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2020.12.09 (公開 2018.11.05) 海水魚飼育の基礎

【上級者向け】海水魚の繁殖方法~難易度別繁殖しやすい海水魚一覧

カクレクマノミのペア

これまで淡水魚飼育を楽しんでいたアクアリストが、海水魚に転向する例も多いです。淡水魚飼育も楽しみ方は色々ありますが、もっとも面白いのは「繁殖」です。

実際にキンギョやメダカの類であれば一般の家庭でも繁殖を楽しむことができますし、グッピーやサザンプラティフィッシュといった種類は気が付いたら勝手に増えている…なんてこともよくあります。淡水熱帯魚の専門書を見ていると、繁殖の方法などもしっかり紹介されています。しかし、マリンアクアリウムの専門書には、なかなか「繁殖」の文字は出てきません。海水魚は繁殖できないのでしょうか。

答えはできないことはないけれど、とても難しいです。では、海水魚の繁殖はなぜ難しいのでしょうか。その理由と、具体的な繁殖方法・難易度別の繁殖しやすい海水魚を紹介していきます。

海水魚の繁殖が難しい・難易度が高い理由

卵の性質

岩に卵を産み付けるイレズミハゼ

▲岩に卵を産み付けるイレズミハゼ

海水魚の卵にはさまざまなものがあります。私たちがよく食べているタイやヒラメといった魚は分離浮性卵を産みますが、これは簡単にいえば「ばらばらになって浮かんでいる卵」といえます。この手の卵はろ過槽内に落ちてしまうことが多く、たとえ孵化しても孵化したばかりの仔魚はとても小さいため家庭での繁殖は難しいです。マリンアクアリウムの主役になることが多いチョウチョウウオやヤッコの仲間、ハナダイの仲間の卵は大体このタイプです。

一方クマノミを含むスズメダイの仲間、ハゼの仲間、あるいはカエルウオといった魚は岩などに卵を産みつけ、多くの場合雄が卵を保護します。テンジクダイの仲間も比較的大きな卵を産み、親はマウスブルーダー、つまり口腔内で卵を孵化させます。このような卵を産むタイプであれば比較的産卵させやすく、孵化まで持っていくことは容易ではありますが、そこからが難しいです。

サメの仲間(の大部分)や、ウミタナゴ、メバル、フサイタチウオといった種類は卵ではなく仔魚を産みます。しかしながらこれらの種の多くは非常に小さな仔魚を産みますので大きく育てるのは難しいといえます。サメの仲間は大きな仔魚を産みますが、メジロザメやドチザメの仲間は遊泳性が強いため飼育するのにも巨大な水槽が必要です。

繁殖時の習性

ネズッポの仲間も産卵のときは海底から離れて産卵・放精する

▲ネズッポの仲間も産卵のときは海底から離れて産卵・放精する

水槽の大きさの都合上、海水魚が産卵しにくいという理由もあげられます。たとえばヤッコの仲間は、産卵する際に上昇したり下降したりせわしなく泳ぎ回ります。いつもは海底をはい回るネズッポの仲間も、産卵の時は海底から離れたところで産卵・放精を行います。ですからこれらの魚を繁殖させようとするならば、それなりの深さがある水槽も必要ということになります。

初期餌料の確保が難しい

イレズミハゼの仔魚

▲イレズミハゼの仔魚。この口に入るサイズの餌が必要になる

孵化した仔魚を育てるのであれば初期餌料の確保も重要になります。淡水魚であれば孵化してしばらく時間が経つと配合飼料を口にしますが、海水魚ではまずは生きた動物プランクトンを与えなければなりません。

稚魚の餌にはブラインシュリンプ(アルテミア)が使われることも多いのですが、産まれたばかりの仔魚は口が小さくアルテミアを食することができないので、まずはシオミズツボワムシなどの微小なプランクトンを与える必要があります。

このプランクトンも生きているので、ストックするのにクロレラなど植物プランクトンフードをまず与える必要があります。養殖業などで大量のワムシが必要なときは、ワムシの餌となるナンノクロロプシスなどの植物プランクトンを増やして与えます。そしてこれを増やすにも硫安や石灰、キレート剤などを海水に加えるなどの作業が必要となります。

冷凍のワムシはキョーリンなどから市販されています。便利ではありますが、生きたワムシと比べるとやや食いが悪いという欠点があります。

また、シオミズツボワムシやその餌の植物プランクトンはどこの観賞魚店でも販売しているというわけではありません。たとえば東京都町田市の「日海センター」などのように、海水魚の繁殖に本格的に取り組んでいるお店で購入するのがベターといえます。

栄養強化が必要

二次培養に使用する栄養強化剤。「日海センター」

▲二次培養に使用する栄養強化剤。「日海センター」のもの

上記で「海水魚にはシオミズツボワムシなどを与える必要がある」と記述しましたが、このシオミズツボワムシは海水魚の餌としては栄養的な面では問題のある餌であるため、海水魚が成長するのに必要な必須脂肪酸などを含んだ栄養強化剤をワムシに取り込ませ、ワムシを食べる海水魚に届けるための「二次培養」という行程も必要になります。

これらの手間を考えれば、海水魚の繁殖は淡水魚の繁殖と比べて極めて手間がかかり、難しいといえるでしょう。

家庭でも繁殖しやすい海水魚

このように海水魚の繁殖はとても手間がかかるのですが、家庭でも繁殖が可能な海水魚がいくつかおりますので紹介します。

クマノミ類

全身真っ黒のカクレクマノミ、ミッドナイトクラウン。ブリードにより作出された改良品種

▲全身真っ黒のカクレクマノミ、ミッドナイトクラウン。ブリードにより作出された改良品種

クマノミの仲間は卵が(比較的)大きく家庭での繁殖も可能です。観賞魚卸売業や海水魚店などが養殖を行っていますが、最も人気のカクレクマノミなどは個人のマリンアクアリストも繁殖させることが可能です。今やイレギュラーバンドの個体や改良品種の作出なども楽しむことができるようになっています。

