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2020.01.31 (公開 2017.06.13) 海水魚飼育の基礎

ろ過槽とろ過のリクツ~海水魚飼育初心者向け

魚は水槽で餌を食べれば魚は水槽で排せつをし、餌も残れば水を汚します。そのままでは水が汚れ、有害な物質も多数発生し、魚が死んでしまうおそれもあります。そのためには、ろ過が必要になりますが、このろ過は大きくふたつにわけられます。ひとつはウールマットなどを使ってフンや食べ残しを取り除く物理ろ過。そしてもうひとつは、排泄物や残り餌をバクテリアが分解していく過程で発生する、魚にとって猛毒のアンモニアを別の種のバクテリアの力によってやや弱い毒性の亜硝酸塩、そして弱い毒性の硝酸塩に変える生物ろ過の二つのろ過です。このふたつのろ過をおこなうのがろ過槽です。

物理ろ過

▲ウールマットでゴミを濾しとる

物理ろ過は簡単にいえば魚のフンや残り餌、あるいはバイオペレットのカスなどを濾しとるものです。

ウールマットに引っかかったものを取り除くため、定期的にマットを水洗いするようにしなければなりません。そのため外部ろ過槽など、ろ過槽をいじりにくいときにはウールマットを使わない方がよいかもしれません。筆者は外部ろ過槽を使用していたときにはろ過槽の中にサンゴ砂やリングろ材などを入れていましたが、ウールマットは入れていませんでした。

上部ろ過槽やオーバーフロー水槽では管理しやすい場所にウールマットを入れるスペースがあるのでそこに入れておくとよいでしょう。

生物ろ過

▲生物ろ過のしくみ

魚は水槽の中で餌を食べ、水槽の中で排泄をします。それらはやがてバクテリアに分解され水槽内でアンモニアとなってしまいますが、このアンモニアは魚にとっては猛毒なのです。

そのアンモニアを分解してくれるのもまたバクテリアです。バクテリアはまずアンモニアを亜硝酸にし、次に別の種類のバクテリアが亜硝酸から硝酸塩に変えます。しかし硝酸塩は分解されず水槽内に蓄積されますので、それは水替えで定期的に水槽から取り除く必要があります。

勿論バクテリアの活動は私たちの目で見ることはできません。ですから、アンモニア、亜硝酸、そして硝酸塩のテスターを使ってバクテリアの活動を推測することになります。

バクテリアをつれてくる

その有益なバクテリアはどこにいるのでしょう?海水魚飼育を上手くすすめるために必要なライブロックというものがあります。観賞魚店の海水魚売場で販売されている、あの「値段の高い岩」です。その正体は海底に沈んでいる死んだサンゴの骨格ですが、その骨格の中にたくさんのバクテリアが住んでいるのです。このバクテリアを殺さず運搬するためには海水ごと運ばれてきます。そうなると重くなりますから、価格が高いのは仕方がありません。

ライブロックの選び方についてですが悪いライブロックを購入してしまうと、上手く水槽が立ち上がらないどころか、水槽崩壊の危険がありますので、また別に解説いたします

このほかにバクテリア製剤も販売されています。このような商品も使うと、水槽の立ち上げがスムーズにいきます。後ほどまた述べますが、バクテリアを入れた後はしばらく殺菌灯を消しておく必要があります。もしつけたままですと、せっかくバクテリアを導入しても、殺菌灯によりすべて死んでしまいます。

仏プロディビオ社のろ過バクテリア

ろ材に何を使う?

リング型のろ材と、その上のバイコム・バフィーにろ材を付着させる

生物ろ過をしてくれるバクテリアはろ材につきます。その「バクテリアのおうち」についてはさまざまな製品が出ています。セラミック製のもの、ガラス繊維のもの、死んだサンゴの破片などさまざまなものが使用されています。これらを上手く組み合わせるとよいですが、ちくわの様な形のものは水の通りがよくなるのでおすすめです。淡水魚用のろ材は水を酸性に傾けたりすることもあるため、絶対に使用してはいけません。我が家では写真のようなリング型のろ材や、粗いサンゴ砂を主に使用しています。

リングろ材の上にあるのはバイコム社の「バフィー」で、これはバクテリアが付きやすいようになっています。また、写真ではろ材をネットの中に入れて掃除がしやすくなっていますが、水はネットの隙間からも通ってしまうので、ネットに入れない方がろ過能力が上がるように思います。

