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2020.01.16 (公開 2017.07.28) 海水魚図鑑

クモウツボの飼育方法~ウツボ飼育初心者に最適!

ウツボというと「怖い」「凶暴」「海のギャング」という面が強調されがちです。しかしテレビ番組などで強調されるほど、怖い存在でも海のギャングと言えるようなものでもないのです。

もちろん動物食性で夜間に小魚やイカ、タコなどを捕食するのに鋭い歯をもっていて怖いように見えるのは事実ですが、そんなウツボの仲間も世界で200種近くが知られており、すべてがそのような怖い魚というわけではなく、かわいい見た目のウツボというのもおります。とくに今回ご紹介するクモウツボはかわいいだけでなくウツボ飼育初心者向けの魚でもあり、ウツボの仲間をはじめて飼育するのには最適といえるでしょう。

標準和名 クモウツボ
学名 Echidna nebulosa (Ahl, 1789)
分類 ウナギ目・ウツボ科・ウツボ亜科・アラシウツボ属
全長 約60cm
飼育難易度 ★★☆☆☆
おすすめの餌 餌の単用は避け複数種を与える(後述)
温度 24~26度
水槽 90cm以上
混泳 口に入るサイズの魚はNG
サンゴ飼育

クモウツボが初心者向けのウツボとされる理由

クモウツボがウツボ飼育初心者向けと言われているのには、いくつかの理由があります。なお、ウツボ飼育の基礎についてはこちらでも解説しておりますので、ご覧くださいませ。

水温や水質の変化に強い

▲水深1mの場所で採集したクモウツボ

クモウツボはいったいどんな場所に生息しているでしょうか。分布域は和歌山県以南の太平洋岸、琉球列島、海外では南アフリカからメキシコのバハ-カリフォルニアまでおよび、インド-汎太平洋の熱帯域に広く分布する種といえます。

サンゴ礁域を主な生息場所にしているのですが、水深1mを切るような浅瀬にも多数生息しており、水温や比重の変化が激しい潮溜まりにも生息している本種は、水温や水質の変化にもかなり強いといえそうです。

ただし、さすがに汚い水や30℃以上の高水温だと拒食になってしまうこともありますので、なるべく綺麗な水で、一定の水温のもと飼育するようにします。死因で一番多いのは飛び出しと、ウツボ同士の無理な混泳によるもので、病気もほとんどかかりません。

比較的おとなしい

クモウツボは動物食の魚ですが、主に甲殻類や小魚を食べ、ウツボの仲間では比較的温和な性格をしています。大きめの魚となら、さまざまな魚との飼育を楽しむことができます。ただ、ハゼの仲間などの小さな魚と一緒に組み合わせると、食べられてしまうことがあり注意します。

ウツボの全長と寿命

クモウツボは最大で1m近くになるとされますが、ふつうは大きくても全長60cmくらいの比較的小型のウツボで、水槽の中ではもっと小さいことが多いです。そのため初心者向けの一般的な60cmほどの水槽でも長く飼育することができます。

ウツボは上手く飼育すれば30年以上生きるものもいるようです。海水魚の中でも寿命は非常に長い種です。

クモウツボの特徴

▲クモウツボの上顎歯と下顎歯

クモウツボはウツボ科のうちウツボ亜科のアラシウツボ属に含まれます。ウツボ科にはウツボ亜科とキカイウツボ亜科がいますが、観賞魚として流通するのはウツボ亜科のものが多く、キカイウツボ亜科の魚はモヨウキカイウツボなど少数派といえます。この2つの亜科は背鰭の位置で見分けられ、クモウツボは鰓蓋後方の上から背鰭がはじまり、背鰭が尾部の方にしかないキカイウツボ亜科の仲間と見分けられます。アラシウツボの仲間は他にもシマアラシウツボや、淡水~汽水にすむナミダカワウツボ、黒地に白の水玉模様があるポルカドットモレイなどがいます。

体には黒っぽいアメーバ状の斑紋や黄色っぽい斑点があり、鼻管や眼が黄色っぽいのが特徴です。歯は多くが臼歯状ですが、前上顎の歯は雌雄によって形が異なり、雄は鋭い歯をもちます。雌はほかの歯と同様に臼歯状となっています。

クモウツボに適した環境

水槽

クモウツボのような比較的小型の種であれば60cm水槽でも飼育できます。混泳を考えるのであれば90cm以上の水槽があるとよいでしょう。オーバーフロー水槽で飼育するときは、フロー管からサンプ(水溜め)に落ちないようにフェンスを付けるなどの工夫が必要ですが、水を汚しやすいウツボの飼育に重要な広いろ過スペースを確保できるなど、他の水槽よりも大きなメリットがあります。

水質とろ過システム

クモウツボにはイカの足など、生の餌を与えることが多いので、水が汚れやすくなります。ろ過装置はきちんとしたものを選ぶようにします。

外掛け式フィルターは隙間ができやすく、ろ過能力もそれほど高くはないですので賢明な選択とは言えません。上部ろ過槽や外部ろ過槽、オーバーフロー水槽のサンプにろ過槽を設けるやり方が現実的といえますが、外部ろ過槽はパワーがイマイチであることや酸欠が起こりやすいなどの点に注意します。ワンランク上の機種を選ぶようにするとよいでしょう。

フタ

▲フタをして隙間埋めしてペットボトルの重石をする

クモウツボに限らずウツボは脱走しやすいのでフタは必須です。ウツボの死因で最も多いのは「飛び出し」です。できればフタをするだけでなく、フタにできる小さな切りかけもアクリル板で覆ったり、上部ろ過槽のポンプを置く位置にもスポンジを詰めるなど、隙間埋めをしっかりしておきたいものです。また隙間埋めだけでなく、水槽の上に重石をしておきます。重石は写真のような角ばったペットボトルが最適で、炭酸飲料などが入っている丸みをおびたものは転がって落下しやすいので注意が必要です。また重石として本当に重い石を置いてしまったら水槽のフタが割れてしまい、逆に飛び出して死んでしまうおそれもありますのでやめましょう。

水槽のフタはアクリル・ガラスなど色々な材質があります。アクリルは加工がしやすいですが照明の熱などで反りやすいデメリットがあり、ガラスはそのようなことがないものの重石として本当に重いものを置いたら割れてしまうというデメリットもあります。一長一短で好みや水槽周りの環境に合わせて選ぶとよいでしょう。筆者はジェックス製のガラスフタを使用し、水の入ったペットボトルを重石にしています。

クモウツボを飼うのには砂はいらないといわれることもありますが、我が家の場合は砂を敷くことで落ち着きました。砂はパウダーでも粗めの粒でもよく、厚く敷く必要もありません。砂を厚く敷くと硫化水素なども発生することがあるので、あまりよくありません。

飾り

クモウツボが落ち着けるように隠れ家が必要になります。飾りサンゴやサンゴ岩、ライブロックなどを組み合わせて隠れる場所をつくります。ただし不安定な組み方だとウツボに崩されてしまうおそれもありますので注意が必要です。味気ないですが塩ビ管などでもよいでしょう。

クモウツボの餌

基本的に動物食性ですので、餌も動物質のものを中心に与えます。クモウツボは主に小型の甲殻類や魚類などを捕食していますが、ウツボの仲間ですので、やはり頭足類は大好物です。イカの足の部分を与えると喜んで食べます。本種に限らずウツボは人に慣れやすく、給餌は楽しみですが、毎日ではなく大体1週間に1~2回くらいで問題ありません。クモウツボの雌はあまり鋭い歯をもっていませんが、できるだけ長いピンセットで給餌してあげるとよいでしょう。カミハタから出ている「多目的ピンセット」などがおすすめです。

餌のイカはあらかじめ冷凍したものを与えるようにします。ほか魚の切り身やエビのむき身などを餌に与えるときも同様です。まずは冷凍して寄生虫を殺してから与えたほうがよいでしょう。

カミハタ 多目的ピンセット

クモウツボの選び方

▲採集してきたクモウツボ

クモウツボは採集することも、購入することもできます。購入するときは入荷してすぐの個体、頭部の白い部分がやや赤みを帯びている個体(水が悪いとそうなることもある)、極端に小さな個体は避けるようにします。琉球列島では潮溜まりで出会える可能性が高いといえますが、単独で行くのは絶対に避けるべきです。とくに夜は足元にも注意しなければなりません。

クモウツボと他の魚の混泳

▲他の魚との混泳

▲細めのカエルウオの仲間はとくに餌になる恐れあり

クモウツボはウツボの中では比較的おとなしく、ほかの魚との混泳も不可能ではないのですが、60cmくらいのサイズの水槽でスズメダイと一緒に飼育しているとスズメダイが徐々に捕食されて消えてしまうことがあります。上の写真のネズスズメダイやミツボシキュウセンは食べられてしまいました。またカエルウオやハゼなどの体が細い魚は特に捕食されやすいので要注意です。ほかのウツボ類との混泳はおとなしいゼブラウツボなどとであれば可能ですが気が荒いドクウツボやニセゴイシウツボ、グリーンモレイなどと混泳させてはいけません。

サンゴ・無脊椎動物の関係

▲クモウツボとサンゴ

クモウツボはサンゴ水槽でも飼育できますが、あまりおすすめはしません。基本的にサンゴはきれいな水を好み、生の餌を与えて水を汚しやすいサンゴとの飼育にはあまり向かない面があります。どうしてもサンゴと飼育したいのであれば、ディスクコーラルやグリーンボタン(タチイワスナギンチャク)などがよいでしょう。グリーンボタンとは3年ほど一緒に飼育していたことがあります。力が強く岩組を崩してしまうことがあるので、サンゴ水槽での飼育は要注意です。甲殻類はクモウツボに食べられてしまうことも多いので一緒に飼育しないほうがよいでしょう。場合によってはクリーナーシュリンプも食べてしまうことがあります。

クモウツボ飼育まとめ

  • ウツボの中でも温和でやや小型、丈夫で飼いやすい種
  • 脱走と水質悪化に注意
  • 魚の切り身やイカの脚などを与えるが、慣れれば配合飼料も食べる
  • ウツボの仲間では温和だが、他魚との混泳は注意
  • 逆に大型のウツボとの混泳は危険
  • 甲殻類は捕食するおそれあり

2020.05.28 (公開 2017.07.27) 海水魚の買い方

飼育難易度が高い(持て余しがちな)海水魚

海水魚専門店ではさまざまな魚が販売されていますが、その中には、一般のアクアリストには最後まで飼育できるとは思えないような魚が販売されていることもあります。

最後まで飼育できなさそうな魚、持て余しそうな魚はどんな魚なのでしょうか。そしてそのような魚を最後まで飼育するにはどのような飼育環境が必要なのでしょうか。ここでまとめてみました。

持て余しがちな魚

海水魚専門店で販売されている魚について、持て余しがちな魚についてご紹介します。そのような魚としては、気が強くなり他の魚と飼いにくい、遊泳性が強く狭い水槽で飼いにくい、大きくなる、などの性質をもつ魚が多いです。

スズメダイの仲間

▲クロスズメダイは小さいころは綺麗だが…

スズメダイの仲間は、幼魚こそ派手な色彩をしているのですが、成長するにつれて気が強くなり、種によってはヤッコの仲間などとも張り合うくらいの強さになります。とくにクロスズメダイの仲間、ルリスズメダイの仲間、ソラスズメダイの仲間、ダンダラスズメダイの仲間、そしてクロソラスズメダイの仲間は幼魚と成魚では全く違う色彩になり、大きいものはヤッコの仲間より強くなるなどしますので、安易な気持ちで飼育しないように、後のことも考えて飼育する必要があります。

スズメダイを飼育するのであれば比較的温和な性格のデバスズメダイやヒメスズメダイなど温和な種から飼育するとよいでしょう。

大型ヤッコの仲間

▲ウズマキと呼ばれるタテジマキンチャクダイの幼魚。成魚は格好いいがその分気も荒い

通称、「ヤッコ」と呼ばれるキンチャクダイの仲間は観賞魚として人気がある仲間ですが、そのなかでも大型になる種の飼育については注意が必要です。

この仲間は幼魚と成魚では色彩や斑紋が全く異なり、色や模様の変化を楽しむことができますが、成長すると大型になり、さらに大きくなるにつれて性格もきつくなるということを忘れてしまうアクアリストも多いようです。

実際に瀬戸内海や静岡県、あるいは宮崎県などでセダカヤッコ(通称マクロスス)、和歌山でホクロヤッコ(クイーンエンゼルフィッシュ)が、新潟県でキホシヤッコ(フレンチエンゼルフィッシュ)などが採集されています。

セダカヤッコの瀬戸内海の記録は古く観賞魚を放したのかどうかは不明ですが、他の種は飼いきれなくなったアクアリスト、あるいは面白いものを見たいダイバーが放流したのは間違いがないところです。前に書いたように、飼いきれなくなっても、海に放すなどはしてはいけないことだ、ということを理解しなければなりません。

メギスの仲間

▲メギスの仲間は気が強い種類が多い

メギスの仲間もかなり強く種によってはかなり強く、ベテランのアクアリストでも持て余す可能性があります。メギス属の魚やそれによくにたオギルビーナ属の魚、ニセスズメ属の魚でも大型になる種には注意するようにします。

一般に飼育向けなのはクレナイニセスズメやバイカラードティバック、オーキッドドティバック(フリードマニ)などの小型種ですが、これらの種も小型水槽ではかなり強い性格を発揮してしまうので注意します。大きめのサンゴ水槽、それも混泳のメンバーをリストアップしておいて、最後に追加するようにしないといけません。

ベラの仲間(大型種)

▲メガネモチノウオの幼魚

▲水族館で撮影したメガネモチノウオの成魚

ツユベラやカンムリベラの幼魚は美しく丈夫なので初心者向けとも思われがちですが、ツユベラは成魚で45cm、カンムリベラに至っては成魚では1mを超えるようになってしまいますので、小~中型水槽を持つことが多い初心者向けの魚とはとても言えません。家庭の水槽ではそれより小型ですが、カンムリベラは2mくらいの大きさの水槽でないと満足に飼育できないでしょう。

ベラの仲間で最大になる種は、インド-中央太平洋のサンゴ礁域にすむメガネモチノウオです。通称ナポレオンと呼ばれる、水族館でも人気の魚ですが、成魚は2mを超える大型種、小さいうちは臆病ですが大きくなるにつれ性格がきつくなり、小魚も捕食してしまうので注意が必要です。

ツユベラやカンムリベラは夜間の睡眠のときや危険が迫ったときには砂にもぐりますので、水槽の底に砂を敷いてあげる必要があります。メガネモチノウオは夜間は岩の隙間などで眠るため、砂を敷く必要はありません。

コショウダイの仲間

▲チョウチョウコショウダイの幼魚 (Jack Kurodaさんからお借りしました)。

▲石垣島公設市場で食用魚として購入したチョウチョウコショウダイ成魚。

▲ヒレグロコショウダイの幼魚。幼魚はデリケートな一面も。

沖縄や東南アジアの海域では食用になるイサキ科の魚も観賞魚として入ることがあります。成魚もそれなりに美しく、観賞魚としての需要があります。ただし成魚は大型になるので大型水槽が必要です。

観賞魚としてしばしば入荷するチョウチョウコショウダイは自然下では60cm、水槽でも40cmになり、アヤコショウダイは50cm、ヒレグロコショウダイも自然下では40cmになります。大型個体は120cm水槽でも狭いくらいで、せめて180cm水槽は用意してあげたいものです。小さな幼魚から飼育してみたくなるところですが、幼魚は比較的デリケートで混泳もしにくく、餌付きもよくないので注意が必要です。ある程度育った個体は丈夫で飼育しやすいです。

フエダイの仲間

▲水族館で撮影したイレズミフエダイ。50cm近くある。

▲ヒメフエダイはやや小ぶりだがそれでも35cmになるので注意する。

フエダイの仲間はイサキの仲間ほど観賞魚店でみることはありませんが、個性的な魚が多く知られています。とくに鰭が長く伸びるロングフィンスナッパーことイレズミフエダイは観賞魚店でよくみられるものですが水槽内でも50cmを超える大型種ですので、大型水槽が欲しいところです。成長は早く食性は動物食性なので小魚や甲殻類は食べてしまいますので要注意です。

フエダイの仲間は幼魚が磯や防波堤で採集できるので、何かわからず、家に持ち帰ってしまうことが多いのですが、60cmほどの水槽で飼育できるのは一部の種で、少なくとも90cm水槽が欲しいところです。理想は120cm水槽です。飼いきれなくなったら海に逃がすのではなく、観賞魚店などに相談するようにしましょう。

アジの仲間

▲コバンアジの幼魚。10月に神奈川県で採集

▲コバンアジの成魚 鹿児島県の漁師さんからいただいた

遊泳性が強いアジの仲間は小型水槽では飼育することが難しいものです。にもかかわらず、コガネシマアジやロウニンアジなどの種類はお店で販売されています。

実際、このような魚は水族館なみの設備がないと飼育することは不可能です。アジの仲間としては小さなコバンアジの仲間も遊泳性がかなり強いため、成長することも考えると、150cm以上の大型水槽で飼育するべきでしょう。

ツバメウオの仲間

▲枯葉によく似たナンヨウツバメウオの幼魚

波間に漂う枯葉の様なすがたのナンヨウツバメウオも含まれるツバメウオの仲間も、小型水槽では飼育がしにくい魚です。性格は大型魚としてはおとなしめで、スズメダイなどと飼うと鰭などをつつかれるおそれがあるので注意します。巨大水槽で大型ヤッコなどとともに、ゆったり余裕をもって飼育するようにしたいものです。

マンジュウダイ科の観賞魚としてはこのほかにアカククリやバタビアツバメウオ(通称ゼブラバットフィッシュ)なども知られますが、これらの種類も大型になるので注意します。またこれらの種は飼育も難しく、初心者どころか上級者も手が出しにくい種といえます。

ハタの仲間

▲小さな赤みを帯びた斑点を持つハタのなかには大型化するものもいるので注意。

ハタの仲間はヤミハタやカンモンハタなどの小型種もいますが、メーターオーバーの大型種も多く、飼育には注意が必要です。

最近海水魚店のほか、熱帯魚を扱うお店でも見られる「ジャイアントグルーパー」はタマカイのことで、全長2.5mを超える巨大種です。黄色と黒のマーブル模様が綺麗ではありますが、大きい個体では白い斑紋と尾鰭のまだら模様が特徴で、大きく見た目が変わります。ハタの仲間は人によくなれ長寿、巨大な水槽を所有できるのであれば是非飼育してみたい魚です。

ハタの仲間を飼育する上での注意は、事前にそのハタがどのくらいのサイズになるのか、情報を集めておくことです。本州沿岸で釣れる、体側に茶色い小さな点々があるのは、キジハタなどの一部の種を除き大型になることが多いです。

テングハギの仲間

▲テングハギ属の魚は大きくなり家庭の水槽での飼育は困難。写真は水族館で撮影。

ニザダイ科のうち、テングハギの仲間(テングハギ属)は20種が知られ、観賞魚としてもたまに販売されています。とくに頭部にツノのような突起があるものはユニークな顔つきから飼育してみたくなるものなのですが、この仲間は大きいものでは1m近くになるので、家庭の水槽での終生飼育はよほど巨大な水槽を用意できる人でない限りはほぼ無理といえます。

テングハギの仲間のうち家庭の水槽での飼育に向いているのは、やや小形の種であるボウズハギとミヤコテングハギくらいでしょう。しかしそれでも成魚まで飼育するには120cm以上の水槽が欲しいところです。

モンガラカワハギの仲間

▲この仲間ではもっとも一般的な種であるモンガラカワハギ

▲モンガラカワハギの仲間を飼うなら設備についても注意する必要がある。

かなり凶暴な性格、他の魚を食べたり、大きい魚でもかじったりするなど、どうしても持て余してしまいがちな魚です。幼魚は本州以南の太平洋岸、年によっては日本海岸でも夏から秋にかけて採集可能で、面白い泳ぎ方や姿からついつい飼育してみたくなりますが、他の魚との飼育は止めた方がよいでしょう。

また強い歯で色々齧るという悪癖もありますので、その点も対策が必要など課題も多いといえます。この仲間を飼育するには混泳のことだけではなく、設備についても考える必要があると言えます。初心者におすすめできるような魚ではありません。

衝動買いは禁物

海水魚飼育に限らず、淡水の魚、キンギョ、最近はやりのメダカ、あるいは愛玩動物だってそうなのですが、生き物を飼育するのに衝動買いというのは絶対にやってはいけないことです。

まずは、飼いたい魚がどんな性格をしていて、それを飼育するのにどのような大きさの水槽が必要なのか。他の魚と一緒に飼育することはできるのか、どんなものを食べるのか。そのようなことをきちんと本や雑誌などで調べる必要があります。そして「こんなに性格が悪いならウチでは飼えない」「そんな大きな水槽、家におけない」と思うのであれば、飼育開始前のうちにその魚の飼育をあきらめることも大事といえます。

まとめ

  • スズメダイの大型になる種やモンガラカワハギは気が強く持て余しがち
  • コショウダイ、ハタなどの巨大になる種も注意
  • アジやテングハギの仲間など広い遊泳スペースが必要な魚は飼育困難
  • 衝動買いは禁物
  • 飼いたい魚について雑誌などで性質をよく調べる

クロスズメダイおよびチョウチョウコショウダイの写真はJack Kurodaさんからお借りしました。ご協力ありがとうございました。

2020.09.29 (公開 2017.07.26) 海水魚飼育の基礎

海水魚やサンゴの飼育が困難になったら~海へ放流?殺処分?

