し、電気代もメタルハライドランプより安価ですむLEDが人気です。
蛍光灯
▲青い光を放つ蛍光灯。
最近はLEDに押されがちな蛍光灯ですが、メタルハライドランプやLEDは点で光を放つのに対して、蛍光灯は全体が発光するため、広い範囲に光がいきわたりやすいという特徴があります。
最近はサンゴ、特にミドリイシやコモンサンゴなどのSPSも飼育が可能なほど強力なT5蛍光灯も販売されています。蛍光灯の灯具はヘルツフリーになっていないことが多く、電源周波数が違うと使えませんので、あらかじめ確認しておく必要があります。
LED
▲人気の「グラッシーレディオ」。スポットタイプのLEDの代表的存在
▲水槽全体を照らすLED「ゼンスイ ナノスリム」は極めて薄い
▲「ゼンスイ ナノスリム」を水槽に照射したところ
最近主流になっているのがLEDです。現在はLEDでミドリイシなどのSPSの飼育もできるほど強い光を放つLEDも販売されています。ミドリイシの色揚げなどの用途についてはメタルハライドランプが適しているという人もいますが、SPSの色揚げに特化したようなLEDも販売されています。
LEDのメリットは電気代が安くなること、メタルハライドランプほど熱を出さないことなどがあげられますが、それでも灯具本体が熱くなる場合がありますので気をつけます。LEDは熱に弱いため常に冷却に気を付ける必要があります。ハイパワーLEDには放熱のファンがついているものもありますが、そのようなものがついていないLEDは特に注意する必要があります。
メタルハライドランプ
極めて明るい、強い光を放つ照明器具です。70~250Wの商品がありますが、サンゴ飼育には150Wや250Wのメインの照明のほか、ミドリイシの色揚げにこだわるなら補助的に数個のスポットタイプのメタルハライドランプを使って水槽を照らすという方式が主流でした。
欠点は、メタハラには専用のタイマーが必要であること(点灯した直後に安定した状態の数倍の電流が流れる)、重たい安定器を置くスペースが必要になること、ハイパワーなため水温の上昇を招きやすいという点です。
LED全盛期の現在もミドリイシなどの飼育にはこのメタルハライドランプが王道といえるのですが、これを使うならば能力がすぐれたクーラーを使用する必要があることです。
また最近新しく出てきた欠点は、LED照明におされつつあるようで、消耗品であるメタルハライドランプの専用球が手に入りにくくなるということがあります。
光・照明を欲する生物
ミドリイシ
▲亜熱帯の強烈な太陽光をうけてすくすく育つミドリイシ
強烈な日差しが照りつけるサンゴ礁の浅場に生息するミドリイシの健康をキープし、育成するのには強烈な光が必要です。強烈な光を生み出すにはメタルハライドランプが簡単ですが、最近はLEDでも強い光を生み出す商品が多数あり、そのような製品を使用するのもおすすめですが、場合によっては多くの製品を組み合わせる必要があります。
ハナヤサイサンゴなど
▲潮溜まりで見かけたサンゴ。やはり強烈な光が必要だ。
ハナヤサイサンゴ、ショウガサンゴ、トゲサンゴ、フトトゲサンゴなどのSPSもミドリイシの仲間同様強い光が必要なハードコーラルです。しかしながら最近はLEDにもハイパワーの製品が色々と出てきていますし、SPSの仲間を飼育できるようなハイパワーのT5蛍光灯も販売されています。
むしろこの仲間の飼育に重要なのは水質と水流で、いくら光を強くしても多量の硝酸塩が検出できるような環境では飼育が難しいですし、強力な光を当てていても水温も上昇してしまうようではいけません。水流も淀まないように注意が必要です。
好日性LPS
▲青色LEDの下で輝くカクオオトゲキクメイシ
LPSの仲間にもナガレハナサンゴの仲間など強めの光を好むサンゴがいます。ただしLPSは全般的にはあまり強すぎるような光を好まないものが多いです。250wメタルハライドランプで飼育しているなら直下を避けたり、あるいは陰になるような場所に配置するようにするなど工夫が必要です。
オオバナサンゴ、ハナガタサンゴ、クサビライシなどの種類は強い光をあまり好みません。光は必要ですが、強すぎない光にするなど工夫が必要です。これらの種類は蛍光色を持つものが多く、ブルーのLEDを照射することでこれらのサンゴが持つ幻想的な色彩を楽しむことができます。
好日性ソフトコーラル
▲緑色のマメスナギンチャク。青いLEDの下においてみたい
サンゴ礁域の浅瀬に生息するウミキノコやウネタケの仲間、あるいはウミアザミ、ツツウミヅタといった種類の飼育には強い光が必要になってきます。ウミキノコの場合は白っぽいものなどは強い光を好むとされますが、緑色や濃いベージュ色の個体などはやや弱めの照明でも飼育可能です。
