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2020.09.21 (公開 2020.02.04) 海水魚図鑑

ワニグチボラの飼育方法~温和で飼育しやすいが飛び出しに注意!

ワニグチボラは南方にすむボラの一種ですが、黒潮にのり夏は千葉県以南の海でもその姿を見せてくれます。銀色にピカピカ光り輝く様子は海ではよく目立ちますが、逆に波の泡に擬態しているといわれます。丈夫で飼育しやすく観賞魚として飼育されますが、いつも水面付近や表層におり、何かに驚くとジャンプしてしまうこともあるので、フタはしっかりしなければなりません。今回はこのワニグチボラの飼育方法をご紹介します。

標準和名 ワニグチボラ
学名 Oedalechilus labiosus (Valenciennes, 1836)
英名 Hornlip mulletなど
分類 条鰭綱・ボラ目・ボラ科・ワニグチボラ属
全長 20cm
飼育難易度 ★☆☆☆☆
おすすめの餌 メガバイトグリーンなど
温度 25℃前後
水槽 60cm~
混泳 肉食魚に捕食されるおそれあり
サンゴとの飼育 イソギンチャクなどには捕食されるおそれあり

ワニグチボラって、どんな魚?

ワニグチボラはボラ目・ボラ科・ワニグチボラ属のボラの仲間です。主にインド洋からサモア諸島までのインド-中央太平洋の熱帯・亜熱帯域に生息していますが、幼魚は黒潮にのり千葉県以南の太平洋岸、兵庫県以南の日本海岸でもその姿をみることができます。形態はややずんぐりした体で、涙骨下縁にV字状の欠刻があるのが特徴です。比較的小型で全長は普通20cmほど、大きいものでは40cm近くになるともされます。

なおボラ科魚類の学名、とくに属の学名は研究者により意見の相違が甚だしいため、注意が必要です。例を挙げれば海外のFishbaseのようにPlicomugilという属の学名を使用していることがあります。今回は瀬能(2013)に従いこの属学名・属和名としています。

よく似たものにフウライボラというのがいますが、涙骨下縁の形状が大きく異なっています。フウライボラは波骨下縁が緩やかに湾入し、大きなV字状にならないことで見分けられます。また大きさもフウライボラのほうがずっと大きく、40cm以上になります。

ボラ科魚類

▲熱帯に生息するヒルギメナダ

ボラ科魚類は全世界の温帯から熱帯・亜熱帯域にすみますが、温帯より熱帯域に多くの種類が生息しています。沿岸の汽水域に生息し、河川の汽水域でも多く見られます。

ボラの仲間は食用になるものも多いです。東京湾など汚い海にすんでいるボラは臭みがありますが、水がきれいなところのボラは極めて美味しいです。またボラの胃の部分はそろばん状でこれを焼いて食べると美味しいです。また、ボラの仲間の卵巣はカラスミとして珍重されます。しかしワニグチボラは日本では数が少なく、あまり食用にはなっていないようです。成魚でも全長20~30cmほどと小ぶりなのもその理由かもしれません。

ワニグチボラに適した飼育環境

水槽

ボラの仲間では比較的小型なので、60cm水槽でも飼育できますが、よく泳ぐタイプの魚ですので、できれば90cm以上の水槽で飼育することをおすすめします。水槽は高さよりも奥行きがあるほうがよく泳ぐボラの仲間にとって適しているでしょう。

水質とろ過システム

水質悪化にはある程度の耐性がありますが、できるだけ綺麗な水で飼育します。飛び出す可能性もあるため、隙間ができやすい外掛けろ過槽はなるべく使わないようにします。単体の水槽であれば上部ろ過槽、もしくは外掛けろ過槽が最適ですが、オーバーフロー水槽にできるのであればそれが最高です。

ボラの仲間はサンゴを食べたりいたずらすることはないのでサンゴ水槽での飼育もできますが、数は少な目に保たなければなりません。

水温

基本的に暖かい海の魚ですので25℃でよいでしょう。もちろん25℃の水温を一定に保つことが重要です。水温については28℃くらいまで大丈夫ですが、それ以上は厳しいです。低い水温では21℃でも問題なく飼育できます。ただしやはり水温の変動が大きいと体調を崩して病気になってしまうことがありますので、ヒーターとクーラーを使い年中一定に保つべきです。

フタ

▲表層を泳ぐワニグチボラ

ワニグチボラは表層や水面下スレスレを泳いでいることが多いです。何かに驚き飛び出してしまう事故も多いですので、フタはきちんとしましょう。

ワニグチボラに適した餌

▲メガバイトグリーンがおすすめ

ワニグチボラはは動物プランクトンや藻類などを食べている雑食性のようで、餌も小粒の配合飼料が適しています。藻類食の傾向もありますので「メガバイト グリーン」がよいでしょう。Sサイズの餌でも食べられないような幼魚には餌をすりつぶして与えたり、さらに小粒の餌を与える必要があります。適切に餌を与えるとあっという間に10cm前後に成長します。ワニグチボラが小さいままのがよいといって、餌を絞るのはよくありません。

ワニグチボラをお迎えする

ワニグチボラは近海魚に強いお店で販売されていることもありますが、あまり流通しない種類ですので、自分で採集するしかありません。

夏になると浅いタイドプールで泳ぎ回っており、より小さいものは銀ピカの体をして水面に浮かんでいます。これは波による泡への擬態ともいわれています。私は千葉県房総半島南部、伊豆大島、和歌山県南、足摺宇和海などで本種を採集、または目撃しています。すべて幼魚で、ごく浅いタイドプールを素早く泳いでいるのを採集しています。採集したら素早くフタつきのバケツに入れるようにします。先ほども述べたとおり、ボラの仲間は飛び出すおそれがあるからです。

ワニグチボラとほかの生き物の関係

ほかの魚との混泳

▲ワニグチボラとほかの魚の混泳例

ボラの仲間小さいうちはほかの魚に食われるおそれがあるため、できるだけ本種のみ、またはカエルウオなど、ワニグチボラに害を与えない生き物だけで飼育した方がよいでしょう。

ある程度成長してもほかの魚に害を与えることはほとんどなく、ほかの魚と混泳させることができます。90cmの大型水槽で飼育しており、スズメダイ類(クマノミ、イエローリップダムゼル、ロクセンスズメダイ、ロイヤルデムワーゼルなど)と混泳できていますが、小さな水槽では襲われる危険性があるため注意が必要です。

サンゴ・無脊椎動物との相性

ボラの仲間はサンゴには害がないので、組み合わせることができます。ただし、捕食性のサンゴやイソギンチャクはワニグチボラを食べてしまうおそれがあるので一緒にはしない方がよいでしょう。生息環境的にはミドリイシなどのSPSやソフトコーラルが最適ですが、初心者にはミドリイシの飼育は難しいです。

無脊椎動物は大型のエビ・大型のカニ・大型のヤドカリなどはワニグチボラを食べてしまうことがあるので一緒に飼うことはできません。アカシマシラヒゲエビ(スカンクシュリンプ)や、サラサエビの仲間、サンゴヤドカリの仲間、ベニワモンヤドカリ、ケブカガニなどの種類は経験上10cm弱に育ったワニグチボラとの混泳は心配ないのですが、2~3cmほどの幼魚はこれらの甲殻類にも食べられてしまうおそれがあるので注意が必要です。

ワニグチボラ飼育まとめ

  • 熱帯・亜熱帯海域に生息するボラの仲間
  • ボラの仲間ではやや小型
  • 60cm水槽でも長期飼育できるが、90cm水槽で奥行きがあるタイプがおすすめ
  • ろ過槽は上部ろ過槽、またはオーバーフロー
  • 飛び出すおそれがあるのでフタはしっかり
  • 22~28℃で飼育できるが安定していることが大事。25℃前後が理想
  • 藻類食の傾向があるのでメガバイトグリーンがおすすめ
  • 夏に潮溜まりで採集できる。ピカピカした体の個体が浮かんでいる
  • 多くの魚と混泳できるが、肉食性が強い魚はだめ
  • サンゴには無害だが捕食性が強いサンゴとの飼育は避ける
  • 大型の甲殻類との飼育も避けた方がよい

文献

瀬能 宏. 2013. ボラ科. pages 636-637 in 中坊徹二編. 日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会. 秦野.

2020.09.21 (公開 2020.02.01) サンゴ図鑑

ナガレハナサンゴの飼育方法~美しいサンゴだが初心者には難しい

ナガレハナサンゴは、イシサンゴ目ハナサンゴ科のハードコーラルです。ミドリイシほど難しくはないサンゴですが、水質の悪化に弱かったり、水流も強いものが必要であるなど飼育がやや難しかったり、また非常に強い毒をもちほかのサンゴを攻撃してしまったりと、初心者にはやや難しいサンゴといえます。

しかし水流にポリプをなびかせる様子や、鮮やかな緑色は、アクアリストを魅了します。今回はナガレハナサンゴの飼育方法をご紹介します。

ナガレハナサンゴって、どんなサンゴ?

イシサンゴ目ハナサンゴ科(またはチョウジガイ科)に属するハードコーラルのひとつです。ハナサンゴ科のサンゴはミドリイシほど飼育が難しいというわけではないのですが、それでもオオバナサンゴやキッカサンゴなどと比べるとやや飼育しにくいサンゴといえます。

なお名前がよく似たハマサンゴは全く別のハマサンゴ科のサンゴです。この科のサンゴにはアワサンゴやハナガササンゴなどが含まれ、骨格の形がハナサンゴ科のサンゴとは大きく異なっています。初心者にはやや難しいサンゴの仲間なのですが、ポリプが水流によりゆらゆらとなびく様子はアクアリストには魅力的です。

特徴とバリエーション

▲先端はT型やイカリ型などのバリエーションがある

色彩はグリーンやベージュが多く、先端とその付け根の部分の色が異なっているものもあります。オオトゲサンゴやキッカサンゴの類と比べて色彩のバリエーションは少ないようです。先端部の形状はイカリやハンマーの形をしていますがこれにも若干のバリエーションがあるようです。

近縁のコエダナガレハナサンゴ

▲ハナブサツツマルハナサンゴと思われるもの(右)

▲コエダナガレハナサンゴ(タコアシ)

▲海水魚店で飼育されているオオナガレハナサンゴ(トランペット)

ナガレハナサンゴと近縁なものに、コエダナガレハナサンゴというものがいます。これは海水魚ショップでは「タコアシサンゴ」などと呼ばれることもありますが、タコアシサンゴというサンゴは別にいるため混同しないように注意が必要です。

なお、チョウジガイ科(ハナサンゴ科)にはほかにもハナブサツツマルハナサンゴ、オオナガレハナサンゴ(英名トランペットコーラル)や、オオハナサンゴ、ミズタマサンゴ(バブルコーラル)などがいます。どの種もアクアリストにはお馴染みのサンゴといえましょう。

ナガレハナサンゴ飼育に適した環境

よく飼育書などでナガレハナサンゴはハードコーラルとしては飼育しやすい、と記述されることもあります。しかしこれはミドリイシなどと比べると簡単、ということであり、ハナガタサンゴやシコロサンゴと比較すると飼育しにくいハードコーラルといえます。うまく飼育するためには機材を万全に整えることが重要です。

水槽

水槽はできるだけ大きなものが必要です。これは大型水槽の方が水質の安定に有利だからです。はじめてナガレハナサンゴを飼育するのであれば90cm水槽で飼育するのがおすすめです。また水槽のタイプはオーバーフロー水槽がおすすめです。

水質とろ過システム

ナガレハナサンゴは水質の悪化に弱い面があります。硝酸塩などの濃度が低い状態を常にキープしておきたいものです。そうなると強制ろ過方式よりもベルリンシステムの方が有利になります。強制ろ過システムを採用するのであれば、ベンチュリー式のプロテインスキマーを使うべきでしょう。

水温

水温は23~26℃前後で飼育するようにします。もちろん設定しておけばいいというものではなく、クーラーとヒーターを使用して水温を常に安定させなければなりません。

水流

水流もナガレハナサンゴの飼育には重要な条件のひとつになります。強く複雑な水流を作ってあげましょう。その一方ナガレハナサンゴに強い水流を直接当てるのはよくありません。触手がゆるやかに動くような水流がよく、常に触手が一定の向きになってしまうような強い水流も避けるようにします。複数の水流ポンプを使うのはもちろん、ポンプをコントロールして水流をつくるウェーブポンプの使用も効果的です。

照明

▲T5蛍光灯

従来はメタルハライドランプが一般的でしたが、現在はLEDが一般的となっています。高度にシステム化されたものや、「グラッシーレディオ」などのように多灯してそれぞれのサンゴに適した光になるように調整したりします。ただギラギラしたスポットタイプのLEDの直下に置かない方がよいかもしれません。グラッシーレディオなどを使用するならある程度水槽から離したほうがよいかもしれません。

またT5蛍光灯などを使用するのもよいでしょう。筆者が利用している海水魚専門店では、T5蛍光灯を使用して本種を育成している水槽があります。

置き場所

メタハラの直下(とくに250w)に置くのは避けます。ハナサンゴの仲間はどの種も毒性が強いですので、ほかのサンゴとの接触はしないようにしましょう。また攻撃用のスイーパー触手を出すこともあるのでほかのサンゴに触れたり、近づけないようにしなければなりません。

餌と添加剤

餌は与えなくてもよいタイプのサンゴです。同じ水槽で飼育している他のサンゴに餌を与える場合でも、餌を与えすぎて水質を悪化させるようなことがないよう注意します。

添加剤

添加剤はカルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなど骨格の形成に必要な元素を添加するほか、ヨウ素や微量元素が必要になります。カルシウムは添加剤を利用してもいいのですが、イオンバランスの崩壊などのリスクがあることを考えると、KHの安定にも役立つカルシウムリアクターを用いてカルシウム濃度を安定させた方が簡単でしょう。

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ナガレハナサンゴをお迎えする

まず購入してはいけないのが、骨格がみえてしまっているようなものです。こうなってしまうと回復させるのは困難です。硝酸塩の蓄積や強すぎる水流でダメージを受けてしまうこともありますが、いずれにせよ最初から骨格が見える個体は購入しない方が賢明です。

産地は従来はベトナムやインドネシアから来ていましたがインドネシアでの問題のあとはオーストラリア、マレーシアなどからの入荷がメインになっています。ただし2020年1月現在は再びインドネシアから来ていますが、従来よりも高価です。

ナガレハナサンゴとほかの生物との関係

ほかのサンゴとの関係

ナガレハナサンゴは比較的水質悪化に弱いため、ミドリイシやショウガサンゴなど、同じように水質悪化に弱いサンゴと組み合わせたいところですが、ナガレハナサンゴを置く場所には配慮しなければなりません。強すぎるメタハラの直下は避けるようにします。

またナガレハナサンゴは強毒のスイーパー触手をだしほかのサンゴを溶かしてしまうことがあります。そのためほかのサンゴとの接触は避けなければなりません。ナガレハナサンゴ同士、もしくは近縁のコエダナガレハナサンゴ同士は接触しても問題ないことが多いですが、ハナサンゴは溶かしてしまうこともありますので接触させてはいけません。

逆に同じく和名に「ハナサンゴ」の文字をもつオオナガレハナサンゴ(トランペットコーラル)はナガレハナサンゴよりもさらに強い毒をもち、ナガレハナサンゴがダメージを受けることが多くあります。とくにオオナガレハナサンゴは大きく膨らむことがあり接触しやすいので注意が必要です。