最近、日本の海に、その場所には生息していなかったはずの魚が見られるようになりました。最近(2017/平成29年7月)も、和歌山県串本において多数のカクレクマノミやセジロクマノミが放流されるという事態が発生しています。それ以前にも、写真のセダカヤッコが静岡や宮崎などの海で確認されています。飼えなくなった魚を海へ逃がすという行為はどのような問題があるのか、そして飼えなくなった魚はどうすればよいのか、まとめました。

海に放してはダメ

どうしても海水魚を飼育できなくなった、かわいそうだから、と海へ逃がすようなことだけは絶対にやめてください。海に逃がすようなことをするなら、初めから魚を購入しないでください。

とるべき方法

上記のとおり、海に放す方法は間違った方法です。ここでは何らかの事情で海水魚を飼育できなくなった場合、とるべき方法をご紹介します。

誰かに引き取ってもらう

▲お気に入りのキクメイシの一種。飼えなくなったものを譲っていただき、5年になる。

アクアリスト仲間がいるなら、誰かに引き取ってもらうのも手です。ただし引き取ってもらうアクアリストの方にも、どんな魚を引き取ってほしいか理解してもらわないと、引き取った後のトラブルにつながる恐れがありますので、紳士的な対応を心がけます。この方法の欠点は、アクアリスト仲間がいないと使えないという点です。

お店に引き取ってもらう

もっとも確実な方法です。いくつかの観賞魚店では飼育できなくなった魚を引き取るようなことを実施しています。引き取った魚は販売されることが多いです。この方法の問題点はどこの観賞魚店でもやっているとは限らないことです。

ただし、最近は観賞魚店が売れ残りの魚を河川に放つということを行った、との話もあり、観賞魚店を信頼できなくなっているのも事実です。

殺処分する

上記ふたつの方法が使えず、自分で飼育を続けることもできないのであれば、殺処分、もしくは他の魚の餌にするしかありません。

魚がかわいそう、と思うのであれば、はじめから購入しないのが、魚のためであるともいえます。

海に放つことで起こりうる問題

▲ホクロヤッコも2008年ごろ和歌山で採集されたことがある

飼い主が見つからない。お店にも引き取ってもらえない、殺処分は可哀そう、として、海へ放すケースもありますが、これは絶対にやってはいけないことです。

一般的に外来の魚を川や海へ放すというケースは捕食の問題、つまり、外来の魚が在来の魚を食べてしまうという問題があるということが知られていますが、その他にも交雑の問題や、病気、寄生虫の問題など従来はあまり表に出ていない問題があることが明らかになっています。最近はタマカイなどのハタ類養殖種苗を国外から購入していることもありますが、そのような行為も問題を引き起こすおそれがあり放流はやめてほしいところです。

「採集した場所に逃がす」行為の問題

▲さまざまな地域の魚が一緒に泳ぐ水槽。

では採集した場所に逃がすことは問題ないのか、考えてみましょう。写真の水槽では、さまざまな地域の魚が一緒に泳いでいます。具体的に言えば、高知県、三重県、沖縄、そしてマーシャル諸島の魚です。

この魚たちのうち、どれか1匹の魚がその地域特有の寄生虫をもっていると、水槽すべての魚に広がってしまうなどという事例もあります。とくに淡水魚ではこの問題が顕著で、アメリカのギンザケが持ってきた冷水病はアユにも感染し大きな打撃をうけたとか、コイのKHVなどの問題とか、あちこちで深刻な問題を引き起こしています。海水魚の体表や鰭には様々なバクテリアや甲殻類などの寄生虫が付着しがちです。そのような生物の分布を広げないようにするためにも、たとえ採集した場所と同じ場所に逃がす行為であっても、飼育した魚を放流するという行為は慎まなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。

増やしすぎにも注意

▲よく増えているディスクコーラルやタチイワスナギンチャク。増やしすぎには注意。

▲モンガラカワハギは特に気が強いので持て余しやすい。

サンゴの仲間、特にディスクコーラルマメスナギンチャクウミキノコの仲間などは増えすぎて持て余すおそれもあるので、増やしすぎには注意が必要です。

ウミキノコは基本的に自分で切って増やしますので問題は少ないのですが、ディスクコーラルやマメスナギンチャクは環境が合うと爆発的に増えることもありますので、小さな水槽では持て余すケースもあります。

増えすぎたら海に棄てずにイベントなどで販売する、あるいはチョウチョウウオなどの餌にするという方法もありますが、持て余さないように増やしすぎないのが原則といえます。

また魚の中には気が強いなどの理由で持て余しがちな魚もいます。その代表的なのはスズメダイの仲間やモンガラカワハギ、大型のキンチャクダイの仲間です。スズメダイの仲間で、その中でもクマノミに近い仲間のスパインチークアネモネフィッシュが伊豆や三重で見つかっており、三重の件はアクアリストが捨てたものと考えられます。気が強く持て余しがちな魚を「飼育するな」とは言いませんが、そのような魚をきちんと最後まで面倒みられるか、考えることも重要です。

まとめ

  • 飼えなくなった魚は海に放してはならない。
  • 理想はアクアリストやショップに引き取ってもらうこと
  • 最終手段は「殺処分」であり、海へ放すことではない
  • 採集魚を獲った場所に逃がすことも、病気や寄生虫のこともあり、してはならない
  • よく増えるサンゴは増やしすぎに注意
  • 最後まで飼えるか考えることが大事

2020.06.17 (公開 2017.07.24) 餌・添加剤

海水魚・サンゴの「添加剤」の種類と使い方・選び方

海水魚やサンゴ、イソギンチャクなどの無脊椎動物。これらの生物の暮らしていた広大な海は、77種の元素からなる海水で構成されています。私たちが「趣味」と称して14億㎦の海から水量100リットルそこらの水槽に魚を連れてくるわけですから、せめてその飼育水を、自然の海に近いものにするように努力するのは、アクアリストのつとめともいえます。

ホンモノの海水を人間の手で生み出すことは困難ですが、水槽の飼育水を、ホンモノの海水に近づけてくれるものがあります。それが「添加剤」です。これを正しく使うことによって、飼育水を自然の海水に近くし、魚やサンゴを成長させることができるでしょう。

添加剤はなぜ必要なの?天然海水に含まれる元素

天然海水には77種類もの元素が含まれているといわれています。これらの元素をいちいち正確に添加する事は難しく、基本的には海水中に含まれる主要な元素や、各種微量元素を水槽内に添加することになります。

カルシウム

▲ミドリイシでなくても、ハードコーラルが中心の水槽には添加が重要

ハードコーラルの骨格をつくるのに重要な元素ですが、ソフトコーラルにも重要な元素であることがわかっています。ミドリイシなどのSPSにとっても重要な成分で、不足すると白化してしまう恐れもあります。

カルシウムリアクターを使う方も多いようですが、添加剤を使っても問題ありません。ただしイオンバランスを崩すようなことがないように、添加しすぎには注意が必要で、定期的に水替えをしてバランスをリセットさせるようにします。

マグネシウム

▲海水中にはカルシウムの約3倍のマグネシウムが溶け込んでいる

マグネシウムはハードコーラルやソフトコーラルに必要ですが、そのほかに海水の元素のバランスを整える役目もあります。カルシウム同様にサンゴ水槽では定期的に添加することが重要です。マグネシウムは大体カルシウムの約3倍の量が水に溶け込んでいるとされており、マグネシウムの濃度が低すぎるとカルシウムは炭酸塩イオンと結合して沈殿してしまうため、定期的な添加が必要となります。添加には添加剤を使用するほか、カルシウム同様にリアクターを使用して添加する人も多いようです。

ストロンチウム

▲ハードコーラルの骨格形成に重要

カルシウムと同様に、サンゴの骨格形成に重要な成分です。特にハードコーラルにとって重要な成分ですがソフトコーラルの成長や魚の骨格形成にも必要な元素で、カルシウム、マグネシウムとともにサンゴ水槽には添加しておきたい元素です。ただこの元素は水槽内では失われやすいため、定期的に添加しておきたいものです。

上記の3つの元素はそれぞれ添加してもよいのですが、最近は3つの元素を同時に添加できるような製品も販売されておりますので、そのようなものを使用するのもよいでしょう。

ポタシウム

▲サンゴの青色の色揚げに効果あり

カリウムのことです。カリウムはドイツ語で、ポタシウムが英語です。元素記号はKでドイツ語にちなみます。ちなみに元素記号Poはポロニウムというまた別の元素になります。ハードコーラルの骨格形成に効果がある元素のひとつですが、最近はサンゴ、とくにミドリイシなどのSPSの青色の色揚げにも効果があるとのことで、注目されている元素です。またライブロックにつく石灰藻の成長も促進されます。ただしポタシウムばっかりいれてもすぐに青くなるということはなく、逆に元素のバランスを崩してしまうおそれがあるため、添加のし過ぎは厳禁です。もちろんこれはポタシウムにかぎらず、そのほかの添加剤にもいえることですが。

ヨウ素(アイオダイン)

▲ソフトコーラルや魚中心の水槽でもヨウ素は添加するようにしたい

ヨウ素はサンゴにとってかなり重要な成分で、これを添加することによってサンゴがよく開くようになります。また魚や甲殻類、海藻・海草にとっても重要な成分です。しかし健康の維持に重要な成分であるにもかかわらず吸着剤で吸着されてしまったり、強力なプロテインスキマーによって水槽から排除されるなどしてしまうため、定期的に添加する必要があります。もちろん過剰な添加はするべきではありません。

鉄分

▲海藻を飼育するならば添加したい

サンゴや海藻・海草類など、光合成をする生物には必須の元素です。欠乏することがないように添加することが望ましいのですが、過剰に添加するとコケの大増殖につながることがあります。

また一般に販売される微量元素の中には鉄分を含むものがあり、過剰にならないように注意する必要があります。

微量元素

▲鉄分が含まれるものもある。過多にならないように

海水に含まれる元素の中で特に有用なものをまとめた成分で、「トレースエレメント」などとも呼ばれています。メーカーによって内容物には若干差があります。例をあげればブライトウェルアクアティクス社の「リプレニッシュ」という製品にはバリウム、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン、コバルト、ランタン、鉄といったものから名前を聞くことがほとんどないものまで29種類の元素が含まれています。メーカーによって成分はまちまちで、他のメーカーの製品との併用がしにくいといえます。

中には鉄分が含まれているものもあります。鉄分を供給する添加剤との添加は鉄分の過剰添加を起こしてしまうことがあります。鉄分は光合成のために重要ですが、光合成をする生き物はサンゴや海藻だけでなく、コケも含まれます。そのため鉄分を過剰に添加するとコケの大発生を招くことがあります。

添加剤にとして加えなければならないその他の成分

元素の他にも、水槽の海水をより自然の海に近づけることに役立つ添加剤がありますのでご紹介します。

ビタミン・アミノ酸

▲魚・サンゴに適したビタミンやアミノ酸を。

元素とは違いますが、魚やサンゴに必要なアミノ酸やビタミンを届けるための添加剤もあります。魚やサンゴ、それぞれに必要なものを選んで添加するようにしましょう。直接添加するものや、餌に浸して使用するものなどがあります。後者は小さなカップなども必要になります。

pH調整

▲魚中心の水槽ではpHが下がりやすいので注意。

pHとは水中の水素イオン濃度を示す単位のことです。pH7.0が中性、7.0より数値が小さいものを酸性、逆に7.0よりも数値が大きいものをアルカリ性といいます。海水のpHは大体8.0から8.3くらいです。

海水水槽、とくに魚中心の水槽では常にpHが下がっていく傾向がありますので、調整剤を使ってpHを上昇、安定させるようにするべきです。粉末状のものも多いですが液体状のものもあります。

KH調整

▲ミドリイシ飼育にはKHも重要な要素

KHとは炭酸塩硬度のことです。ミドリイシには10dKH前後が適していますが、他のサンゴはもう少し低くても大丈夫ですが、低くなりすぎるとハードコーラルは白化してしまいますので、添加剤を使用したり、カルシウムリアクタという器具を用いてKHを安定させるようにします。

添加剤の添加方法

水量何リットルに何滴添加するとか、水量何リットルに何mlを加えるとかいう添加方法が基本です。この場合注意しておきたいのは「水量」です。水量はメイン水槽の他にろ過槽も含み、オーバーフロー水槽であればサンプ(水溜め)なども含みます。

添加剤同士は決して混ぜて使ってはいけません。また、さまざまな元素を含むタイプの添加剤を使用する場合はなるべく同一メーカーのものを使うようにして、ある成分が過剰に供給されるのを防ぐようにします。

添加剤を入れても水替えは行う

▲定期的な水替えは必須

添加剤を添加しても、水替えをしなくてよくなるというものではありません。たとえばカルシウムやマグネシウムなどは正確に添加する量を守らないと長期的には水槽のイオンバランスが崩壊して生き物にかえって害になってしまう恐れがあるため、定期的に水換えしてイオンバランスをリセットしてやる必要があります。

添加剤とプロテインスキマーとの関係

微細な泡を発生させてハイパワーで有機物を水槽から取り除くのがプロテインスキマーですが、せっかくの元素も水槽から取り除かれてしまいますので、プロテインスキマーを付けた水槽では添加の重要性が増します。特にヨウ素は魚にも甲殻類にもサンゴにも、海藻・海草にも大事な成分であるのにもかかわらず水槽から取り除かれやすいので、定期的な添加が必須となります。

添加剤のブランド・おすすめ

日本国内外さまざまな添加剤のブランドがあります。ここでは日本のアクアリストに手に入りやすく、安心して使える添加剤をご紹介します。なおここでご紹介しているのは一例であり、ここで紹介していない商品が安心して使えない、というものではありませんが、ゼオビットシステムのような特殊用途の添加剤もあります。またここに掲載されていても、使い方を間違えたり、大量に添加してしまうと生物の調子が悪くなったりすることもありますので注意しましょう。

ライブシーシリーズ

デルフィスが展開する、人気の人工海水ライブシーソルトでお馴染みの国産ブランドです。

ヨウ素やカルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、微量元素やpH調整剤などがラインナップされています。またヨウ素など、同社の添加剤の一部には1000mlの大容量の製品もラインナップされているところも大きなポイントです。我が家でも人工海水やバッファー剤などにライブシー製品を使用しています。

ブライトウェルシリーズ

海洋科学者が考案した添加剤シリーズです。日本では株式会社マーフィードが輸入販売元になっています。

1本でカルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、ポタシウムを供給しpH安定のためにアルカリ度を高める「リキッドリーフ」や、ストレスで白化したサンゴの回復や成長、再生を促進する「リストア」など、かゆいところに手が届くような商品の構成で人気があるシリーズです。我が家でも添加剤はこのシリーズをよく使用しています。

レッドシー

リーフケアプログラムと呼ばれる、添加剤を使用した4つのサンゴ育成プログラムがあります。バランスを取れた正しい値を維持する「リーフファンデーションプログラム」、栄養塩をコントロールする「アルジーマネージメントプログラム」、サンゴに栄養を届ける「コーラルニュートリションプログラム」、そしてサンゴの色揚げの「コーラルカラープログラム」で、それぞれのプログラムに使う添加剤とテスターが用意されています。

グローテック

欧州で人気の添加剤で、日本ではLSS研究所が取り扱う人気の添加剤です。成分が異なる3種類の添加剤で元素をバランスよく補給するコーラルABCという商品、KH+CAシリーズのようにイオンバランスを崩さない炭酸塩・カルシウム添加剤などを展開。液状のもののほか、KH、カルシウム、マグネシウムを添加するのにはコストパフォーマンスに優れた粉末タイプの製品もあります。

プロディビオ

エムエムシー企画レッドシー事業部が輸入販売しているフランスのブランド。他の製品と違いガラス製アンプルのなかに入っているため、劣化しにくいというメリットがあります。カルシウムとマグネシウムを維持するのに適したカルシリーフ+やストロンチウム、ヨウ素(アイオディン)、バクテリア製材などの商品があります。

QFI

国内ではハートトレードが扱う添加剤です。メーカーによれば、イオンバランスを崩しにくく安心して使うことができる添加剤といえます。カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、KH、微量元素のほか、高濃度のヨウ素が含まれるJODミックスの計6種。

コンティニュアムアクアティクス

こちらもハートトレードが扱う製品で、一般的な元素の多くがそろい、高濃度ヨウ素「ルゴールEX」などの商品もあります。サンゴ用の添加剤だけでなく液体フードや魚水槽用の添加剤なども取り扱っています。

トロピックマリン

バイオアクティフシステムという、特殊なシステムで有名なブランドですが、バイオアクティフシステム向けの商品のほか、一般的なサンゴ水槽にも使用できる高品質な添加剤も販売されています。リキッド状のもののほか、コストパフォーマンスに優れた粉末状の製品もあります。日本総代理店はオーシャンアースです。

添加剤のまとめ

全ての生き物に必要な元素

ヨウ素、微量元素、pH調整

ハードコーラル中心 (リアクタなし)の添加剤

カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、KH調整、+全ての生き物に必要な元素

ソフトコーラル中心の水槽向けの添加剤

ヨウ素と微量元素は重要、他ストロンチウム、マグネシウム、KH調整

魚中心の水槽向けの添加剤

ヨウ素、微量元素は重要、pH調整は極めて重要 (酸性になりやすい)

そのほかの元素は水かえで補う。

  • 何れも量をきちんと正確に測り、入れすぎないように注意する。
  • 水かえもきちんと行い、バランスをリセットする。
  • 添加剤同士を混ぜて使ってはいけない。
  • 複数の元素が入った添加剤を使う場合、同一メーカー・ブランドのもののみを使う。
  • 添加した元素がプロテインスキマーにより水槽から取り除かれることもある。

2019.12.08 (公開 2017.07.23) 海水魚図鑑

遊泳性ハゼの飼育方法~餌・混泳・水質まとめ

ハゼの仲間は飼いやすく、初心者からベテランの方まで楽しめます。そんな中でも人気が高いのが、共生ハゼとこの遊泳性ハゼといえます。

温和な性格をして鮮やかな色彩をした遊泳性ハゼは水槽のスター、とまではいかないのですが海水魚水槽には欠かせない魚といえるでしょう。今回はその遊泳性ハゼ飼育の基本について解説します。

遊泳性ハゼ飼育に適した水槽

水槽

▲45cm水槽で遊泳性ハゼを混泳させている水槽。

小型のサツキハゼ属やハタタテハゼ属であれば35cm水槽でも飼育できますが、管理のしやすさなども考えますと、45cm水槽が欲しいところです。理想は60cm水槽。60cm水槽であれば複数の種が群れるところも観察することが出来ます。

ろ過装置

▲オーバーフロー水槽のろ過槽。

オーバーフロー水槽でない場合は上部ろ過槽を使うのがよいでしょう。これに外部ろ過槽を付けるとなおよいです。小型水槽ではこれらの他にも外掛け式ろ過槽や外部ろ過槽単独、底面フィルターなどを使っても飼育可能です。ただし小型水槽はすぐ満員御礼となってしまいやすく、多く入れると水が汚れやすくなるので注意が必要です。ふたつ以上のろ過槽を併用したり、外掛け式のプロテインスキマーなどを組み合わせるのもおすすめですが、狭い水槽に何匹も入れすぎないように注意します。

フタ

遊泳性ハゼの飼育全般で注意しておかなければならないのは「飛び出し」です。何かに驚いたときなどに飛び出して、死んでしまう恐れもあります。水槽にあった大きさのフタをきちんとしておきましょう。

メンテナンスのとき、給餌のときなどは特に、フタがはずれたままになっていることがありますので気をつけます。もちろん、フタのし忘れにも注意が必要です。

▲砂は厚く敷かなくてよい。

遊泳性ハゼの多くが含まれるクロユリハゼ属やハタタテハゼ属の魚は砂をあまり必要としないものが多いのですが、オオメワラスボの仲間などは砂の中に潜むものもいます。またサンゴの仲間を飼育するときには砂は必須といえます。

一般的なクロユリハゼ属魚類やハタタテハゼ属魚類を飼育するのであればパウダー状のサンゴ砂を2~3cmほど敷きつめるだけで十分といえます。あまり敷きすぎると硫化水素が発生する恐れもありますので気を付けます。

ライブロック・サンゴ岩

▲夜間岩陰で休息する遊泳性ハゼたち(奥)

ライブロックやサンゴ岩は遊泳性ハゼの飼育に重要といえます。遊泳性ハゼは危険が迫った時や夜間の就寝時にライブロックやサンゴ岩の隙間に隠れるからです。遊泳に支障が出ない程度に複雑にライブロックやサンゴ岩を組み合わせるとよいでしょう。

水温

▲深場にすむ魚や温帯性の魚は高水温に注意。

一般的な種は水温25℃ほど、シコンハタタテハゼやピンクダートゴビーなどのようにやや深場に生息する種や温帯性の種は20℃前後の低めの水温を好みます。ただし温帯域にも多いサツキハゼのように高水温に耐性がある種もいますのでそのような種は25℃前後でも問題ありません。

水質

▲河口付近の港で見られたサツキハゼの群れ。

硝酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩の蓄積には比較的耐性がありますが、できるだけ定期的に水換えを行い、綺麗な水質をキープするように心がけます。

サツキハゼの仲間は塩分(塩分濃度、という人もいますが誤り)のやや低めの汽水域にも見られますが、飼育する上では一般的に海水魚を飼育するような塩分でも問題はありません。

遊泳性ハゼの好む餌

▲冷凍コペポーダを捕食する遊泳性ハゼたち。冷凍プランクトンフードは与えすぎに注意。

遊泳性ハゼ全般に動物食性で、微小な甲殻類や、動物プランクトンを捕食します。しかし実際には動物食性向けの配合飼料もよく食べてくれます。観賞魚店には冷凍されたコペポーダやイサザアミなどの動物プランクトンを食べますが、そのような餌はよほど食いが悪いときか、おやつ程度に与えるにとどめて、配合飼料を中心に与えるようにします。口がやや小さ目のものが多いので、小粒の配合飼料を与えます。

基本的にすぐ配合飼料を食べてくれる個体が多いですが、なかなか食べてくれないのもいます。一番多いのが強い魚におびえているケースです。無理な混泳は注意すべきで、隠れっぱなしでやっと出てきたと思ったらぺらぺらになっていた、なんてこともあります。

遊泳性ハゼの選び方

▲やや痩せてしまっているオグロクロユリハゼ。

大型の専門店では常時3~4種の遊泳性ハゼを在庫していることが多いです。

背の肉がおちている、体がぺらぺらである、そのような個体は餌を食べていても初心者には厳しいです。また、ずっと浮かんでいて、なかなか沈まないような個体も避けます。しっかりと背肉がついていて、中層を遊泳しているものが安心です。なお遊泳性のハゼの仲間は岩の下などでじっと隠れているものも多く、遊泳していないからといって、選んではいけないわけではありません。しかし隠れているものは背肉の様子が見えにくいという問題もあります。

他の魚と同様に入ってきて間もないもの、体に傷がついている、体表に血がにじんでいる、鰭が大きく破れたり溶けたりしているものは選んではいけません。この仲間はあまり病気の心配はありませんが、皮膚につく俗にハダムシと呼ばれる生物が寄生していることがあります。

遊泳性ハゼと混泳できる魚

▲遊泳性のハゼと他魚との混泳を楽しむ水槽

▲ベラ類は注意。ただしホンソメワケベラとの混泳は可能。

▲カクレクマノミの仲間も注意が必要

遊泳性ハゼは臆病なので、混泳は遊泳性ハゼのことを第一に考えましょう。メギスやスズメダイなど気が強い魚との混泳は避けるべきです。もちろん、カエルアンコウの仲間、ミノカサゴ、オコゼの仲間などのような魚食魚との飼育もできません。ハナダイ類、デバスズメダイ、テンジクダイ類、小型のバスレット、カエルウオなどとの飼育は可能で、種類によっては小型ヤッコや、小型のベラの仲間との混泳も可能です。

底生ハゼの仲間、あるいは共生ハゼの仲間など、ハゼの仲間との混泳は問題ないことが多いです。ダテハゼ、ネジリンボウなどの共生ハゼやテッポウエビを入れ共生関係が出来た後に遊泳性ハゼを入れると、共生関係に割り込むおもしろい習性を観察することができます。また同種の遊泳性ハゼ同士の組み合わせは、ハタタテハゼ属の一部を除き小競り合いはあるものの大きな問題にはならないことが多いです。別種であればほとんど問題はありません。

カクレクマノミなどのような強い魚の存在はプレッシャーになりやすいので注意します。できればカクレクマノミなどの強い魚をいったん水槽から出して、水槽内のレイアウトを大きく変えてから、遊泳性ハゼを入れるようにします。サツキハゼの仲間はサンゴ岩などが入っていると、強い魚が入っていなくてもずっと隠れたままになっていることがあります。数か月も隠れっぱなしになっていることがあり、諦めていると出てきた、なんてこともあります。