ろ過装置の種類

外掛けろ過槽

▲背面にあるのが外掛けろ過槽。このサイズにはちょっと小さすぎかもしれない

水槽のふちにかけるろ過装置です。キンギョやメダカなどを飼うときに用いるものですが、熱帯魚や海水魚だって使えます。ただし、外掛けろ過槽にはあまり大型のものはなく、基本的に60cm以下の水槽に向いているろ過装置です。

外掛けろ過槽を使うメリット

手軽で安いのが魅力ですが、海水魚を飼育することも可能です。また酸素を巻き込みやすく酸欠にもなりにくいという特徴があります。外部ろ過槽と一緒に使用してろ過能力を増強することもできます。また、「海道河童」という商品は外掛けろ過槽とプロテインスキマーがセットになっており、このようなものを使用するのもおすすめです。

外掛けろ過槽を使うデメリット

欠点はその見た目からもわかりますようにフィルター内に入れられるろ材が少ないことがあげられます。ろ材が少ないということは、ろ過能力がいまひとつということになります。基本的には小型水槽専用のろ過装置で、大きい水槽には適していません。また、水槽のふちにかけておくタイプなので、水槽のふちのフレームの幅によってはこのフィルターを装着することができないことがあるということです。

上部ろ過槽

▲上部ろ過槽を使用した60cm水槽。魚を安定して飼うことができる

▲上部ろ過槽の概要

水槽の上部にろ過槽を置くというものです。ポンプでろ過槽に水をくみ上げて、水槽に落とすというシステムです。小型水槽用のものはあまりなく中・大型水槽用です。60cm以上の水槽で使用するのに適しています。水槽、モーター、ろ過装置、照明がセットになった状態でも販売されています。観賞魚店はもちろん、ディスカウントショップなどでも販売されていますが、かならず「淡水・海水共用」のものを購入する必要があります。そうしないと、不具合が起こる可能性もあります。

上部ろ過槽を使うメリット

水槽の上にろ過装置をおき、ポンプで水をくみ上げ、ろ過装置の中でろ過をしてから、水槽に水を落とす方式で、外部ろ過槽と比べてバクテリアに酸素が供給されやすいのがメリットです。外掛けろ過槽よりもろ材も多量入れることができ、それも大きなメリットといえます。また上部ろ過槽が開発された日本では、観賞魚店やホームセンターだけでなく、大きなディスカウントストアなどで販売されていることもあり、入手しやすいといえるでしょう。

上部ろ過槽を使うデメリット

欠点は水槽の上にろ過装置をおくため、照明を置くスペースが制限されてしまうということです(後述)。さらに、水槽の大きさによる制約も受けます。基本的には45cm以上の水槽用で、それ以下の水槽では使用できません。また水槽を買い替えようと思ったら、外部ろ過槽や外掛けろ過槽はそのまま使用できますが、60cm水槽のものは90cm水槽では使用しにくいです。

上部ろ過槽ではサンゴは飼うことが出来ない?

▲上部ろ過槽でもサンゴを飼育できる!

海水魚飼育関連の本を読んでいると「上部ろ過槽ではサンゴの仲間を飼育することが難しい」とよくいわれます。それは、先ほどのべたように照明器具を置くスペースが限られてしまうからです。しかし照明の種類、あるいは照明を置く角度、あるいは飼育するサンゴの種類など気を付ければ、上部ろ過槽を用いた水槽でもサンゴを飼育することは十分可能です。

この水槽の場合、水槽のライトは細長いLED(ゼンスイ製)とスポットタイプのLED(愛知県の観賞魚店「ラパス」オリジナル)を3灯。ろ過装置は上部ろ過槽と外部式ろ過槽の組み合わせ。このやり方でキクメイシ、アザミハナガタサンゴ、タバネサンゴ、ウミバラ、オオバナサンゴ、シコロサンゴ、ソフトコーラルではウミアザミ、ディスクコーラルなどが長期飼育できました。

写真右にはウスコモンサンゴが写っていますが、本来、この種やミドリイシやハナヤサイサンゴなどのSPSと呼ばれるサンゴは飼い難いと思います。これらのサンゴには強い光が必要ですが、そもそもこのようなサンゴは硝酸塩の蓄積に弱く、上部ろ過槽にろ材を使用したシステムでは長期飼育が難しいのです。

外部ろ過槽(パワーフィルター)

