2020.09.26 (公開 2020.07.14) 海水魚飼育の基礎
小型水槽でサンゴを飼育する注意点~水槽・機材の選び方、難易度
最近は小型水槽でサンゴを飼育しているアクアリストも多くなりました。しかし小型水槽は水量が少なく、60cm以上の水槽で維持するサンゴ水槽とくらべ安定した環境を維持しにくいというデメリットもあります。しかし最近は小型水槽用の機材も増え、従来よりは小型水槽でも維持しやすくなりました。今回は小型水槽でサンゴを状態よく飼育するためポイント、機材、小型水槽に適した種類などをご紹介します。
小型水槽でもサンゴ飼育を楽しめる?
マリンアクアリウムにおいて水量というのは非常に重要な要素になります。水槽が大きければ、水温や水質といった水槽内環境は安定し、逆に水槽が小さいと水温や水質の変動が激しくなり、これが小型水槽で魚やサンゴを飼育するのは難しい、といわれている理由になります。しかし最近は機材もそろい、近年は小型水槽用のクーラーもそろうようになりました。その結果、従来よりは小型水槽でもサンゴ水槽を楽しめるようになりました。
それでも、小型水槽でのサンゴ飼育はマリンアクアリウムをはじめたばかりのアクアリストには向かないところがあります。今回の記事は、ある程度経験を積んだアクアリスト向けの記事となります。なお、ここでは大体幅45cm未満の水槽を小型水槽としています。
小型水槽で飼育できるサンゴの条件
小型水槽でサンゴを飼育するための条件は、以下の通りになります。
1.丈夫で水質悪化にある程度耐えうること
▲デリケートなナガレハナサンゴは小型水槽には向かない
小型水槽は水質が安定しにくいのが特徴です。大型水槽よりも水温が変わりやすかったり、海水中の水が蒸発してしまい塩分がかなり高くなってしまうこともあります。そのため水質の変化に弱いサンゴは飼えません。具体的にはミドリイシ、コモンサンゴ、ショウガサンゴなどのSPS類はもちろん、LPSでもナガレハナサンゴやハナガササンゴなどのデリケートなサンゴは小型水槽での飼育にはあまり向いていないところがあります。ソフトコーラルもウミアザミやチヂミトサカなどは水質悪化に弱い面がありますので、小型水槽での飼育はおすすめしません。
2.大きく広がったりしないこと
▲背が高いトサカの仲間は小型水槽に向かない
大きく広がったり、背が高くなるタイプのサンゴもあまりおすすめしません。小型水槽のような小さなスペースでは大きくサンゴが広がったり伸びたりしてしまうと狭く感じられることがあるからです。また水流を遮ってしまうこともあるので、このようなサンゴは小型水槽には適していないといえます。具体的には写真のようなトサカの類は背が高くなりますし、ヒユサンゴ(オオバナ)も非常に大きく広がることがあるため注意が必要です。ハナサンゴの類は水質の面と合わせても小型水槽での飼育が難しいといえます。
3.給餌が不要なこと
▲給餌が必要なイボヤギやキサンゴも小型水槽には向かない
当たり前のことなのですが、小型水槽は60cmや90cmの規格水槽よりも小さいのです。そうなると水質が悪化するのも早くなります。水質悪化の要因は魚の給餌(それにより出てくる残餌)と排せつです。サンゴの仲間も給餌が必要なものは小型水槽での飼育には向きません。イボヤギやキサンゴなどはとくに給餌を必要とする種類で、餌がないと飼えないため小型水槽での飼育に向かないといえます。
小型水槽向けのサンゴ
小型水槽で飼えるサンゴといえば以下の通りです。以前ご紹介しました「初心者におすすめのサンゴ一覧」とかぶる種類が多いですが、やはりこれらのサンゴが丈夫で飼いやすいということがいえるでしょう。
マメスナギンチャク
▲マメスナギンチャク
マメスナギンチャクは小型のソフトコーラルの中でとくに飼育しやすい種です。カラーバリエーションも豊富で小型水槽を彩ります。硝酸塩が高くても死んでしまうことが少なく、丈夫で飼育しやすいものです。給餌もすれば増えますが小型水槽ではもてあますこともありますので、あまり増やさないほうがよいでしょう。また先述の通りで、餌を与えると水質を悪化させやすいので注意が必要です。光は一般的に販売されているLED照明で十分、水流は強くても弱くても問題はおきにくいです。