ベラの仲間は要注意です。イトヒキベラ属やクジャクベラ属の小型のもの、ソメワケベラの仲間、カミナリベラの仲間、クギベラ属の幼魚、ミゼットラスなどの種類であれば問題ないように思うのですが、小型であってもかなり気が強いニセモチノウオやキツネベラの仲間は気を付けます。モチノウオやタキベラの仲間の大型種は遊泳性ハゼを食べてしまう恐れがあり一緒に飼育するべきではありません。

カクレクマノミ(などの強い魚)とクロユリハゼ属の組み合わせのポイントです。カクレクマノミを飼育している水槽からカクレクマノミを出して別の水槽で隔離飼育します。その間にライブロックなどのレイアウトを変更し、追加した後、遊泳性ハゼを水槽にいれます。遊泳性のハゼが水槽になれたらカクレクマノミを再度水槽に導入します。

別の水槽で隔離するといっても、きちんとしたろ過装置がなければカクレクマノミが死んでしまいますし、そうなっては隔離の意味がありません。できれば投げ込み式フィルターではなく外掛け式のフィルターを用いましょう。安価な水槽セットが販売されているので、一時的な隔離に用いる用途であればそのような水槽セットでもよいかもしれません。

遊泳性ハゼとサンゴの相性

▲遊泳性ハゼは海藻にもサンゴにも無害。

遊泳性のハゼはサンゴにいたずらをすることはないのでソフトコーラル、ハードコーラル問わずほとんど全てのサンゴと飼育することができます。陰日サンゴなど餌を必要とするサンゴと小型の遊泳性ハゼとの飼育では、小型ハゼが陰日サンゴにいきわたらなかった餌を食べてくれるので腐敗して水質が悪化するのを防ぐことが出来ます。ただし陰日サンゴは初心者には飼育が難しい種類ですし、その中のウチウラタコアシサンゴなどのように魚を捕食してしまうようなものとは飼育しにくいです。

遊泳性ハゼには痩せやすいものもおり、そのような種にはこまめに餌をあげたいのですが、多量に餌をあげすぎると水質が悪化する恐れがありますので、特にミドリイシの仲間やトサカの仲間など、デリケートなサンゴを飼育しているときには注意が必要です。

このほか注意するべき刺胞動物としてはイソギンチャクの仲間があげられます。イソギンチャクの仲間はクマノミ以外のほとんどすべての魚を餌にしてしまうおそれがありますので、一緒に飼育するのは避けます。

サツキハゼの仲間など内湾にすむ種はサンゴだけでなく海藻や海草と一緒に飼育するのも面白いでしょう。この仲間は海藻・海草にも悪さをしませんのでこのような水槽で飼育するのにも適しています。

遊泳性ハゼ飼育まとめ

  • 温和な性格の魚が多く、同種同士でも飼育可能なものが多い。
  • 45cm以上の水槽で飼育するのに適している。それ以下の水槽では窮屈。
  • 死因で多いのは飛び出しと痩せによるもの。混泳相手には注意。
  • 夜間はライブロックの隙間に眠る。複雑に組み合わせよう。
  • 水温は25℃。深場にすむ魚はもっと低い水温で。
  • 配合飼料に餌付きやすい。
  • おとなしいので他の魚との組み合わせには十分注意。
  • 痩せた個体を選ばないように注意。
  • サンゴや海藻・海草には無害。

2020.06.05 (公開 2017.07.22) 海水魚図鑑

遊泳性ハゼの種類・分類

2000種ほどの種が知られるハゼの仲間のうち、海底でじっとしていないでよく泳ぐタイプのハゼの仲間を遊泳性ハゼといいます。

ハゼ科でもチャガラやキヌバリなど、遊泳性が強い種がいますが、ここでご紹介する遊泳性ハゼは、クロユリハゼ科とオオメワラスボ科の魚を指します。体は側扁し、腹鰭も二つに分かれ吸盤状になっておらず、海底に生息するハゼの仲間よりも遊泳しての生活に適するようになったものといえます。英語ではハタタテハゼの仲間をFire goby(炎のハゼ)、タンザクハゼはRibbon goby(リボンハゼ)、それ以外の多くのクロユリハゼ科魚類はダートゴフィッシュ(投げ矢の魚)と呼んだりします。オオメワラスボ科の魚はWorm gobyと呼ばれます。Wormとは「虫」の中でも足のない細長い虫を指します。

クロユリハゼ科 Ptereleotridae

学者によってはクロユリハゼ科を認めず、オオメワラスボ科の亜科としていることもあります。基本的にオオメワラスボ科の魚は細長い体なのに対してクロユリハゼ科の魚はそれよりも短い体であることが多いです。科の和名は書籍「決定版 日本のハゼ」で新しく提唱されました。

ハタタテハゼ属 Nemateleotris

遊泳性ハゼの仲間でももっともポピュラーなものです。第1背鰭前半部の棘が長く伸びるのがユニークで、色彩も海水魚らしく美しい、さらに飼育もしやすいので観賞魚としての要素の多くを持ち合わせている仲間といえます。比較的近縁なもの同士のようで、ダイビングの世界では交雑個体もよく見られます。

★ハタタテハゼ N. magnifica Fowler, 1938

綺麗な色で温和で餌をよく食べ飼育が容易ということで、海水魚飼育初心者にすすめられることが多い魚です。背鰭が長くて格好いいですが大きめの強い魚と組み合わせるとご自慢の背鰭が切れてしまうこともありますので、温和な魚とサンゴ水槽で飼育するのに適しています。広い水槽であれば同種同士での飼育も可。静岡県以南のインド-太平洋域に広く分布し、頻繁に輸入されています。

★アケボノハゼ N. decora Randall and Allen, 1973

紫色の美しいハタタテハゼ属の魚です。ハタタテハゼと比べるとやや気は強めで同種同士では争うことがありますが、その分強めのカクレクマノミなどの魚と組み合わせやすいのです。伊豆諸島、静岡県、高知県などにも分布しますが、観賞魚としてはフィリピンなどで採集された個体が流通します。

エクスクイジットファイヤゴビー N. exquisita  Randall and Connell, 2013

アケボノハゼのインド洋版的な種類で、体の黄色味が強いのが特徴です。値段はアケボノハゼとくらべると若干高めですが、飼い方などは太平洋産と同様です。また採集も比較的丁寧なのか、よい状態のものが多く初心者にもおすすめできます。

★シコンハタタテハゼ N. helfrichi Randall and Allen, 1973

パープルファイヤーゴビー、とか、ヘルフリッチとか呼ばれる遊泳性ハゼの仲間です。紫色の体と黄色い頭部が美しい人気種ですが、他の3種と比べて高価です。日本では沖縄の離島や小笠原諸島などで本種を見ることが出来ます。南太平洋では本種によく似ていますが頭部もピンク色のものがおり、アケボノハゼとエクスクイジットファイヤゴビーの関係と同様に別種なのか、それとも地域によるバリエーションなのか、調査がまたれます。

クロユリハゼ属 Ptereleotris

クロユリハゼ属はインド-汎太平洋域と、西大西洋に生息していますが、日本の観賞魚店で販売されているのは多くが西太平洋に分布する種類です。世界では少なくとも20種が知られ、日本にはそのうちの12種が、富山湾および千葉県以南の温帯の海から、沖縄などサンゴ礁の海まで広く分布しています。

★クロユリハゼ Ptereleotris evides (Jordan and Hubbs, 1925)

成魚は体の前半分が薄い青色、後半部が暗色という、派手さはないものの美しい色彩で人気の魚です。本種はクロユリハゼ属のなかでももっとも流通量が多く、入手しやすい種といえます。また飼育しやすい種でもあります。千葉県以南の太平洋岸、インド-太平洋、紅海の浅いサンゴ礁域にすみ、幼魚は極めて浅いところで群れており、採集することもできます。写真の個体は高知県で採集した個体です。全長10cmほどになります。

★オグロクロユリハゼ P. heteroptera (Bleeker, 1855)

体は鮮やかな水色で、尾鰭の中央部に黒色斑があるのが特徴の種です。この種は痩せやすく飼育しにくいことがあります。おとなしい魚と一緒に飼育するべきで、カクレクマノミなど強い魚との混泳には注意が必要で、本種が慣れてからカクレクマノミを入れる、などの工夫が必要です。千葉県以南、インド-中央太平洋、紅海の浅いサンゴ礁域に分布し、本属で唯一ハワイ諸島にまでみられるなど、この仲間ではもっとも広い範囲に分布しているともいえます。全長12cmになります。

★ゼブラハゼ P. zebra (Fowler, 1938)

体側に多数の細い横帯があるのが特徴的な種で、全長10cmほどになります。下顎に小さな突起をもち、尾鰭が長く伸びないなどの特徴でもほかのクロユリハゼの仲間と見分けることができます。飼育は他のクロユリハゼ属魚類とあまりかわりませんが、丈夫で飼育しやすいです。インド-太平洋域に広くみられ、日本においては神奈川県以南に分布しており、採集した人もいます。

★イトマンクロユリハゼ P. microlepis (Bleeker, 1856)

体色は青みをおびていて、胸鰭基底に黒い線が入るのが特徴です。飼育はゼブラハゼと同様で、比較的痩せにくく飼育しやすい魚といえます。ハワイ諸島を除くインド-太平洋、紅海の熱帯域に分布する種です。日本においては千葉県館山以南の太平洋岸に広くすみ、幼魚は自分で採集することも可能です。

★ヒメユリハゼ P. monoptera Randall and Hoese, 1985

ほかのクロユリハゼ属と異なり第1・第2背鰭がつながり、尾鰭の形も三日月状になるなど変わった種類です。色彩的にはイトマンクロユリハゼによく似ていますが、眼の下の黒い帯も特徴的です。伊豆半島以南、インド-中央太平洋に生息する種で、浅いサンゴ礁域にすみます。全長10cmになります。

★オグロヒメユリハゼ P. lineopinnis (Fowler, 1935)

名前はオグロクロユリハゼに似ていますが、より細身でブルーグレーの色彩が特徴的です。尾鰭の中央付近に黒色斑があるのも特徴です。日本では相模湾以南、海外ではインド-太平洋域に分布する種で、全長10cmを超えます。入荷したことがあるかどうかは不明ですが、やや深場に生息するようで、高水温は禁物と思われます。

★コヒレクロユリハゼ P. brachyptera Randall and Suzuki, 2008

日本からは2015年に発見された種です。胸鰭基底に赤色っぽい線が入ること、第1背鰭がかなり低いことから、他のクロユリハゼ属の魚と区別することができます。観賞魚として入ってきたことがあるかは分からないのですが、水深20m以深の場所に見られ、高水温には注意が必要と思われます。西表島から西太平洋に分布します。

★ハナハゼ P. hanae (Jordan and Snyder, 1901)

千葉県および富山湾以南に分布する、温帯によく適応した種です。尾鰭の軟条の数本が伸長しているのが特徴です。観賞魚店で販売されることはほとんどなく、自分で釣る、または浅場に生息する幼魚を採集するのがもっともよい方法です。全長15cmと、この仲間では極めて大型になり、小型水槽では飼育しにくく、また高水温にも注意する必要があります。ダテハゼやテッポウエビなどと飼育すると、面白い共生関係を観察することが出来ます。

★リュウキュウハナハゼ Ptereleotris sp.

以前、ハナハゼの琉球型と呼ばれていたものです。ハナハゼは尾鰭の軟条が多数伸びていますが、本種は上方と下方の2本のみが長く伸びます。和名はついているものの、学名は決定していません。リュウキュウという和名ですが沖縄のほか、伊豆半島や和歌山、高知、フィリピン、インドネシアにもいます。

★スミゾメハナハゼ P. rubristigma Allen, Erdmann and Cahyani, 2012

ハナハゼやリュウキュウハナハゼに似ていますが、尾鰭の後縁は丸みを帯び、軟条が伸びることがないので区別できます。2012年に新種記載され、2013年に和名がついたばかりの種です。日本では千葉県以南の太平洋岸、海外ではインド-西太平洋にいます。観賞魚店ではハナハゼとして売られたり、イトマンクロユリハゼとして売っていることさえありますが、イトマンクロユリハゼと違って痩せやすいので飼育には注意が必要です。全長9cmほど。

★スミレハナハゼ P. uroditaenia Randall and Hoese, 1985

2015年に日本初記録として報告された種です。和名がつく前は英名のフラッグテールダートフィッシュと呼ばれていた魚で、黄色い尾鰭に二本の黒く太い線があるのが特徴です。第1背鰭の第3・4軟条が長く伸びるのも特徴です。西太平洋に生息し、日本では西表島に分布していますが、日本産の個体はまず流通しないでしょう。東南アジアからまれに入ってきます。全長12cmを超える大型種です。

ビューティフルダートフィッシュ P. kallista Randall and Suzuki, 2008

スミレハナハゼに似ている種ですが、尾鰭の色彩が違うのと、第1背鰭棘条がスミレハナハゼよりも長く伸びるのが特徴です。日本には分布せず、フィリピンに分布し、もっと入ってきても良いと思うのですが、入手が困難な種です。

★スジクロユリハゼ P. grammica Randall and Lubbock, 1982

背鰭はビューティフルダートゴビーほどではないものの少し伸びます。西太平洋のものは体側にオレンジ色の縦縞模様が入る美しい種ですが、モーリシャスなどインド洋のものは黒い縦縞模様となり、それぞれ別の亜種とされることがあり、研究が進めば別種になる可能性もあります。西太平洋産のものはフィリピンから輸入されて比較的安価ですが、インド洋のものはなかなか入って来ず、販売されても高価です。やや深場の種なので高水温には要注意です。大きいものでは全長10cmに達します。

サツキハゼ属 Parioglossus

本州沿岸ではサツキハゼとベニツケサツキハゼくらいしか見られませんが、琉球列島では種類が豊富です。その中には限られたマングローブ域などにしかすまず、開発の影響で絶滅が危惧される魚もいます。今回は主に海域に生息する種をご紹介します。日本には11種、世界では20種ほどが知られています。インド-中央太平洋の熱帯域に生息し、カリブ海など大西洋には分布しません。

★サツキハゼ Parioglossus dotui Tomiyama, 1958

日本の本州~九州沿岸では最もよく見られるクロユリハゼ科魚類といえます。何匹飼育しても争うことなどないので、水槽でも群れを再現できます。サンゴ礁や磯というよりも河川の河口域に近い内湾に大きな群れでいます。能登半島および千葉県以南に分布する普通種です。全長5cmほどです。

★ベニツケサツキハゼ P. philippinus (Herre, 1945)

サツキハゼに似ていますが、尾鰭の斑紋の様子がサツキハゼとは異なります。生息地はサツキハゼとほとんど同様で、サツキハゼの群れにまざっていることもありますが、基本的にはサツキハゼよりも暖かい地域を好む種といえます。西太平洋に生息し、日本では千葉県以南にすみます。全長5cmほど。

★ヨスジハゼ P. formosus (Smith, 1931)

茶色っぽいからだと、体側の黒色縦線が特徴的な小型のサツキハゼ属魚類です。岩礁域に生息する種ですが残念ながら奄美諸島以南まで行かないと出会うことができない種です。観賞魚としてはごくまれに流通する程度です。全長3cmほどの小型種です。

★ミヤラビハゼ P. raoi (Herre, 1939)

ヨスジハゼに似ている種で、体の黒色縦線が目立ちますが、本種には第1背鰭にも黒色斑があるので他のサツキハゼ属魚類と容易に区別できます。内湾の港、岩礁域、マングローブ域などさまざまな場所に出現します。奄美大島以南にすみます。

そのほかの属

★タンザクハゼ (タンザクハゼ属) Oxymetopon compressus Chan, 1966

その名の通り体の断面が極めて側扁しているのが特徴なハゼの仲間です。この属の魚は世界に5種いて日本にも何種かいますが正式な報告があるのはタンザクハゼのみ。内湾の泥底のような場所をこのみます。観賞魚としてはあまり入ってきません。全長15cmを超え、大きめの水槽が欲しいところです。

ドワーフシグナルゴビー (アイオリオプス属) Aioliops megastigma Rennis and Hoese, 1987

サツキハゼ属よりもさらに小型の、アイオリオプス属に含まれる遊泳性ハゼです。頭部が黄色で、尾部に大きな黒い斑点があります。日本には分布せず、フィリピンやインドネシアに生息する種です。遊泳性ハゼは飼育が難しくないものが多いのですが本種は極めて臆病で、飼育が難しいです。

ピンクダートゴビー (カグヤハゼ属) Navigobius sp.

クロユリハゼ科としては珍しい、赤みを帯びた体が特徴的な種です。カグヤハゼ属のうちモモイロカグヤハゼは鹿児島県や奄美大島などから知られていますが、観賞魚として入荷するのはモモイロカグヤハゼではなく、近縁の別種であると考えられます。主にフィリピンから入荷する種で、値段の問題もあり入手することは困難なのですが、ハゼ好きならいつかは手に入れたいあこがれの種といえそうです。

オオメワラスボ科 Microdesmidae

オオメワラスボ科の魚は観賞魚として出回ることはほとんどないものの、にょろにょろした、おもしろい姿かたちをしています。日本産の種は少なく、オオメワラスボ属の4種類が知られているだけです。

オオメワラスボ属 Gunnellichthys

非常に細長い体でサンゴ礁の海底を遊泳します。日本からは4種類が知られています。観賞魚として輸入されることがありますが、極めてまれなものです。

★ニシキオオメワラスボ Gunnellichthys curiosus Dawson, 1968

昔からの愛好家には「ネオンワームゴビー」という名前でも知られています。全長20cm近くになり、体側のオレンジ色の縦帯が非常によく目立ちます。臆病な種類で強い魚と一緒に飼育するのは禁物です。

2020.03.23 (公開 2017.07.20) 海水魚図鑑

ベントスゴビーの飼育方法

ハゼの仲間は種類が豊富です。底を這っている底生ハゼ、とても小さく妖精のようなピグミーゴビー、遊泳性がつよい遊泳性ハゼ、テッポウエビと共生する共生ハゼ、サンゴの枝間にひそむコバンハゼなど…。今回ご紹介するのは砂を口に含み、鰓から砂だけを出すという変わった習性をもつ「ベントス食性ハゼ」(通称ベントスゴビー)です。

ベントスゴビーとは

ベントスゴビーは口に砂を含み、砂の中の餌を捕食し、砂だけを鰓から出すという習性をもっているハゼのことを指します。分類学的にはハゼ科ハゼ亜科のいくつかの属の種を指しますが互いに近縁種というわけではないようで、分類学的な分類というわけではありません。

ベントスゴビーの仲間は、概ね3つに分けられます。オトメハゼ・ミズタマハゼ・アカハチハゼなどに代表される「クロイトハゼ属」と、キンセンハゼ・サラサハゼなどの「サラサハゼ属」、一種のみを含む「シグニゴビウス属」です。

クロイトハゼ属 Valenciennea

この仲間はスリーパーゴビーともいわれます。カワアナゴの仲間のように、胸鰭は吸盤のようにならず、左右に分かれることや、鱗が非常に細かいことなどが特徴で、日本には10種が分布し、世界では少なくとも16種が分布します。インド-中央太平洋に見られ、大西洋には分布しません。属の学名はフランスの生物学者 アシル・ヴァランシエンヌにちなむものと思われます。

主な種 (★は日本に分布する種)

オトメハゼ Valenciennea puellaris (Tomiyama, 1956)

▲オトメハゼ

体側のオレンジ色の斑点が明瞭できれいなハゼです。全長は15cmほどになりますが、水槽内ではもっと小さいです。観賞魚としては国内産、フィリピン産、インド洋(スリランカ)産などがあり、模様が若干違っていることもあります。底の方にいることが多く、アカハチハゼなどのように遊泳しサンゴの上に砂をばら撒くこともないため比較的サンゴ水槽でも入れやすいです。入荷量は多めです。

ミズタマハゼ V. sexguttata (Valenciennes, 1837)

▲ミズタマハゼ

体が真っ白の地味なハゼですが、頭部に水玉模様があるのが特徴です。全長15cmになりますが、水槽ではそこまで大きくはなりません。いつも水槽の底の方にいて、水槽の底砂を口に含み餌を食べていますので、サンゴ水槽でも飼育しやすい魚です。琉球列島にも分布しますが概ね東南アジアやスリランカから輸入されてきます。基本的には丈夫なハゼですが入荷直後のものは購入しない方がよいでしょう。

★ササハゼ V. wardii (Playfair, 1867)

相模湾以南、インド-太平洋にすむ美しいハゼです。体側には茶色の横帯があります。底の方にいることが多いためサンゴ水槽でも飼育できると思われますが、注意が必要です。あまり入荷は多くなく欲しいならなるべく早いうちに購入したいところですが、入荷直後のものは注意が必要です。

★アカハチハゼ V. strigata (Broussonet, 1782)

▲アカハチハゼ

頭部が黄色、または名前の通り赤色でその下に青いラインが入るのが特徴です。古くから人気のあるハゼですが、底の方だけでなく中層も泳ぎ、サンゴの上にも砂をかけてしまうのでサンゴ水槽向きではない種類です。砂とサンゴ岩だけの水槽で飼育するのに最適な魚です。沖縄などからコンスタントに入荷されるほか、まれに磯で採集することもできます。全長20cm近くにまでそだちこの仲間では大きくなります。

★アカネハゼ V. bella Hoese and Larson, 1994

アカハチハゼに似ているのですが、その名の通り赤みを帯びています。やや深場に生息しているせいか入荷数は少なく、たまに入ってきてもアカハチハゼよりもだいぶ高価な種類です。習性はアカハチハゼに似ており底から中層を泳ぎ砂をサンゴにかけてしまうこともあり、あまりサンゴ水槽向けとはいえないハゼです。沖縄から入ってくることが多く、そのほかフィリピンにも分布しています。

★クロイトハゼ V. helsdingenii (Bleeker, 1858)

▲クロイトハゼ

体側に暗色~オレンジ色の縦帯が二本入るのが特徴の種類です。第1背鰭にも黒色斑があります。日本の温帯域から南はオーストラリア、東西では紅海・東アフリカからマルケサス諸島にまで分布し、この属では非常に広い分布をしています。生態はアカハチハゼに似ており砂をサンゴにまき散らすことがあります。そのためサンゴ水槽全盛の昨今は人気がないのか、あまり入荷していない種です。全長は25cmに達しますが、ふつうはもっと小さいです。

★アオハチハゼ V. randalli Hoese and Larson, 1994

アカハチハゼに似ている種で、頭部にある太い縦帯が特徴で、帯の上下にある黄色線も目立ちます。琉球列島、フィリピン、インドネシアに分布していますが、輸入量が少なく、欲しいときにないことも多いです。水槽の底を離れて泳ぐタイプなので注意が必要です。

★ヒメクロイトハゼ V. parva Hoese and Larson, 1994

白っぽい体で薄い黄色の線が入る程度の地味なベントス食ハゼです。「クロイトハゼ」の名前がありますが、この属の中では小型種で全長8cm、水槽ではさらに小さいです。浅瀬から水深20m以浅に生息します。過去に石垣便などで入ってきたことがありますが、入荷は少なく珍しい部類です。