ロングセラーの独エーハイム製外部ろ過槽

小型水槽から大型水槽まで使用できるろ過装置です。水槽から給水した水が筒状のろ過槽を通りろ過され水槽に戻るという方式で、ポンプが内臓されています。外部式ろ過槽は、海水魚/淡水魚問わず使えるものが多いですが、海水魚水槽に使うときは、パッケージに表示されている適合水量よりも1ランク上の機種を使うようにするのがコツです。例えば60cm水槽で使うのであれば、90cm水槽用のものを選ぶようにします。また上部ろ過槽と組み合わせるのもよい方法です。

外部ろ過槽を使うメリット

ホースの途中にクーラーや殺菌灯などを接続するということも容易にできます。また意外とろ材を多く入れることができるというのもメリットといえます。また上部ろ過槽や外掛けろ過槽を使用しているとき、この外部ろ過槽を増設すれば手軽にろ過能力を増強できます。

小型水槽では上部ろ過槽を使うことが困難なので、外掛けろ過槽のろ過増強にはこの外部ろ過槽をメインで使用することになるでしょう。小型水槽でも大型水槽でも自由自在に使用できるのはメリットといえるでしょう。キャビネットの中に外部ろ過槽を納めれば、水槽の周りもスッキリします。

外部ろ過槽を使うデメリット

▲給水パイプを出して酸素を溶け込ませる

密閉式のフィルターなので、バクテリアに酸素がいきわたりにくく、酸欠が発生することがあるので、水の吐出口はなるべく水面より上においておくとよいのですが、そのようなことをすると海水がはねたりしますので、フタをしておきます。酸欠の解消方法として、小型のプロテインスキマーを使用して酸欠を防ぐ方法もあります。エアポンプを使ったエアレーションではやはり海水がはねることもあり要注意です。写真のように給水パイプを水面から出すことが出来れば、水槽の魚やろ過バクテリアに酸素がいきわたりやすいのですが、これをやる場合は水が外に飛び散らないように注意します。フタはしっかりしましょう。

また、災害などで停電が長いこと続いた場合、復旧したら外部ろ過槽の中にたまっていた水が水槽に戻されることになりますので、停電したらまず外部ろ過槽のスイッチを切るようにし、再度セットアップしなければなりません。このほかろ過槽の掃除がしにくいなどのデメリットもあります。そのため、ウールマットなどは入れない方がよいかもしれません。

ふたつ以上の濾過槽を組み合わせるのがおすすめ

▲上部ろ過槽と外部ろ過槽の組み合わせ

私がおすすめするのは、2種類以上のろ過装置を組み合わせることです。カクレクマノミと丈夫なサンゴを飼育するなら60cm水槽で上部ろ過槽と外部ろ過槽、それ以下の水槽なら外掛けろ過槽と外部ろ過槽の組み合わせが向いているでしょう。

ふたつのフィルターを組み合わせることでろ過能力が少しは増えますし、片方がポンプの故障で止まっても、もう片方が動いていれば保険になります。ただし、ふたつ以上のろ過装置を使っても急にろ過能力が向上するなんていうことはあり得ません。機材を追加した後は1か月くらい様子を見てから魚を足すようにします。海水魚の飼育では、何事も急ぎすぎると失敗を招くものです。筆者の経験上でも外部式ろ過槽と上部ろ過槽を組み合わせてみても、一気に魚を追加してしまうと、あまり上手く飼育することはできませんでした。魚の数さえ押さえられれば、先ほどご紹介した綺麗なサンゴ水槽だって維持可能です。

オーバーフロー水槽のろ過槽

▲オーバーフロー水槽

水槽の底にパイプを貫通させて、水があふれると下のサンプ(水溜め)に水が落ち、サンプの中でろ過を行い、ろ過槽に落ちた水をまたポンプをつかって水槽にくみ上げ、水を循環させるシステムです。

オーバーフローろ過槽のメリット

多くの水量を確保でき、ろ材も他のろ過槽よりもずっと多量に入れることが出来るため、魚やサンゴをよい状態で飼育することができます。またろ過槽にヒーターやサーモスタット、配線などを敷くことが出来るので水槽の美観を損ねません。ただしヒーターをオーバーフロー水槽のろ過槽に置く場合は注意点があります。ヒーターカバーを使用し(とくにアクリル製のサンプの場合重要)、常に水の蒸発に注意しましょう。