魚・甲殻類などとの関係

サンゴをつつくようなヤッコやチョウチョウウオにはよい餌になってしまうことが多いです。クマノミの仲間もナガレハナサンゴにすり寄ることがあり、おすすめできません。このような魚とナガレハナサンゴとの飼育は不適です。ハギやアイゴの仲間は問題ないこともあるのですが、個体によってはサンゴをつついてダメにしてしまうこともあるのでなるべく避けます。共肉が減退しているとあっというまに食べられて丸裸にされてしまうことがあります。

小型のスズメダイ、ベラ類、遊泳性ハゼ、ピグミーゴビー、ハナダイ・バスレット類、イトヒキベラ、クジャクベラ、テンジクダイなどを少しだけ飼育するのが望ましいといえます。ベントスハゼはミズタマハゼやオトメハゼならまだよいのですが、アカハチハゼやサラサハゼといった種はサンゴに砂をかけてダメージをあたえることもあり、一緒に飼育するのは避けるべきです。またミズタマハゼなどであっても砂がかかるほどの底層にサンゴを置くのは避けなければなりません。

甲殻類のうちモエビの仲間のフシウデサンゴモエビなどはLPSの共肉などをむしって食べるようなものもいるのでよくありません。イセエビや大型のカニ、大型のヤドカリは岩組を壊してしまうこともあります。

ナガレハナサンゴ飼育まとめ

  • ミドリイシほどではないが強い水流と綺麗な水が必要
  • 水流になびくポリプや色が美しく人気
  • ハナサンゴやコエダナガレハナサンゴによく似る
  • 90cm以上のオーバーフロー水槽でベルリンシステムでの飼育が最適
  • 水温は25℃前後で一定を保つ
  • 強く複雑な水流を作りたいが、強すぎるのはだめ
  • 照明も強すぎるものは好まない
  • 水は常にきれいに、硝酸塩は低めの値を好む
  • マグネシウムやヨウ素など添加が重要。カルシウムはリアクターの使用が望ましい
  • 骨格が見えているものは購入しない
  • ほかのサンゴと接触しないよう注意
  • 魚やエビとの飼育には注意が必要

2020.09.21 (公開 2020.01.31) 海水魚飼育の基礎

最初に水槽に入れる「パイロットフィッシュ」におすすめの魚

海水魚を複数飼育できる、長期安定した水槽の環境をつくるために、最初は丈夫で飼いやすい海水魚を飼育し、ろ過バクテリアを育成する必要があります。これが「パイロットフィッシュ」です。

このパイロットフィッシュは基本的にスズメダイや小型のハゼといった丈夫で飼育しやすい魚が用いられることが多いです。しかし最近スズメダイの仲間はパイロットフィッシュとして用いられることは少なくなってきました。今回はパイロットフィッシュにはどんな魚が適しているのか、ご紹介します。

「パイロットフィッシュ」のふたつの意味

一般に「パイロットフィッシュ」といえば、二つの意味があります。

魚の種類を指す「パイロットフィッシュ」

▲ブリモドキ(スズキ目アジ科)

一般的にテレビなどでよく「パイロットフィッシュ」として紹介される魚は大きな魚、とくにサメ類について泳ぐ魚です。サメなどの鼻先を泳ぐことも多く、サメを先導して泳ぐように見えることからこの名がついたともいわれています。また英語で「Pilotfish」というとこの習性をもつブリモドキのことなのですが、ブリモドキ以外にも同じアジ科のコガネシマアジも大型魚を先導して泳ぎます。なおこの2種は近い仲間ではなく、ブリモドキは稜鱗がないNaucratinae(ブリなどに近い)、コガネシマアジは稜鱗のあるアジ亜科となっています。

これらの魚を飼育するのにサメなどの大きい魚は不要ですが、巨大な水槽が必要です。遊泳性が強いのももちろんなのですが、とくにコガネシマアジは全長1m近くになる巨大な魚で水槽内でもある程度大きくなります。したがって水槽も巨大なものが必要になります。なお、ブリモドキは食用にもなり、刺身などで食べられそこそこ美味です。

アクアリウム用語の「パイロットフィッシュ」

アクアリウム用語で「パイロットフィッシュ」(またはテストフィッシュ)といえば、水槽内にバクテリアを増やすために、最初に水槽に入れる魚のことをさします。淡水魚・海水魚両方で使用され、淡水魚の仲間では丈夫なメダカ類や小型カラシンなどが入れられ、海水魚の世界ではスズメダイが従来入れられてきました(後述)。

いずれにせよ小型で水質の悪化にも強めで丈夫な魚が入れられることが多いです。

パイロットフィッシュの役割

マリンアクアリウムの水槽システムではベルリンシステムなどナチュラルシステム(や、それらを発展させたゼオビットなど)か、ろ過槽を用いたシステムのどちらかが使用されることがほとんどですが、ろ過槽を用いた水槽システムの場合、生物ろ過を採用することがほとんどです。生物ろ過の詳細についてはこちらをご覧ください。

パイロットフィッシュの役割としては「水槽内でさまざまな海水魚を飼えるようにすること」にあります。ライブロックを入れて、そのあとすぐ液状のバクテリアを入れることもありますが、そのバクテリアの餌も増やしていかなければなりません。

魚を住まわせ、排せつをさせてバクテリアを育てていきます。また魚の調子を確認し、この水槽が海水魚の飼育に適しているかをチェックします。

そのため丈夫で飼育しやすい魚を入れていくのです。ヤッコやチョウチョウウオ、ニザダイの仲間はやや病気にかかりやすく、この役目を果たすことは困難です。さらに水槽立ち上げ初期に殺菌灯をつけてしまうとせっかくのバクテリアも殺してしまうのでよくありません。

パイロットフィッシュをうまく飼育して、1か月ほど経ったらカクレクマノミや小型ヤッコなど飼いたい魚を入れていくのが確実でしょう。

パイロットフィッシュに適した海水魚

スズメダイは適していない!

▲スズメダイの仲間はあまり適していない

従来、このパイロットフィッシュの用途にはスズメダイの仲間がよく入れられてきました。しかしスズメダイの仲間はたいへん気が強く、60cm程度の小さな水槽ではすぐに暴君となってしまい、ほかの魚を入れられなくなってしまいます。デバスズメダイはおとなしいのですが、ルリスズメダイなどと比べるとちょっとばかり水質の変化や病気に弱いところがあり、こちらも適しているといえるか微妙なところがあります。カクレクマノミも最近は養殖個体の流通が多くなりだいぶ安定していますが、汚い水では体調を崩してしまうこともあります。ある程度生物ろ過が働いてから水槽に入れるようにするとよいでしょう。

一方最近はテンジクダイの仲間をすすめることもあるようなのですが、テンジクダイの仲間は種類により丈夫なものとすぐに病気にかかってしまうものがおり、注意が必要です。

ハゼの仲間

▲ゼブラハゼ

ハゼの仲間も色々あり、初心者にはどのハゼを選んだらいいか迷ってしまいます。ただし、一般的に観賞魚店で販売されているハゼの仲間は限られてきます。

個人的にパイロットフィッシュとしておすすめのハゼは遊泳性のハゼで、ハタタテハゼやアケボノハゼ、ゼブラハゼといった種類が丈夫で色も綺麗なのでおすすめです。パイロットフィッシュに向いている遊泳性のハゼは単独でも飼育できるもので、オグロクロユリハゼのような臆病で群れることが多いものは、あまり向いていないともいえます。

ダテハゼの仲間、ギンガハゼ、ヒレナガネジリンボウといった共生ハゼの仲間も初心者におすすめです。共生ハゼもテッポウエビも大変丈夫で飼育しやすく、最初の水合わせに失敗しなければ、ユニークな習性を水槽で観察することができるでしょう。ただし砂を敷いておく必要があります。

砂中の生物を食べるミズタマハゼやオトメハゼといったハゼもおすすめですが、この砂中のハゼの中にはアカハチハゼなどサンゴ水槽に向かない種もいますので注意が必要です。また、これらのハゼも砂を敷いていない水槽では入れられません。

なお、私はハタタテハゼを最初に飼育しました。

初心者にはおすすめできないハゼの仲間

一方、初心者におすすめできないハゼもいます。キイロサンゴハゼやコバンハゼといったハゼは皮膚から毒をだし、ほかの魚を死に至らしめることもあります。アカハチハゼやサラサハゼといったベントスゴビーの中でもよく浮かんでいるタイプはサンゴに砂を撒きちらすこともあり、将来サンゴ水槽にしたい!と思っている方にはおすすめできません。

このほか小型のイソハゼやベニハゼの仲間は小さく臆病でほかの魚との混泳を難しくするので、これもだめな組み合わせといえます。逆にクモハゼやクツワハゼ、アカオビシマハゼなどは大きく育ち性格もきつく、ほかの魚を食べてしまうこともあります。

カエルウオの仲間

▲ヤエヤマギンポ

小型でかわいいテールスポットブレニー

カエルウオの仲間もハゼの仲間ほどではないですが豊富な種類がいます。ヤエヤマギンポは水槽やライブロックに付着するコケをある程度食べてくれるので人気です。しかしヤエヤマギンポは全長10cmほどになるため注意が必要です。

小型水槽ではニラミギンポ属のテールスポットブレニーなど色々いますが、中には弱ったサンゴにダメージを与えることもあるので十分注意しなければなりません。この属のカエルウオは掃除係ではなく、カラフルな色彩を楽しむタイプです。

なおカエルウオの仲間は争うことがあるので、小型水槽では一つの水槽にカエルウオの仲間を1匹しか入れられないこともあります。とくにヤエヤマギンポやカエルウオ、インドカエルウオ、フタイロカエルウオといった種はやや気が強めなので注意が必要です。

フタはしっかり

上にあげた魚にはある「共通点」があります。それは「飛び出しやすい」ということです。遊泳性のハゼなどは何かに驚くと狭い隙間から飛び出してしまうこともありますし、カエルウオの仲間のある種は岩の上をぴょんぴょんと飛び跳ねることさえありますので、フタはしっかりしましょう。できれば隙間もプラ板などでふさぎ、対策をしっかりしておきたいものです。

パイロットフィッシュの数

1匹だけいれましょう。ハタタテハゼなどは自然下で群れをつくりますが、水槽内、特に狭い水槽では争うのでとくに当初は1匹だけで飼育するのがよいでしょう。一方、極めて臆病なオグロクロユリハゼなどは水槽内でも群れで飼育したいため、パイロットフィッシュには向いていません。共生ハゼを飼育する場合はテッポウエビ+ハゼで大丈夫です。

水槽を立ち上げて間もない時期に沢山魚を入れてしまうと生物ろ過が追い付かず魚が死んでしまうことがあります。次々いろいろな魚を入れるアクアリストもいますが、この時期に多数魚をいれると失敗しやすいので、どれだけがまんできるかが大事です。

パイロットフィッシュの餌

▲配合飼料を与える

餌もできるだけ少なくとどめておきます。とくに魚が来たばかりのころは、餌やりというのは一番楽しいものですが、ここで餌を与えすぎてしまうと水が汚れ、魚が死んでしまいます。一例として45cm水槽でハタタテハゼ1匹くらいであれば、「メガバイトレッドS」を付属のスプーンの半分からすりきり1杯くらい与えます。

冷凍餌はどうしても餌付かないときに与えますが、この手の餌は特に水を汚すため、絶対に与えすぎないように注意しましょう。

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パイロットフィッシュまとめ

  • 丈夫で飼育しやすい魚を最初に水槽で泳がせる
  • 海水魚でパイロットフィッシュといえばブリモドキなどを指すことも
  • パイロットフィッシュに排せつをさせてバクテリアを増殖させる
  • ハタタテハゼなどのハゼやカエルウオの仲間が最適
  • これらの魚を飼育するためにフタはしっかり
  • 魚の数は少なく抑える。ここで失敗するアクアリストも多い
  • 餌の量も少なくしなければならない

2020.09.21 (公開 2020.01.30) 海水魚図鑑

ヒメゴンベの飼育方法~サラサゴンベよりも大きくなり混泳にも注意!

ヒメゴンベはサラサゴンベと同じオキゴンベ属のゴンベの仲間です。しかしサラサゴンベよりも大きくなり、全長10cmをこえるため、小型水槽では飼育しにくく、大きいものは性格もきつくなり注意が必要です。飼育自体は丈夫で飼いやすいのですが、混泳については注意しなければなりません。今回はヒメゴンベの飼育方法をご紹介します。

標準和名 ヒメゴンベ
学名 Cirrhitichthys oxycephalus (Bleeker, 1855)
英名 Coral hawkfish, Pixi hawkfish, Spotted hawkfishなど
分類 条鰭綱・スズキ目・スズキ亜目・ゴンベ科・オキゴンベ属
全長 10cm
飼育難易度 ★☆☆☆☆
おすすめの餌 メガバイトレッドなど
温度 25℃前後
水槽 60cm~
混泳 性格はきつい。小魚や温和な魚、おなじゴンベ科魚類とは混泳できない
サンゴとの飼育 可。ただしサンゴの上にのっかりストレスをあたえることも

ヒメゴンベって、どんな魚?