スターポリプ
▲スターポリプ
スターポリプはソフトコーラルの一種です。緑色やベージュ色で、開いたら大変美しいサンゴです。ただしソフトコーラルの中では意外と水流を必要とします。小型水槽用の水流ポンプとしては、ハイドールから出ている非常に小型の「ピコエボマグ」などがありますのでつけたほうがよいでしょう。開かないときは水替えして水質をよくしたり、照明や水流ポンプの位置を変えてみましょう。うまくいけば、もてあますくらいにまで増えますので適度に間引きます。
ディスクコーラル
▲鮮やかな青色がきれいなディスクコーラル
ディスクコーラルもサンゴというよりはイソギンチャクに近いようです。この種もマメスナギンチャクと同様非常に飼育しやすく、初心者でも安心して長期飼育が楽しめるサンゴです。ただうまく飼育できていると爆発的に増えてしまうこともあるので注意が必要です。ほかに退避できるような水槽がなければ避けた方が無難かもしれません。また餌を与えると増えますが、小型水槽では増えるともてあまし、大きくなるとほかのサンゴと接触することもあるので、たまにやる程度で十分です。
なお、ディスクコーラルは種類も多く、エレファントイヤーなどの種類は小型水槽では確実にもてあますほど大きくなるので、十分注意します。
ウミキノコ
▲ウミキノコ
ウミキノコはトサカの中では比較的丈夫で飼育しやすいサンゴですが、それでもできるだけきれいな水質での飼育を心掛けたいものです。小型水槽でも飼育しやすいサンゴですが、成長するとトサカなどと同様背が高くのびることも多いです。光が足りないと茎のような部分が長くのびてしまいやすいので、強めの光のもとで飼育したいサンゴです。また水流はやや強めのほうが望ましいサンゴです。
オオタバサンゴ
▲オオタバサンゴ
オオタバサンゴはピンク、オレンジ、グリーンなど、色彩がカラフルで美しいサンゴで、コレクションする楽しみのあるサンゴです。非常に丈夫で10年単位での飼育もしやすいハードコーラルですが、ハードコーラルですので骨格を育てるのにKHやカルシウム、マグネシウムなどは添加してあげたいところです。餌は与えれば増えますが、爆発的に増えることはありません。また頻繁に給餌すると水を汚してしまうのでたまに与える程度で十分です。光は必要ですが強すぎるものはいけません。同様に水流も強いのは好みません。
カクオオトゲキクメイシ
▲オーストラリア産のカクオオトゲキクメイシ
「キクメイシ」と名前がついてはいますがキクメイシよりもオオタバサンゴに近い仲間です。成長もキクメイシよりは早く、オオタバサンゴ同様に丈夫で飼育しやすいサンゴといえます。飼育の注意点はオオタバサンゴと同様ですが、カラーバリエーションは非常に豊富で見て楽しいサンゴです。
タバネサンゴ
▲インドネシアのタバネサンゴ
タバネサンゴはキクメイシの仲間のサンゴです。この種も非常に丈夫で飼育しやすいので、小型水槽でも飼育できるサンゴといえます。餌は与えなくてもよいのですが、たまに与えるとよりよい状態で飼えます。ただし、やはり餌は与えすぎると水を汚しますので注意が必要です。
「フラグサンゴ」は小型水槽向けではない
▲フラグの状態で販売されているウスコモンサンゴとコンフサ
よく勘違いされることがありますが、いわゆる「フラグサンゴ」は小型水槽向けのサンゴではありません。大きなサンゴをカッティングして小さなフラッギング用プラグに接着したものなのです。飼育難易度もミドリイシであれば一般的なミドリイシに準じた飼育環境、たとえば安定したカルシウムやKH、強力な照明、ランダムでかつ強力な水流が必要になります。小さく扱いやすいように見えますが、フラグサンゴの難易度はマザーとなったサンゴと変わらないのです。