★サオトメハゼ V. limicola Hoese and Larson, 1994

日本ではまれな種類で、インドネシアからフィジーにかけて分布する種です。体側にある2本の黄色い縦縞と、眼の下のブルーがとても鮮やかな種類です。残念ながら観賞魚としての入荷はほとんどないようですが、いつかはお目にかかりたいベントスゴビーです。

★キイトハゼ V. yanoi Suzuki, Senou and Randall, 2016

2016年に新種として記載されたばかりの珍しいハゼで、琉球列島に生息しています。サオトメハゼに似ていますが、眼下の模様や背鰭の形などがやや異なっています。水深12~30mの砂地に生息しています。観賞魚としての入荷はほとんど期待できません。

★サザナミハゼ V. longipinnis (Lay and Bennett, 1839)

全長20cmになります。基本的には丈夫で飼育はしやすいですが、そのサイズから90cm以上の水槽が欲しいところです。底のほうからやや中層にいることもあり、あまりサンゴ水槽での飼育はおすすめできません。日本では琉球列島のサンゴ礁域に多く生息し、海外ではインド-太平洋に分布しています。

ムラールゴビー V. muralis (Valenciennes, 1837)

日本には分布していませんが、フィリピン、インドネシア、パラオ、南シナ海など西太平洋のサンゴ礁域に広く分布するベントスゴビーです。サザナミハゼにそっくりですが、背鰭に明瞭な黒色点があるところや、体側の縦線が明瞭なところなどが異なります。全長15cmに達します。入荷は極めて少ないといえます。

サラサハゼ属 Amblygobius 

クロイトハゼの仲間よりも小型のものが多いです。入荷量はクロイトハゼ属よりも少なく、種によってはなかなか観賞魚店では見られません。また入荷しても別の種の名前で販売されている、なんていうこともあります。生態としては底から離れて泳ぐことも多く、砂をまき散らすなどサンゴ水槽には不向きの種類も多くいます。

なお、キンセンハゼやレインフォーズゴビーなどの種はKoumansetta属とされることもありますが、この属はAmblygobius属の異名とされています。

主な種(★は日本にも分布する種)

★キンセンハゼ Amblygobius hectori (Smith, 1957)

サラサハゼ属としては小型種で、全長5cmほどです。体側を通る黄色と黒の線が特徴で、吻がとがっていることから、ハゼの仲間というよりはベラの仲間の様な印象をうけます。入荷量もこの属としては比較的多いのですが、意外と飼育が難しい種です。痩せやすいので多めに餌をあげるべきですが、高価な魚ではなく、ザツな扱いを受けている可能性もあるかもしれません。やや小型の種でサンゴへの影響もそれほど大きくはありません。さまざまな微生物やゴカイなどが増殖した、サンゴ水槽で長期飼育を目指しましょう。

レインフォーズゴビー A. rainfordi (Whitley, 1940)

体側を通る縦線の色彩がキンセンハゼと少し違う近縁種です。西太平洋に広く産しますが日本では見ることが出来ません。観賞魚として東南アジアからまれに入ってきます。飼育についてはキンセンハゼと同様ですが、こちらの方が大きくなるようです。なお本種とキンセンハゼは、Koumansettaという別属に入れられている場合もありますが、これは先ほども述べたようにAmblygobius属の異名とされます。

ジュウモンジサラサハゼ A. decussatus (Bleeker, 1855)

からだが白っぽく、体側の模様が十文字状になるのが名前の由来になるのではないかと思われます。派手さはないものの美しい共生ハゼでありますが、中層から砂をばら撒くなどの習性があり、サンゴ水槽には全く向いていません。後ろにキクメイシの一種が写っていますが、このキクメイシも砂をかけられて死んでしまいました。

★ホホベニサラサハゼ A. nocturnus (Herre, 1945)

琉球列島、インド-中央太平洋の内湾に生息する種で、灰色の体に赤い縦線が入るのが特徴です。しかしジュウモンジサラサハゼのような十文字模様はありません。内湾の浅瀬にすみ、観賞魚店ではあまり見ることができないハゼといえます。

★エサキサラサハゼ A. esakiae Herre, 1939

西表島、パラオ、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニアなどに分布する種で、河川の河口域や内湾の泥底に生息しています。吻の先端にある黒色点や、ひし形の尾鰭などが特徴的です。観賞魚として入荷されることはあまりない珍しい種です。

ブアンゴビー Amblygobius buanensis Herre, 1927

日本には分布しませんがフィリピンやインドネシアに多く見られます。サラサハゼに似ていますが頭部にめだつラインがあることが異なっています。内湾のサンゴ礁域、極めて浅い場所に見られます。

★ワカケサラサハゼ A. linki Herre, 1927

サンゴ礁域には生息しない種で、マングローブ域の泥底にのみみられます。頭から尾鰭の付け根にかけて黒い縦線が2本あることにより、他のサラサハゼの仲間とは容易に区別することができます。全長5cmほどで、この仲間としては小型です。

★スフィンクスサラサハゼ A. sphynx (Valenciennes, 1837)

大きいものは全長10cmを超える大型種。サラサハゼに似ているが、背鰭の形が異なっているのが特徴です。水深20m以浅の内湾の砂地に生息していますが、日本では西表島で見られる程度で、観賞魚としてはごくまれにしか流通しない珍しい魚ですが、フィリピンでは食用とされているようです。

サラサハゼ A. phalaena (Valenciennes, 1837)

この種も全長10cmを超える大型種です。サンゴ礁域の砂地、海草が生えるような場所に多く生息しているハゼです。一見地味なハゼなのですが、体側に黒や青色の横帯がありよくみたら綺麗な種です。伊豆半島以南の南日本、西太平洋に生息し、A. albimaculatus (Rüppell, 1830)や A. semicinctus (Bennett, 1833) と行った種類と混同されやすいので注意が必要です。中層を泳ぐのでサンゴ水槽では気をつけます。この仲間では比較的入手しやすい種です。フィリピンでは食用とされているようです。

シグニゴビウス属 Signigobius

1属1種のみが知られています。

ツインスポットゴビー Signigobius biocellatus Hoese and Allen, 1977

日本からはまだ見つかっていないハゼなのですが「カニハゼ」とも呼ばれています。背鰭に大きな黒色目玉模様があり、それが名前の由来です。日本に生息していないのに日本語名がついているところからわかるように、古くから観賞魚として親しまれていました。主にフィリピンやインドネシアから輸入され、入手は難しくはありませんでしたが、最近は入荷が減っているようです。入荷が減っている理由は不明ですが、飼育が非常に難しいことがあげられるでしょう。痩せやすくベテラン向けのベントスゴビーです。

ベントスゴビーの飼育に適した水槽

水槽

水槽はベントスゴビーの大きさに合わせますが、60cm以上の水槽で飼育するべきです。キンセンハゼやクラブアイドゴビーなどは小型ですが痩せやすいので、餌を多く供給してあげたいからです。クロイトハゼやアカハチハゼなど、大きめに育つ種については90cm水槽で飼育してあげたいところです。

ろ過装置

ろ過装置は底面ろ過槽を除きどれでもOKですが、できるだけ複数の種類のろ過槽を組み合わせるとよいでしょう。とくにクロイトハゼ属はきれいな水質を好むからです。底面ろ過槽は砂を動かしてしまうベントス食性ハゼの飼育にはまったく適していません。外掛けろ過槽も水面に隙間ができてしまうため、注意が必要です。

またDSBやモナコシステムなど、砂やプレナムがシステムの中心になる水槽にも入れられません。ベルリンシステムでは問題なく飼育でき、とくにキンセンハゼやクラブアイドゴビーなどはよく微生物がわいたベルリンシステムの水槽で飼育するのが望ましいといえます。

フタ

この仲間は意外と飛び跳ねて死んでしまうことが多くあります。オトメハゼやミズタマハゼなど、いつも底の方にいるにもかかわらず、水槽から飛び出して干物になって対面することもありますので、フタはしっかりしておきましょう。

ベントスゴビーの飼育には砂が必要になります。砂はパウダー状、もしくは小粒のものが最適です。砂がないとストレスになることもあるので、確実に敷いてあげます。3~5cmほど敷くようにしますが、あまりにも厚く敷きすぎてしまうと、硫化水素の発生などを招いてしまうのでやめましょう。また先ほども述べたように砂を厚く敷いたDSBシステムの水槽には絶対に入れてはいけません。

水温と殺菌灯

水温はどの種も原則25℃ですが、それより若干低めの22℃でも27℃でも飼育できる種が多いです。重要なのは水温が安定していることで、不安定だと体調を崩し病気になることもあるので注意しなければなりません。とくに白点病には注意したいところです。またアカネハゼはやや深場の種のようですので高水温にならないよう注意が必要です。

殺菌灯は砂をいじることが多いベントスゴビーを飼育するのには重要なもので、これにより病気を予防しますが、殺菌灯自体、そして殺菌灯に水を通すための水中ポンプが熱を放つので注意します。水槽用クーラーも接続して、温度を安定させるようにしましょう。殺菌灯で殺菌された暖かい水がクーラーを通り冷やされ、水槽に戻るように配管を工夫しましょう。

ベントスゴビーの選び方

まずどの魚でも入荷してすぐのものは避けます。また背肉が落ちているもの、腹が凹んでいるものもだめです。腹部についてはクロイトハゼ属の魚はある程度回復させることもできますが、クラブアイドゴビー(カニハゼ)などでは回復させにくいので注意が必要です。

もちろん白い点がついているもの、体表や鰭が赤くただれているものなどは絶対に危ないので、このような個体も選んではいけません。

ベントスゴビーの餌

餌はフレークフードよりも沈降性のフードが最適です。また、砂のなかにスポイトを使用して餌を埋めてあげるのもよい方法です。ただ沈降性の餌を砂上においておくだけだと他の魚に先に食べられてしまうおそれがありますので配慮が必要なことがあります。ベントスゴビーは意外なほど大食いなので、餌を多数入れてあげましょう。もちろん水質悪化には注意が必要です。

混泳の際の注意点

▲チョウチョウウオとの飼育は避ける。

ベントスゴビーと相性が悪いのはチョウチョウウオの仲間です。ベントスゴビーは砂を口に含み、その中にすむ餌を食べているのですが、その際に砂をいじってしまうため、白点病の原因となる原生生物が水中を舞ってしまうこともあるのです。チョウチョウウオは白点病にかかりやすく、混泳はおすすめできません。

このほか肉食性の魚も一緒に飼育できません。体が細いのでほかの魚に襲われてしまうことがあるからです。カサゴやオコゼ、カエルアンコウ、ウツボなどだけでなく、大きなテンジクダイの仲間も注意が必要です。また気性があらいスズメダイの大きいのや、メギス(ニセスズメ)なども避けた方が無難です。とくにメギスの仲間はシルエットが似ており、相性がよくないです。カクレクマノミや小型のスズメダイ、小型ヤッコや共生ハゼ、遊泳性ハゼ、イトヒキベラなど小型の温和なベラ、ハナダイ、カエルウオ、小型テンジクダイなどとの組み合わせがおすすめです。

サンゴや無脊椎動物との組み合わせ

サンゴは長い時間砂をかぶったままだと死んでしまいます。ベントスゴビーのうち中層を泳ぐようなアカハチハゼやサラサハゼ属の種はサンゴとの飼育は避けた方が無難でしょう。

内湾のサラサハゼの仲間のように、サンゴ水槽よりも海藻や海草の水槽の方が似合うかもしれない種もいます。オーバーフロー水槽にして、上でサンゴなどを飼育し、下で海藻や海草を育てるような水槽にするのも面白いといえます。海藻や海草は海水中の栄養塩を吸収して成長するため、自然のろ過を再現することができます。この隙間には様々な微小生物がくらし、ハゼの餌になることもありますが、それだけではハゼをお腹いっぱいにすることはできませんので、かならず餌を与える必要があります。

甲殻類は種類によってハゼの仲間を食べてしまうことがあります。大型のカニ、大型のヤドカリ、大型のエビなどは要注意です。エビは大型のイセエビのような種だけでなく、オトヒメエビのように大きなハサミをもつものも危険ですので、一緒に飼育しない方が無難でしょう。

まとめ

  • 口に砂をふくみ、砂中の餌を食べ、砂だけを鰓から吐き出す
  • クロイトハゼ属、サラサハゼ属など3属からなる。
  • カニハゼことツインスポットゴビーは飼育が難しい
  • サンゴとの飼育の際には、砂をかけられることがあるので要注意
  • 上部ろ過槽が適している。
  • 底面フィルターは使用不可
  • フタはしっかりとする
  • 腹部が凹んでいるもの、鰭がぼろぼろのもの、あるいは入荷後すぐのものは避ける
  • チョウチョウウオなどとの混泳には適していない
  • ハゼを捕食するような魚との飼育は避ける
  • 底の方にサンゴを置かないようにする。種類によってサンゴとの飼育が難しいハゼも
  • オトヒメエビや大型の甲殻類との飼育は避ける

2020.09.21 (公開 2017.07.20) サンゴ図鑑

スターポリプの飼育方法~水槽に緑のじゅうたんを!

スターポリプは初心者にもおすすめできるサンゴです。安価であまり良いイメージがないかもしれませんが、上手く飼育すると増殖し、緑色のじゅうたんとなります。このスターポリプをうまく育てるにはどうすればよいでしょうか。

スターポリプの特徴

▲スターポリプは八放サンゴ亜綱のなかのウミトサカ目のサンゴ。トサカやウミキノコと同じ目。

▲ポリプの先端が8つに分かれているスターポリプ。八放サンゴの仲間。

▲完全に閉じて共肉があらわになっているもの。この個体は紫色。

和名で「ムラサキハナヅタ」とよばれる、ウミヅタ科のサンゴの仲間です。色のバリエーションは緑色の濃い薄い程度で、たまに白っぽい色彩のものがあるくらいですが、ポリプの形などにバリエーションがあります。またポリプを縮めると共肉があらわになりますが、その共肉の色にはベージュのものと、紫色のものがあり、飼育の難易度に若干の差があります。

ディスクコーラルや、マメスナギンチャクなどとともに「飼育しやすいサンゴ」の代表という言い方もできそうですが、この2種類はサンゴというよりもイソギンチャクに近い種類で、六放サンゴの仲間であるのに対し、このスターポリプはウミキノコやトサカなどが含まれるウミトサカ目のソフトコーラルで、八放サンゴの仲間です。そして、水質もディスクコーラルやマメスナギンチャクよりはきれいな水が求められます。しかしながら、ウミキノコやウミアザミほど硝酸塩などの蓄積に敏感、というものではなく、栄養塩が多めの水質でも飼育することができます。

同じウミヅタ科のサンゴにはハナヅタやツツウミヅタがいますが、これらのサンゴはやや栄養塩の蓄積に弱いようですが、スターポリプはこれらのサンゴよりもずっと飼育しやすいので、サンゴ飼育初心者にもおすすめの種です。

スターポリプの飼育に適した水槽

水槽

▲60cm水槽で飼育しているスターポリプ

スターポリプは極めて丈夫なサンゴで、水槽サイズもあまり大きいのは必要ありません。こまめに水を換えることができるのなら、30cmくらいの幅の、小型水槽でも飼育可能です。ですが、初心者の方ならば60cm水槽で飼育するのが安心です。

適した水質と水温

丈夫なサンゴで、硝酸塩、リン酸やケイ酸の値にはあるていどの範囲で耐えられますがやはりそれらの数値が低い、清浄な水で飼育してあげたいものです。ベルリンなどのナチュラルシステムでなくても、一般的なろ過槽を使用した方式でも飼育できますが、そこは注意したいポイントです。またプロテインスキマーの設置も効果的といえます。

水温は他の熱帯域に生息するサンゴと同様で、25℃くらいが適温です。清浄な水であればそれ以上でも耐えられますが、やはり基本は25℃をキープするようにしたいものです。

水流

移動することができないサンゴにとって水流は重要な要素ですが、直接当たりすぎると状態が悪くなりますし、逆に全くないと上にごみがたまってしまい、よくありません。

強すぎず弱すぎず、壁にポンプからの水流をあてて乱流を作ったり、造波ポンプの使用するのもよいでしょう。造波ポンプはかなり高価ですが値段に合うほどの効果がありますが、小型水槽では小型の水中ポンプを使用して、水流を互いにぶつけあうなどしても十分なことがあります。

好む光・照明と置く場所

比較的弱い光でも飼育できますが、ディスクコーラルよりも強い光を好みます。青系、白系のLED、蛍光灯。青色のLEDだと、極めて美しいグリーンに育ちます。メタルハライドランプを使って飼育するなら水槽の下の方においておくとよいでしょう。

たまにスターポリプがなかなか開かなくなることがあります。そのようなときは照明や水流の当て方など、すこし条件を変えてみるとよいでしょう。

餌と添加剤

▲ヨウ素や微量元素などを添加してあげたい

餌はあまり与える必要はありません。もし与えたいのであれば、フィトプランクトン(植物プランクトン)を少し与える程度にします。

添加剤は重要で、少なくともヨウ素と微量元素は与えるべきです。この他、ストロンチウム、マグネシウム、ビタミン・アミノ酸などを添加するとよいでしょう。

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スターポリプの選び方

スターポリプは海水魚やサンゴを扱うお店ならばどこでも手に入るでしょう。共肉がベージュ色のものと紫色のものがあります。紫色のものは綺麗なのが多いのですが、ベージュ色のものは飼育しやすく、またよく増えるので初心者にもおすすめできます。もちろん紫色の共肉をもっていても、初心者には飼育困難というわけではありません。縮んで白い膜がはっているようなものは選ばないようにします。

スターポリプにはウミウシなどが寄生していることもあるため、水槽に入れる前に「リバイブ コーラルクリーナー」や「コーラルRXプロ」などを使用して薬浴したいものです。

安価ですが美しい色彩なので、最近はフラグ付きのものも販売されています。きちんとついていて、表面を白っぽい膜が覆っているようなものでなければ問題ないでしょう。

スターポリプと魚や無脊椎動物との相性

▲多くの種の魚と組み合わせることが出来るのも魅力

チョウチョウウオや大きめのキンチャクダイ(ヤッコ)の類、あるいは水温などの条件が大きく異なる魚でなければ、ほとんどの魚と組み合わせることができるのも、初心者におすすめできる大きな理由です。

スターポリプはその形から水槽の底の方に配置されることが多いのですが、注意したいのは、ハゼの仲間のうち、アカハチハゼやミズタマハゼに代表されるベントス性のハゼです。このような種類は、砂を口に含み、砂中の餌を食べて残りの砂を鰓から出すという習性がありますが、鰓から出された砂がスターポリプの上に落ちて時間が経つとスターポリプが弱ってしまいます。スポイトなどでこまめに取り除く必要があります。またハゼと共生するテッポウエビなども砂を巻き上げるので注意が必要なことがあります。

たまに環境の違いなどでスターポリプがずっと閉じたままになってしまうことがありますがそのようなときに、コケがからんでしまうこともあります。ヤエヤマギンポなどをいれてコケを食べてもらうとよいでしょう。

スターポリプと他のサンゴとの相性

比較的毒性が強く、成長が早いので、毒性の弱いウミキノコやウミアザミ系のサンゴとはあまり触れないように注意したいものです。

逆にヌメリトサカなど極めて毒性の強いサンゴとは接触しないように注意します。水槽環境の条件が当てはまるとものすごい勢いで増えていきますので、他のサンゴ、特に成長スピードの遅いハードコーラル(イシサンゴ)を飼育されているのであれば、そのようなサンゴがスターポリプに覆われてしまわないように、適当にカットして間引く必要があるともいえます。

スターポリプの増やし方

▲増殖しつつあるスターポリプ。共肉の色がベージュのものは増殖するのがはやい。

条件がうまくあてはまればよく増えます。特に鶏皮のようなベージュ色の共肉のものは紫色のものよりも増殖するのが早く、サンゴを増やしたい方におすすめです。ただし上でも書いたように、増えすぎてもて余すことのないように、ハサミなどを使って間引くことも必要です。フラグにつけて他の方と交換するのもよいでしょう。

スターポリプ飼育まとめ

  • 初心者向けのソフトコーラルのひとつ。
  • 丈夫だが、ディスクコーラルなどよりはきれいな水が必要。
  • 水温は25℃
  • 強く、間接的に当たる水流が必要。
  • 餌はたまに植物プランクトンフードをあたえる程度。
  • 添加剤は重要で、ヨウ素や微量元素は重要。
  • ストロンチウムやマグネシウムなども欲しい。
  • 寄生虫がついていたり、膜に覆われているようなものは購入しない。
  • 砂を巻き上げる魚や甲殻類に注意。チョウチョウウオなどもよくない。
  • 毒が強く増殖スピードも早い。他のサンゴとの配置に注意
  • 増殖しすぎたらハサミなどを使用して間引く。

2020.01.25 (公開 2017.07.18) 海水魚図鑑

ホンソメワケベラの飼育方法~餌・混泳の注意点

ホンソメワケベラはクリーナーとして有名なベラです。サンゴ礁を遊泳し、ほかの魚に近づき寄生虫や粘液などを食べているのです。大型魚はホンソメワケベラを食べることはほとんどなく、いわゆる「共生関係」としてよく知られています。なお、本種はベラの仲間ではありますが、一般的なベラとは異なり、夜間は砂に潜るのではなく、岩陰などで粘液を張って休息します。今回はホンソメワケベラの飼育方法をご紹介します。

標準和名 ホンソメワケベラ
学名 Labroides dimidiatus (Valenciennes, 1839)
英名 Bluestreak cleaner wrasse
分類 スズキ目・ベラ亜目・ベラ科・ソメワケベラ属
全長 約12cm
飼育難易度 ★★☆☆☆
おすすめの餌 メガバイトレッド冷凍イサザアミ
温度 23~26度
水槽 60cm以上
混泳 多くの魚と組み合わせられる
サンゴ飼育

ホンソメワケベラってどんな魚?