▲もちろん背鰭の「ふさふさ」もある

ヒメゴンベはゴンベ科オキゴンベ属の海水魚です。体は薄いピンク色や白色で、体側には赤黒い斑点が並ぶという、派手な色彩の魚です。ゴンベの仲間の魅力の一つでもある背鰭の糸状突起もよく発達しています。成長すると全長10cmを超え、この仲間では大きく育つ魚です。そのため小型水槽での飼育にはあまり適していないので、注意が必要です。

色彩は個体により差が見られ、体のピンク色がより薄く白っぽいもの、逆にピンク色が強いもの、斑点が黄色味を帯びるものなど色々います。ミナミゴンベという魚は本種によく似ていますが、ヒメゴンベの尾鰭には赤い斑点が多数あるのに対し、ミナミゴンベの尾鰭には斑点がありません。

オキゴンベ属の魚

▲サラサゴンベ

▲オキゴンベ

ヒメゴンベはオキゴンベ属の魚です。オキゴンベ属はインド-汎太平洋(つまり、東太平洋沿岸も含む)に分布しています。8種が知られますがアクアリウムで流通するのはヒメゴンベ、ミナミゴンベ、サラサゴンベくらいのもので、他の種の入荷はまれです。

人気があるのはサラサゴンベで、ヒメゴンベ同様にカラフルな色彩をもち、しかも7cmとヒメゴンベと比べて小型であり、カクレクマノミなどとも組み合わせやすいといえます。

オキゴンベという魚は主に千葉県から九州までの太平洋岸、山口県以南の日本海岸に生息しています。オレンジ色の派手な色彩ですが模様は薄くやや地味です。観賞魚として流通することはほとんどないのですが、磯釣りなどで釣れることがあり、このような個体を飼育するのも楽しいでしょう。

ヒメゴンベ飼育に適した環境

水槽

水槽は45cm水槽でも飼育可能と思われますが、できれば60cm以上の水槽での飼育が望ましいでしょう。混泳させる魚の種類によっては90cm以上の水槽が必要なこともあります。またサンゴ水槽でも同様のサイズのものが望ましいでしょう。

水質とろ過システム

▲汚い水槽でも飼育はできるが…。

ヒメゴンベは非常に丈夫な魚ですので、汚い環境でも飼育できますができるだけきれいな水槽で飼育してあげたいものです。外掛けろ過槽はろ過能力が低く、水槽上部に隙間ができやすいのでおすすめできません。60cm水槽で上部ろ過槽、もしくはオーバーフロー水槽での飼育が望ましいでしょう。

サンゴを食べたりしないのでサンゴ水槽でも入れられますが、サンゴの上に乗っかりサンゴにストレスになることもあるので、分散するという意味でも大型水槽が望ましいでしょう。サンゴ水槽に最適なのはベルリンシステムや、ゼオビットシステムなどの超低栄養塩システムですが、これらのシステムでは魚は多く入れることができません。またヒメゴンベを入れたら小魚や小型甲殻類などは入れられなくなってしまいます。

水温

25℃前後が最適です。22~28℃であれば飼育可能で、ほかの魚の適正水温に合わせていいのですが、できるだけ一定の水温を保つようにします。水温の変動が大きいと、いくら丈夫なヒメゴンベであっても体調を崩して病気になってしまうことがあるからです。

フタ

ゴンベは特徴的な泳ぎ方をし、水槽から飛び出してしまうこともありますのでフタはしっかりしましょう。

ヒメゴンベに適した餌

ヒメゴンベは動物食性です。しかし、わざわざホワイトシュリンプやブラインシュリンプばかり与える必要はありません。配合飼料もすぐ食べるようになります。粒餌を与える場合は、サイズに合わせて粒のサイズを選ぶとよいでしょう。フレークは軽くて浮いているので魚には見えやすいですが、餌自体はうすっぺらで魚の腹を満たしにくいというデメリットもあるため、フレークよりは粒の餌の方がよいでしょう。

ホワイトシュリンプなどを与えるのもよいのですが、このような冷凍餌は与えると水を汚すので、配合飼料をなかなか食べないときや、採集・購入してすぐのときを除きあまり与えない方がよいかもしれません。

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ヒメゴンベをお迎えする

ヒメゴンベは観賞魚店で購入できます。また紀伊半島や四国太平洋岸では採集することもできます。

購入する

▲健康なヒメゴンベ

ヒメゴンベは海水魚店で購入できます。しかし、サラサゴンベほど販売数は多くなく、サラサゴンベよりもやや高価です。また多くは東南アジアから来るため、しっかりチェックしなければなりません。

具体的にいえば、口に傷がない、鰭や体表に白い斑点がない、鰭や体表に爛れや白い点がない、鰭が溶けていない、眼が白く濁ったり突出していない個体を選ぶようにします。また入荷直後の個体はできる限り避けるようにします。入荷した日を聞いておきましょう。

採集する

▲磯で採集されたヒメゴンベ

ヒメゴンベは磯で採集できるほか、大きめの個体は磯釣りで採集することもできます。釣り採集では上手く採集すると網によるスレ傷などを防ぐことができます。口の傷は短い時間で癒え、翌日に餌を食べはじめる、ということもあります。

海水魚を釣りで採集する方法についてはこちらをごらんください。

ヒメゴンベとほかの生物の関係

ヒメゴンベとほかの魚との混泳

▲気が強い魚同士の混泳例

ヒメゴンベは性格がややきついので、混泳魚にも気を使います。ハゼの仲間や小型カエルウオなどは一緒に飼育してはいけません。

同じくらいの大きさのクマノミ、同じサイズのハナダイ、中・大型ヤッコ、ベラの仲間、ナンヨウハギなどが適しています。メギスの仲間はヒメゴンベが大きくなるとゴンベに捕食されるおそれがあり、大きすぎるとヒメゴンベとも激しく争うことがあります。スズメダイの仲間も大きすぎると危険です。写真はそのような強めの海水魚同士の混泳水槽です。

ヒメゴンベとサンゴ・無脊椎動物との相性

ヒメゴンベはサンゴを捕食するような魚ではなく、サンゴ水槽での飼育もできます。しかし、ヒメゴンベがサンゴの上に乗っかっているとサンゴにストレスになりますので、注意が必要です。観察を怠らないようにしましょう。

サンゴの上に乗っかることもありますが、逆にイソギンチャクとの飼育ではイソギンチャクに捕食されてしまうこともあります。ただし小型のディスクコーラルやマメスナギンチャクに捕食されることはありません。幼魚は大型のディスクコーラルには注意する必要があります。

無脊椎動物については甲殻類との飼育はいけません。ゴンベの仲間は甲殻類をばりばり食べてしまうからです。またアカシマシラヒゲエビ(スカンクシュリンプ)のようなクリーナーさえ食べてしまうことがあるので危険です。逆に大きいイセエビなどには襲われる可能性もあり、一緒に飼育するのは避けるべきです。

ヒメゴンベ飼育まとめ

  • サラサゴンベと同じ仲間だがやや大きく育つ
  • 水槽は60cmが欲しい
  • 汚い水槽でも飼育できなくはないが上部ろ過槽できれいな水を保ちたい
  • 水温は25℃をキープする
  • 飛び出しやすいのでフタもしっかりする
  • 粒餌もすぐ食べる。食べない場合は冷凍のホワイトシュリンプなどを与える
  • 購入する場合は魚の体や入荷した日をチェック
  • 気が強いのでほかの魚との混泳は注意
  • サンゴの上に乗っかりストレスになることもある
  • 甲殻類は食べてしまうので一緒に飼育はできない

2020.10.17 (公開 2020.01.28) 水槽・器具

アクアリウム水槽に「フタ」が必要な理由

飼育していた魚が飛び出して死んでしまったら悲しいものです。そのような事故を防ぐためには、水槽にフタをしておくのが一番です。フタは魚の飛び出しを防ぐだけでなく、地震の際に水のはねを防いだり、水槽の上に小物を置いたりできるなど重要な役割をします。今回は水槽にフタが必要な理由についてご紹介します。

水槽にフタを置くメリット

魚の飛び出しを防ぐことができる

フタをしておくことで魚が飛び跳ねることを防いでくれます。これがないと飼育が出来ないような魚も多数います(後述)。しかし、ふたをもちあげるための「切り掛け」がフタの隅にあることも多く、そのようなところは、飼育する魚の種類によってはプラ板などで塞いでおく必要があります。

水が跳ねにくい・蒸発を(あるていど)防ぐ

水槽で魚やサンゴを飼育していると、水流が欲しいところです。とくに水流は重要です、波を起こすような強い水流ポンプがSPSには喜ばれますが、水が水槽の上方に跳ねることがあり、そうなると水槽の周辺に塩だれができることがあります。またヒーターなどを使用し飼育していると水分が蒸発しやすいのですが、フタがあるとその蒸発をある程度緩和してくれるでしょう。

また、地震などが発生した際もフタをしていないと大規模な水漏れが発生しますが、フタをしておけばそれを緩和してくれます。ぜひとも設置するようにしましょう。

水槽の上にものを置くことができる

よく使う小物を水槽の上に置いておくことができます。具体的には小さなスポイトやビーカー、コケ取りグッズなどです。しかしあまりにも多くのものを置いておくと光を遮ったりしまうのでほどほどにします。また重いものを乗せるとガラス製のフタは割れてしまうことがあります。

餌や添加剤など、水槽に多量に入ってしまうと水槽が壊滅状態になるものは置かないようにしましょう。またLEDやT5はメタハラほどではないですが熱くなるのでそばに置くのは望ましくないです。

油などが水槽に入らないようにする

ゴールデンウィークや、冬休みなど、家族が集まっての焼肉パーティというのも楽しいものです。しかし、家中で焼肉をすると油が飛び跳ねてしまうこともあり、水槽に油がはねると水槽の表面に油が浮いてしまいます。その対策のためにも、フタをしっかりしめるようにしたいものです。もちろん、部屋の壁などに飛び散ることもありますので、しっかり拭いておきたいものです。

ネコ対策

▲ネコは水槽の上に乗ることがある

哺乳類のペットのうち、とくにネコは水槽の上に乗っかることがあります。愛猫家アクアリストも多いのですが、ネコが水槽によじ登ったりするので、いろいろ対策は必要です。そのためにはしっかりしたフタとフタ受けが必要になります。もしフタがないとネコが水槽内に転落して毛が抜け落ちたり、最悪の場合溺死してしまうこともあります。ネコ対策についてはこちらもご覧ください。

水槽にフタをするデメリット・注意点

光が遮られることがある

透明なガラス製フタの場合、水槽にフタをしても光を遮られることはないのですが、フタに水が跳ね、その水にコケがつき光を遮ってしまうことがあります。そうなると照明の光が遮られてしまいます。定期的にフタをふく必要がありますが、このようなデメリットも魚を飛び出しで死なせたりすることと比べたら微々たるものです。

水槽に合ったサイズのものが必要

フタを購入する場合、その水槽に適したサイズのフタが必要になります。90cm水槽に60cm水槽用のフタを使うことはできません。水槽の大きさに合わせたサイズのフタが必要になります。最近は水槽を購入すると専用のフタが付属することも多いのですが、そのフタが割れたときのことも頭にいれましょう。

オールガラス水槽には直接フタをできない

オールガラス水槽でフタをするときには専用のフタ受け(ガラスフックとも)が必要です。水槽を購入すると付属してくることもありますが、付属していない場合は購入する必要があります。

水槽のフタの素材

▲誤まって踏んで割れてしまったガラスフタ

水槽のフタの素材はガラス製のフタが多く用いられますが、アクリルやビニル製のものも市販されています。

一般的に多くの水槽で用いられるのはガラス製のフタで、透明感があり安価です。しかし大型水槽でガラス製のフタを使用すると重くなってしまいます。一方アクリル製のフタはガラス製と比べて軽量で扱いやすく、割れることもありませんが、ガラス製のフタと比べて高価で、薄いものは変形することもあるため注意が必要です。

なお、我が家の海水魚水槽で使用しているのはサムネイル画像にもなっているアクリル製のふたがメインで、ウツボ水槽にガラスフタを使用しています。

水槽用ガラスフタいろいろ

45cm用

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60cm水槽 上部ろ過槽用

ジェックス ガラスフタ 60-A 1枚

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60cm水槽 外部ろ過槽や底面ろ過槽用

ジェックス ガラスフタ 60-B 1枚

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フチがない水槽の場合どうやって水槽にフタをする?

▲オールガラス水槽にフタ受けをしてフタを乗せる

アクリル水槽や、ニッソーの「スティングレー」のようなフチありアクリル水槽であれば、そのままフタをすることができますが、オールガラス水槽の場合は専用の「フタ受け」を使用してフタを取り付けるか、水槽の上にキャノピーを取り付けてその上にフタをする方法がありますが、一般的には前者が最適でしょう。

フタ受けを使用する場合は対応ガラス厚を確認する必要があります。あらかじめ水槽のガラス厚を調べてから購入しましょう。また海水魚水槽の場合はステンレス製よりもプラスチック製のものなどが適しているでしょう。

とくにフタが必要な魚・無脊椎動物

どんな魚も水槽から飛び出してしまう可能性がある以上、魚を飼育している水槽には必ずフタをしておきたいものなのですが、ここでは特にフタが必要(=飛び出しやすい)な魚や無脊椎動物をご紹介します。フタをするだけでなく、フタの切りかけ部分の隙間も埋められれば完璧でしょう。

遊泳性ハゼの仲間

▲遊泳性ハゼは全般的に飛び出しに注意

飛び出しでアクアリストを最も多く悲しませてきたのがこの遊泳性ハゼではないでしょうか。非常に飛び出しやすいので、しっかりフタをし、そのフタの隙間をなくすようにしなければなりません。

また混泳する魚にも注意が必要です。スズメダイのように気が強い魚や、ベラなどよく泳ぐ魚がいると、驚いて水槽から飛び出してしまうこともあるため、注意しなければなりません。できれば共生ハゼの仲間(小型種)や穏やかな小型のテンジクダイ、ヨウジウオ、ネズッポなどとの混泳が適しています。

共生ハゼの仲間

▲共生ハゼも飛び出しに注意

いつも水槽の底の方にいる共生ハゼですが、驚くと飛び出してしまうことがあるので注意が必要です。とくにパートナーのテッポウエビがいない状態で飼育していると、壁をつたい水槽のかなり上の方にいることもあるので危ないです。しっかりフタの隙間をうめたり、オーバーフローの管上にもフタをしておきます。

ベントスハゼ・底生ハゼの仲間

▲アカハチハゼ

アカハチハゼなど底砂をもぐもぐするベントスゴビーの仲間も驚くと飛び跳ねることがあり、フタがないと干物と対面してしまうことになります。また意外と底の方にすむハゼも、やはり驚くと飛び跳ねてしまうことがあります。

どのハゼの仲間も「飛び出しやすい」といえるかもしれません。

カエルウオの仲間

▲タネギンポやカエルウオなどは飛び出しやすい

▲オーバーフロー管にもフタをしよう

カエルウオの仲間はその習性から飼育にはフタが絶対に必要になります。とくに飛び出しやすいカエルウオはカエルウオ、センカエルウオ、モンツキカエルウオ、タネギンポ、スジギンポ、タマカエルウオ、ヨダレカケといったタイドプールのごく浅い場所に生息するものは飛び出す危険性が高いといえるでしょう。

とくにオーバーフロー水槽ではフロー管の上にフタをするなどの対策が必要になることもあります。サンプに落ちたら死んでしまうこともありますので、フロー管の上がオープンになっている場合は必ずフロー管の上にもフタをしておきたいものです。見栄えはあまりよくないのですが、写真のようなアクリル板を置くだけでも十分違います。

ベラの仲間

▲ベラの仲間、とくにイトヒキベラは飛び出し注意

ベラの仲間も遊泳性が強いものがおおく、勢い余って水槽から飛び出してしまうことも多いです。初心者向けのイトヒキベラやクジャクベラは複数入れるとほかのベラを追いかけることがあるので絶対にフタをしてください。そうでないと飛び出して死んでしまうことがあるからです。もちろんほかのベラの仲間を飼育するときもフタをしましょう。

ウツボ・アナゴ・ウミヘビ

▲クモウツボは脱走の名人

ウツボやアナゴ、ウミヘビ、海水魚といえるかは微妙なところですがニホンウナギやオオウナギも脱走の名人です。そのためしっかりしたフタが必要になります。意外な魚でいえば、水族館の人気者であるチンアナゴもジャンプして脱走することがあるのでフタは確実にしなければなりません。

またこれらの魚はフタをするだけではなく、できれば隙間を埋めるような工夫をしたほうがよいでしょう。小さな隙間からも脱走してしまう恐れがあるからです。とくに体が細いモヨウモンガラドオシや、シマウミヘビなどは要注意です。ウツボの仲間を飼育するときはサイズにもよりますが、ペットボトルに水を詰めた「重石」もあったほうがよいでしょう。ただ重い石を乗せたらフタが割れることもあり危険です。

ボラ

▲ボラの仲間を飼育するときはフタが必須

ボラの仲間も水面からぴょん、と飛び跳ねてしまうことがあります。とくにワニグチボラなどは水面に浮かんでいることも多いため、飛び跳ねて死んでしまうこともあるため、しっかりフタをすることが大事です。

ゴンベの仲間

▲底の方にいるゴンベの仲間も飛び跳ねることがある

ゴンベの仲間も独特な泳ぎ方をします。底の方にいることが多いのですが、餌を求めて中層から表層を泳ぐこともあります。その際に驚くと跳ねてしまうこともあります。もちろん地震などが来たときも飛び跳ねてしまうことがあります。そのためフタはしっかりしておかなければなりません。