ただしフラグサンゴでも初心者向けのものがあります。それは先ほどのべたマメスナギンチャクやカクオオトゲキクメイシのフラグです。とくに最近はカクオオトゲキクメイシのフラグが人気です。カクオオトゲキクメイシはカラフルでよく増やせて、かといって爆発的な増殖はなく、飼育もしやすいからです。ただし購入する場合はサンゴに傷がないものを選ぶなど、しっかりとした「見極めの目」が必要になります。
小型サンゴ水槽向け機材
水槽
水槽の素材はガラス製とアクリル製がありますが、筆者が小型水槽でサンゴ飼育をはじめるときはガラスを使用します。アクリルは傷がつきやすいのですが、ガラス水槽は傷がつきにくくガシガシ掃除ができるからです。これは強い照明が必要、つまりコケが生えやすいサンゴ水槽での飼育では重要な要素といえるでしょう。
水槽の形状としてはキューブ水槽がおすすめです。これは水槽の幅、高さ、そして奥行きの3つが同じサイズの水槽です。なぜおすすめかといいますと、30cm規格水槽(30×20×23cm)の水槽では大体12リットルの海水を入れられますが、30cmキューブ水槽では大体24リットルの海水をいれることができるからです。
ろ過槽
海水魚とサンゴを飼育するのであれば上部ろ過槽をおすすめしているのですが、上部ろ過槽は小型水槽に使用できないという致命的なデメリットがあります。そのため外掛けろ過槽と小型外部ろ過槽がベストでしょう。大きめのエーハイム2213などを使用するという選択肢もあるものの、外部ろ過槽は酸素がいきわたりにくく、使用状況によっては酸欠を招くこともあるので外部ろ過槽だけを使用するというのはおすすめできません。
おすすめは外掛けろ過槽と外部ろ過槽の併用です。小型外部ろ過槽はジェックスの「メガパワー」や、スドー「エデニックシェルト」など小型外部ろ過槽、先述のエーハイム2213などがおすすめです。外掛けろ過槽はニッソーの「マスターパル」やジェックスの「簡単ラクラクパワーフィルター」がよさそうです。なぜこれらの商品がよいのかといいますと、外掛けろ過槽のモーターは通常、水槽の外に出して使うのですが、これらの外掛けろ過槽は水中ポンプを使用しており、初期に発生しやすい、「水漏れ」などのトラブルが起こる可能性が少なくなるからです。逆にモーターの熱で水温があがる可能性があるというデメリットもあります。このほかカミハタから出ている「海道河童」という選択肢もあります。
プロテインスキマー
小型水槽であれば選択肢はエアリフト式だけだったのですが、現在ではゼンスイの「QQ1」みたいに、小型水槽向けのベンチュリー式プロテインスキマーも販売されています。エアリフト式も種類が豊富にあり、どの機材を選べばよいのか悩んでしまいます。マメデザインから販売されている「マメデザイン・マメスキマー」や、エムエムシー企画の「オルカ ミニット」などの候補があります。ただしエアリフト式はベンチュリー式とくらべどうしても能力不足に陥りやすいところがありますので注意が必要です。その一方小型ベンチュリースキマーであるQQ1などは結構大きく、30cm水槽では外掛けろ過槽と並べて使いにくいという欠点もあります。
水流ポンプ
水流ポンプは小型水槽用であればハイドールの商品がおすすめです。この水流を外掛けろ過槽からの水の流れに当てるようにしますが、サンゴに直接あててはいけません。もっとも小型水槽でも飼育できるサンゴは丈夫な反面強い水流を好まないサンゴが多いです(スターポリプやウミキノコは例外)。
照明
陰日性サンゴ(小型水槽向けではない)をのぞき、水槽に照明が必要です。スターポリプやマメスナギンチャクは簡単ではありますが、それでもしっかり照明を点灯させることが必要です。従来は小型の蛍光灯があり、今でも手堅くサンゴを飼育したい層には需要があるのですが、昨今の水槽用照明はLEDがメインで、蛍光灯はいろいろな種類がありましたが選択肢は狭まってしまいました。最近は多くのアクアリストがLEDにシフトしつつあります。LEDを使用する場合はグラッシーレディオやゼンスイの小型LEDライトなどがおすすめです。
水温調整