▲他魚(ヒメアイゴ)のクリーニングをおこなうホンソメワケベラ

▲ホンソメワケベラの幼魚

ホンソメワケベラはベラの仲間で、ほかの魚の体表についた寄生虫(白点病には効かない、要注意)を食べるという習性で有名で、「クリーナーラス」と呼ばれています。ホンソメワケベラと大型魚の関係はいわゆる「共生関係」にあり、よく紹介されています。

色彩は青い色に黒い線が美しく、それだけでも美しい魚です。一方幼魚は成魚とは異なり黒い部分が多いのが特徴です。全長10cmを超える種ですので小型水槽での飼育は難しく、できるだけ大きな水槽(60cm水槽)で飼育してあげたいものです。

標準和名は昔は「ホソソメワケベラ」と呼ばれていましたが、現在は「ホンソメワケベラ」です。「ソ」と「ン」を間違えたものともいわれますが、詳しくは不明です。また「チゴベラ」とした本もあります。

ベラの仲間は夜間の睡眠時、砂の中に潜って眠るものと、岩の隙間などで眠るものがいます。ホンソメワケベラは後者で、夜間は岩陰で眠りますが、粘液の寝袋をつくり、その中で眠るのです。ほかの魚ではブダイの仲間の一部の種も同様に眠ります。

ホンソメワケベラのそっくりさん

ニセクロスジギンポ (スズキ目イソギンポ科ニジギンポ族)

▲ニセクロスジギンポ

ホンソメワケベラにそっくりな魚にニセクロスジギンポという魚がいます。これはその名の通りイソギンポ科の魚ですが、このカエルウオと同科の魚とは思えぬほどよく泳ぎます。遠目からはホンソメワケベラとは見分けがつかないのですが、よく見たら頭部の形状がことなり、ホンソメワケベラにある鱗が本種にはないなどの特徴もあります。

そっくりさんですが、クリーニングはしません。それどころか、ほかの魚の鱗や皮膚を食いちぎって食べるという悪癖があります。ホンソメワケベラになりすまして餌を得るのですが、このほかホンソメワケベラに化けることでハタなどに捕食されにくいというメリットもあります。たまに販売されることもありますが、上記の習性から、飼育はあまりおすすめしません。

ネオンゴビー (スズキ目ハゼ科)

▲ネオンゴビー

ネオンゴビーの仲間は何種類か知られていますが、いずれも西大西洋、カリブ海周辺にのみ生息するハゼの仲間です。黒と青のカラーが特徴的で、インド-太平洋域にすむホンソメワケベラの幼魚に似た色彩をもっています。これはやはり大型の肉食魚のクリーニングを行うためです。なお、ホンソメワケベラと同様、白点病は治療できません。またカリブ海産の魚なので水温22℃ほどの環境で飼育してあげたいものです。

このほかホンソメワケベラと同じソメワケベラ属の種もクリーナーとして知られています。このほか、コガシラベラ、ブダイベラ、マナベベラ、レッドシークリーナーラス、イエローテールチューブリップなども幼魚はクリーナーですが成長するとクリーニングしなくなるものも多いです。それどころかサンゴを捕食するようなものもいるので要注意です。

ホンソメワケベラに適した飼育環境

水槽

水槽は原則60cm以上の水槽で飼育したほうがよいでしょう。ホンソメワケベラは遊泳力が強く大きめの水槽が必要になるからです。実際はホンソメワケベラメインではなく、ほかの魚と飼育することが多いと思われますので、一緒に飼育する魚のサイズに合わせるべきです。ヒフキアイゴやカクレクマノミであれば60cm水槽でも十分ですが、サザナミヤッコやタテジマキンチャクダイ、スミレナガハナダイといった魚との混泳では120cm以上の水槽が必要です。

水質とろ過システム

やや水質の悪化には弱いような気がします。そのため綺麗な水を維持するようにしましょう。60cm水槽であれば上部ろ過がおすすめです。外掛けろ過槽は候補にはならず、外部ろ過槽は上部ろ過槽と一緒に使えばよいですが、「パワーフィルター」の名前のわりに、単独ではパワーが低いです。ベストはオーバーフロー方式で、大容量のろ過能力を確保できます。

ホンソメワケベラはサンゴにはあまり害を与えることはないので、サンゴ水槽でも飼育することができます。サンゴはベルリンシステムで飼育されることが多いのですが、ベルリンシステムでは魚は多くは入れることができません。

水温と病気予防

一般的には他のサンゴ礁の魚と組み合わせることが多いでしょうから、23~26℃くらいで飼育するようにします。温帯で採集されたものはもう少し低くてもよいかもしれません。もちろん、水温が安定していることが重要で、そうしないと病気にかかってしまうこともあります。病気予防のために殺菌灯、という意見も聞かれますが、殺菌灯を付けるまえに水温が上昇したり下降したりしているのではどんな魚も病気にかかる可能性があります。しっかり水温を安定させ、きれいな水質をキープしましょう。

フタ

よく泳ぎ、勢い余って水槽の外に飛び出してしまうという事故が発生することがあります。そのため水槽にはしっかりフタをしておきたいところです。ただし小さな隙間から出てしまうこともあるため、しっかり隙間埋めもしておきたいところです。

水流

遊泳性が強いので水中ポンプを使って適度に水流を作るとよいでしょう。注意しなければいけないのがタイマー附属で動かしたり静止させたりするタイプのポンプで、この中でホンソメワケベラが寝ていた場合ポンプが動作した場合怪我をしたり最悪死んでしまうおそれもありますので、注意しなければなりません。

飾りと底砂

水槽に飾りサンゴ、サンゴ岩、もしくはライブロックなどを入れてあげましょう。これはホンソメワケベラの夜間の寝床になるためです。ホンソメワケベラは砂の中に潜って眠るタイプのベラではないため砂を敷いてあげなくてもよいです。魚水槽では砂を敷かないベアタンクが主流です。砂に潜るタイプのベラと一緒に飼育するときや、サンゴ水槽で飼育するとき、底面ろ過装置を使用するときは底砂を敷きますが、厚すぎるのはよくありません。

ホンソメワケベラに適した餌

ホンソメワケベラは他の魚についた寄生虫や粘膜などを食べてくれますが、そればかりを食べているわけではありませんので、他にも餌をあげる必要があります。基本的には動物食性といえ、肉食魚用の配合飼料Sサイズを与えるようにしたいものです。メガバイトのSサイズでもだめならもっと細かい餌を与えるか、配合飼料をすりつぶして与えるしかありません。

ホンソメワケベラは口が小さいので配合飼料のサイズはSがおすすめ。Mだと食べたくても口元でずっとお手玉状態になり、中々食べられません。

このほかコペポーダなどもよく食べますが、これらの餌は水を汚すおそれがあり、あまり与えないほうがよいでしょう。

ホンソメワケベラとほかの生物との関係

ホンソメワケベラと他の魚との混泳

テールスポットブレニーをクリーニングするホンソメワケベラ

ホンソメワケベラはクリーナーとして知られており、ヤッコの仲間やハナダイの仲間のほか、さまざまな魚と混泳させることもできます。その習性から自然界では大型魚に食べられることはないようですが、水槽ではハタなどに捕食されるおそれもありますので、注意が必要です。

自然下ではハーレムで見られるホンソメワケベラですが、水槽内では同種同士ではクルクル泳ぎ追いかけまわすなど激しく争うので混泳は避けなければなりません。成魚が幼魚を追いかけまわすこともあり、サイズ差があっても混泳はしにくいといえます。

ホンソメワケベラとサンゴ・無脊椎動物の相性

ホンソメワケベラはサンゴに有害なクロベラやマナベベラに近い仲間とされますが、サンゴ水槽での飼育も可能です。

ベラの仲間としては大人しめの性格で、甲殻類にもあまり害がなく、小型のサンゴヤドカリやクリーナーシュリンプなどとは一緒に飼育することができます。ただし大型のエビ・カニ・ヤドカリはホンソメワケベラを食べてしまうので一緒に飼育できません。クリーナーシュリンプはアカシマシラヒゲエビ(スカンクシュリンプ)やシロボシアカモエビ(ホワイトソックス)との飼育は可能ですが、オトヒメエビは大きなハサミでホンソメワケベラを襲うこともありますので一緒にしないのが賢明でしょう。

ホンソメワケベラ飼育まとめ

  • 大型魚のクリーニングをおこなう
  • 夜間は砂に潜らず岩陰で眠る
  • よくにたニセクロスジギンポに注意
  • よく泳ぎ10cmほどに育つため60cm水槽が欲しい
  • 水質悪化にはやや弱め、上部ろ過槽が最適
  • 安定した水温と綺麗な海水で病気を予防する
  • 飛び出し注意。フタは必須
  • 水流ポンプは停止時にホンソメワケベラがもぐりこまないよう注意
  • 砂は敷かなくてもよいがサンゴ岩やライブロックなどで隠れ家をつくる
  • 口が小さいのでメガバイトレッドはSサイズがよい
  • ほかの魚と飼えるが大型魚に食べられることも
  • 色々なサンゴ礁の魚と飼育できるが、同種同士の混泳は避ける
  • 大型の甲殻類は危険
  • サンゴとの飼育は問題なし

2020.02.28 (公開 2017.07.13) サンゴ図鑑

ウミキノコの飼育方法~餌・照明・個体の選び方

ウミキノコやその近縁種ウネタケはサンゴ礁の浅瀬で見られる普通種。ポリプが出ていないときは茶色っぽい、名前の通り「海のキノコ」のような見た目で面白みに欠けるのですが、ポリプが開くと、美しいサンゴに変貌します。小さなウミキノコはポリプを閉じるとまさにキノコのような見た目になりユニークです。

写真のウミキノコは我が家で飼育しているもので、ポリプがメタリックグリーン、根本にはキクメイシも付いているめずらしい個体。クダゴンベがちょこんと乗ってかわいらしいです。ものによって色、形が異なるため飼育の楽しみも広がります。

ウミキノコの特徴

▲ウミキノコは八放サンゴ。ポリプの先端が8つに分かれている。

▲まさに海のキノコ

▲ミドリイシが飼育できるような水質の水槽で飼育されているオオウミキノコ

ウミキノコは八放サンゴの仲間のソフトコーラルです。科としてはウミトサカ科となり、カタトサカなどと近縁です。形はいろいろあり、写真のようなキノコ状のものや大きくうねるものなどいろいろありますが、一部はウネタケという別属のサンゴです。オオウミキノコなどは超巨大なもので、まるでイソギンチャクの仲間のようにも見えます。一方色彩的には派手なものはなく、白っぽいもの、ベージュのものが多いですが、濃い蛍光グリーンのものも見られます。丈夫な種類が多く、初心者にも飼育しやすいソフトコーラルといえます。またウネタケの仲間もウミキノコの仲間と飼育方法は同じでかまいません。

ウミキノコ飼育に適した水槽

水槽

ウミキノコの仲間も種類は豊富ですが、小型の群体は小型水槽でも飼育はしやすいものの、オオウミキノコ、あるいはウミキノコに近縁なウネタケなどはかなり大きくなったりするので飼育には大きな水槽がよいでしょう。小さなものは35cm位の水槽での飼育も可能ですがいずれ大きくなることを考えますと、60cm位の中~大型水槽が欲しいところです。

水質とろ過システム

ウミキノコはベルリンシステムでも生物ろ過システムでも飼育できますが、おすすめはベルリンシステムです。ベルリンシステムでは魚は多く入れられないのですが、サンゴを飼うのには最適なシステムです。同じく浅いところに生息するミドリイシなどと組み合わせるとよいでしょうが、初心者にはミドリイシの飼育は難しいところがあります。その一方、栄養塩を極限まで取り除くようなゼオビットには向いていないかもしれません。逆に栄養塩が過剰に蓄積するのもよくないです。飼育しやすいサンゴではありますが、水かえはしっかりしましょう。

水流

ウミキノコの飼育には弱めからやや強めの水流が必要です。小型の水中ポンプで水流を作りますが、ポンプから勢いよく出た水流が直接ウミキノコに当たるのは好ましくありません。強い水流が水槽面や壁面に当たり、拡散された流れをあてるようにするのが望ましいでしょう。このほか水流をつくるポンプを制御するコントローラーをつけるのもよいでしょう。

好む光・照明と置く場所

▲サンゴ礁域の潮溜まりに見られたウミキノコの近縁種・ウネタケの仲間。

従来は蛍光灯よりもメタルハライドランプのほうがよいとされていましたが、最近は蛍光灯やメタルハライドランプよりもLEDでサンゴ飼育を楽しむことが多くなりました。

ウミキノコの仲間はLEDで飼育を楽しむことができます。弱い光でも飼育可能ですが、基本的には強い光を好みます。強力な日光が照らすサンゴ礁の礁湖などにもみられるようなサンゴですので、光がよく当たる場所に置くのがが望ましいといえます。メタルハライドランプや強い光を放つLEDライトであれば水槽の下の方に配置することも可能ですが、そうでないときはライブロックの頂あたりにおいておくようにします。光の種類については強いブルーの光を放つLEDでも飼育可能ですが、生息地はサンゴ礁の浅瀬ですので、浅場の光を再現したものがよいといわれています。もちろんメタルハライドランプやT5でも飼育できますが、メタハラを使用するならば直下にウミキノコを置くのは避けます。

水温

他のサンゴ礁に生息する魚やサンゴ同様25℃前後が適温です。水が綺麗な水槽では少なくとも28℃前後まで耐えられますが、基本は25℃をキープするようにします。ウミキノコやウネタケの仲間はサンゴ礁域のごく浅い場所、水温が30℃にもなるような酷暑の潮溜まりでも見られる種類がありますが、水槽では厳しいでしょう。

ウミキノコの餌・添加剤

ディスクコーラルと違い、ウミキノコは餌を与える必要はありません。もし餌を与えたいのでしたら、液状のプランクトンフードや、植物プランクトン(フィトプランクトン)をごくたまに与えるだけで十分です。

添加剤については、カルシウムはミドリイシほど高い数値は必要としませんが、ヨウ素やマグネシウム、ストロンチウム、微量元素など添加しておくことをおすすめします。我が家ではブライトウェルアクアティクス社の添加剤4種を使用しています。これとマグネシウムを添加すればほとんどの好日ソフトコーラルを飼育可能になります。

ウミキノコの選び方

茎の部分が折れ曲がっているもの、白い粘膜がかかっていて腐っているようなものなどは避けます。はじめてウミキノコの仲間を飼育するときは店員さんに見てもらい、大丈夫そうなものを購入するとよいでしょう。

光が当たっているにもかかわらずポリプが開いていない個体は、たまたま脱皮直後のものかもしれません。また結構気まぐれなので時間帯に関わらずポリプが出ないこともあり、必ずしも悪い状態とは言えません。店員さんに普段の様子を聞き、不安な場合は日を変えて再度訪問するのがよいと思います。

もちろんお店に入ってきてあまり時間がたっていないものも購入を避けるようにします。

ウミキノコの購入後

ウミキノコには寄生するウミウシや貝などがついていることがありますので、それらによる影響が心配なら薬浴をします。薬浴にはサンゴ専用の薬を使いますが、使用方法や量は守って使用することが大事です。なお、魚病薬は絶対に使用してはいけません

ウミキノコと魚や無脊椎動物との相性

ウミキノコは多くの魚種と合わせることができます。スズメダイの仲間、ハゼの仲間、ハナダイの仲間、小型ヤッコの仲間、ニザダイの仲間、ベラの仲間、カエルウオの仲間など、多くの種類と組み合わせることができますが、チョウチョウウオや大型ヤッコなどと組み合わせるのは難しいです。クマノミの仲間と大型のウミキノコを飼育していると、クマノミの仲間がウミキノコの中に入ることもあります。

ウミウサギガイという巻貝の仲間にはウミキノコやウネタケに寄生するものがおり、それらのサンゴが大好物ですので、一緒に飼育することはできません。

ウミキノコと他のサンゴとの相性

ウミキノコもウネタケも毒性は非常に弱いです。ウミアザミなどと接触しても問題ないのですが、強い毒をもつハードコーラル(アザミサンゴなど)はウミキノコを触手の強力な毒でダメージを与えることがありますので注意が必要です。またソフトコーラルでも強毒をもつヌメリトサカなどとは触れないようにしなければなりません。なお、ウミキノコ同士はまとめて配置することができます。

ウミキノコの増やしかた

▲ライブロックに固着していたウミキノコがちぎれ、そこから新しい芽が出てきたもの。

ウミキノコは比較的容易に増やすことができるソフトコーラルです。大きくなりすぎた個体は、ハサミやカッターナイフなどでカットして、カットした破片をライブロックやサンゴ岩などに付着させることで増やすことができます。

ハサミやカッターナイフは使用する前に水洗いするようにします。使用後も真水で洗い乾かさないとサビるおそれもあり、要注意です。また、きちんと付着するまで時間がかかることもあり、むやみに動かさないようにします。ブライトウェル「リストア」などサンゴの修復を促す添加剤などを使ってもよいでしょう。

ウミキノコ飼育まとめ

  • キノコのような形が面白いソフトコーラル
  • 飼いやすいが飼育水の水質悪化に注意する
  • 強めの白っぽい光とほどほどの水流を
  • ヨウ素、マグネシウム、ストロンチウム、微量元素を添加する
  • 餌は与えなくても良い。与えるなら液状の餌かフィトプランクトンを
  • 多くの魚と組み合わせることができる
  • カットして増やすこともできる

2022.08.09 (公開 2017.07.11) 水槽・器具

海水魚用クーラー・ヒーターのおすすめと選び方

海水魚用クーラー・ヒーターの選び方において、一般的に「メーカーが推奨するものの一回り大きいスペックで選びましょう」と言われるのは理由があります。

それは、飼育環境によって熱損失量を加味する必要があり、どうしてもスペック通りの働きをしてくれるとは限らない、また単純な水槽の水量で判断することができないからです。

クーラーの選び方

【クーラー選定における計算式】

【公式】
選定L数=全水量(A)+熱損失量(B)

計算式例

【A】水槽容積と濾過槽容積の合計
水槽:108L
濾過槽:20L
108L+20L=128L

【B】水槽で使用する電気機器の出力合計
「1w=1L」として計算
照明:150w
ポンプ:20w
殺菌灯:20w
150w+20w+20w=190w=190L

選定L数=(A)128L+(B)190L=318L

参照(一部改編):ZENSUI

このケースだと、単純な水槽の水量で見るとゼンスイZC-200αが適しているように思えますが、熱損失量を加味した正確な計算では、ZC-500α程度でないと水温が安定しないことになります。

これを踏まえたうえで、メーカーが推奨する「選定L数」を見ると、よりあなたにとっての選び方が見えてくるはずです。

ゼンスイZCクーラーαシリーズ|メーカー推奨の対応水量

αシリーズ 選定L数
ZC-100α 100L相当
ZC-200α 200L相当
ZC-500α 450L相当
ZC-700α 700L相当
ZC-1000α 1000L相当
ゼンスイ 小型循環式クーラー ZC-100α

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ですから、50リットル程度の小型水槽で飼育している方も、取り付けている機材を加味すると、ゼンスイを例に取ればZC-100α以上のスペックのクーラーは必要になってしまいます。

ケチって低スペックのものを購入すれば、ほぼ間違いなく失敗します。「こんなにハイスペックのクーラーが必要になるとは思わなかった」と感じているかもしれませんが、プロテインスキマーや添加剤、殺菌灯と違って、クーラー選びに関して言えば、アクアリウムにおいて最もお金をかけなければいけないポイントと言えます。

一般的に、クマノミの仲間などサンゴ礁の魚を飼育するのに適した水温は23~25℃といわれています。

サンゴ礁域の浅場で水温30℃近くになることがありますが、一般的な水槽でそのような温度になってしまうと厳しいものです。サンゴは高水温が続くと死滅の危機がおとずれてしまいます。水槽では常に25℃、ハワイやカリブ海の魚を飼うには22℃、この水温を一定に保つように心がけます。

水温チェックで病気の予防

▲温帯性の魚は水温に注意が必要

私たちが季節のかわり目に風邪をひくことがあるように、魚は水温の変動時に病気にかかりやすくなるので注意します。1日に3℃も4℃も温度がかわるような水槽では魚も病気になることがあります。

熱帯性のカクレクマノミは23℃で飼育しても、25℃で飼育しても、27℃で飼育してもあまり問題はありません。大事なのはこの温度で安定していることなのです。温帯域の魚やハワイ・大西洋産の魚はもっと低めの22℃前後で飼育するのが適しています。

水槽の温度を下げる

▲深場の魚や温帯、大西洋の魚は低めの水温を好む

水温を下げる方法としては、冷却用のファンを用いる方法、水槽用のクーラーを用いて下げる方法があります。小型水槽であれば冷却用ファンや比較的安価なペルチェ式クーラーで水温を下げますが、大型水槽では水槽用のクーラーを用いて冷却する方法がとられます。

冷却用ファンで水温を下げる

水槽の水温を下げるには水槽用のクーラーで下げるのがベストですが、今は大分安価になったとはいえ、クーラーは気軽に購入できるような金額ではないという方も多いでしょう。

比較的安価に水槽を冷やすのに水槽用のファンがあります。60cm水槽くらいまでなら良いでしょうが、それ以上の水槽では現実的ではないかもしれません。

テトラ (Tetra) 25℃ダブルクールファン CFT-60W

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逆に温度が下がりすぎるということもありますので、かならず専用のサーモスタットを併用する必要があります。またこの装置を使うことによって水槽の水が減ってしまい、「足し水」が必要になります。この場合カルキ抜きをした真水を少々足すことになります。

ジェックス ファン専用サーモスタット FE-101N

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水槽用クーラーで水温を下げる

一般的な水槽用のクーラーにはコンプレッサー式のものとペルチェ式のものがありますが、海水魚飼育用にはコンプレッサー式のものがお勧めです。

コンプレッサー式クーラー

一般的に「水槽用クーラー」と言えばこちらのことをいいます。最近は小型水槽も人気で、このタイプのクーラーもさまざまな種類がラインアップされており、価格も5ケタ内でおさまるものが多くなりました。

主なものではゼンスイ「ZCシリーズ」やジェックスの「クールウェイ」、エムエムシー企画レッドシー事業部が輸入販売するテコ社製のクーラーなどがあります。水槽の水を確実に冷やすことが出来ますが、デメリットとしては価格が高いことのほか、クーラーの音がうるさいことがあげられます。

メンテナンスとしては、クーラーの吸気口に詰まったほこりなどをたまに取り除く必要があります。

ゼンスイ 小型循環式クーラー ZC-100α

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ペルチェ式クーラー

ペルチェ素子を使ったクーラーのことです。ペルチェ素子というのは、端折っていえば電流を流すと表裏に温度差が発生する素材のことで、主に小型冷蔵庫やさまざまなものの冷却などで使用される方式ですが、観賞魚用の冷却装置についてもこの方式を採用した商品があります。

具体的なメーカー、製品名をあげますと、ゼンスイ「テガル」やテトラ「クールタワー」などの製品があります。

特に「テガル」は冷却するだけでなく加温機能も備えるなど優れた点があります。ただしコンプレッサー式の水槽用クーラーほど水槽を冷やす能力はないので過信は禁物です。涼しい部屋においた水槽の水温をさらに下げるという使い方をします。

ゼンスイ 小型ペルチェ式クーラー TEGARU2(テガル2)

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クーラーを選ぶ

▲ポンプは魚やサンゴ飼育には必需品だが…

海水魚を飼うのには、外部式ろ過槽と同じようにクーラーも適合水量は1ランクも2ランクも上のものがすすめられることが多いのですが、それには理由があります。

まず水中にある、ありとあらゆるポンプは熱を出してしまうということです。オーバーフロー水槽でサンプ(水溜め)から水をくみ上げるポンプ、オーバーフローでなくても水をろ過槽にくみ上げるポンプは熱源となります。サンゴ飼育には水流を生み出すためのポンプも必要になりますし、とくにミドリイシなど淀みを嫌うサンゴを飼育するのには多数取りつける必要があります。さらに言えばプロテインスキマーもポンプを使って水槽の水を温めますし、殺菌灯は接続するポンプもそうですが、殺菌灯そのものが紫外線を照射するもので、それによっても水は温められます。

次に海水魚を飼うためには豊富な水量を確保できるろ過装置がすすめられること。これは外部ろ過槽を大型化したり、広いろ過槽を確保できる上部ろ過槽をセレクトするとなると、水量が増えるのは当然です。

そして照明の影響もあります。サンゴを飼うのには照明が必要ですが、LEDの他にメタルハライドランプや、T5蛍光灯などを勧められることがあります。最近はLEDが人気ですが、サンゴ、特にミドリイシ等の愛好家は今でもメタハラやT5などを使用していることも多いのです。

クーラーは絶対に価格だけで選ばず、自分の水槽よりも対応する水量が多いものを選ぶようにします。なお、クーラーと水槽を接続するには、別途ホースと循環ポンプが必要になります。循環ポンプもハイパワーのものを、お住まいの地域の周波数にあったものを購入します。

室内のクーラー(エアコン)で冷やすのはだめなの?