ヤドカリ・カニ

▲シロサンゴヤドカリ

ヤドカリやカニの仲間は種類により、コードを伝って外出するおそれがあります。そして外出してしまうと、もう元には戻れません。やはりフタの隙間を埋めるものもあった方がよいでしょう。とくにイソガニの仲間やイワガニの仲間、スベスベサンゴヤドカリ、シロサンゴヤドカリなどは脱走に注意します。脱走しても戻ってくるようなことはなく、死んでしまいますのでかならずフタをしてあげましょう。

タコ

タコも脱走の名手です。とても頭がいいため、ただフタをするだけではだめで、重石もしっかりしておかなければなりません。そして非常に狭い隙間からも変幻自在、するりとすりぬけます。その結果タコは水槽外に飛び出してしまい死んでしまいます。タコを飼育するのであれば、隙間ができないような工夫が必要です。

海水魚水槽のフタまとめ

  • 魚の飛び出しを防ぐことができる
  • 飛び出しを防ぐならできるだけ隙間も埋めておきたい
  • 水が跳ねにくく蒸発もある程度防げる
  • フタの上にいつも使う小物を置くこともできる
  • 水が跳ねて光を遮らないよう注意
  • 水槽サイズにあったフタを使用する
  • オールガラス水槽ではフタ受けを使用する
  • ハゼやベラ、カエルウオ、ウツボ、アナゴ、ボラなどは飛び出しに特に注意
  • タコやヤドカリはコードを伝うなどして外にでてしまうことも

45cm用

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60cm水槽 上部ろ過槽用

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2020.09.21 (公開 2020.01.27) 海水魚図鑑

ゴンベの仲間を飼育する~混泳やサンゴ水槽での注意点

ゴンベの仲間はアクアリウムで親しまれている魚です。サンゴにはあまり害がないので、サンゴ水槽で飼育されていることも多いのですが、性格はきついものもおり、混泳には注意が必要です。今回はゴンベの仲間はどんな魚なのか、どのような習性をもった魚なのかについてご紹介します。

ゴンベの仲間の特徴

「ゴンベ」はスズキ目ゴンベ科魚類の総称です。ゴンベの仲間は大きな二つの特徴によりほかの多くの魚類と見分けることができます。

胸鰭

▲ミナミゴンベの胸鰭下部軟条

ゴンベの仲間や、近縁のタカノハダイ科の魚は胸鰭下部の軟条が肥厚し長く伸びるという特徴があります。このほかメバル科の魚種にも肥厚した胸鰭をもっているものもいますが、同じように岩やサンゴなどの上にいることが多いゴンベの仲間がこのような特徴を持っているのは興味深いものです。

背鰭の糸状突起

▲ヒメゴンベの背鰭にある糸状の突起

ゴンベの仲間の背鰭には糸状突起があります。どの種にもあるようですが、一部の種では目立ちません。この糸状突起はゴンベ科にはありますが、近縁とされるタカノハダイ科やケイロダクチュルス科の魚類には見られず、この背鰭の糸状突起の有無で見分けることができます。

ゴンベの仲間の近縁種

よく似たタカノハダイ科

▲タカノハダイ科の代表種タカノハダイ

タカノハダイの仲間はゴンベ科に似ており、胸鰭下方部の軟条が肥厚しているのが特徴で、魚類図鑑でもタカノハダイと近い位置に置かれていることが多いです。ただしゴンベの仲間とは異なり背鰭棘先端の糸状突起がありません。

分布域は南半球のとくにオーストラリア近海に多くの種類が見られます。北半球では種類が少なく、日本、韓国、中国、ハワイ諸島にすこしいるだけです(うち日本産は3種)。観賞魚としてはオーストラリア産の種類が少し販売される程度であり、しかも低い水温が必要、さらに高価であることから、あまり人気がありません。一方近海に生息するタカノハダイは磯で幼魚を採集することができます。沖縄にも分布しているものの、基本的には温帯の魚ですので水温は低めに抑えたいものです。

またゴンベ科の魚は全長50cmにもなるものがいますが、多くは20cm以下の小型種です。一方タカノハダイは全長80cmになるものもいます(日本のタカノハダイは30cmくらい)。日本ではゴンベ科の魚はほとんど食用にはなりませんが、タカノハダイは市場にも出て食用になり、とくに冬に美味です。

なお、日本産のタカノハダイはすべて現在はLatridaeの中に含まれています。科の標準和名は従来ユメタカノハダイ科とされていましたが、現在はタカノハダイ科に変更になっています。

ケイロダクチュルス科

▲バードフィンガーフィン。東京・葛西臨海水族園

南アフリカにはタカノハダイ科に近縁のケイロダクチュルス科Cheilodactylidaeというのもいます。この科の中には従来タカノハダイやミギマキ、タラキヒなども含まれていましたが、Cheilodactylus属の2種を除き、現在は別科になっています。ただし、海外の文献や、日本でもWikipediaなどを見ているとこの属の中に日本産のタカノハダイなどが含まれていることもあり、注意が必要です。

ハナゴンベはゴンベの仲間ではない

▲ハナゴンベ

ハナゴンベは名前に「ゴンベ」とあり、実際に過去ゴンベ科に含まれてきましたが、現在はハタ科ハナダイ亜科に含まれています。可憐な見た目で混泳もさせやすく、サンゴにも無害なハナダイ亜科ですので人気が高い魚です。ただし水質についてはゴンベ科魚類の多くの種よりも高いレベルのものが求められます。ハナゴンベの飼育については、こちらをご覧ください。

ゴンベの仲間に適した飼育環境

一般的なゴンベであれば水槽は最低でも45cm、混泳をしたいのであればできれば60cm水槽が欲しいところです。大型になるイレズミゴンベやジャイアントホークフィッシュはもっと大きなサイズの水槽が必要になります。

ろ過システムについてはゴンベの仲間は飼育しやすく、硝酸塩の蓄積にも耐えられる種類が多いので、魚水槽に向いています(ただしベニゴンベは綺麗な水で飼いたい)。ただしそれでもろ過槽は簡易な外掛けろ過槽は出来るだけ避けるか、ほかのろ過槽と組み合わせるのが適しています。60cm水槽であれば上部ろ過槽を使うとよいでしょう。もちろんオーバーフロー水槽にしてサンプ(水溜め)でろ過を方法は、他を圧倒するろ過能力をもつのでおすすめです。

砂に潜る習性もなく、底面ろ過槽を使用する場合を除き、砂を敷く必要はありません。とくに魚水槽で飼育する場合は砂がない方が管理もしやすいといえます。

また、とびだしてしまうおそれもあるため、水槽にはしっかりフタをしめておきましょう。

ゴンベの仲間に最適な餌

ゴンベの仲間はどの種も動物食性です。そのためホワイトシュリンプなどを与えるべき、という意見もありますが、ホワイトシュリンプばかりだと水が汚れてしまいますので、できるだけ配合飼料を与えるようにします。配合飼料はフレーク状のもの、粒状のものがありますが、粒状がおすすめです。フレークは魚が口でちぎって食べられるなどのメリットもあるのですが、薄っぺらく量的には少ないのです。

どうしても食べない場合は冷凍餌やヨコエビなどを与えるようにします。ただし冷凍のホワイトシュリンプは水質を悪化させやすいので注意が必要です。ろ過を万全にしておくべきでしょう。

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ゴンベの仲間の混泳

ゴンベの仲間は性格がきついものが多く、ほかの魚との混泳はあまり向いていません。とくにメガネゴンベやヒメゴンベなど大きく育つものは気が強いため、できれば中・大型ヤッコやスズメダイなどとの混泳が適しているでしょう。ただしスズメダイも大きいものはかなりきついため注意が必要です。またゴンベの仲間同士も争うのでゴンベの仲間同士の混泳も避けた方が無難でしょう。

ゴンベの仲間と無脊椎動物の相性

▲クダゴンベ。サンゴの上に乗っているのはかわいいが…。

サンゴ水槽で飼育されることが多いゴンベですが、ゴンベの仲間はサンゴの上に乗っかったりすることがあり、長いこと乗っかられるとサンゴにストレスになることがあります。サンゴの調子に注意しましょう。水槽もできるだけ広い水槽で飼育してあげたいものです。またその習性からクマノミと共生するタイプのイソギンチャクに捕食されてしまうこともありますのでこれもいけません。

甲殻類との混泳もタブーです。ゴンベの仲間は甲殻類の仲間を好んで食べるからです。クリーナーシュリンプとして有名なアカシマシラヒゲエビ(スカンクシュリンプ)や、シロボシアカモエビ(ホワイトソックス)さえ襲うことがあります。ゴンベの仲間は混泳できる生物がカクレクマノミやハゼなどよりも少ないというのは、水槽にゴンベの仲間を入れるデメリットといえるでしょう。

ゴンベの仲間の人気種

クダゴンベ

▲クダゴンベ

クダゴンベはゴンベの仲間では細長い体と、長く伸びた吻が特徴です。体には網目模様があり、大変美しいのでゴンベの仲間でもとくに人気がある魚です。細長い口が特徴なのですが、口を大きく開けて甲殻類などを食べてしまいます。その一方なぜか拒食になってしまうこともあり、注意しなければなりません。

ゴンベ科魚類では最も分布が広く、主にフィリピンから入ってくるため、価格もあまり高価ではないのですが、状態には十分注意が必要です。とくに体表に爛れがある個体、鰭がぼろぼろの個体、背肉が落ちているものなどは絶対に購入しないようにします。

クダゴンベの詳しい飼育方法はこちらをご覧ください。

ベニゴンベ

▲ベニゴンベ

このベニゴンベもクダゴンベなどと並び人気が高い種です。とくに全身が赤い体で背中の部分、そして眼のまわりに黒い模様があるなどの点が特徴的です。

自然下ではハナヤサイサンゴの間などに潜んでいることがあります。また飼育する海水も硝酸塩濃度の低い綺麗な水を好みます。そうしないと色があせやすいようです。

琉球列島、小笠原諸島などに分布し、海外では中央太平洋にまでみられます。ただしハワイ諸島にはおらず、ハワイ便で来ることがありますがその場合は別のところで採集されたものがハワイ経由で来ます。また価格もフィリピンのゴンベと比べて高価です。

メガネゴンベ

▲メガネゴンベ

メガネゴンベは和歌山県田辺湾以南に分布し、磯で採集したアクアリストもいます。また、リーフでの釣りで釣れることもあります。丈夫で飼育しやすいですが全長は10cmをこえ、性格はきつくなります。そのため小型のカクレクマノミとの飼育はあまりおすすめしません。またその性格のためでしょうか、販売される数も多くありません。

サラサゴンベ

▲サラサゴンベ

オキゴンベ属の中でもカラフルな種であり、全長7.5cmほどと小さく、後から入れるのであればカクレクマノミとの混泳も可能なのでアクアリストに飼育されることも多い種です。飼育しやすく初心者にもおすすめです。ただしハゼやカエルウオなどを襲うこともあり注意が必要です。

インドネシア便やフィリピン便でコンスタントに入ってきます。ただしその分状態はしっかり見た方がよさそうです。国内では伊豆以南にすみ、アクアリストによる採集例もあります。

サラサゴンベの飼育について詳しくはこちらをご覧ください。

ヒメゴンベ

サラサゴンベに似ているゴンベですが、サラサゴンベよりも大きく全長10cmオーバーになります。そして当然気が強くなり、初心者にはあまりおすすめできません。サラサゴンベに似ていますが眼下の模様は斑点状であり(サラサゴンベでは赤い明瞭な線)、腹部にも斑紋があります(サラサゴンベにはあまりない)。ハゼと混泳していたらハゼをつつき殺してしまったこともあります。ヤッコや大型のクマノミなどと混泳させるべきでしょう。

この種も国内では伊豆半島以南に分布し、アクアリストによる採集例もあります。写真の個体は高知県で釣りにより採集されました。海水魚店で販売されているものの中には国内産も見られます。海外では紅海・南アのイーストロンドンからカリフォルニア湾まで幅広く見られます。

そのほかのゴンベ

ゴンベ科は日本に8属14種、世界では12属33種ほどが知られています。しかしその中で観賞魚として流通する種類はごくわずかです。釣りをしているとウイゴンベやオキゴンベがたまに釣れますし、琉球列島ではさらにホシゴンベやイレズミゴンベ、イソゴンベも釣れます。しかし、釣れたときに大きく傷ついたり、針を飲み込んでしまったものは飼育には向きません。またうまく持ち帰れても、魚の性格が問題になることがあります。とくに大きくなるイレズミゴンベなど、この問題が発生しやすそうです。

ゴンベ飼育まとめ

  • スズキ目ゴンベ科魚類の総称
  • タカノハダイと同様に肥厚した胸鰭軟条をもつ
  • 背鰭棘に糸状突起がありタカノハダイと区別できる
  • ハナゴンベはゴンベの仲間ではない
  • 一般的なサラサゴンベやクダゴンベは45cm水槽でも飼育できる
  • 混泳なら最低でも60cm、種類によっては90cm以上の水槽が欲しい
  • 硝酸塩の蓄積には耐えられる
  • 基本的には砂を敷かなくても飼育できる
  • 動物食性で配合飼料やホワイトシュリンプを与えるとよい
  • きつめの性格のものが多く混泳は避けたい。ゴンベ同士も避ける
  • サンゴにストレスがかからないようよく観察する
  • 甲殻類との混泳は不向き

2020.09.21 (公開 2020.01.23) 海水魚図鑑

ツマジロサンゴヤドカリの飼育方法~おとなしめで飼いやすいヤドカリ

ツマジロサンゴヤドカリは、日本では紀伊半島や四国の太平洋岸の磯で採集することができる小型のサンゴヤドカリの仲間です。丈夫で飼育しやすくコケなども少しは食べてくれます。サンゴヤドカリの仲間はどの種も丈夫で飼育しやすいですが、同じサンゴヤドカリ属の種間では争うことがありますので注意が必要です。今回はツマジロサンゴヤドカリ飼育方法をご紹介します。

標準和名 ツマジロサンゴヤドカリ
学名 Calcinus latens (Randall, 1840)
英名 Hidden hermit
分類 節足動物門・十脚目・ヤドカリ科・サンゴヤドカリ属
全長 1cm
飼育難易度 ★☆☆☆☆
おすすめの餌 メガバイトレッドなど
温度 25℃前後
水槽 45cm~
混泳 ヤドカリを食べるような魚はさける。小型水槽では強いヤドカリとの飼育も避ける
サンゴとの飼育 ハサミや脚でサンゴを落下させることもある。しっかり接着したい

ツマジロサンゴヤドカリって、どんなヤドカリ?