このほかインサンプ式の強力なプロテインスキマーを設置し、ベルリンシステムを運用したり、あるいは専用のリアクターを用いてゼオビットシステムにしたりと、さまざまなシステムで運用することがしやすいのは大きなメリットといえます。

オーバーフローろ過槽のデメリット

デメリットは人によってはろ過槽に水が落ちる音が気になるところ、かなり大がかりなものになるため重くなること、水槽を移動させるのが難しくなること、そして、やはり大がかりなものになる為それなりの金額が必要になるということです。またオーバーフロー水槽でないと使用が難しいこともデメリットといえます。

ベルリンシステム

▲ミドリイシなどのSPSを飼うならベルリンシステムがよい

20世紀の終わりに日本に入ってきた「ベルリンシステム」というシステムがあります。このシステムのおかげで長期飼育が困難だったミドリイシが上手く飼育できるようになったのです。

今回は端折って解説しますが、簡単に言えば、ろ過装置を使用せず、プロテインスキマーという機材を使用して魚の排せつ物や残り餌などがアンモニアに変化する前に除去し、のこりの有機物はライブロックにつくバクテリアが分解するというものです。ろ材を使用したろ過では硝酸塩やリン酸塩を完全に取り除くのは難しく、このミドリイシはそれらの蓄積に弱いため、上手く飼育することは難しいものでした。

このベルリンシステムというのはサンゴを上手く飼育するためのシステムで、特にミドリイシという飼育が難しいサンゴを上手く飼育することが出来るようになったのはこのシステムの普及によるものが大きいといえます。しかし、魚を多く入れられるようなシステムではありませんので、そのあたりは理解する必要があります。

ろ過の補助をするもの

▲汚水を取り除いたプロテインスキマー

ろ過能力を高めるために機材を追加して増強する方法もあります。

プロテインスキマーは、ベルリンシステムの心臓となる機材ですが、有機物などをハイパワーで水槽から排除し、ろ過バクテリアの負担を軽減するという点では、カクレクマノミと丈夫なサンゴを飼育するような小型水槽にも向いています。また、酸欠になりやすい海水水槽に空気をおくる役目もあります。従来は大型の水槽向けのものが多かったのですが、ここ10年の間で小型水槽向けの機材も多数でてきました。

小型水槽のスキマーは「エアリフト式」と呼ばれるものでパワーが低く、上述のベルリン水槽では使えないものの、小型の水槽でろ過槽と併用することにより高いパフォーマンスを見せてくれるでしょう。酸欠になりやすい外部ろ過槽とは特に相性がよいといえます。

殺菌灯も各社から様々な商品が販売されています。やや高価ではありますが、使用した方が安心です。紫外線を照射してコケの発生を抑制したり、あるいは有機物などを分解したりします。ただし有益なバクテリアも殺してしまいますので、バクテリアを追加するなどした場合しばらくは殺菌灯を消しておくべきです。また病気の予防に効果がありますが、万能というわけでもありません。基本は水替えできれいな水を保ち、殺菌灯でさらにきれいにするというイメージです。

このような機材をろ過装置とうまく組み合わせることにより、海水魚やサンゴをもっとよい状態で飼育することが出来るでしょう。

小型プロテインスキマー「マメスキマー」

水槽の縁にかけて使うスキマー「海道達磨」。中型水槽向き

殺菌灯「ターボツイスト」

ろ過装置の選び方 まとめ

◎はメリット ×はデメリットを表します。

外掛け式ろ過槽

◎手軽で安価

×これだけでは厳しい

対策 他のろ過槽と組み合わせる

上部ろ過槽

◎ろ材を大量に入れられ、ろ過バクテリアにも酸素がいきわたりやすい

×照明器具を置くスペースが限られる

対策 強い光をだすスポットLEDなどの使用。

外部式ろ過槽

◎ろ過能力が高く、クーラーや殺菌灯を接続しやすい

×ろ過バクテリアに酸素がいきわたりにくい

対策 給水パイプを上にだす、またはスキマーも併用。

OFろ過槽

◎他のろ過槽より大量にろ材を入れられる、ヒーターなどを収納できる

×実質OF水槽専用、重くて動かしにくい、音が気になる、値段が高い

対策 音が気になるときはフロー管にひもなどをたらして軽減できる。

ろ材

ちくわの形をした濾材は水通しがよくおすすめですが、観賞魚店によって「推し」の濾材はさまざまです。ただし、淡水魚用のものは選んではいけません。

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