家のクーラーではだめなのか、という質問をたまに受けます。実際、水槽用のクーラーを使用せず、家のクーラーだけで海水魚を飼育することも不可能ではありませんし、お店も個々の水槽にクーラーをつけるということはせず、部屋ごと冷却することも多いのです。

しかし、24℃に水温を保つには、室温を22℃くらいに設定しておく必要があり、ポンプをいくつもつけるようであればさらに室温を冷やす必要が出てきてしまいます。また何らかの理由で部屋の温度が大きく変動したら、変化はそれほど急でなくても水温も変動してしまいます。やはり基本は水槽用のクーラーをつけるようにして、その補助として室内のクーラーをつけるようにするとよいでしょう。

水槽の温度を上げる

水温を下げる方法はコンプレッサー式のクーラーを使う方法やペルチェ式クーラー、ファンを使う方法がありますが、水槽の温度を上げるのはヒーターを使うに限ります。ヒーターを運用するにはサーモスタットを使う方法や、オートヒーターを使う方法があります。

ヒーターで温度を上げる

▲オートヒーター

ヒーターは冬水温を上げるときに使うもの、と思われがちな製品です。しかし、実際はそれだけではありません。「夏、冷えすぎた水槽の水をあたためるもの」「春と秋、クーラーと手を組んで安定しない水温を一定に保つもの」というものでもあります。ですから春夏秋冬、水槽やサンプに入れておくべきです。

オーバーフロー水槽のろ過槽やサンプ(水溜め)はガラスのものもありますが、日本においてはアクリル製のサンプが多いです。このままヒーターを直置きするとアクリルが溶けるなどトラブルのもとになります。キスゴムを付けるというアクアリストも多いのですが、キスゴムだけではどうしても不安ですので、必ずヒーターカバーがついた製品を選ぶようにします。勿論サンプを持たない一般のアクリル水槽でもヒーターを直置きしないように注意します。

サーモスタットを選ぶ

▲ヒーターと電子サーモスタット。セットで販売されていることも。

ヒーターは決してそのまま使わず、サーモスタットとつなげて使用します。サーモスタットはバイメタル式のサーモスタットや電子サーモスタットがありますが、扱いやすい電子サーモスタットをおすすめします。

このほか最初から設定してある温度まで水温を上げる機能をもつオートヒーターも小・中型水槽向けのものを中心に普及しています。これにはサーモスタットをつなげることはしません。またヒーターは陸に置いたまま通電させてはいけません。物をとかしたり最悪発火するおそれもあります。必ず水の中に入れた状態で通電させます。

クーラー、ヒーター、共通の注意点として、水温のセンサーを必ず水槽内に入れておくようにします。とくに水が蒸発しやすい冬の時期はセンサーの位置にも注意します。

クーラー・ヒーターの選び方まとめ

  • クーラー・ヒーターの「対応水量」は単純な水槽の水量で判断できない
  • クマノミなど熱帯性海水魚の適温は25℃前後。23℃でもよい
  • 温帯、ハワイ、カリブ海、深場の魚はもっと低い水温で飼育する
  • 水温は安定していることが大事
  • 水温はポンプや照明、殺菌灯などによって常に温められている。
  • クーラーは公称対応水量よりも大きなコンプレッサー式がおすすめ
  • 小型水槽ならファンやペルチェ式クーラーの選択肢も
  • ヒーターは春夏秋冬水槽に入れておく
  • ヒーターと電子サーモスタットの組み合わせがおすすめ
  • 水から出した状態で決して通電させないこと
  • センサー類は必ず水槽内に。水位にも注意

2020.12.07 (公開 2017.07.10) サンゴ図鑑

ディスクコーラルがサンゴ初心者におすすめの理由

いま、大きな水槽で大量にサンゴを飼育している人がいます。ミドリイシの仲間にこだわる人、飼いやすいソフトコーラルを中心に魚とサンゴを楽しむ人、特定のサンゴの仲間を愛するマニアの人。しかしそんな人たちにも必ず「はじめてのサンゴ」というのがあります。それはスターポリプの仲間であったり、マメスナギンチャクであったり、ディスクコーラルであったり…。

そのなかでも初めてサンゴを飼育するのにおすすめのサンゴ、といえば私は必ずこのディスクコーラルをおすすめします。私にとってもはじめて購入したサンゴというのは、このディスクコーラルでした。緑色で黒い線が入る個体です。

ディスクコーラルとは、どんなサンゴ?

名前に「コーラル」、つまりサンゴとありますが、イソギンチャクに近い仲間とされています。トサカやウミキノコの仲間などのソフトコーラルはほとんど移動をしませんが、このディスクコーラルは僅かではありますが移動をすることがあります。もちろん移動、といってもイソギンチャクのように頻繁に動くわけではありませんので、フロー管に詰まって水があふれるとか、そのような心配は無用です。

この仲間にはバブルディスク、ヘアリーディスクとも呼ばれるように触手をもつものと、あまり触手をもたないものがいます。特にカリブ海産のバブルディスクは他の地域のバブルディスクと比べると触手の形が変わっており、「カリバブ」の愛称で親しまれていますが、他のディスクコーラルと比べると値段は高価です。

エレファントイヤーと呼ばれる、ゾウの耳のような形のものもいますが、大きさ30cm以上と巨大になるので小型水槽に向いていないのが残念です。

カラーバリエーション

▲緑色のものと、黒い線が入ったディスクコーラル。筆者が初めて飼育した個体

▲オレンジというか、赤みが強いディスクコーラル

ディスクコーラルは色のバリエーションが豊富なのも特徴です。地味な茶色のものから、緑色のもの、濃い緑色のもの、赤いもの、紫色のものなどさまざまです。色も豊富ですが放射状の線が入っているなんてものも見られ、それらをコレクションするのも楽しいものです。基本的に色の違いによる飼育難易度の違いはありません。

ディスクコーラル飼育に適した環境

水槽サイズ

一般的なディスクコーラルは小型水槽でも飼育できます。ただしディスクコーラルの仲間のうち、エレファントイヤーなどの大きくなる種は、あまり小型水槽には向いていません。一般的な種でも35cm以上の水槽はほしいところで、理想は45cmです。キューブ水槽であれば、小型水槽でもかなりの水量を確保できるのでおすすめです。

ディスクコーラルに適した水質

ミドリイシの仲間を飼育するような、硝酸塩、リン酸・ケイ酸塩などが殆ど検出されない水でも、それらの成分がある程度検出されるような水槽でも飼育することができます。ろ材を使ったろ過でも、ベルリンシステムのようなナチュラルシステムでも飼育できます。初心者にもおすすめできる理由のひとつは、飼育可能な水質の幅が広いということです。

ディスクコーラルに適した水流

水流についてもあまり必要としません。逆に常にディスクコーラルがめくれていたりするようなのは望ましくはありません。水流が弱めの場所に置くのにも適しています。水流を必要としないところは、言い換えれば水流についてあまり悩まなくてもよいということで、これも初心者向けの理由のひとつといえます。

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ディスクコーラルに適した光

あまり強い光でなくても飼育可能です。海水魚用として販売されている安価なLEDライトで十分です。

もちろんほかの種類のサンゴと組み合わせるときは、そのサンゴが好む光にあわせます。ただしミドリイシを飼うようなメタルハライドランプの多灯はディスクコーラルには強すぎるので避けます。メタルハライドランプを使いミドリイシを飼育しているような水槽ではライブロックや他のサンゴの陰になるような場所に置くようにします。

ディスクコーラルの置き場所

弱い光でも十分飼育可能ですので、あまり置き場所は選びません。比較的強い毒がありますが、他のサンゴと接触しなければ問題はありません。ライブロックの隙間、他のサンゴの陰になる場所など、他のサンゴを置きにくい場所に置くとよいでしょう。

ディスクコーラルに適した水温

一般的に「ディスクコーラル」として販売されているものは主にインドネシアや沖縄からやってきます。28℃くらいでも水質が良ければ問題ないのですが、25℃前後が適しています。

ヘアリーディスクも同様ですが、バブルディスクについては東南アジアからだけでなく、俗に「カリバブ」と呼ばれるカリブ海からやってくるものもいますので、そのような種はとくに高水温に注意する必要があります。

ディスクコーラルの餌

ディスクコーラルは好日性のサンゴで、太陽の光からエネルギーを得ています。触手がほとんど目立たないディスクコーラルは基本的に餌を与える必要はありません。もし餌を与えたいのでしたら、液状の餌か、冷凍したプランクトンフードなどでよいでしょう。

一方ヘアリーディスクやバブルディスクなどは餌も好んで食べます。餌は与えなくてもいいのですが与えれば成長が促進されます。餌は上で述べたようなもののほか、欧米のメーカーから出ているサンゴ用のドライフードなども食べます。もちろん餌の与えすぎはよくありません。

ディスクコーラルと魚や甲殻類との相性

▲巨大になる種と小魚の組み合わせは要注意。

多くの魚や甲殻類などと組み合わせることができますが、チョウチョウウオの仲間やフグ、カワハギの仲間などはディスクコーラルをつついて食べてしまうこともありますので、そのような魚とは一緒にするべきではありません。

逆にエレファントイヤーなどの極めて大型になるものは動きが遅い魚を食べてしまうことがあるので注意します。とくにヨウジウオやハゼ、カエルウオなどは危険です。ただし、それ以外の魚、例えばハナダイの仲間、ベラの仲間、バスレットの仲間、小型ヤッコの仲間などとであれば、概ね問題はありません。

ディスクコーラルと他のサンゴとの相性

▲ディスクコーラルの仲間はまとめて置くことができる

毒性はやや強めのサンゴですので、他のサンゴとはあまり触れないようにしたいものです。あまり強い光の場所でないところにも置くことができ、他のサンゴを置くことができないような場所、例えばサンゴの下とか、隙間などに配置したくなりますが、ほかのサンゴと触れることがないよう注意します。

ディスクコーラル、またはほかのサンゴが膨らんだときに接触しないように注意します。なおディスクコーラルの仲間同士は並べて配置しても問題ないことが多いです。

ディスクコーラル飼育まとめ

  • 水質・光の適応範囲が広く初心者にもおすすめ
  • 水温は基本的に25℃前後
  • 餌をあげるとよく成長する
  • 多くの魚と組み合わせやすい
  • 大型になる種は魚を食べてしまうことも
  • 他のサンゴと接触しないように
  • ディスクコーラルはまとめて置くことができる

2020.05.07 (公開 2017.07.08) 海水魚図鑑

イトヒキベラとクジャクベラの種類と飼育方法

世界で500種以上知られるベラの仲間ですが、その中でもアクアリストにとって魅力的なのは、イトヒキベラやクジャクベラの仲間です。この仲間はカラフルなものが多く、アクアリストやダイバーに高い人気があり、さらに毎年のように新種記載されるなど、注目度が高い仲間です。

ここでは、イトヒキベラ・クジャクベラの仲間の基本的な飼育方法をまとめました。

イトヒキベラ属 Cirrhilabrus

雄と雌で色彩が異なる種が多く、通常雄のほうが雌よりも派手で、鰭も良く伸び、美しくなります。海域により斑紋や色彩に微妙な差があるものも含まれ、その中には未記載種と思われるものもいます。世界ではインド-中央太平洋から50種をこえる種数が知られ、日本では少なくとも11種が知られています(水中写真からの報告によるものも含む)。

イトヒキベラ属の主な種 (★は日本にも分布する種)

★イトヒキベラ Cirrhilabrus temminckii Bleeker, 1853

腹鰭が非常に長く伸びるタイプの種類です。生息海域によって色彩の変異も多く、いくつかの種類に分かれる可能性があります。観賞魚としてはフィリピンから輸入されることもありますが、国産の個体が販売されることもあります。また浅場にもみられ、自家採集も可能です。

★ゴシキイトヒキベラ C. katherinae Randall, 1992

別名キャサリンラス。雄の腹鰭が伸びイトヒキベラに似た種類で、胸鰭基部に黒色斑があるのが特徴です。幼魚や雌は体が赤く腹部が白い感じです。比較的浅いサンゴ礁に生息している種です。全長は8cmほど。

ベルティッドフェアリーラス C. balteatus Randall, 1988 (マーシャル諸島)

マーシャル諸島に生息する種で、胸鰭基部に黒色斑があり、ゴシキイトヒキベラによく似ている種です。体側には大きな赤色横帯があるのも特徴の一つです。雌は赤い体で腹部は白色という色彩もゴシキイトヒキベラに似ています。

★ニシキイトヒキベラ C. exquisitus Smith, 1957

インド洋から中央太平洋に生息する、イトヒキベラの仲間としては分布域が非常に広い種で雄の色彩や模様には変異が見られる種類です。雌は赤褐色で地味ですが尾の黒色斑でほかのイトヒキベラと見分けられます。やや大型になりますので大きい水槽が必要になります。

★ベニヒレイトヒキベラ C. rubrimarginatus Randall, 1992

腹鰭が少し伸びるタイプのイトヒキベラです。水深30mを超える深場の種で、大きさも12cmをこえる大型種。背鰭の外縁や尾鰭の後方が赤くなるのが特徴で、雌は体が薄いピンク色になります。西太平洋から南太平洋、キーリング諸島に分布します。

★クレナイイトヒキベラ C. katoi Senou and Hirata, 2000

数年前までは日本にのみいると思われていた種類ですが、最近になってフィリピンの深場で採れたものが入ってきました。学名のうち種小名の「Katoi」というのは加藤昌一氏に献名されたもので、同氏は「ネイチャーウォッチング ベラ&ブダイ」を執筆されました。雄の背鰭が美しい種です。

★ツキノワイトヒキベラ C. lunatus Randall and Masuda, 1991

雄の尾が三日月状になるのが特徴のイトヒキベラです。鰓蓋の後方にある黄色斑も特徴です。幼魚や雌は尾鰭が三日月形ではなく、赤みを帯びた色彩で体側には白色の細い縦線が多数入ります。成魚は全長10cmになり大きめの水槽がほしいところです。

ダークフェアリーラス C. brunneus Allen, 2006

ツキノワイトヒキベラに似たイトヒキベラの仲間で、インドネシアの特産種です。英語名は「黒ずんだ」という意味で実際にツキノワイトヒキベラを黒くしたような色彩の種類です。

★ハリオイトヒキベラ C. isosceles Tea, Senou and Greene, 2016

ツキノワイトヒキベラに似ていますが、尾鰭がひし形になっているので区別は容易です。また体側の青い線も目立ち、ツキノワイトヒキベラと比べて豪華な感じです。雌にも薄らとこの帯がありますが幼魚はツキノワイトヒキベラの幼魚との区別は困難です。八丈島以南にいますが観賞魚としてはフィリピンなどから入ってきます。2016年に新種記載されたばかりの種です。

ジョンソンズフェアリーラス C. johnsoni Randall, 1988

ツキノワイトヒキベラによく似た三日月のような形の尾鰭をもつ、マーシャル諸島やカロリン諸島周辺の特産種です。雄は赤い背鰭とオレンジ色の体が特徴で、体側の斑紋はクジャクベラの仲間を思わせます。高価な種です。

★ヤリイトヒキベラ C. lanceolatus Randall and Masuda, 1991

伊豆諸島から沖縄本島周辺のやや深場に生息する日本固有種です。ひし形の尾が特徴で、近縁のロウズバンデッドフェアリーラスとは腹鰭の斑紋の様子で見分けられます。水深40m以深に生息する大型種なので飼育には広い水槽と低めで一定な水温がポイントになります。

ロウズバンデッドフェアリーラス C. roseafascia Randall and Lubbock, 1982

大型種が多いヤリイトヒキベラのなかでも特に大きくなる種で、雄は鮮やかなピンク色の体と、ひし形の尾が特徴です。ヤリイトヒキベラに似ていますが腹鰭の黒い模様の位置が異なります。フィリピンなどからたまに入りますが、15cmを超える大型種で小型水槽での飼育は困難です。

ラボウテスフェアリーラス C. laboutei Randall and Lubbock, 1982

オーストラリアやニューカレドニアなど南太平洋に生息する大型種です。雄の体側の模様が特徴的で、腹鰭は伸びないで臀鰭棘の棘が伸長するという変わった特徴を持つ種類です。雌は赤みを帯びた体で薄ら模様が入る程度、臀鰭棘は伸びません。

★クロヘリイトヒキベラ C. lyukyuensis Ishikawa, 1904   

ブルースケイルドフェアリーラス C. cyanopleura (Bleeker, 1851)

クロヘリイトヒキベラは研究者によって学名の扱いが分かれる難しいグループです。西太平洋からインド洋にかけて分布し、潮通しのよい浅いサンゴ礁域や岩礁域に生息します。大きくなり(12cmほど)、遊泳性も強いため小さな水槽での飼育は困難です。

ソロールフェアリーラス  C. solorensis Bleeker, 1853

インドネシア産の種で、雄は緑色の体、白色の腹部、鰓蓋付近と背中が黒く、赤い頭部という非常に鮮やかな色彩、雌は頭部が赤く体が青というもので、雌雄ともに美しい色彩が特徴です。残念なところは比較的大型になる種なので水槽も大きめのものが必要、というところです。

ランドールズフェアリーラス  C. randalli Allen, 1995

オーストラリアの北西岸にのみ生息する種でこの種も全長10cm近くになります。黒っぽい頭部、赤みを帯びた背中、そして体側の非常によく目立つ黄色い縦帯が特徴ですが、観賞魚として入ってくる見込みがない種です。

イエローバンデッドフェアリーラス C. luteovittatus Randall, 1988

全長12cmにもなる大型種です。雄はオーストラリアに生息するランドールズフェアリーラスの雄によくにている種で、体側の橙色の線が特徴です。マーシャル諸島やカロリン諸島に生息します。

オレンジバックフェアリーラス C. aurantidorsalis Allen and Kuiter, 1999

インドネシアに生息するクロヘリイトヒキベラに似た種類です。紫色の体に体側の背部が鮮やかなオレンジ色に染まるので、他の種類と区別は容易です。大きいものは10cmに達し大型水槽で飼育するべき種です。

★トモシビイトヒキベラ C. melanomarginatus Randall and Shen, 1978

イトヒキベラの仲間ですが緑色の体が特徴的な種です。雄は背鰭、臀鰭が赤く、雌は背鰭が青みをおび、臀鰭が赤いという変わった色彩。幼魚は黒っぽい体に白い縦線が多数入ります。大型で全長15cmになります。八丈島以南、西太平洋、フィジーに分布します。

スコッツフェアリーラス C. scottorum Randall and Pyle, 1989

南-中央太平洋に生息するトモシビイトヒキベラの近縁種です。灰色の体で斑紋については個体差が激しい種類です。集めてみたくなりますが全長15cm近くになる大型種であり、飼育には大型の水槽が必要になります。

★ラボックスフェアリーラス C. lubbocki Randall and Carpenter, 1980

沖縄以南の西太平洋に生息しますが日本では少ない種です。雄は体側が鮮やかな青色のものと、紫色っぽい体で側線に沿うように黒い線が入るものの二つのタイプが知られますが雌は赤く尾付近に黒い点が入るだけで近縁種との区別は困難です。最大全長8cmほどの小型種で小型水槽での飼育もできます。

イエローフィンフェアリーラス C. flavidorsalis Randall and Carpenter, 1980

西太平洋に生息しますが日本では見られません。ラボックスラスの近縁種で雄は体側の赤い横帯と黄色い背鰭が特徴です。雌はラボックスラスと酷似しており区別は困難。ラボックスラス同様あまり大きくなる種ではなく小型水槽でも飼育可能です。

アドーンドフェアリーラス C. adornatus Randall and Kunzmann, 1998

インドネシアに生息するラボックスラス近縁の種で、雄は背中に大きな赤い斑紋があり、背鰭が赤くなるのが特徴です。雌はオレンジ色で腹部は白っぽく、尾部に黒色斑があるという他のラボックスラス近縁種との区別は困難です。全長8cmほど。

マージョリーズフェアリーラス C. marjorie Allen, Randall and Carlson, 2003

フィジー特産の種です。雄は背中が赤く、体側に数本の縦帯があるのが特徴で、また尾鰭は三日月形か、中央が突出る二重湾入形です。雌は尾鰭の付け根に黒色斑があるのが特徴です。深場にすむ種で、ごくまれに流通しますがラボックスラス近縁種としては非常に高価な種です。

ワリンディフェアリーラス C. walindi Allen and Randall, 1996

ニューギニア島からソロモン諸島に生息するラボックスラスに近い仲間の小型イトヒキベラです。雄の体側背部、背鰭に黒い斑点が数個あるのが特徴です。雌はラボックスラス近縁種の他種と似ています。観賞魚としての流通はほとんどありません。

センデラワシフェアリーラス C. cenderawasih Allen and Erdmann, 2006

名前はインドネシアの西パプアにあるセンデラワシ湾にちなみます。雄はワリンディフェアリーラスに非常によく似ているのですが、体側中央の黄色と体側背部から背鰭にかけての黒い多数の斑点が特徴的です。

パープルフェアリーラス C. beauperryi Allen, Drew and Barber, 2008 (西太平洋)

パプアニューギニアやソロモン諸島に生息する種で、腹鰭が長くなるタイプのイトヒキベラの仲間です。雄の体は青みを帯びた色彩で、小さな青白い斑点が入るという美しい種です。比較的浅い場所に生息します。

ドテッドフェアリーラス C. punctatus Randall and Kuiter, 1989

南西-中央太平洋に生息する種で、やはり腹鰭が長く伸びるイトヒキベラの仲間です。分布域はオーストラリア、ニューカレドニア、バヌアツからフィジーまでと広いですが地域変異がありそれぞれ別種の可能性がある種です。

ラインドフェアリーラス C. lineatus Randall and Lubbock, 1982 (西太平洋)

オーストラリア東岸、ニューギニアなどに生息する種です。ローンボイドフェアリーラスに似た種で、全長10cmを超えます。大きめの水槽で飼育したい種です。尾鰭後縁は成魚でも丸みを帯びた形をしています。

ローンボイドフェアリーラス C. rhomboidalis Randall, 1988 

パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシアに生息する、黄金色と青い色が特徴的な種類です。ひし形に近い大きな尾鰭も特徴的な種類です。人気のイトヒキベラですがやや深場にすみ、値段もやや高価です。