▲ツマジロサンゴヤドカリ

▲近縁種ウスイロサンゴヤドカリ

ツマジロサンゴヤドカリはヤドカリ科・サンゴヤドカリ属のヤドカリです。体や鋏脚などは緑色、脚部の黒い帯と黄色い触覚が特徴的で、派手さはないのですが、魅力的なヤドカリの仲間です。よく似た種類にウスイロサンゴヤドカリというのがいますが、触覚の色や脚部に黒い帯がないことにより見分けることができます。ウスイロサンゴヤドカリも太平洋岸の磯ではよく見られる種類で、控えめな色彩が綺麗なヤドカリです。

ツマジロサンゴヤドカリに適した飼育環境

水槽

小型水槽でも飼育できますが、ろ過がしっかり働いていることが条件です。初心者ならできれば45cm以上の水槽が欲しいところです。

水質とろ過システム

ヤドカリの仲間は硝酸塩濃度の上昇にも耐えられますが、できるだけ綺麗な水で飼育します。小型水槽であれば外掛けろ過槽と外部ろ過槽の併用をおすすめします。60cm水槽であれば上部ろ過槽がおすすめです。もちろんオーバーフロー水槽であれば水量を多く確保でき、飼育も容易になります。

サンゴヤドカリはサンゴ水槽にもよく似合います。ベルリンシステムのようにろ材を持たないシステムでも飼育できます。ただし小型のヤドカリの仲間は魚ほどは水を汚しませんが、数は控えめにしておきたいものです。

水温

基本的に25℃で一定を保つようにしましょう。水温は大体22~28℃くらいで飼育できますが、一定であることが重要です。一緒に飼育している魚に合わせ、低水温を維持します。

宿かえ用の貝殻

ヤドカリは体が大きくなるとその体にあった大きさの貝殻に「宿かえ」をします。ツマジロサンゴヤドカリはレイシガイの仲間やイトマキボラの仲間やマガキガイ、タカラガイの仲間まで実に色々な貝の中に入っています。貝殻を用意しないと水槽にいる貝を襲って食べ、宿を得ることになりますのでできるだけ宿かえ用の貝殻を用意してあげましょう。

フタ

コードをつたい逃げることもあるので水槽にフタはしっかりしておきたいものです。

ツマジロサンゴヤドカリに適した餌と添加剤

餌はなんでもよく食べてくれます。魚の食べ残した餌やクリルなどを与えると喜んでたべます。ヤドカリのことを考えるのであれば餌を沈むタイプにしたり、海水につけた配合飼料をスポイトで与えたりするとよいでしょう。また餌がないと藻類もすこしは食べてくれるのですが、きちんと餌は与えたいものです。

添加剤

ツマジロサンゴヤドカリも甲殻類であり、脱皮して成長します。脱皮不全で死んでしまうことを防ぐためにヨウ素などを添加してあげたいものです。

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ツマジロサンゴヤドカリをお迎えする

▲サンゴやウニ・ナマコのいるタイドプール。このような場所で多くみられる。

紀伊半島や四国の太平洋岸などでは潮溜まりで採集できることもあります。岩の上やサンゴの隙間などに潜んでおり、それを素手やピンセットでつまんで採集します。貝殻はレイシガイの仲間やタカラガイの仲間などに入っていることがあり、結構多くの種類の貝に入ることができるようです。欲張って沢山持ち帰っても死なせてしまうことがありますので60cm水槽であれば5匹くらい持ち帰るくらいでちょうどよいでしょう。

ツマジロサンゴヤドカリのいるタイドプールはやや深め(水深1~2mほど)、サンゴがあり、ウニやナマコなどがいるような環境です。サンゴの周辺などでサンゴの骨格にはえる藻類などを啄むように食べています。またカイメンソウの中にいるものを採集したこともあります。

海水魚店では本種だけで販売していることは少なく「ヤドカリミックス」としてほかのヤドカリとともに販売されていることがあります。購入するときはよく動き回っているものを選ぶようにしましょう。

ツマジロサンゴヤドカリとほかの生物との関係

魚との関係

▲魚との飼育もできる

ツマジロサンゴヤドカリは魚のいる水槽で飼育することができます。我が家の水槽では小型のスズメダイ、カクレクマノミ、トカラベラの幼魚、ハナダイ類、各種ハゼ、カエルウオ、テンジクダイの仲間と飼育していますが、特に問題はありません。このほかヤッコの仲間、小型のバスレットやメギス、イトヒキベラなどと飼育することができます。

一緒に飼育してはいけないのは大型になるフグの仲間や同様に大きくなるベラの仲間、モンガラカワハギなど甲殻類を好んで食べてしまうタイプの魚です。我が家の水槽ではベラの仲間であるトカラベラを飼育していますが、このトカラベラも大きく育ったらヤドカリを捕食してしまう可能性もあり、移動先の水槽を確保するべきかもしれません。

サンゴ・ほかの無脊椎動物との相性

▲ユビワサンゴヤドカリなど強いサンゴヤドカリとの飼育は要注意

サンゴ水槽ではサンゴの隙間のコケを食べてくれることもあるため重宝しますが、ツマジロサンゴヤドカリがサンゴを落下させてしまうこともあるため、しっかりサンゴをサンゴ岩やライブロックなどに固着させるようにします。

ほかの甲殻類との飼育は同じようなサイズのサンゴヤドカリやベニワモンヤドカリ、ヨコバサミの類や小型のオウギガニ、アカシマシラヒゲエビなど小型のクリーナーシュリンプとの飼育にとどめておきましょう。大型のエビ、大型のカニ、大型のヤドカリとの飼育は避けたいところです。

ほかのサンゴヤドカリとの相性ではユビワサンゴヤドカリスベスベサンゴヤドカリといったサンゴヤドカリはかなり気が強いので一緒に飼育するのは注意が必要です。とくに小型水槽では襲われやすいので避けた方がよい組み合わせといえます。ツマジロサンゴヤドカリは比較的おとなしいですが、それでもおとなしいアカツメサンゴヤドカリなどとの組み合わせには注意が必要です。

ツマジロサンゴヤドカリの飼育まとめ

  • 緑色の体や鋏、黒い帯が特徴の美しいヤドカリ
  • 小型水槽でも飼育できるが、初心者は45cm以上の水槽で飼いたい
  • 硝酸塩の蓄積には耐えるができるだけきれいな水で飼育したい
  • 水温は25℃前後で飼育したい
  • フタはしっかりする
  • 餌は魚の残り餌などをよく食べてくれるが、沈降性の配合飼料がおすすめ
  • ヨウ素はできるだけ添加したい
  • 紀伊半島や四国の太平洋岸で採集できる
  • 水深がありサンゴが見られるタイドプールに見られることが多い
  • ほかの魚との混泳もできるが、肉食性が強い魚はだめ
  • 大型のエビ・カニ・ヤドカリとの飼育は避ける
  • サンゴヤドカリ同士の飼育はユビワサンゴヤドカリ、スベスベサンゴヤドカリには要注意
  • サンゴには無害だが、サンゴを接着剤でしっかり固定したい

2020.09.21 (公開 2020.01.22) サンゴ図鑑

サンゴの脱皮について~脱皮するサンゴの種類、脱皮後の対策

トサカの仲間やウミキノコの仲間は、定期的に「脱皮」を行います。この脱皮はエビやカニなど甲殻類の脱皮とは異なり、表皮の部分を落とすだけで、ヘビの脱皮などに近いといえるでしょう。今回はサンゴが脱皮する理由、甲殻類の脱皮との違いの詳細、脱皮した後どうすればいいのか、などについてご紹介します。

脱皮する主なサンゴ

カタトサカの仲間

▲カタトサカの仲間

カタトサカの仲間は種類が多く同定が難しいグループです。このタイプの個体は沖縄から入ってくることも多く、輸送距離・時間が短い(=状態がよい)ものが入手できるので比較的飼育しやすいといえます。光と水流はやや強めを好みますが、250wメタハラの直下などは避けるようにします。また毒性も強いため注意が必要で、ウミキノコなどとはできるだけ接触させないのが望ましいでしょう。カタトサカの飼育方法の詳細はこちらをご覧ください。

ウミキノコの仲間

▲ウミキノコ

ウミキノコの仲間も分類学的にはカタトサカと同じウミトサカ科のソフトコーラルです。ソフトコーラルの仲間では丈夫であり比較的飼育しやすいことから従来からよく飼育され、水槽内で脱皮をすることもアクアリストによく知られてきました。カタトサカと比べると毒性はかなり弱く、とくにカタトサカやヌメリトサカなどとの接触は避けた方が無難です。なお、ウミキノコの仲間にちかいウネタケも同様に飼育することができます。ウミキノコの飼育方法はこちらをご覧ください。

甲殻類との脱皮の違い

▲アカシマシラヒゲエビの脱皮

エビをはじめとした甲殻類は脱皮して大きく成長します。エビの体は外骨格に覆われており、脱皮して脱ぎ捨てるとその下に新しい外骨格ができています。折れた脚やハサミも何回か脱皮を繰り返すと元通りになるようです。

脱皮は甲殻類の成長に欠かせないものですが、危険なことでもあります。エビの仲間は脱皮不全で死んでしまうこともあります。マリンアクアリウムでの脱皮不全の原因はヨウ素不足といわれ、ヨウ素を添加してあげたいものです。また、脱皮直後は体が柔らかいため、魚に襲われて死んでしまうこともあります。

その一方これらのサンゴの脱皮は表皮だけがはがれおちるというもので、ヘビなどの脱皮と似ているようなものです。フサカサゴ科のボロカサゴなどの魚も脱皮を行いますが、この仲間の魚も表皮がはがれおちるというタイプで、ウミキノコなどと似たタイプといえます。

なぜサンゴは脱皮するのか

蛍光グリーンが強いウミキノコ。奥にあるのが脱皮した皮

先述したように、サンゴの脱皮は表皮がはがれるというもので、エビなど甲殻類の脱皮とは大きく異なるものです。

サンゴは魚やエビと異なり、自由に泳いだり歩いたりして動くことができません。そのため水流にのってゴミが付着したり、コケが生えたりすることがあります。この表皮はこれらを落とすためにあると考えられます。

なおサンゴが脱皮しても、甲殻類の脱皮のように脱皮不全を起こすということはないのですが、サンゴは成長のためにヨウ素や微量元素を必要としているので、ヨウ素の添加剤で補う必要があります。とくにトサカやウミキノコなどのソフトコーラルを多数入れた水槽には必須といえるでしょう。ヨウ素は魚の体色の維持などにも重要な元素ですので、しっかりと添加してあげたいものです。

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脱皮した皮はどうする?

そのまま放置しても水流さえ十分であれば飛ばされてろ過槽に落ちるなどして消滅してしまいます。美観を損ねてしまうというようなことがあれば、スポイトを使用してふきとばしたり、吸い取ってとりのぞいたりするようにします。一般的に飼育されているサイズのカタトサカやウミキノコの脱皮程度で水が汚れるとかいうならば水槽のろ過システムに問題があるのかもしれません。

サンゴ脱皮まとめ

  • 主にカタトサカやウミキノコといったウミトサカ科のサンゴが脱皮をおこなう
  • 甲殻類は脱皮して外骨格が捨てられるが、サンゴの仲間は外側の皮がはがれるだけ
  • ヘビやボロカサゴなどに見られる脱皮もサンゴのそれに近い
  • サンゴが脱皮をおこなう理由は付着したゴミやコケを落とすため
  • 脱皮不全は起こすことはないがヨウ素はサンゴに添加してあげたい
  • 脱皮した皮はろ過槽などに取り込まれ消滅する
  • 美観を損なう場合はスポイトなどを使って吸い取ってもよい

2020.09.22 (公開 2020.01.21) 水槽・器具

海水魚水槽で使用するスポイトの役割と使い方

スポイトはガラスやプラスチックの上にゴム製の風船や空気溜めがついていて、液体を吸引して取り除いたり、別容器に移したりするための道具です。マリンアクアリウムにおいては餌を与えたり、ゴミやある種のものを吸い取ったりするときに使います。今回はマリンアクアリウムにおけるスポイトの用途と、用途別の選び方をご紹介します。

マリンアクアリウムにおけるスポイトの役割

マリンアクアリウムにおけるスポイトの主な役割は、主に水槽や容器から何かを海水とともに吸引する用途に使われることが多い、といえます。

餌を与える

▲ターゲットスポイトを使ってサンゴ(マメスナギンチャク)に給餌

一般的にアクアリストがおもいつくスポイトの役目と言えば、餌(配合飼料や冷凍餌)に海水を加え、ピペットを使用して魚やサンゴに給餌するというものでしょう。

海水魚用の餌は水槽の中にばら撒くようにして与えてよいのですが、サンゴに与えるときは餌をスポイトなどで直接与えるとよいでしょう。サンゴの場合、バイタリスなどから販売されているペレットフードなどであればまだよいのですが、コペポーダなどのような冷凍餌を与えることも多いので、ばらまくようにして与えると餌のロスがでてもったいないですし、残った餌が水を汚す原因にもなります。

ゴミ・砂などを吸い取る

これも重要な役割です。水中ポンプが落下した、とかそのほか何らかの理由で砂やその中のデトリタスなどが舞い上がってしまった、とかそのようなことが発生し、サンゴに砂やデトリタスがかかってしまうとサンゴにとってはストレスになり、最後には死んでしまいます。そのようなことが発生してしまったら、できるだけ速やかに砂などをサンゴから取り除いてあげるようにしましょう。

コケ掃除

▲水槽壁についたシアノバクテリア。これが砂やライブロックにも付着することがある。

サンゴを飼育していると砂やライブロックの上にべっとりとした赤いコケ(シアノバクテリア)がつくことがあります。これをスポイトを使用して取り除くようにします。とくにサンゴを覆ってしまうようなことがあるとサンゴが死んでしまうことがありますので、早めに取り除いておきたいところです。ただ、根絶には時間がかかりますので、地道にコツコツと取り除いていく必要があるのです。

シアノバクテリアの駆除剤も市販されておりますが、商品によってはサンゴにも悪影響を与えてしまいますので、注意しなければなりません。

脱皮の皮を取り除く

▲脱皮しているトサカ

ある種のサンゴを飼育していると脱皮することがあります。ウミトサカの仲間(カタトサカ、ウネタケ、ウミキノコなど)は体にはえたコケなどを取り除くために「脱皮」をすることがあります。その脱皮で脱いだ皮が水槽を漂うと景観を損ねてしまうことがあり、スポイトなどを使って取り除くようにします。

なお脱皮といえばエビなどの甲殻類ですが、エビの脱皮の殻はピペットで吸い取るとバラバラになってしまい、美観を損ねることもありますので取り除くときにはピンセットを使いましょう。ただし放置しておいても、やがてエビが食べたり分解されて無くなっていきます。

使用するスポイトの種類

スポイトはおもに長さによっていくつかの種類に分けられます。実験に使用するピペットは一般的にガラス製ですが、マリンアクアリウムで使用されるスポイトはプラスチック製、樹脂、ビニール製など色々です。Amazonに掲載されている商品で変なブランド名のものの多くは中国からの直輸入販売であり、時間がかかったり品質もよくなかったりするので注意しなければなりません。海水魚専門店、もしくは「チャーム」などの通販で購入するとよいでしょう。

ロングスポイト

各社から色々なスポイトが販売されていますが、水槽の底の方に餌を与えるのであれば、おすすめの商品はニッソー社製の「メンテスポイト スリム ロング」です。水深がある水槽でも使いやすいつくりになっています。

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駒込ピペット・スドーピペット

理科の実験で使用されている「駒込ピペット」と呼ばれるもので、ガラス製管の上方に膨らみがあるのが特徴です。そして最上部にはゴム製のキャップがついており、ゴムキャップは取り換えることができます。名前にある「駒込」とは東京都にある駒込病院のことで、駒込病院の院長により開発されたことにちなみます。