冬期の保温に使用するヒーターは安価で購入できますが、夏季水槽の冷却を行うクーラーは高価ですので、しっかり吟味して選ぶ必要があります。ゼンスイから発売されている「テガル」は一見簡単そうに見えるのですが仕組みも簡単なペルチェ式のものです。海水魚飼育であればこれでもよいかもしれないのですが、サンゴの中には高水温に弱いものも多いので、できるだけガス冷媒を使用して冷却するタイプのクーラー、例えば同じゼンスイ製のZC、もしくはZRシリーズを使用することをおすすめします。
なお外部ろ過槽はエーハイムなどであればクーラーを接続できますが、エデニックシェルトやメガパワーの小型機種はクーラーとの接続が困難になりますので、リオやネワなどの水中ポンプ(水流専用ではないもの)を購入してクーラーに接続しなければなりません。たとえ小さい水槽であっても、90cmや60cmの水槽と同じような機材の小型バージョンで飼育しなければうまく飼育することはできないのです。
餌と添加剤
餌は魚・サンゴともに一般的な水槽よりも少なくする必要があります。これは残り餌や排せつ物が水を汚しやすいからです。一方添加剤は重要で、カルシウム・マグネシウム・微量元素・ヨウ素などを供給します。またpHの値を安定させるためにKH上昇のための添加剤(バッファー剤)も添加したいところです。最近ではこれらを総合的に供給する「リキッドリーフ」のような添加剤もあり、添加するとよいでしょう。このほかこまめな水かえでこれらを補うという方法もありますが、それでもヨウ素は分解されてしまいやすいため、添加剤を使用しての供給は必要といえます。
実際の水槽を見て考えてみる
ここまでは小型水槽で飼育できるサンゴや機材をいくつか紹介してきましたが、実際に小型水槽での飼育例を見てみましょう。こちらは筆者が行きつけの海水魚専門店「コーラルタウン」に設置されている30cmキューブ水槽です。サンプは存在せず、この水槽だけで完結しています。水槽システムの根幹をなすのは水槽の背面に置かれている「海道河童」で、物理ろ過と、エアリフト式スキマーにより有機物の除去を行っています。水流専用のポンプは設置されていません。
ライブロックはアーチ状に組まれており、水の通りをよくするなどの工夫がされています。大型水槽と同じようなひな壇レイアウトは、小型キューブ水槽では難しいところがあります。サンゴは上記で述べたスターポリプやディスクコーラルが入っていますが、このほかにツツウミヅタやカタトサカが入っています。ただしツツウミヅタやカタトサカは飼育がやや難しかったり、大きく育ったりするので、小型水槽での飼育は難しいところがあるため注意が必要です。なおこの水槽は店舗の水槽で、クーラーは入っていませんが、家庭であればクーラーやヒーターが必要になります。
魚の数・餌の数はやや絞り、一般にいわれている10日から2週間に1回よりも短いスパンで水かえを行えばこのような小型水槽でも魚とサンゴのハーモニーが楽しめるでしょう。魚はクマノミのペアとヒゲニジギンポで、従来はこれにカエルウオの仲間であるヒトスジギンポもいました。魚は水を汚すため、少なくするのが成功のポイントのひとつですが、個人的には写真のクマノミもでかいように感じますので、小型のハゼや小型テンジクダイなどがおすすめです。
小型水槽でサンゴ水槽まとめ
- 小型水槽でもサンゴ飼育は可能
- マリンアクアリウムをはじめたばかりのアクアリストにはおすすめしない
- 丈夫で、大きく広がらず、餌を必須としないサンゴが小型水槽向け
- フラグサンゴは小さいが小型水槽向けでないことも多い
- 水槽は規格水槽よりもキューブ水槽が最適
- ろ過槽は外掛けと外部ろ過槽の併用
- プロテインスキマーも欲しい。小型ベンチュリースキマーがおすすめ
- 小型の水流ポンプも使って水流をつくる
- LEDライトを使用して光を供給する
- 小型水槽用のガス冷媒クーラーとヒーターを使用して水温を調整する
- 魚の数と餌の量は少なめに
- ライブロックの組み方にも工夫したい