コンデズフェアリーラス C. condei Allen and Randall, 1996

雄の腹鰭はのびるタイプの種です。南太平洋に生息する種で、赤い体と黒い背鰭が特徴の種類です。インドネシア、ソロモン諸島、パプアニューギニアなどに生息しますが、最近になってこの名前で呼ばれるものも2種に分かれたようです。

パイルズフェアリーラス C. pylei Allen and Randall, 1996

腹鰭が長くのびるタイプのイトヒキベラのなかでも極めて長い腹鰭が特徴です。西太平洋やインドネシアの深い海に生息する種ですが、生息地によって色彩が若干異なりますがこれらはそれぞれ別種であるとされることもあります。

レッドフィンラス C. rubripinnis Randall and Carpenter, 1980

見た目はイトヒキベラやゴシキイトヒキベラなどに似ていますが、雄は大きな背鰭が美しい種です。フィリピンやインドネシアのサンゴ礁域に生息する中型のイトヒキベラで、丈夫で飼育しやすく入手も容易な種です。

ソーシャルフェアリーラス C. rubriventralis Springer and Randall, 1974

この仲間は雄の背鰭の背鰭棘前方が長く伸び、腹鰭も大きく長く伸びます。西インド洋や紅海に生息する小型種で、鰭を広げた雄は非常に格好良いです。成魚でも7cmほどの小型種なので小型水槽でも飼育できます。モルディブなどに生息するものは別種とされています。

ナオコズフェアリーラス C. naokoae Randall and Tanaka, 2009

ソーシャルフェアリーラスの近縁種で、雄の背鰭の背鰭棘前方が長く伸び、腹鰭も大きく長く伸びます。雄の体側に太い黄色縦帯があるのが特徴です。インドネシアのインド洋岸に生息し、近年は観賞魚店でもよく見ます。

ハマンズフェアリーラス C. humanni Allen and Erdmann, 2012

インドネシア特産のイトヒキベラの仲間です。背鰭の前方が伸び、腹鰭も大きいのが特徴の種類です。背鰭や臀鰭、腹鰭は赤みを帯び、体側に目立つ黄色い縦帯がないこと、背鰭前方の棘があまり長く伸びないのも特徴です。日本未入荷と思われます。

モンスーンフェアリーラス C. hygroxerus Allen and Hammer, 2016

北西オーストラリアとインドネシアに生息する種です。背鰭前方の棘はソーシャルフェアリーラスほど長くなく、雄は背鰭、腹鰭、臀鰭の色が赤みを帯びています。雌は赤色。2016年に新種記載されたばかりの種で、日本にも極めてまれに入りますが高価です。

モーリソンズフェアリーラス C. morrisoni Allen, 1999

西オーストラリアに生息するイトヒキベラの仲間で、赤黒い体が特徴的な種です。背鰭、腹鰭、臀鰭、尾鰭も黒っぽい色彩です。恐らく日本未入荷の種と思われ、入荷してもかなり高価でしょう。

ジョアンズフェアリーラス  C. joanallenae Allen, 2000

背鰭前方の棘が非常に長く伸びるソーシャルフェアリーラスの近縁種です。腹鰭の色が真黒であることもソーシャルラスと区別する上での大きな特徴です。全長8cmほどとあまり大きくならない種で、分布域はソーシャルフェアリーラスよりも東側のアンダマン諸島、インドネシア方面です。

クアズールフェアリーラス C. africanus Victor, 2016

アフリカ東岸に生息するソーシャルフェアリーラスによく似た種です。体側や背鰭に青い小さな斑点がならび、雄の大きな腹鰭も特徴的です。ケニアと南アフリカに生息するもので特に南アフリカ産のものは色彩がユニークです。

パープルボーンドフェアリーラス C. blatteus Springer and Randall, 1974

紅海に生息する大型のイトヒキベラで、ヤリイトヒキベラに近い仲間とされます。水深40m前後の深場で小さな群れを作りますが、アクアリウム界にはまだ登場していない珍種です。全長15cmを超える種で大型水槽が必要でしょう。

レッドスケイルドフェアリーラス C. rubrisquamis Randall and Emery, 1983

全長8cmほどとヤリイトヒキベラの仲間では小型種です。インド洋のモルディブやチャゴス諸島に生息しており、前者や後者とくらべればよく流通される魚です。体側前半部の鱗が赤く縁どられるのが特徴です。

レッドブロッチドフェアリーラス C. sanguineus Cornic, 1987

モーリシャス特産のイトヒキベラの仲間です。尾鰭がひし形で、ヤリイトヒキベラなどに近い仲間です。体側にある大きな赤い斑紋が特徴的な種ですが、やや深場にすむことや、その産地からめったに出会う機会がない種です。

フィラメンテッドフェアリーラス C. filamentosus (Klausewitz, 1976)

背鰭の中央からフィラメントが突出すという、クジャクベラの仲間のようにも見える変わったイトヒキベラの仲間です。このほか臀鰭が黄色いのが特徴です。分布域は狭くて、現在のところインドネシアからのみ知られています。あまり多くは流通しません。

トノズフェアリーラス C. tonozukai Allen and Kuiter, 1999 

これもインドネシア固有のイトヒキベラの仲間です。前種と同様に背鰭の中央部が少し伸びるという、イトヒキベラ属としては変わった特徴をもつ種です。臀鰭の色彩は赤色。

ディープシーフェアリーラス C. bathyphilus Randall and Nagareda, 2002

英名からもわかるように、数あるイトヒキベラの中でもとくに深い海にすんでいる種類です。雄は体の前方が赤くて後方が黄色いという鮮やかな色彩が特徴的で、雌は赤みを帯びています。サンゴ海に生息します。

ナハッキーズフェアリーラス C. nahackyi Walsh and Tanaka, 2012

2012年に新種記載された種です。南太平洋のフィジーやトンガに生息する種で、雄は背鰭の前端が黒くて少し伸びるのが特徴です。腹鰭は小さく、他のどの仲間にも似ていない変わったイトヒキベラの仲間です。雌も鮮やかなオレンジ色が美しい種です。日本にもまれに輸入されますがかなり高価です。

クレアズフェアリーラス C. claire Randall and Pyle, 2001

南太平洋に生息するイトヒキベラの仲間の珍種です。クック諸島やタヒチに生息するようですが、生息地により鰭の色彩が違い、今後は別種になるかもしれません。やや深い場所に生息する高価な種類です。

フレームラス C. jordani Snyder, 1904

イトヒキベラの仲間は中央太平洋からも色々入ってきますが、そのうちハワイ諸島に生息するのは本種くらいのものなので貴重です。雄は背鰭・尾鰭の赤色と臀鰭の黄色が非常にきれいな種類です。ハワイ諸島周辺の固有種で、フィリピンからくるのは近縁の別種です。

アールズフェアリーラス C. earlei Randall and Pyle, 2001 

やや細い体に細い縦縞が多数入るという美しい色彩のイトヒキベラです。西太平洋に生息する種ですが生息地はパラオやその周辺に限られており、さらに深場(水深70m以深)に生息するためほとんど入ってこず、また流通しても非常に高価な種です。

名前について

今回の記事のイトヒキベラの種名のうち、きちんとした標準和名がついたものは標準和名を、和名がついていない種については原則として、ネコ・パブリッシングから発行されている雑誌「コーラルフリークス」vol.14のイトヒキベラ・クジャクベラ特集で採用されている名称を採用しました。

観賞魚店ではこのほかに現地シッパーや愛好家がつけた名称などで販売していることがあります。両方を覚える、または学名で覚えるのがよいでしょう。学名は全世界共通なので、できれば学名を覚えるようにしたいものです。

イトヒキベラ:テミンキーズフェアリーラス(英名)

ゴシキイトヒキベラ:キャサリンラス

ニシキイトヒキベラ:エクスクイジットラス(英名)

ハリオイトヒキベラ:ピンテールラス(英名)

ソロールフェアリーラス:レッドヘッドフェアリーラス

レッドフィンラス:ルソンイトヒキベラ

レッドスケイルドフェアリーラス:パープルフェアリーラス

ナオコズフェアリーラス:イエローラテラルフェアリーラス

ソーシャルフェアリーラス:ファイティングラス

ナハッキーズフェアリーラス:トンガフェアリーラス

クジャクベラ属 Paracheilinus

クジャクベラ属の特徴は、雄の背鰭の鰭条がフィラメント状に長く伸びることです(伸びない種類もいます)。全長10cmまでの小型種が多く、小型水槽でも楽しめるものがいます。また体の色彩を瞬時に変えるフラッシング行動もとります。20種が知られ、インド-西太平洋、紅海に分布し、日本から確実な記録がある種類は1種しかいませんが、ベルズフラッシャーラスと思われるものが西表島で撮影されています。

最近になってインドネシアからこの仲間の新種記載報告が相次いでいますが、このようなものは残念ながらまだ日本には入ってきていないようです。

クジャクベラ属の種 (★は日本に分布する種、未確定のものも含む)

★クジャクベラ Paracheilinus carpenteri Randall and Lubbock, 1981 

小型種で入手しやすく、飼育もしやすい種ですが、背鰭の鰭条が3本のびてフラッシングすると極めて美しく安価であっても侮れない種です。日本でも見ることが出来ますが、観賞魚としては主に東南アジアからやってきます。

★ベルズフラッシャーラス P. bellae Randall, 1988 (西太平洋。おそらく西表島にも)

フィラメンタスラスに似ている種で、背鰭の鰭条が5本前後のび、また尾鰭の上下も長く伸びるという非常にゴージャスな特徴を持った種です。西太平洋の島嶼に生息し日本では西表島で確認されています。

フィラメンタスラス P. filamentosus Allen, 1974

クジャクベラに次いで入荷が多い種です。背鰭のフィラメントの数はクジャクベラよりも多く、また尾鰭の形もクジャクベラと異なります。日本からの記録はないのですが、主に西太平洋で採集されたものが入ってきます。

マッコスカーズフラッシャーラス P. mccoskeri Randall and Harmelin-Vivien, 1977

インド洋産のクジャクベラの仲間で、背鰭のフィラメントは1本しかありません。尾鰭はまるみをおび臀鰭は赤みを帯びるのが特徴です。イエローフィンフラッシャーラスや、レッドテールドフラッシャーラスとは近縁です。流通量は少なくなく、比較的安価な種です。

イエローフィンフラッシャーラス P. flavianalis Kuiter and Allen, 1999

背鰭のフィラメントが1本でまるい尾鰭が特徴のグループ。赤みを帯びた臀鰭のマッコスカーズフラッシャーラスと異なり、黄色い臀鰭が特徴の種類です。生息地はインドネシアと北西オーストラリア、つまりインド洋の東端です。

レッドテイルドフラッシャーラス P. rubricaudalis Randall and Allen, 2003

マッコスカーズフラッシャーラスに似ている種で背鰭の後方や尾鰭が赤くなる極めて美しいフラッシャーラスです。英語名や学名もそこから来ています。前2種がインド洋に生息するのに対し、本種はフィジーやバヌアツ、ニューギニア島など太平洋に生息する種です。

スカーレットフィンフラッシャーラス P. lineopunctatus Randall and Lubbock, 1981

背鰭のフィラメントが5~6本伸びる豪華なフラッシャーラスです。フィリピンなどの東南アジアに生息する種です。ブルーフラッシャーラスに似ていますが尾鰭の形はマッコスカーズラスやクジャクベラに似た感じです。

ブルーフラッシャーラス P. cyaneus Kuiter and Allen, 1999

スカーレットフラッシャーラスに似ていますが、尾鰭の形はフィラメンタスラスに似ている三日月形で、背鰭のフィラメントの数も多いのが特徴です。青い発色が極めて美しい種類です。インドネシアからやってきます。

ロイヤルフラッシャーラス P. angulatus Randall and Lubbock, 1981

背鰭にはフィラメントがなく、大きい個体は背鰭、臀鰭、尾鰭上下の鰭条が長く伸びます。他のフラッシャーラスの多くの種同様西太平洋に分布していますがあまり観賞魚店でみることがない種です。

セイシェルズフラッシャーラス P. attenuatus Randall, 1999

その名の通りアフリカ東岸沖合に浮かぶセイシェルに生息する種類です。フィラメントが1本しかなくそれも弱々しいもので、尾鰭の形もマッコスカーズフラッシャーラスとことなり菱形になるという特徴をもちます。全長8cmとやや大きくなる種です。

エイトラインフラッシャーラス P. octotaenia Fourmanoir, 1955 

紅海に生息するフラッシャーラスの種で、背鰭にフィラメントがなくて各鰭がきわめて大きいこと、体側に青白い細線があるのが特徴です。大きいもので10cmになるためあまり小型水槽での飼育に向かないのが残念です。

エレガントフラッシャーラス P. piscilineatus (Cornic, 1987)

当初イトヒキベラ属の魚として新種記載されたフラッシャーラスです。ロイヤルフラッシャーラスなどと同様背鰭にフィラメントがない種で、オレンジ色の体と体側を通る2本の青い太い縦線が特徴の種。モーリシャスなどインド洋に生息し、価格も極めて高価な種です。

ハーフバンデッドフラッシャーラス P. hemitaeniatus Randall and Harmelin-Vivien, 1977

これもマダガスカルやコモロ諸島などの東アフリカの島に生息する種です。エレガントラスの近縁種で背鰭にフィラメントを有さず、尾鰭の上下が少し伸びます。日本に入ってきたかどうかは不明ですがもし入ってきても極めて高価となるでしょう。

トギアンフラッシャーラス P. togeanensis Kuiter and Allen, 1999

インドネシア スラウェシ島のトミニ湾にあるトギアン諸島に生息するフラッシャーラスで鰭が大きくなります。尾鰭の形はロイヤルフラッシャーラスや、フィラメンタスラスなどによく似た三日月タイプです。

ウォルトンズフラッシャーラス P. walton Allen and Erdmann, 2006

ナーサリムフラッシャーラス P. nursalim Allen and Erdmann, 2008

レニーズフラッシャーラス P. rennyae Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2013

英名なし P. alfiani Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2016

英名なし P. paineorum Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2016

英名なし P. xanthocirritus Allen, Erdmann and Yusmalinda, 2016

これらの種類はここ10数年ほどの間にインドネシアから記録されたものです。インドネシアは10,000を超える島々からなる国家で、インド洋と太平洋というふたつの海に挟まれ魚の種数も極めて多いのですが、イスラム教国家であり近年は治安の悪化、「イスラム国」など過激派の勢力もあり、魚とりどころではなくなった地域もあるようです。これらの魚が流通される日を夢見て待ちましょう。

名前について

ここで使用したクジャクベラの名前はイトヒキベラと同様に、原則、コーラルフリークスvol.14のイトヒキベラ・クジャクベラ特集で採用されている名称を採用しましたが、この他にも以下のような別名で呼ばれていることもあります。

クジャクベラ:カーペンターズラス、ピンクフラッシャー (英名)

スカーレットフィンフラッシャーラス:スポットラインドフラッシャー

ロイヤルフラッシャーラス:ロイヤルラス、アンギュラーフラッシャーラス

初心者におすすめの種

丈夫な種が多く初心者にもおすすめできる種が多いのですが、一部おすすめできない種もいます。

おすすめできない種 1.遊泳性が強い大型種

クロヘリイトヒキベラやヤリイトヒキベラなどは全長15cm位になる大型種で、水槽もかなり大きなものが必要になります。60cm水槽ではきびしい面もあり、少なくとも90cm、種類によっては120cm水槽が欲しくなることもあります。クジャクベラの仲間は比較的小型ですがフィラメンタスラスなどは10cm近くなることもあり注意します。

おすすめできない種 2.高水温に弱い種

やや深海性のものや温帯の魚は高水温に注意します。ヤリイトヒキベラの仲間やアールズフェアリーラス、クレアズフェアリーラス、日本近海のイトヒキベラ、ハワイ産のフレームラスなどは高水温に注意した方がよいかもしれません。

おすすめできない種 3.高価な種

深場にすむ種や島にすむ高価な魚は慎重に採集、輸送、梱包されるので、状態よく日本のお店に届きます。しかし、数万、数十万する高級なイトヒキベラやクジャクベラの仲間は初心者にはおすすめしにくいです。

初心者におすすめの種は…

初心者におすすめの種はやや小ぶりの種で、浅いサンゴ礁に生息し、値段も安価な魚ということになります。ラボックスラス、イエローフィンフェアリーラス、アドーンドフェアリーラス、レッドフィンフェアリーラス、ソーシャルフェアリーラス、クジャクベラなどがお勧めです。もちろん、最初から90cm水槽で飼育できるのでしたら、他にも多くの数のイトヒキベラやクジャクベラの仲間を選ぶことができます。

選び方

イトヒキベラもクジャクベラも丈夫な魚ですが、日本に届いて数日しかたっていないものは避けるようにします。また怪我をして体に傷がついているような個体も避けた方がよいでしょう。

この仲間はペアで販売されていることもありますが、そのようなときは片方の個体ではなく両方の個体を見るようにします。

イトヒキベラとクジャクベラ 飼育に適した水槽

水槽

▲60cm水槽と上部・外部フィルターで飼育しているマッコスカーズフラッシャーラス。

イトヒキベラの仲間は遊泳性が強く、水槽は広ければ広いほどよいです。特にクロヘリイトヒキベラやスコッツラスといった種は大型になりますので、水槽も大型のものが必要になります。このような種は小さくても90cm、理想は120cm水槽が欲しいところです。

一方イエローフィンフェアリーラス、ラボックスラスといったやや小型の個体は60cm水槽でも飼育できます。クジャクベラの仲間のクジャクベラ、マッコスカーズラスもあまり大きくならないため、60cmで飼育可能です。ただしクジャクベラの仲間でも紅海のエイトラインフラッシャーラスのように大きめのがいますので注意します。

ろ過槽

多くのろ過を確保できるオーバーフローろ過槽がおすすめですが、それが不可能な場合は上部ろ過槽を使うとよいでしょう。外部ろ過槽は殺菌灯やクーラーを接続しやすいというメリットがありますが、その一方でろ材に酸素がいきわたりにくいというデメリットがありますので他のろ過装置を併用したり、エアレーションをしたり、あるいはプロテインスキマーなども使って酸素が水槽にうまくいきわたるように工夫します。ただし外掛け式のスキマーだとフタをするのが難しいこともあり、その点はマイナスといえます。

水温

水温は基本的に25℃前後を保つようにしますが、この仲間は水深40m深場に生息しているものも多いため、そのような場所に生息するものは22℃くらいのやや低めの水温で飼育するようにします。浅いところにすむ種類でも、イトヒキベラのような温帯性の種類は高水温を避けます。

水流ポンプ

イトヒキベラやクジャクベラの仲間はサンゴ礁のやや深い、潮通しの良い場所に多く生息しています。水槽内でも水流があった方がよいでしょう。

フタ

イトヒキベラやクジャクベラの仲間は闘争することが多く、勢い余って飛び出してしまうこともあります。これを避けるためにはフタが必須です。単独飼育でも常に遊泳しているので何かあると飛び出すことがあります。やはりこれらの仲間を飼育する上でふたは「マストアイテム」といえるでしょう。

メンテナンスや餌やりのときなどでフタを開けるとき、開けっ放しにしないように注意が必要です。

イトヒキベラとクジャクベラの餌

イトヒキベラやクジャクベラは動物プランクトンなどを主に捕食しています。ですが、わざわざプランクトンフードを与えなくても、一般的に販売されている海水魚用の配合飼料で十分です。ペレットフードであれば飼育しているベラの口の大きさに合わせて粒の大きさを選ぶようにします。

プランクトンフードを与えたいのであれば、配合飼料をメインにして、たまに与える程度で十分です。冷凍餌は水も汚してしまいますので、たくさんあげるのは禁物です。

他の魚との混泳

▲イトヒキベラとスズメダイの仲間のオヤビッチャを混泳させている水槽。

イトヒキベラやクジャクベラの仲間の良いところは他の多くの魚と飼育することができるということです。大型のハナダイ、ヤッコ(キンチャクダイ)の仲間、小型のスズメダイの仲間、カエルウオ類、テンジクダイ類、キュウセンなど砂に潜るベラの仲間、など色々な魚と組みあわせることが出来ます。

難しいのは同じイトヒキベラやクジャクベラの仲間との飼育です。この仲間は種類によっては激しく争いますので、小型水槽では同種の雄同士一緒に飼育するのは難しいことです。またモチノウオの仲間やキツネベラの仲間などは気が強いので要注意です。

クロヘリイトヒキベラ、ラボウテスラスなどのように大型になるイトヒキベラの仲間は遊泳力が強く、狭い水槽でほかの魚と・・・というのには向きません。小魚と混泳させるのにこれらの魚は強めですので、大きな水槽で大きめの魚と飼うのに適していますが、極端に攻撃的なスズメダイの仲間など、混泳に向かない種もいます。もちろん、イトヒキベラの仲間を捕食してしまうような肉食性の魚なども避けます。

サンゴ・無脊椎動物との相性

▲イトヒキベラはサンゴにいたずらをしないので多くのサンゴと組みあわせられる。

派手な色彩のイトヒキベラやクジャクベラの仲間はサンゴ水槽が似合います。サンゴにいたずらをすることはないのですが、逆に大きなイソギンチャクには食べられてしまうおそれれもありますので注意します。生息場所や水温などを考えますと、浅場のミドリイシの仲間との組みあわせでも問題ないのですが、やや深場に生息するLPS(ポリプの大きなハードコーラル)やソフトコーラル、深場ミドリイシの仲間と飼育するのもよいでしょう。ただし陰日ソフトコーラルは飼育が難しいため初心者におすすめすることはできません。

イトヒキベラの仲間は他のベラに比べて大人しいほうではありますが、それでも大きめのイトヒキベラと甲殻類との組み合わせには気をつけるようにします。

2020.12.07 (公開 2017.07.05) 水槽・器具

憧れのオーバーフロー水槽~設置・立ち上げ前に考えること

海水魚ラボ管理人 90cmオーバーフロー水槽

海水魚飼育において、オーバーフロー水槽は誰しも憧れでしょう。

水槽に好きな魚を沢山、サンゴの合間に泳がせて見たいと思うはず。しかし普通の水槽と上部・外部ろ過槽では限界は早く訪れてしまいます。それにこれらのろ過槽を使用していたら見た目もあまりよいものではありません。すっきりした水槽周り、そしてその中には多くの魚を泳がせられる…。そんな夢を近づけてくれるのが、オーバーフロー水槽です。

ここではオーバーフロー水槽の購入を検討している方に向けて、特に実態面について解説していきます。

オーバーフロー水槽とは?他の水槽との違い

オーバーフロー水槽とは、上にフロー管が通った水槽を、下にサンプ(水溜め)をおき、サンプから循環するためのポンプで水槽に水をくみ、水槽から水が溢れたら、フロー管のパイプを通い水が流れ、それを再び循環ポンプでくみ上げるというシステムです。

サンプにろ過槽を置くのですが、このほかプロテインスキマーという器具で排せつ物や食べ残しなどをハイパワーで取り除いたり、海藻や海草をサンプ内のろ過スペースで飼育するなどして自然なシステムを作ってみたりと、拡張性に優れているのも特徴です。

オーバーフロー水槽のメリット

オーバーフロー水槽の最大のメリットは、水槽の下方にサンプ(水溜め)を置くことができ、豊富な水量、とくにサンプでろ過を行うならば大量のろ材を入れることができるということです。

海水魚の飼育には豊富な水量が求められることも多いのですが、このオーバーフロー水槽ではその豊富な水量を確保することが容易な点があげられます。水量が多ければ多いほど水質や水温は安定しやすくなります。

水槽周りの外部ろ過槽、上部ろ過槽を使用しなくてすみ、見た目がすっきりしますし、サンプの中で海藻を育てることもできたり、さまざまな機材を接続しやすいというのもまたメリットといえます。もちろん魚も飼えます。混泳に失敗した魚を隔離する際には便利です。

サンプというのは簡単に言うと、「見せない水槽」です。アクアリストは水槽そのものはもちろんですが、この水槽台の中、サンプにやたらこだわります。写真のようにある程度スペースを確保できるため、ここにプロテインスキマーを入れたり、クーラーやヒーターを入れ、魚が泳ぐ水槽の中をスッキリさせることもできるのです。

オーバーフロー水槽のデメリット

オーバーフロー水槽の問題点は、水の落下音です。

フロー管からの落下音、汲み上げた水の水流音など想像以上にうるさいのです。フロー管に紐を垂らしておくなどして落下音を緩和させるなどの工夫をしたりするとよいでしょう。また夜間の睡眠時に誰もいなくなる部屋などに水槽を置くことも対策の一つと言えます。

▲フロー管からの落下音。汲み上げた水が水槽内に流れ込む音。

しかし慣れればその落下音すら心地よく感じますが、家族や同居人の反応はそれぞれなので気を付けましょう。

また水槽は非常に重く、小型水槽とは全く異なり、一度設置してしまうと移動させることは困難です。オーバーフローでは水槽の重さだけでなく、サンプの重さも考慮しなければなりません。

そしてもちろん高価・値段が高いということもデメリット。水量も多く、ポンプもパワフルなものを使わなければなりませんし、プロテインスキマー、紫外線殺菌灯、そしてそれらによってあたたまった水温を冷やす水槽用クーラー。これらの購入にはかなりの予算が必要になることもあります。

アクアリストにとってはオーバーフロー水槽を購入するというのは、一般の人にとってのクルマを購入するのと同じようなもの。必要最低限のオーバーフロー水槽でも20万円以上、当然水槽が大きく環境も良くなりますから入れる魚やサンゴ、照明などその他機器類を考えると、+10~100万円近くになります。

いざ購入したオーバーフロー水槽でさえ、時が経てば「少し小さかった」「セカンド水槽としてもう一つ…!」と欲が必ずと言っていいほど出るため、購入するならある程度しっかり投資して、長く楽しめるものを手に入れてほしいと思います。

まとめると、

  1. うるさい
  2. 重い
  3. 高い

この3つがオーバーフロー水槽のデメリットです。

オーバーフロー水槽を手放すとき

あまり考えたくはありませんが、将来的にオーバーフロー水槽を手放すというときが来るかもしれません。そうしたときはまず取付を行ってくれた業者に連絡し、買い取ってくれないか相談しましょう。買取比較サイトなどを使うと知らぬ間にマージンを抜かれるため、間に業者を噛まさず、直でやり取りした方が高い査定になります。またオーダーメイドのアクアリウム用品は中々の高額で取引されるため、購入してからも丁寧に扱うようにしましょう。

オーバーフロー水槽購入前に考えておくこと

置き場所はどうする?