駒込ピペットはAmazonなどで購入することができますが、販売されているものは多くがガラス製ですので取扱いには注意が必要です。観賞魚用品メーカーのスドーからも同じような形状のもので樹脂でできている「スドー ピペット」も販売されています。ライブロックとの接触ですぐにひびが入ったり削れたりするガラス製のものを使用するよりも、割れない樹脂製のスドー ピペットのほうがアクアリストには向いているかもしれません。ただし、あまり長さはなく、水底のサンゴに餌を与えるなどといった用途には使えないので注意が必要です。冷凍餌や粉末飼料を海水につけて水流に流して与えるというやり方であればこちらでも使えます。また目盛がついており、計量することもできます。

マリンアクアリウムのスポイトまとめ

  • 給餌や水槽内のものを吸い取って取り除くという用途に使うことが多い
  • 冷凍餌や配合飼料などをピンポイントで給餌するのに有利
  • 底の方のサンゴに餌を与えるときには長いスポイトが使いやすい
  • サンゴの上にかかった砂やゴミを取り除くのにも有用
  • 赤いシアノバクテリアを取り除くのにも有効だが、地道に取り除く必要がある
  • トサカやウミキノコの脱皮後の皮を取り除くのにも有効
  • 水深のある水槽では「ロングスポイト」が使いやすい
  • 餌を水流に流して与える用途であれば小型のピペットを使用することもできる
  • スドーピペットは樹脂製で割れないが短い

2020.09.22 (公開 2020.01.20) 水槽・器具

海水魚水槽で使うピンセットと用途別の選び方・おすすめ

ピンセットは細かいものをつまんで抑えたり、分別したりするときに使う道具の一種です。マリンアクアリウムにおいてはカーリーやコケなどを取り除いたり、小物を落としたときに拾ったり、ウツボなどに餌をあげたり、フラグサンゴを作成するときなどに使います。ピンセットは種類が豊富で、用途別に素材や形状、大きさなどを選ぶことができます。今回はマリンアクアリウムにおけるピンセットの役割や選び方をご紹介します。

マリンアクアリウムによるピンセットの役割

海水魚水槽でのピンセットの用途は以下の通りです。用途により、適したピンセットの大きさ、材質などは異なりますので、いくつかピンセットを所持しておくとよいでしょう。

カーリーやコケなどを取り除く

▲厄介なカーリー(矢印)は早く水槽からとりのぞきたい

以前にカーリー対策の記事でもご紹介しましたが、ライブロックやサンゴ岩、飾りサンゴなどに付着したカーリー(セイタカイソギンチャク)を取り除く方法があります。この方法のメリットとしては水質の変動が少なく、カーリーを食べてくれるペパーミントシュリンプやフチドリカワハギなどを飼育する必要がないことがあげられます(これらの生物はサンゴに害を与えるためサンゴ水槽では飼育しにくい)。写真のようにマメスナギンチャクの間にカーリーが発生したときに取り除くのに役立ちます。

魚の給餌

▲ピンセットを使ってクモウツボにイカを与える

ミノカサゴやオコゼなど最初のうちは動く餌にしか反応しない魚のために餌を動かして与えたり、ウツボやサメのように手から餌を食べてくれるけれど実際に素手で餌をあげたら大けがをする可能性がある魚にはピンセットで給餌するようにしましょう。ウツボは飼育者が来たら寄ってくるなど人に慣れやすいのでピンセットでの給餌はたいへん楽しいものです。

ものを落下させたとき

ライブロックやサンゴをたくさん飼育している水槽に小物を落下させてしまったとき、網で掬って回収するよりも、ピンセットを用いて取り除いた方が簡単かもしれません。いずれにせよ、落下させてしまったものが溶出したりすると魚やサンゴに悪影響を及ぼすおそれがありますので、早いうちに水槽から取り除いてあげなければなりません。

このほか、淡水魚水槽用では水草を植えたりするのに使用しますが、海水魚飼育の際に一緒に飼育されるマリンプランツはアマモなど一部の海草を除きすべて藻類の海藻であり、ライブロックに巻きつけるだけでどんどん増えていくのでピンセットを使う必要はないといえます。また海水魚がリムフォシスティス病に感染したときに発生した白い粒などをピンセットでつまむこともありますが、そうすると魚が傷つくおそれがありますので、なるべく爪の先などでとってあげたほうがよいでしょう。

フラグサンゴの作成

▲フラグサンゴ作成にも必要不可欠

サンゴを専用のプラグに接着した「フラグサンゴ」を作成するには、細かい作業が必要です。専用のピンセットがLSS研究所の「ボストンアクアファーム」などから販売されておりこのようなものを購入して使用するとよいでしょう。格好良かったエコテックマリンのコーラルプロパゲーションキットはLSS研究所のサイトでは「過去の販売商品」となっており、販売は終了したようです。

使用するピンセットの種類

海水水槽用のピンセットは用途に合わせていくつか所持しておきたいものです。

ピンセットの素材

▲木製のピンセット。スドー「ハープクラフト」のバンブー製ピンセット

ピンセットの長さや形状ばかりでなく、素材もチェックしてみましょう。一般的に販売されているピンセットには金属(ステンレス)製のもの、木製のもの、プラスチックや樹脂でできたものがあります。金属製や木製(爬虫類の飼育ではよく使われる)はさびたり腐食しやすいので、使用したらよく真水で洗わないといけません。プラスチックや樹脂製のものはさびにくく軽くて扱いやすいのですが、カーリー駆除などのように削って剥がすという用途には向きません。重量は当然ながら金属製のピンセットよりも木製やプラスチック、樹脂のものが計量です。

アマゾンでピンセットを購入する場合は発送元をよくチェックするようにします。日本から配送されるものを購入しましょう。日本語がおかしいもの、たとえば「水族館」なる言葉をよく使っているもの、カスタマーサービスの電話番号が+86ではじまるものなどは中国からの発送で時間がかかり、また品質も粗悪なものが多いので注意が必要です(検品漏れを売ってる?)。なお、製造国は木製が中国、プラスチックや樹脂のものは中国や台湾、ステンレスのものはパキスタン(最近よく見かける)や中国で製造されていることが多いです。

カーリー・藻類駆除用

カーリーを駆除するのであればピンセットで削って剥がすように先端が細長いステンレス製のピンセットが欲しいところです。一方水槽の底砂の上にはえたどろっとした藻類を駆除するのであれば、長いピンセットが必要になります。取り出せるライブロックにどろっとしたコケがはえているのであればまずはピンセットである程度除去したあと、細かいコケを歯ブラシを使って取り除くのが一番でしょう。

給餌用

▲カミハタの「多目的ピンセット」

ウツボ類の給餌をするのにはできるだけ長いピンセットがほしいところです。ウツボは力が強く、小さなピンセットはもぎ取ってしまう可能性もあるからです。我が家で現在飼育している50cmくらいのウツボやサビウツボなどを飼育するのにはカミハタの「多目的ピンセット」が一番使いやすかったです。この多目的ピンセットはプラスチック製で計量、さびないので海水魚飼育でも使いやすいといえます。そしてやわらかいため魚がけがをすることもありません。大型のニセゴイシウツボみたいな種になると竹串の先端にイカの下足を刺してウツボの吻端まで持っていって与えているアクアリストもいるようです。

カミハタ 多目的ピンセット

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ものを落下させたとき用のピンセット

▲ステンレス製の細長いピンセットはさびに注意

水槽の水深にもよりますが、ものを落下させて拾うわけですから、それなりの長さが必要です。場合によっては水草用の細長いピンセットを購入したほうがよいかもしれませんが、そのようなものは大体が金属(ステンレス)製、つまりさびやすいので使用後はしっかり真水で洗うようにします。また、さびが出やすいから、といって錆止めを塗るのはやめた方が無難です。

フラグサンゴ作成用のピンセット

フラグサンゴ作成用には細かいものをつかめるようなピンセットが適しています。LSS研究所が輸入し販売しているボストンアクアファームのピンセットにはピンセットの先端にビニール加工が施されており、サンゴを傷つけにくいしくみになっています。ほかにも各種メーカーから作業しやすいようにさまざまな形のピンセットを販売しています。いずれにせよ一回フラッギングした後はよく洗って再度使用するようにします。強い毒性のサンゴの触手がついていた場合次にフラッギングするサンゴに悪影響を与えてしまうこともあるからです。これはアマゾンなどでは手に入りませんが、輸入元のLSS研究所のページなどで購入するとよいでしょう。

そのほかのピンセットでもよいのですが、先述の「ものが落ちたとき拾うピンセット」では大きくて扱いにくいです。ピンセットも用途に合わせて大きいもの、小さいものを使い分けるようにしたほうがよいでしょう。

ピンセットまとめ

  • カーリー駆除、コケ掃除、給餌、フラグサンゴ作成などさまざまな用途がある
  • 大きさ、素材、形状など用途別にピンセットを選ぶようにしたい
  • 大きいものは水槽の底まで届くが重いので扱いにくいことも
  • 素材は金属製のものはさびやすい。プラスチックや樹脂性のものは軽い
  • カーリー駆除やコケ掃除には細く先がとがったピンセットが最適か
  • ウツボなどの給餌には長いものがよい、軽い「多目的ピンセット」などが最適
  • フラグサンゴ作成には細かい作業が必要。形状もさまざま
  • 用途にあわせいくつかのピンセットを用意したい

2020.09.22 (公開 2020.01.16) 海水魚図鑑

「種」がつく魚類の分類単位(亜種・品種・交雑種)

魚類を分類するのに「種」は基本的な分類単位です。たとえば「ナンヨウハギ」「キンギョハナダイ」「カクレクマノミ」というのはみな「種」の分類単位であり、同時に種の標準和名となります。一方、「種」とついていても、「種」でないものに「亜種」「品種」「交雑種」があります。今回は「種」とは何か、そして「亜種」「品種」「交雑種」とはなにか、について解説します。

分類の順番

まず種について説明する前に、「種」の上の分類単位をご紹介します。大きい単位から界・門・綱・目・科・属・種という風に分けられます。これに必要に応じて亜門・上綱・亜綱・上目・亜目・上科・亜科・族・亜属をつけます。一般的な海水魚、たとえばカクレクマノミを例とすれば脊索動物門・脊椎動物亜門・条鰭綱・スズキ目・スズキ亜目・スズメダイ科・クマノミ亜科・クマノミ属・カクレクマノミ(種)となります。

一部の魚では種の下に、亜種を組み込むことがあります。亜種には標準和名や学名がつけられます。さらにはカクレクマノミなどのように改良品種がつくられることもありますが、このような品種には標準和名や学名は与えられません。

種(魚種)

「種」は分類学の基本単位となります。同じ種の魚は交配ができ、同じ種の魚は形態的にはほぼ同一ですが、幼魚と成魚、雌雄で大きく異なった特徴を示すものがいます。とくに稚魚と成魚はどの種も大きく異なるので注意が必要です。またカエルアンコウの仲間や、カサゴの仲間のように同じ種でも大きく模様や色彩が変わっているケースもあるので、この点も要注意です。

難しいことは考えなくていいです。たとえばカクレクマノミとほかのカクレクマノミは交配ができ、形態的にほぼ同一ですが、カクレクマノミとハマクマノミは交配できず、できても一代限りで、形態も若干異なるのです。

亜種

▲亜種が設定されることもあるニシキヤッコ

亜種はよく勘違いされている分類群の名称です。一般的には同種のなかの地理的変異の個体群に学名や標準和名が与えられたものです。学名は一般的に属名+種小名というコンビネーションですが、亜種を設定する場合の学名は属名+種小名+亜種名となります。亜種を新しく設ける場合、基本的には基亜種を設定する必要があります。基亜種の亜種名は種名と同様になります。また、亜種にも標準和名が与えられます。例えば淡水魚であるコガタスジシマドジョウの亜種にも、「サンインコガタスジシマドジョウ」とか、「トウカイコガタスジシマドジョウ」といった標準和名が与えられるのです。

「キンギョはフナの亜種」などといっている人もいますが、これは誤まりです。これはフナの亜種、ではなくフナの一種であるギベリオブナの改良品種とみなすべきでしょう。改良品種については後述します。また「ヤマメとサクラマスは亜種の関係」というのもまちがいです。ヤマメとサクラマスは同じ魚の陸封型と降海型で、例外的にそれぞれの型に標準和名が与えられています。なお、サクラマスとサツキマス、ヤマメとアマゴはそれぞれ亜種の関係になります。

亜種は地理的な変異を示す個体群であり、淡水魚には多く見られますが、海水魚の世界では亜種の存在が認められているケースは多くありません。ただしニシキヤッコなど一部の種には亜種が認められることがあります。この場合太平洋産のものがPygoplites diacanthus diacanthusとなり、インド洋産のもの(体の黄色みが強い)がPygoplites diacanthus flavescensとなります。

品種(改良品種)

▲リュウキン(琉金)。キンギョのいち品種で、独自の学名は与えられない

「品種」とは亜種以下の分類単位でありますが、動物の品種の場合、分類学的なものではなく、家畜など産業的なものを指すことになります。

キンギョやニシキゴイの品種は和金、琉金、和蘭獅子頭、コイは黄金、紅白などいろいろありますが、種としては「キンギョ」もしくは「ギベリオブナ」や「ニシキゴイ」(Oujiang river color carp)であり、学名も独自の学名は与えられず、「Carassius gibelio」「Cyprinus carpio」です(ニシキゴイの学名は暫定、変更される可能性が高い)。魚類ではありませんがイヌも柴犬、チワワからレトリーバーまでいろいろな品種がいますが、種としてはどれも「イヌ」か、もしくは「タイリクオオカミの亜種」です。ネコも同様に多くの品種がいますが種としては「リビアヤマネコ」になります。このように動物の品種には学名が与えられません。「動物の品種」とした理由としては、植物には亜種以下の分類階級、例として変種や品種にも学名が与えられるからです。

海水魚においてはカクレクマノミの改良品種である「ブラックオセラリス」「スノーフレーク」などといった改良品種が見られるようになりました。これらの魚もそれ独自の種としての学名は与えられず、種としてはカクレクマノミ、もしくはクラウンアネモネフィッシュ(ペルクラ)ということになります。最近この2魚種の交雑のものも出回っているようですが、そうなると次の「交雑個体」の扱いとなります。

また、あまり魚に詳しくないサイト(とくに飼育系のサイト)では、種のことを「品種」といっていることがありますので(イヌやネコのような品種と勘違いしている可能性も)、魚類飼育系のサイトの品質を測るモノサシになりえます。

交雑種(交雑個体)

品種に近いものに「交雑種」があります。ただしこれは正しい表記とはいえないので注意が必要です。正しくいうなら「交雑により生じた個体」もしくは「交雑個体」とでもいうべきでしょうか。基本的に種間交雑(イシダイ×イシガキダイの交雑など)や、属間交雑(淡水魚のコイ×フナや後述するベステル)などがあり、科間交雑というのは魚類ではほとんど聞かないです。

なぜ「交雑種」は正しい表記でないか、といいますと交雑個体は通常は1代限りであり、種として認められていないからです。ただし、一部の交雑個体では不妊でないものがおり、世界三大珍味と呼ばれるキャビアをとるために養殖されるチョウザメの仲間の属間交雑個体「ベステル」(ベルーガ×スターレット)は交雑個体であってもキャビアをとれます。

キンチャクダイ科キンチャクダイ属のアカネキンチャクダイという魚がいますが、これはキンチャクダイとキヘリキンチャクダイの交雑個体の可能性も指摘されており、そうであれば「種」ではなくなってしまいます。大西洋産のクイーンエンゼルとブルーエンゼルの交雑個体はタウンゼントエンゼルと呼ばれ、種として扱われ学名もついていましたが、これらの魚も交雑種とわかり種としては認められなくなっています。