イソギンチャクの仲間とされるディスクコーラルの仲間、マメスナギンチャクの仲間、スターポリプの中には蛍光色をもつものがおり、そのような種類にはブルーLEDを照射すると光輝く様子を見ることができます。
イソギンチャク
▲カクレクマノミとイソギンチャクの共生を水槽で楽しむなら強い光が必要
サンゴ礁においてクマノミと共生するイソギンチャクの仲間も褐虫藻を共生させるため強い光が必要で、特にハタゴイソギンチャクはカクレクマノミと共生するため人気が高いですが飼育にはきれいな水と強い光が必要で、飼育は若干難しいです。
一方サンゴイソギンチャクやシライトイソギンチャクなどはやや弱い光でも飼育可能です。ただしシライトイソギンチャクの白っぽいものは褐虫藻が抜け落ちて弱っているものである場合もあるので気をつけます。
シャコガイ
▲外套膜に褐虫藻を共生させているシャコガイの仲間
シャコガイはアサリやホタテガイと同じ、二枚貝の仲間です。しかしシャコガイはほかの二枚貝とは明らかに異なるところがあります。この仲間は、外套膜に褐虫藻を共生させ、光合成をして主なエネルギーを得ています。ですから、シャコガイの仲間を飼育するには強い光が必須となるのです。
タコクラゲ
▲褐虫藻を共生させているタコクラゲ
クラゲの仲間も観賞用として人気があります。おもに触手でプランクトンや小魚、あるいは他のクラゲを捕食しますが、このタコクラゲは褐虫藻を共生させているのが特徴です。そのため飼育下では餌を与える必要があり、同時に光をあてることも必要になります。
海藻・海草
▲海藻の飼育には光が必要だが、すべての海藻に強い光が必要とは限らない
クビレズタ(ウミブドウ)などイワズタの仲間に代表される海藻も言うまでもなく光合成をしていますが、どのくらいの光量が必要かは種によっても変わってきます。観賞魚店で販売されているクビレズタなどイワズタの仲間は蛍光灯多灯、あるいはLEDなどでも十分に飼育・育成が可能です。
アマモなどの海草は海藻にくらべると飼育が若干難しいようです。強い光はもちろん、肥料なども必要とされます。
強すぎる光・照明のデメリット
照明は重要ですが、強すぎる照明は問題を招く恐れがあります。
コケが生えやすくなる
好日性サンゴや海藻・海草類など、すべての光合成をする生物には光が必要です。しかし、水槽に生えてくるコケの仲間も、光合成をしています。
強い光のもとではコケが爆発的に増殖するおそれがあります。コケ取りの回数を増やしたり、リン酸塩やケイ酸塩などコケの原因となるものを取り除く吸着剤を使用したり、あるいはコケを食べるカエルウオ、コケ取り貝などの「生物兵器」に頼りたいものです。
水温の上昇
意外と見落とされがちな項目が「水温」です。蛍光灯、メタルハライドランプはもちろん、ハイパワーのLEDも発熱があるため、水槽の温度が上がりがちです。
なお、点灯中のメタハラには絶対に触れてはいけません。触れるとやけどをする恐れがあります。
魚の変色
▲背中が黒っぽくなったマルチカラーエンゼル
フレームエンゼルやマルチカラーピグミーエンゼルなど、一部の魚は強い光のもとで飼育すると色が黒ずんできたりすることがあります。やや深い場所に生息する魚には強いメタルハライドランプの光ではなく、LEDなどをおすすめします。
これらの魚は強い光だと色が変わるだけでなく、水温の上昇にも弱いのであまり熱を出すことのないLEDが向いているといえます。
陰日性サンゴ
▲強い光を避けたい陰日性のヤギ
陰日性のサンゴの飼育には強い光は必要ありません。それどころか、強い光だとコケが繁殖してとくにヤギの仲間枝状の陰日性サンゴの枝にひげ状のコケが生えると、あっという間にコケが大繁殖して、ポリプの上も被ってしまいます。これらのサンゴには強い光は絶対に避けるようにします。
アクアリウムにおける光・照明のまとめ
光の種類
- 蛍光灯
安価であるが熱を出しLEDに押されている。灯全体が光を放つのはメリット - LED
最近主流。強い光を放つハイパワーのものがあるがあまり熱を出さない。高温に弱い - メタハラ
極めて強い光を放つが温度上昇に注意。一般的なタイマーは使い難い
生き物に必要な光
- 浅場の魚
蛍光灯、LED、メタハラ - 深場の魚
蛍光灯、LED。光量が大きいメタハラは控える - SPS
強力なT5蛍光灯、強力なLED、メタハラ250w(光によって色味が変わることも) - 好日性LPS
メタハラは種類によっては好まない。蛍光色のものは青色LED - 好日性ソフトコーラル
蛍光灯、LED、メタハラ - イソギンチャク
蛍光灯、LED、メタハラ。特にハタゴイソギンチャクには強い光が必要 - 陰日性サンゴ
光は不要 - シャコガイ
LED、メタハラ。強い光が必要 - タコクラゲ
やや強めの照明を好む - 海藻・海草
蛍光灯、LED、メタハラ。海草はやや強めの光を好む