繁殖を楽しむのであればまずはペアを組ませることが重要です。クマノミの仲間は雄性先熟の性転換を行うのですが、複数匹サイズの異なった個体を入れペアを組ませる方法が確実でしょう。また、栄養価の高い餌を与えたり、クマノミの仲間の住処であるイソギンチャクを入れるのも重要なようです。種類的にはカクレクマノミが大変しやすく、逆にハナビラクマノミなどは難しいようです。

タツノオトシゴ類

タツノオトシゴ

▲うまくいけば家庭での繁殖も可能!

タツノオトシゴはヨウジウオの仲間です。タツノオトシゴの仲間の雌は雄の育児嚢(いくじのう)の中に卵を産み付け、雄は卵を保護する習性をもちます。

タツノオトシゴは中国で漢方薬の需要があり、CITES(俗にいうワシントン条約)により、野生個体の国際的な取引にはある程度の規制があります。そのため業者による養殖も盛んにおこなわれておりますが、業者だけでなくアクアリストもタツノオトシゴの繁殖に成功しています。

ただしタツノオトシゴそのものの飼育が難しいため、初心者にはおすすめできません。タツノオトシゴの仲間ではなく、他の飼いやすい海水魚による繁殖・飼育から勉強しましょう。泳ぎがゆっくりなので、捕食性のサンゴやイソギンチャクには捕まって食べられてしまうおそれがありますので、いっしょに飼育するのはやめましょう。

CITESにより輸出入に規制がある魚は他にもいます。大型ヤッコの人気種クラリオンエンゼルフィッシュもCITESにより規制対象となっていますが、最近インドネシアからの養殖個体も入ってくるようにになりました。ヤッコの仲間は、家庭では繁殖させるのは難しいのですが、海外の養殖業者はすでにレンテンヤッコやレスプレンデントエンゼルなどの繁殖にも成功しているようです。

バンガイカーディナルフィッシュ(プテラポゴン)

バンガイカーディナルフィッシュ

▲バンガイカーディナルフィッシュ

バンガイカーディナルフィッシュはその名の通りインドネシア固有種で、バンガイ諸島周辺海域に生息する1属1種のテンジクダイの仲間です。属の学名から「プテラポゴン」と呼ばれることも多く、マリンアクアリストにはこちらの名前のほうがなじみが深いと思われます。

海水魚の中にはアゴアマダイやハマギギの仲間など、口で卵を保護するものもいますが、たいていは孵化してすぐに親の口を離れなければなりません。しかしこのプテラポゴンは子がある程度大きくなるまで親が口腔内で面倒を見るという習性があります。

淡水魚のカワスズメ(シクリッド)のある種もこのような保育の習性をもっているのですが、海水魚ではこの種が唯一とされています。プテラポゴンは飼育自体はあまり難しくはありませんが、若干白点病にかかりやすいので、その点は注意が必要です。

他のテンジクダイの仲間も卵を口腔内で保護する習性があるのですが、産まれた仔魚はとても小さいため繁殖は難しいといえます。

卵を購入して育てる

ネコザメの卵

▲ネコザメの卵

卵生のサメの一種イヌザメ

▲卵生のサメの一種イヌザメ

サメの仲間には卵を産むものと子サメを産むものがいますが、卵生のサメの卵が販売されることもあります。テンジクザメ科、ネコザメ科、トラザメ科、ジンベエザメ科のトラフザメ、タイワンザメ科のヒョウザメなどのサメは卵生で、とくにテンジクザメ科のイヌザメやトラザメ科のサンゴトラザメの卵は海水魚専門店でもよく販売されており、これらの卵は孵化させたらそのまま飼育することができます。

サメの仲間は高度な繁殖様式を持っています。母サメが一度に産む卵の数は一般的な魚よりもずっと少ないのですが、その分、卵やそこから産まれてくる子ザメはたいへん大きく(ネコザメでは15cm程度)、産まれてきた子ザメはすでに親と同じ形になっており、敵から狙われにくくなります。

サメの繁殖を考えるアクアリストにとっては、ワムシなどの初期餌料を必要としないのも助かります。なお、これらのサメの餌は幼魚も成魚もイワシやサンマ、イカの足などの生餌を与えるのが一般的です。つまり、水を汚しやすいので注意が必要です。

ネコザメやトラザメなど、日本近海に生息するサメの卵も販売されていますが、これらのサメは温帯性で、高水温には弱いので注意が必要です。とくにトラザメは北日本に生息する種で、高水温への耐性は低いです。

海水魚の繁殖まとめ

  • 海水魚の繁殖は淡水魚よりも難しい
  • 分離浮性卵を産む海水魚の繁殖は家庭レベルでは困難
  • 付着するタイプの卵を産むタイプがまだ繁殖させやすい
  • サメの大部分やメバルなど仔魚を産むタイプも
  • ヤッコやネズッポを産卵させるなら深さのある水槽が必要
  • 産まれた仔魚の餌も考える必要がある
  • 仔魚には主にワムシを与える。栄養強化も重要
  • カクレクマノミなどのクマノミ類は家庭での繁殖も可能
  • タツノオトシゴも繁殖可能。ただし飼育はやや難しい
  • プテラポゴンも卵や仔魚が大きく繁殖可能
  • サメの仲間など卵を孵化させて飼育することも
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