イシダイとイシガキダイの交雑個体は近年、本州中部以南の太平洋岸でよく見られるようになりました。これらは「キンダイ」などと呼ばれていますが、これは交雑個体につけられた愛称のようなものであり、交雑種で一代限りと考えられているため、標準和名とはみなされません。

学名における種

魚に限らず動物の種を学名であらわすときは、属の学名+種の学名(種小名)で表記し、これを二名法といいます。これを基本に亜属を認める場合は属の学名と種小名の間にカッコをつけて表記します。海水魚ではヨウジウオ科のいくつかの属やアイゴ属、スジイシモチ属などで亜属を表記することがあります。亜種を認める場合は亜種名も表記し、属の学名+種小名+亜種の学名を表記します。こちらの記事もご覧くださいませ。

種と標準和名

▲ヒフキアイゴ

一般的に「種名」と標準和名はごちゃごちゃになっています。たとえば写真の魚種は標準和名「ヒフキアイゴ」なのですが、これはあくまで「種の標準和名」です。標準和名は種だけに与えられるものではなく、目や科、属といった分類単位にも与えられるのです。

魚の分類で目名/科名/属名/和名としているサイトもありますが、これは誤りといえます。このような分類をするなら、目名/科名/属名/種名としなければなりません。このような誤りは魚類系の大手サイトでもおかしている間違いなので、注意が必要です。

当サイトではさまざまな魚類や甲殻類の飼育方法を紹介していますが、飼育方法を紹介するページにおいて魚類の基礎情報に「標準和名」とありますが、これは魚種の紹介なので「種の標準和名」という意味にとらえていただければと思います。

「種」の名前まとめ

  • は分類の基本単位、同じ種の魚同士では交配が可能
  • 亜種はおもに地理的に分化された個体群。キンギョはフナの亜種、といわれることもあるが誤り
  • 品種は動物では分類学的なものではなく、産業的なもの。キンギョやニシキゴイなど。
  • 交雑種は交雑個体と表記するのが正しい。基本的に一代限りで学名や標準和名はない
  • 魚種を学名であらわすときは属名+種小名であらわす「二名法」
  • 亜種は属名+種小名+亜種名であらわす
  • 種名と標準和名は厳密には異なるので注意

2020.09.22 (公開 2020.01.08) 海水魚図鑑

ウミヘビ科魚類を飼育する~爬虫類のウミヘビとの違いも徹底解説!

「ウミヘビ」という名前をもつ生き物には魚類のウミヘビと、爬虫類のウミヘビがいます。この両者の違いは鱗や鰭、毒牙の有無などにより区別されますが、同じ「ウミヘビ」という名前でしばしば混同されることがあります。爬虫類のウミヘビは有毒であり飼育が規制されていますが、魚類のウミヘビは少なくともかみつかれても無毒であり、飼育して楽しい魚といえます。今回はこの魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビや、ほかのウナギ目魚類との違い、飼育方法の基礎などをご紹介します。なお、今回は魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビの違いも解説していますが、飼育の方法などについてはすべて魚類のウミヘビについて解説しています。

ウミヘビと呼ばれる生き物

ウミヘビと呼ばれている生き物は、魚類のものと爬虫類のものがいます。しばしば混同されることもありますので、まずは違いを覚えておきましょう。

魚類のウミヘビ

▲ダイナンウミヘビ(ウナギ目・ウミヘビ科)。魚類のウミヘビ

魚類のウミヘビはウナギ目・ウミヘビ科の魚類の総称です。分類学的上はウナギやアナゴの仲間などに近いです。一部の種ではするどい歯を持ちますが毒はありません。主に動物食性で、夜釣りの際に釣れることがあります。ダイナンウミヘビは仕掛けを絡ませ、小骨も多く食べにくいため釣り人からは歓迎されません。

なお、ハリガネウミヘビという仲間の魚類がいますが、ハリガネウミヘビの仲間はハリガネウミヘビ科と呼ばれるまた別の科になります。

爬虫類のウミヘビ

▲エラブウミヘビ(有鱗目コブラ科)。爬虫類のウミヘビ

爬虫類のウミヘビは有鱗目(ヘビ・トカゲを含む)コブラ科のうち、水中に適応したグループです。有毒ですので「特定動物」とされ、飼育にはさまざまな規制があります。しかしウミヘビ同様に海辺に生息するヤスリヘビ類などのように、毒がない、もしくは毒が弱い爬虫類のヘビの仲間が輸入されることもあります。

爬虫類のウミヘビの仲間は暖かい海に生息していますが、海流にのってやってくるのか、紀伊半島などでも見つかっているようです。おとなしいものが多く、海で出会っても離れれば何もしてこないことが多いですが、咬まれたら命にかかわるような強い毒をもつものもいるので、決していたずらしないようにしなければなりません。漁業で混獲されることもあり、針や網からウミヘビを外すときに襲撃されることがあり、それによる死亡例があります。

魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビの違い

魚類のウミヘビと爬虫類のウミヘビはこの特徴により区別できます。まず特徴的なのは鱗で、魚類のウミヘビは外見上鱗がみられませんが、爬虫類のウミヘビではびっしりとした鱗が見られます。

鰭については魚類のウミヘビでは顕著な鰭をもっているものの(後述)、爬虫類のウミヘビでは鰭が見られません。また、先ほども述べたようにもっとも重要な違いとして、魚類のウミヘビは咬まれても無毒ですが爬虫類のウミヘビは毒をもち、ときに致命的なものとなりえます。

このほか発生の違い(魚類のウミヘビは卵生、爬虫類のウミヘビはほとんどが卵胎生)、呼吸方法(魚類のウミヘビは鰓呼吸をするが、爬虫類のウミヘビは肺呼吸)、分布域(魚類のウミヘビは三大洋にすむが、爬虫類のウミヘビは大西洋にはいない)などがあげられます。なお、分類学単位の標準和名「ウミヘビ科」というのは基本魚類のウミヘビの方をさします。爬虫類のウミヘビはコブラ科に分類されることが多いですが、一部の文献などでは爬虫類のウミヘビを「ウミヘビ科」とすることもあります。以下、この項目では特記ない場合「ウミヘビ」といえば魚類のウミヘビを指すものとします。

ウミヘビの体つき

頭部

▲ダイナンウミヘビ。鼻孔が口の付近に開く

ウミヘビ科魚類の特徴としては後鼻孔が上唇の縁辺に開くことがあげられます。そのため口付近の様子が、似た形のアナゴ科やハモ科、ウナギ科とは大きく異なります。暗い海中で餌を探すための工夫でしょうか。また、一部の種では眼が非常に小さくなっています。

歯の形状はウミヘビの仲間により若干異なります。ダイナンウミヘビなどは大きな犬歯を有しています。そのため食用魚としてよく知られるハモと間違えられやすいのですが、後鼻孔の位置や尾鰭の有無により区別することができます。歯が強いものは咬まれると怪我をすることもあり、毒がないとはいえ注意が必要です。主に小魚やイカ・タコなどを食べ、それをしっかり逃がさないようになっています。

大きさ

▲1mを超えるダイナンウミヘビ

ウミヘビ科魚類はサイズもさまざまです。ミミズアナゴの仲間は概ね小型で30cm以下のものが多いのですが、1mを超える種も見られ、日本沿岸で釣りをしていると釣れてくることがあるダイナンウミヘビなど1mをこえるサイズのものも頻繁に釣れます。中には大西洋産のOphichthus rex (英名キングスネークイール)のように2mをこえるような種類も知られていますが、これほど大きいのは種類的には少ないです。

▲モヨウモンガラドオシの胸鰭(矢印)

魚類のウミヘビは鰭を持っていますので、爬虫類のウミヘビとの見分けは容易です。胸鰭はあるものが多いのですが、ハクテンウミヘビやヒモウミヘビなど、胸鰭をもたない種も知られています。なかにはトガリウミヘビのように胸鰭だけでなく、背鰭や臀鰭のない種も知られています。モヨウモンガラドオシなどはウツボ水槽で飼育され、その模様からウツボと間違えられることもありますが、胸鰭があることで容易に見分けられます。

一方、尾鰭はほとんどのウミヘビ科魚類では見られません。この特徴により、アナゴ科やハモ科などの魚と見分けることができます。ただし、ミミズアナゴなどニンギョウアナゴ亜科の魚には尾鰭があります。このような種類は頭部の様子で見分けられます。

同じウナギ目魚類のニホンウナギやマアナゴなどには血液や粘液に毒があることが知られています。ウミヘビ科魚類の毒性については明らかになっていませんが、血液や粘液などに毒をもつものがいる可能性はあります。ただウミヘビ科魚類については、食用になるものが少なく、研究がすすんでいないかもしれません。

ウミヘビとアナゴの仲間の見分け方

ウミヘビ科の多くの種類は尾鰭を持たないので、アナゴの仲間とは容易に見分けることができます。

ウミヘビ科魚類には「ヒレアナゴ」や「ミミズアナゴ」など、名前に「アナゴ」とつくものもいます。このような種はウミヘビ科としては例外的に尾鰭をもつグループです。日本産ではミミズアナゴ属、ミナミミミズアナゴ属、ムカシウミヘビ属、セレベスヒレアナゴ属、ヒレアナゴ属が当てはまります。これらの種とアナゴ科の魚の見分け方は後鼻孔の位置です。ウミヘビ科の魚類は尾鰭があるものでも、後鼻孔が上唇縁辺にあるためアナゴの仲間と見分けるのには、それをみるようにしたほうがよいでしょう。ただしアナゴの仲間にもメダマアナゴのように後鼻孔が上唇縁辺にあるものもおり、そのようなものはウミヘビ科と間違えられることもあります。そのような種は、尾鰭の特徴と合わせて判断するしかありません。

ウミヘビとハモの仲間の見分け方

▲ダイナンウミヘビ。尾鰭の部分がなく、背鰭と繋がらない

▲ハモ科のハシナガアナゴ。背鰭や臀鰭とつながった尾鰭を有する

ハモの仲間(ハモ科)はアナゴ科に近縁な分類群です。ハモといえば高級魚として有名で、ウミヘビ科のダイナンウミヘビはよくハモと間違えられることもあります。とくに夜釣りではハモもダイナンウミヘビも鋭い歯をもち、魚の切り身やイカなどの餌にかかって来て、暗いためよく見えないことから間違えられることも多いようです。

ハモはしっかりした背鰭と尾鰭・臀鰭がつながりひとつの鰭のようになっているのが特徴です。一方ダイナンウミヘビは尾鰭がなく、尾部に鰭がありません。

ウツボとウミヘビの仲間の見分け方

▲ウツボの特徴

ウミヘビの仲間とウツボはよく似ており、たまに間違えられることもあります。しかし、ウミヘビ科は多くの種類で胸鰭を持つのに対しウツボの仲間は胸鰭をもたないことと、鼻孔の位置(眼の直前にある)などの特徴で見分けることができます。ウツボの後鼻孔は眼の前方の背部にあるのが特徴です。また、ウツボの仲間は胸鰭がないなどの特徴をもち、著しく特殊化したグループともいえます。

ウミヘビの分布と生息地

ウミヘビ科の魚は、太平洋、大西洋、インド洋を問わず世界中の暖海に生息しています。日本においては北海道南部~琉球列島までの広い範囲に分布します。沿岸の浅場~水深200mまでにすむものが多いのですが、スソウミヘビやメダマウミヘビなどのように水深300~400mほどの場所から底曳網で漁獲される種もいます。また、ほとんどが海産ですが、カワウミヘビなど一部の種は河川に生息しています。

ウミヘビの仲間はどの種も肉食性です。海の中では小魚や甲殻類、イカ・タコなどやそれらの死骸を捕食しています。飼育にあたってもそれらの餌が必要ですが、これらの餌はスーパーマーケットでも入手可能なものばかりであり、餌の確保にはそれほど苦労はしないでしょう。ただし、生のものは寄生虫などがついていることもあるため、いったん冷凍してから与えるのがベターといえます。

ウミヘビ科魚類は顎の構造はウツボと異なるようで、あまり大きな餌は食べにくい感じです。同じくらいの長さのウツボと比べると餌を見つけるスピードも遅いようで、ウツボとウミヘビを混泳している水槽で、ウミヘビがなかなか餌を食べられないようなことがあればどちらかを別水槽で移した方がよいかもしれません。

ろ過槽

ろ過槽は外掛けろ過槽はやめたほうがよいでしょう。外掛けろ過槽はどうしても水槽の上方に隙間ができやすく、その隙間からウミヘビが脱走してしまうおそれがあるからです。ろ過能力が高くて隙間が外掛けろ過槽ほどできにくい上部ろ過槽か、オーバーフロー水槽が最適です。ただし、それでも小さな隙間ができますので、スポンジなどで隙間を埋めるようにしましょう。

脱走対策

ウツボの仲間同様、脱走には細心の注意が必要になります。ウミヘビ科の魚はウツボよりも細い身体つきのものが多いので、小さな隙間からも脱走するおそれがあるためフタはしっかりしておくことはもちろんのこと、隙間埋めも重要になります。餌を与えてうっかりフタをするのを忘れてしまい脱走してしまった…という事故例が多いようです。

水温

熱帯性の浅場にすむものは25℃前後、温帯性のものは22℃前後に設定します。ヒーターとクーラーで水温を一定に保つようにしましょう。また深海性のスソウミヘビなどはさらに低い水温で飼育したいので、一般の水槽用クーラーよりも低く設定できるクーラーが必要になります。

混泳

▲モヨウモンガラドオシとウツボ類の混泳

ほかの魚との混泳も可能ではありますが、小魚は捕食してしまうことがあるので避けた方が無難でしょう。水族館ではウツボの仲間と飼育されていることが多く、家庭水槽においてもウツボと混泳させることができます。ただしニセゴイシウツボやドクウツボ、グリーンモレイなど大型化するものやかなり気が強いものは避けたほうがよいでしょう。大きさに差があると捕食されてしまうおそれがあるからです。

おもな種類

ウミヘビ科魚類は種類が多く、日本産だけでも50種を超え、現在で毎年のように新種記載や日本初記録種の発見が続いています。ここでは代表的な種を掲載するにとどめます。

モヨウモンガラドオシ

観賞用のウミヘビ科魚類としては最もよく見られる種といえるでしょう。斑紋には若干の変異があり、従来はこの特徴からモヨウモンガラドオシと、ゴイシウミヘビのふたつの種に分けられていましたが、現在はこの2種は同種とされています。また、アキウミヘビという別名もあります。ゴイシウミヘビという名前は種の標準和名としては消滅しましたが、属の標準和名として残っています。

ほかの魚との混泳も可能ですが、口に入ってしまうような魚とは一緒に飼えません。また全長1mに達するので大型水槽が必要になります。インド-中央太平洋に生息しており、日本でも千葉県以南太平洋岸に広くすんでいるため自家採集(磯採集、釣りなど)で入手することもできますが、針を深く呑み込んでしまった個体は飼育には向きません。餌はイカやエビなどを与えるようにします。とても丈夫で飼いやすい魚です。

モヨウモンガラドオシの飼育については、こちらもご覧ください。

シマウミヘビ

モヨウモンガラドオシと同じゴイシウミヘビ属のウミヘビですが、体側の斑紋が斑点ではなく、黒と白の横帯が体中に入る種類です。全長90cmに達する大型種で、モヨウモンガラドオシ同様、大型水槽が必要になります。日本では四国沿岸や琉球列島などに生息しています。観賞魚としては主にフィリピンなどから来るため、あまり高価ではないのも嬉しいところです。

日本産ゴイシウミヘビ属は3種が知られこのほかにマダラシマウミヘビという種類が最近になって報告されています。シマウミヘビによく似ているものの、非常に細かい縞模様を持つ種類です。この属のものは大西洋にもすみ、カリブ海産のシャープテールイールなどもたまに販売されていることがありますが、シマウミヘビよりもずっと高価です。

ホタテウミヘビ

▲ホタテウミヘビ

ウミヘビ属の魚で、全長80cmに達する大型種です。ホタテウミヘビは観賞魚店で販売されていることはあまりなく、夜間に浜辺から投げ釣りをしていると釣れてくることがある魚です。色彩的には派手な魚ではありませんが、飼育してみると面白い習性を観察することができるでしょう。温帯域から熱帯域にかけて分布していますが、本州~九州までの沿岸で採集されたものは高水温に注意する必要があります。

ミミズアナゴの仲間

ここまで紹介したウミヘビ亜科の魚と異なり、ニンギョウアナゴ亜科の魚です。ミミズアナゴ属や近縁のミナミミミズアナゴ属はどの種もよく似ており同定が難しいのですが、多くの種が小型です。あまり販売されてはいないのですが沖縄などでは磯で採集できることがあります。またミサキウナギなどごく一部の種は温帯性で、近海物を扱う観賞魚店でも販売されていることがあります。

まとめ

  • 「ウミヘビ」と呼ばれるものには魚類のものと爬虫類のものがいる
  • 爬虫類のものは有毒で飼育は規制されている
  • 魚類のウミヘビには鱗がないが、爬虫類のウミヘビには鱗がある
  • 魚類のウミヘビには鰭があるが、爬虫類のウミヘビに鰭はない
  • 魚類のウミヘビの歯に毒はないが、歯がするどいものもおり要注意
  • 後鼻孔が上唇の縁辺に開くこと、尾鰭がないことによりほかのウナギ目魚類の多くと見分けられる
  • ミミズアナゴの仲間など一部の種は尾鰭がある
  • ウツボ同様イカやエビなどの生の餌を与える
  • 脱走対策のためフタはしっかりしておく
  • ろ過槽は外掛けろ過槽は望ましくない。上部ろ過槽かオーバーフロー水槽推奨
  • モヨウモンガラドオシやシマウミヘビがおすすめ

2020.01.21 (公開 2020.01.07) 海水魚図鑑

海水魚飼育初心者がナマコを飼育すべきでない理由

ナマコはイモムシのような姿をしており、磯遊びの際もよく見ることができます。ベルリンシステムでは砂を攪拌したり砂中の有機物を捕食してくれます。しかし、ナマコは傷ついたり死んでしまうと強い毒のサポニンを水中に放出すしてしまいます。このような事故は水流ポンプなどに挟まれたり、岩組が潰されることにより起こることがあるので、サンゴ水槽で発生する可能性があります。サポニンを出したら大量の水かえが必要であるなど対応しにくい面もあり、初心者が飼育できる生きものとはいいにくいです。

ナマコって、どんな生き物?

サンゴ礁の浅瀬にすむイカリナマコの仲間

ナマコは棘皮動物門・ナマコ綱に属する生物の総称です。多くの種がイモムシのような形をしており、一部オオイカリナマコなどはヘビのように細長いです。骨格や殻はなく、体中に骨片が散らばっていて体は同じ棘皮動物であるウニと比べて柔らかく、深海性の一部の種は寒天状の体をもっています。高い水圧に耐えられるようにするためでしょうか。ナマコの仲間はみな海産で、淡水域には見られません。生息域は浅い潮溜まりから水深数1000mの深海にまでおよび、深海のユメナマコなどは活発に遊泳するという特徴もあります。

観賞魚店で購入できるものはリュウキュウフジナマコ、アカミシキリ、クロナマコ、ニセクロナマコ、ジャノメナマコ、シーアップルという名前で呼ばれるアデヤカキンコの類などで種類はそれほど多くはありません。ナマコは大きさもさまざまで、大きいものではオオイカリナマコのように3mにもなるものがいます。

棘皮動物とは

▲ヒトデもナマコ同様棘皮動物。写真はイトマキヒトデ。

▲アメフラシはナマコの仲間ではない(軟体動物門・腹足綱)

棘皮動物門の生物はナマコの仲間のほかに、ウニ類・ヒトデ類・クモヒトデ類・ウミシダ類・ウミユリ類などが知られています。ウニ類は明瞭な「殻」をもち、その周辺が棘で覆われています。ヒトデの仲間は5本やそれ以上の「うで」をもち、小さな管足で移動することができます。クモヒトデはヒトデの仲間のようにも見えますが「うで」の部分がヒトデよりも細くて長いのが特徴的です。

なお、ナマコと勘違いされやすい生物としてウミウシの仲間がいますが、ウミウシの仲間は軟体動物門・腹足綱と呼ばれるグループで、簡単にいえば「(外見上)貝殻をなくした巻貝の仲間」といえます。

人間とのかかわり

ナマコは人間にとっては食用になります。塩乾品が有名で、とくにマナマコの類は密漁が横行するほど人気の食材であり、マナマコの内臓を使った珍味「このわた」も有名です。棘皮動物はナマコのほかにも食用になるものが多く、ウニの仲間は食用になるほか、イシダイ釣りの餌としての需要もあります。ヒトデの仲間も食用になりますが、一部の地域で食べられる程度です。中にはトゲモミジガイのように強い毒(フグ同様のテトロドトキシンとされる)を持っているものもあり、そのような種は食用にはしてはいけません。

ナマコとくらす生物

ナマコとくらす魚にカクレウオという魚が知られています。カクレウオの仲間はナマコの腸の中にもぐりこむという奇妙な習性をもっていますが、種類によって宿主はやや異なるようで、中にはシンジュカクレウオのように二枚貝を宿主とするものや、シロカクレウオのようにヒトデ類を宿主とするもの、オニカクレウオのように自由生活をおくるものなども知られています。このほかナマコマルガザミなどのカニもナマコについていることがあります。

ベルリンシステムとナマコ

▲ベルリンシステムで飼育されているナマコ

ナマコはベルリンシステムでもよく飼育されていた生物です。ナマコは砂中を攪拌し有機物を食してくれ、「掃除屋さん」として最適な生物だからです。しかし、後述の理由から最近はナマコを入れないこともあります。マガキガイなどソデボラ類の巻貝や、ミズタマハゼやオトメハゼといったベントス食性ハゼに底砂を攪拌させることが多いといえます。

初心者アクアリストがナマコを飼育すべきでない理由

さて、そんなナマコですが、マリンアクアリウムを初めたばかりの初心者にはナマコの飼育はおすすめできません。その理由は一つですが、極めて重要な理由です。

強毒をもつ

▲水槽のガラス面を歩くナマコ

ナマコの仲間はどの種も「サポニン」という強い毒を持っています。ナマコは基本的には丈夫な生き物で、砂を攪拌して中の有機物を食べたり、底のほうを這いまわったり、あるいはサンゴ岩の中にかくれていますが、水槽の壁面についていることもあります(写真)。そして事故が起こることがあります。

サンゴ水槽に水流をうみだすための水流ポンプやパワーヘッドなどに吸い込まれて体の一部が傷ついたり、あるいはちぎれてしまい、それにより毒が放出されるという事故がよくきかれます。またパワーヘッドだけではなく、岩組が崩れてナマコがつぶれたというときにも同じようなことが起こるようです。

このサポニンは魚にとっては致命的な毒です。サンゴにとってはまだ猶予があり対処できますが魚が死んでしまい、腐敗がすすむと、当然水質も一気に悪化してしまうので、水質の悪化に弱いサンゴにとってもよくないことは確実です。ナマコが死にそうなときはすぐにナマコを水槽から出し、魚は別にきれいな海水を張った水槽に即刻避難させなければなりません。このようなことに対する対処方法が初心者には難しい面もあり、ナマコは初心者にもおすすめ!というわけにはいかないのです。

キュヴィエ管

ナマコは外敵に攻撃されたりすると、キュヴィエ管(キュヴィエ氏管・キュビエ氏管・キュビエ器管とも)を出します。ナマコをつついたりしたときに細く白い糸状の器官を出して身を守ります。これが手につくとなかなかとることができず、扱いには注意が必要です。水槽でも攻撃されたりするとキュヴィエ管を出すことがあり、注意しなければなりません。チョウチョウウオやベラなど、ナマコを攻撃するような魚とは一緒に飼育しないようにします。またヤドカリやカニなどにもいじめられていないかチェックしましょう。

ナマコ飼育まとめ

  • イモムシみたいな体をしているがウニやヒトデに近い棘皮動物の仲間
  • アクアリウムではリュウキュウフジナマコやアカミシキリ、クロナマコなどが流通する
  • ベルリンシステムなどで砂を攪拌したり有機物を食べてくれる
  • 死ぬとサポニンと呼ばれる強毒をだし魚を死に至らしめる
  • 水流ポンプで傷ついたり岩組が崩れてナマコがつぶれると悲劇が起こりやすい
  • ナマコが死にそうなときはナマコを即刻水槽から出す
  • 白い糸状のキュヴィエ管を出すことも

2020.09.22 (公開 2020.01.06) 水槽・器具

海水魚水槽にウールマット(ろ過用マット)は必要?

ウールマットは海水魚だけでなく観賞魚の飼育において物理ろ過を担うろ材です。このウールマットはオーバーフロー水槽であればウールボックスに、上部ろ過槽・外部ろ過槽であればろ過槽にそのまま専用のものを入れます。しかし、このウールマットは海水魚飼育では重要なものではあるのですが、ろ過槽の種類によってはウールマットを使用しない方がよいこともあります。今回はウールマットを使ったろ過の方法を中心にご紹介していきます。

ウールマットとは

▲我が家で使用している「KSウール」

海水魚・淡水魚問わず観賞魚水槽で一般に使用される物理ろ過用のアイテムです。「ウール」という名前がついていますが、もちろん羊毛のことではなく、ガラス繊維でできたグラスウールを使用しています。このウールマットを水の吐出口に置いておき、大きなゴミや生物の排せつ物、死骸などをひっかけるのです。

またこのほか、ZOOX(ゾックス:エムエムシー企画)から出ている「マジカルフィルター」と呼ばれる製品も、ウールマット同様に使用することができます。

ろ過の流れ

ウールマットを設置するときは、まず水が落ちる場所にウールマットを置くようにします。ウールマットに大きな汚れを引っかけたあと、ウールマットでとりきれなかったものを生物ろ過で分解してもらうというものです。ただしウールマットに引っかかった汚れはそのままだとなかなか分解されにくいので、ウールマットを取り出して洗ったり、交換したりということが必要になります(後述)

ろ過槽種類別ウールマットの使い方

▲ウールボックスとウールマット

ウールマットを置く場所は上部ろ過槽ではサンゴ砂などの生物ろ過の上に敷き、外部ろ過槽であれば水の流れの最も上部に置くようにします。各メーカーから、外部ろ過槽の形にぴったり合うウールマットや、さまざまな繊維製マットが販売されています。ただし外部ろ過槽の場合はウールマットを使用しないほうがよいかもしれません(後述)。

オーバーフロー水槽であればサンプ(水溜め)の上にウールボックスとよばれるものが付属していることが多く、その中に入れるようにします。外掛けろ過槽の場合、ウールマットは使用しませんが、各外掛けろ過槽に適合したろ過カートリッジ(グラスウールが使用されていることも多い)で物理ろ過を行います。

写真のウールマットは、当時水槽で使用していたバイオペレットのせいで赤茶色になってしまっています。バイオペレットを使用するとバクテリアが分解したバイオペレットのカスが水槽に漂ってしまうことがあります。プロテインスキマーの設置は重要ですが、スキマーを設置していても、何回か循環しているうちに汚れが濾しとられるというもので、すぐに汚れが落ちるというわけでなく、このようにウールマットに汚れがたまってしまうことにも注意しなければなりません。

ウールマットの大きさが使用しているウールボックスやろ過槽などの大きさにあっていないといったときにはハサミなどを使用してカットする必要があります。できるだけ、使用しているろ過槽の専用マットを使用するようにしましょう。上部ろ過槽はマルカン(ニッソー)、ジェックス、コトブキなどのメーカーが作っていますが、メーカー共通のものもあり、このようなものを使用するのもよいでしょう。

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ウールマットのメンテナンス

ウールマットは大きな汚れをひっかけるものです。魚のフンや食べ残し、生物の死骸、ヤドカリやエビの抜け殻などです。これらはウールマット上ではなかなか分解されませんので、ウールマットに付着したままになってしまうこともあります。ウールマットを使用する場合はこまめに水で洗い流して洗浄することが大事になります。何度ウールマットを洗っても汚れが落ちないという場合はウールマットを捨てて交換するようにします。

こんな水槽ではウールマットは使わない方がよいかも

▲超小型オーバーフロー水槽「クロスミニ」

ウールマットは先ほども述べたように頻繁に洗わなければいけないものです。外部ろ過槽でもウールマットが付属していますが、これは使わないほうがいいかもしれません。外部ろ過槽の場合ウールマットを取り出す際に当然ながらろ過槽を開封しなければいけないのですが、洗い終わってろ過槽を再始動させるときにしっかり封をしないと水が漏れるなどのトラブルがおこることもあるからで、頻繁にいじりたくないからです。

また以前このサイトでもご紹介したニッソーの「クロスミニ」に代表される、小型のオーバーフロー水槽もその構造上ウールマットを出し入れしにくいため、使用しないほうがよいかもしれません。また小型オーバーフロー水槽の場合は魚は多く入れられないので、注意が必要です。

ウールマットを使わなくても海水魚を飼える

結論として、ウールマットは使用しなくても海水魚を飼育することはできます。我が家の水槽ではウールマットを使用していない海水魚水槽もあるのですが、そのような水槽でもウールマットがないからといって、ろ過が不十分、ということはありませんでした。

私もオーバーフロー水槽ではウールマットを使用していましたが、小さなカエルウオがウールボックスの中に落ちて死んでしまっていた、なんてことがありました。それ以降はウールマットを敷かないで飼育していることが多いです。ウールマットは海水魚水槽だけでなく、アクアリウムにおいては重要なアイテムであることは確かなのですが、絶対にウールマットがないと海水魚が飼育できない、というわけでもないのです。魚がたくさんいる水槽であったり、上部ろ過槽の場合などはウールマットがあった方が飼育しやすくなるでしょう。

まとめ

  • 水槽飼育の物理ろ過を担う
  • 魚のフンや生物の死骸などをウールマットに引っかける
  • 羊毛ではなくガラス繊維でできたグラスウール製
  • ろ過槽を流れる水の流れのもっとも上に置くようにする
  • オーバーフロー水槽ではウールボックスの中に置く
  • 上部ろ過槽・外部ろ過槽では専用のマットが販売されている
  • 外部ろ過槽ではマットを使用しない方が無難かもしれない
  • 小型オーバーフロー水槽でも使用しない方がよいかもしれない
  • ウールマットがないからといって海水魚が飼育できない、ということはない
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