▲あまりよくない例。水が跳ねてコンセントに罹らないように気を付ける。

どこに置くかまず決めます。オーバーフロー水槽というのは、上記のように水を入れてしまえば動かすのは困難なものとなります。置き場所はコンセントが近く、電化製品やコンセントに水がかからないところ(濡れると困るものがあるところ)、直射日光が当たりにくいところなどは避けるようにします。

しかし最低でも5個以上の機器を常時稼働させるため、コンセントからあまりに遠くなると不便となります。

水槽の重量によっては、床下を補強する必要もあります。

強制ろ過 or ナチュラルシステム

まずはシステムから考えてみましょう。ろ材を用いて、排せつ物や食べ残しなどをろ材に繁殖するバクテリアが分解し、発生するアンモニア、亜硝酸もバクテリアに分解してもらい、水替えで硝酸塩を排出する生物ろ過を用いた「強制ろ過」の方式をとるのか、それともろ材を用いず、プロテインスキマーを用いて、排せつ物や食べ残しをバクテリアに分解される前に取り除きのこりはライブロックなどに繁殖したバクテリアに取り除いてもらう、ベルリンシステムの様な方法を採用するのか。

基本的に魚を多く入れるのであれば前者、サンゴ、特にミドリイシの仲間を飼育するのであれば後者が採用されます。

ただしサンゴでも多くのLPSやソフトコーラルは前者でも飼育できます。特にソフトコーラルは若干栄養塩があった方が望ましいという人もいます。このほか、ろ材を使って生物ろ過を行うものの、それと併用して、プロテインスキマーを使い排せつ物などを強力に取り除いたり、サンプの中で海藻を飼育したりする等、様々な方式を取ることが出来るのもまた、オーバーフロー水槽のメリットといえるでしょう。

オーバーフロー水槽の部品と基本知識

水槽サイズ

他の一般的な水槽と同様、45cm、60cm、90cm、120cm…とあります。オーダーメイドもある程度は可能なのですが、水槽台や機材などに合うサイズが無かったりすることも多いので注意が必要です。

水槽の素材

▲ガラス製オーバーフロー水槽(プレコ社製)

水槽はガラス製、アクリル製とあります。ガラス製は独特の色味があり、比較的安価、コケ取りの際に傷がつきにくく、長いこと透明な水槽を楽しめるというメリットがあり、逆に重い、注意しないと割れてしまうなどのデメリットがあります。

アクリル製の水槽は軽いこと、透明感が強いことなどのメリットがありますが、傷がつきやすく長期間飼育していると観賞に適さなくなってしまう(曇る)というデメリットもあります。観賞用の水槽ですから、観賞できなくなっては困ります。

フロー管

オーバーフロー水槽は、水槽の端にフロー管を置き、そこから水を落下させます。管は主に3本からなり三重管ともいいます。

▲3本の管。写真では真中のパイプは写っていない。一番外側のパイプは黒いパイプ。先端が透明なのはもっとも内側のパイプで、水をくみ上げ水槽に届ける役割をする。

外側のパイプは魚の排せつ物や残り餌を吸い取り、真中のパイプが実際にサンプに水を落とすパイプ、そして最も内側のパイプは先端が突出しポンプによりくみ上げられた水をメインの水槽に届ける役割をします。このほか三重管のうち最も外側の管を外し、コーナーの部分にカバーを付けたタイプもあります。

▲赤い矢印の穴から見えるパイプからサンプに水を落とす。

このフロー管やカバーに大きな異物がつまらないように注意します。ここが万が一詰まってしまうと、水があふれてしまう危険があります。オーバーフロー水槽の水の落下音対策に紐を垂らしている人もいますが、紐が詰まってしまわないように注意が必要です。

フランジ

▲フランジの有る水槽は簡単にフタができるのでおすすめ。

フランジとは水槽の内側にある出張った部分です。これがあると水のはねを多少防ぐことができたり、ふたを上手くのせることが出来ます。小さな隙間も埋められるので、ハゼの仲間などの飼育には適しているといえるかもしれません。

アクリル水槽ではたいていこのフランジはついているように思うのですが、ガラス水槽ではついていないこともありますので注意します。

シリコン・ワームプロテクト

最近はブラックシリコンが人気です。ブラックシリコンはドイツのもので、これを水槽に使用すると耐久性が違うのだそうです。

また、接合部に「ワームプロテクト」を施しているメーカーもあります。これはシリコンの部分に加工をして、ワーム(ゴカイ)や貝などがシリコンをかじって劣化させてしまうことを防ぐものです。最近の高級水槽では多く見られるものです。

サンプ

▲多くのろ材を入れることが出来るのはオーバーフロー水槽の大きなメリット。販売されているアクリル製のろ過槽。

▲既存の60cmガラス水槽を使ったサンプ。海藻を育てて水質浄化を狙う。

サンプ(水溜め)には二つのタイプがあります。一つは市販のアクリル製のろ過槽をサンプとして使用する、もう一つは既存の水槽をサンプとして使用するというものです。

前者は多くのろ材を入れるための魚水槽に適した水槽で、後者は強力なプロテインスキマーを使うベルリンシステムなどのナチュラルシステムの方式や、サンプの中で海藻を飼育するときなどの使い方をする時に向いています。

配管

▲場合によっては工具が必要になることも。写真はろ過された水を水槽に戻す配管。

普通のパイプやエルボ、チーズの他にもピストル管と呼ばれるフロー管の直下につなげる配管パーツや、水量を調節するバルブなどがあります。オーバーフロー水槽を組み立てるのは難しい事ではないのですが、ドライバーや接着剤などが必要になるものもあります。

ポンプの種類

循環ポンプはまさしく水槽の「心臓」。強い力とすぐれた耐久性が求められますので、安価なものを安易な気持ちで選んではいけません。日本で一般的に入手できる循環ポンプは水中ポンプと、マグネットポンプに絞られそうです。どちらのポンプも長所もあれば短所もあります。お店の方とよく相談して決めないと、後々痛い目を見るかもしれません。

水中ポンプ

▲小型OF水槽用水中ポンプ。ポンプは出来れば大きいものを使うようにしたい。

水中ポンプの最大のメリットとしてはサンプの中に入れるだけで使用可能なところです。マグネットポンプを使うときはサンプに加工が必要だったりしますが、水中ポンプはサンプに入れるだけでそのまま使うことができます。デメリットは熱源が水中にあるため水温が上昇しやすいことです。また、Hz指定がありますので、注意が必要です。

マグネットポンプ

大型でパワーが強いもので、120cm以上の大型オーバーフロー水槽に向いています。熱源が水中にないため、水温が上昇しやすいと言えるマリンアクアリウムに非常に適したポンプと言えます。デメリットはサンプに穴をあけたりする加工を行う必要があることで、これがうまくいかないと、飼育どころではなくなります。初心者には水中ポンプの方が向いているかもしれません。

殺菌灯

紫外線殺菌灯はろ過の補助を行ったり、魚の病気軽減に役に立ちます。特にヤッコ(キンチャクダイ)の仲間やハギ(ニザダイ)の仲間、あまり初心者向きではないのですが、チョウチョウウオやハコフグ、フグの仲間のような白点病に罹りやすい魚には必須の装備と言えます。

注意したいのはこの殺菌灯が熱源になること。水温の上昇を招いてしまう恐れがあります。この殺菌灯で殺菌され、あたためられた海水がクーラーで冷やされるように、配置に注意します。

プロテインスキマー

ベンチュリー式スキマー「H&S HS850」

水槽のシステムについてろ材を用いないナチュラルシステムでは絶対に必要になる器具で、循環ポンプとならび水槽の心臓部を担う機材です。ろ材を用いた強制ろ過の水槽であっても、排せつ物や食べ残しなどを取り除きろ過の補助をさせるとか、ろ過バクテリアに空気を供給するとか、色々メリットがある器具です。

主にエアリフト方式、ダウンドラフト方式、ベンチュリ方式などがありますが、オーバーフロー水槽ではベンチュリスキマーが扱いやすいでしょう。

水槽用クーラー

先ほどご紹介した殺菌灯やプロテインスキマー、水中ポンプは水の中に入れて使うため水温の上昇が発生する恐れがあります。海水魚飼育というのは常に機材をアップデートしたくなるもの。

クーラーの容量には余裕を持たせるようにお店の人が言っていたり、専門の書籍などで「大容量のクーラーが必要!」と書かれていたりするのはそのためです。もっともこれはオーバーフロー水槽に限りません。とにかく、クーラーは適合水量よりもかなり大きめのものを買うのが大事です。

ヒーターとサーモスタット

その水量に適したヒーターとサーモスタットが必要です。ヒーターは冬には万が一のために2本入れておくと安心です。

注意したいのはアクリル製のサンプを使用するときで、ヒーターを直置きしてしまうと溶けてしまう場合もあります。必ずヒーターカバーを付けるようにしましょう。テコ社のクーラーのように、ヒーター内臓の製品もあります。そのような商品を使用するのもよいかもしれません。

水槽台

コトブキ製の水槽台

オーバーフロー水槽の場合、必ず専用の水槽台を使います。オーバーフロー水槽となると水量が膨大になるため、普通の台では置くのが困難です。つぶれてしまっては観賞どころではありません。

オールインワンオーバーフロー水槽

レッドシーからオールインワンの大型水槽「レッドシー マックス」が販売されています。これは照明やプロテインスキマーなど必需品の多くがセットされた水槽セットで、多くの目障りなものが目立たなくなっていたり、隠れてしまっていたりするので観賞面でも優れています。

観賞面で優れている理由はもう一つ、ウルトラクリアーガラスを採用していることも挙げられます。クーラーや殺菌灯は別売ですが、簡単に接続できるようになっていて、初心者でも安心してオーバーフロー水槽での海水魚飼育をスタートすることができます。

しかし正直のところ、オーバーフロー水槽を初心者が通販で誰とも相談せずに購入するのは極めて危険です。例えばこれが、セカンド水槽として、ある程度仕組みを分かっている方が購入するのなら話は別です。

具体的にどういった魚・サンゴを入れたいのかでオーバーフロー水槽の構造(水槽台のスペースなど)、必要な機器が全く異なります。

イメージも掴みにくいため、できれば近隣の海水魚店、オーバーフロー水槽の設置・取り付けなどを行っているところを探し、プロと相談しながら行うのが良いように思います。

オーバーフロー水槽の取付・工事、相談に乗ってくれるおすすめ海水魚店(関東)

ちなみに海水魚ラボでは現在3台のオーバーフロー水槽を管理しています。コーラルタウンP.D.熱帯魚センターでお願いして作りました。どちらの方も非常に親身で、店長さん自ら作ってくれるため安心です。

なおP.D.については海水魚はあまり多く扱っていませんが、機材や水槽のバリュエーション、ノウハウに限って言えば関東一と評価できます。店内に水槽を作るための工場(こうば)があります。

マリンキープは家が近くなのでサンゴや魚をよく買いに出かけます。ビーボックスは関東最大の海水魚店です。ここでもオーバーフロー水槽の取付/工事を行っており、施工例もHPに掲載されています。

繰り返しますが、海水魚初心者の方でオーバーフロー水槽にチャレンジしたいという方は、インターネットや通販などで完結させてしまうのは決しておすすめできません。

海水魚ラボ管理人 90cmオーバーフロー水槽

ビーボックスの水槽(既製品90cm)+コーラルタウンの水槽台(特注)

オーバーフロー水槽まとめ

  • 豊富な水量、拡張しやすいこと、見た目がすっきりするのが利点。
  • 欠点は音がうるさい、動かすのは困難、価格が高い。
  • 材質はガラス、アクリル
  • ガラスは割れやすい、アクリルは傷がつきやすい。
  • フランジの有る水槽がお勧め。
  • ブラックシリコンは耐久性に優れる。
  • できればワームプロテクトも欲しい。
  • ポンプも水中ポンプと陸上でつかうマグネットポンプがある。
  • 殺菌灯、スキマー、ポンプで水があたためられやすい。クーラーも欲しい。
  • オールインワンのオーバーフロー水槽も。
  • オーバーフロー水槽設置には必ず近隣の海水魚店と相談しながら行う。

2019.10.17 (公開 2017.07.03) 海水魚図鑑

砂に潜るベラの仲間・種類と飼育方法

前回は、ベラの仲間のうち、ニセモチノウオの仲間やタキベラの仲間などの「砂に潜らないベラ」を中心にご紹介してきましたが、今回はベラの仲間でも種類が多いキュウセンの仲間や、観賞魚として最近人気のススキベラ属やオグロベラ属の魚をご紹介します。

初心者にもお勧めのコガネキュウセンやパステルグリーンラスから、オグロベラの仲間などベテラン向けの種まで色も形もさまざまな種類がいます。

砂に潜るベラの種類

キュウセン類 Halichoeres & Parajulis

▲キュウセン類の代表種、コガネキュウセン

▲サンゴ礁の浅瀬で見られる普通種、ミツボシキュウセン

砂にもぐるベラの代表的なグループです。丈夫で飼いやすいものが多く、海水魚飼育初心者にもおすすめできます。また色彩も鮮やかな黄色や緑色などの綺麗なものが多いです。唯一の欠点は性格がやや強めということです。とはいえモンガラカワハギなどと異なり他の魚との混泳が困難というものではありません。

小型種が多く、60cm水槽でも長い事飼育できます。幼魚は地味な色彩のものが多いですが成長すると派手な色彩になる魚が多いです。

なお、キュウセンは現在ではParajulis属という、他のキュウセン類と別属とされていますが、外見ではなかなか別属のものとはわかりません。日本にはおよそ20種、世界ではおよそ80種がインド-太平洋の熱帯~温帯域、東太平洋、西大西洋の沿岸に生息しています。

キュウセン属 Parajulis 主な種 (★は日本に分布する種)

★キュウセン Parajulis poecilepterus (Temminck and Schlegel, 1845)

ホンベラ属 Halichoeres 主な種 (★は日本に分布する種)

★ホンベラ Halichoeres tenuispinis (Günther, 1862)

コガネキュウセン H. chrysus Randall, 1981

★キスジキュウセン H. hartzfeldii (Bleeker, 1852)

トカラベラ H. hortulanus (Lacepède, 1801)

★ミツボシキュウセン H. trimaculatus (Quoy and Gaimard, 1834)

★セイテンベラ H. scapularis (Bennett, 1832)

★カノコベラ H. marginatus Rüppell, 1835

★ムナテンベラ H. melanochir Fowler and Bean, 1928

★ムナテンベラダマシ H. prosopeion (Bleeker, 1853)

★ニシキキュウセン H. biocellatus Schultz, 1960

★ホクロキュウセン H. melasmapomus Randall, 1981

★イナズマベラ H. nebulosus (Valenciennes, 1839)

★アカニジベラ H. margaritaceus (Valenciennes, 1839)

★ホホワキュウセン H. miniatus (Valenciennes, 1839)

★クマドリキュウセン H. argus (Bloch and Schneider, 1801)

★ゴシキキュウセン H. richmondi Fowler and Bean, 1928

★アミトリキュウセン H. leucurus (Walbaum, 1792)

★カザリキュウセン H. melanurus (Bleeker, 1851)

★ツキベラ H. orientalis Randall, 1999

カナリートップラス H. leucoxanthus Randall and Smith, 1982 (インド洋)

レインボーラス H. iridis Randall and Smith, 1982 (東アフリカ、インド洋島嶼)

パステルグリーンラス(ライムラス) H. chloropterus (Bloch, 1791) (西太平洋)

ペールラス H. pallidus Kuiter and Randall, 1995 (西-中央太平洋)

ティモールラス H. timorensis (Bleeker, 1852) (インド-西太平洋)

ウィードラス H. papilionaceus (Valenciennes, 1839) (西太平洋)

レッドヘッドラス H. rubricephalus Kuiter and Randall, 1995 (インドネシア)

セグロキュウセン H. cyanocephalus (Bloch, 1791) (西大西洋)

プディングワイフラス H. radiatus (Linnaeus, 1758) (西大西洋)

カンムリベラ属 Coris

▲カンムリベラの幼魚

西大西洋・東太平洋を除く世界中の暖かい海域に生息している仲間です。この属の魚はキュウセンの仲間と比べて大きくなるものが多く、全長1mを超える巨大なカンムリベラは夜間の睡眠時に砂の中に潜るベラの仲間としては最大のものです。このほか目も覚めるような赤色に白い模様がある幼魚が販売されているツユベラも成長すると劇的に変化します。インド-中央太平洋と東大西洋から25種ほどが知られ、そのうち日本からは5種が知られています。なお、「イエローコリス」という名で販売されているコガネキュウセンは「コリス」と名がありますがキュウセン類のグループです。

主な種 (★は日本に分布する種)

★カンムリベラ Coris aygula Lacepède, 1801

★ツユベラ C. gaimard (Quoy and Gaimard, 1824)

★シチセンムスメベラ C. batuensis (Bleeker, 1856)

★ムスメベラ C. picta (Bloch and Schneider, 1801)

★スジベラ C. dorsomacula Fowler, 1908

ブラックストライプトコリス C. pictoides Randall and Kuiter, 1982 (西太平洋)

クイーンコリス C. formosa (Bennett, 1830) (インド洋。ツユベラ似)

エレガントコリス C. venusta Vaillant and Sauvage, 1875 (ハワイ諸島)

ウェスタンキングラス C. auricularis (Valenciennes, 1839) (西オーストラリア)

サンダガーズラス C. sandeyeri (Hector, 1884) (豪州東岸、NZ、ロードハウ島)

メディテラニヤンレインボーラス C. julis (Linnaeus, 1758) (東大西洋、地中海)

カミナリベラ属 Stethojulis

▲磯で採集したカミナリベラの幼魚。雄の成魚は綺麗。

西太平洋からハワイ諸島、インド洋に生息するベラの仲間です。9種が知られ、日本には5種が分布しています。カミナリベラは温帯性で、夏から秋にかけてタイドプールでも採集することができます。その他の種類は沖縄からきたり、ごくまれに東南アジアから入ってくることもありますが、数は多くありません。比較的おとなしい種が多く、混泳には注意を払うべき仲間です。

主な種 (★は日本に分布する種)

カミナリベラ Stethojulis  terina Jordan and Snyder, 1902

★アカオビベラ S. bandanensis (Bleeker, 1851)

★オニベラ S. trilineata (Bloch and Schneider, 1801)

★ハラスジベラ S. strigiventer (Bennett, 1832)

★スミツキカミナリベラ S. maculata Schmidt, 1931

オグロベラ属 Pseudojuloides

インド-中央太平洋に広く分布するベラの仲間です。体が細くペンシルラスなどとも呼ばれています。やや臆病で気が強い魚との飼育は避けた方が無難です。世界ではインド-中央太平洋に生息しており(東太平洋産のものは別属に移された模様)、少なくとも15種と、まだ学名がついていないものが何種か知られています。日本では学名がついていないものを含め5種が知られます。

主な種 (★は日本に分布する種)

★オグロベラ Pseudojuloides splendens Victor, 2017

★アオスジオグロベラ P. severnsi Bellwood and Randall, 2000

★スミツキオグロベラ P. mesostigma Randall and Randall, 1981

★オトヒメベラ P. sp. 1

★マイヒメベラ P. sp. 2

カレイドスラス  P. kaleidos Kuiter and Randall, 1995

ポリネシアンラス P. atavai Randall and Randall, 1981

ススキベラ属 Anampses

こちらもインド-中央太平洋に広く分布するベラの仲間です。12種がしられ、うち6種が日本に生息しています。ベラの仲間の雌の色はあまり派手ではないのですが、この属の種はどの種も雌雄ともに派手な色彩で、人気があります。よく輸入されるのですが長期飼育が易しいというものではありません。しかし美しい種類ですので、いつかは飼育してみたくなります。

主な種 (★は日本に分布する種)

★ブチススキベラ Anampses caeruleopunctatus Rüppell, 1829

★ニューギニアベラ A. neoguinaicus Bleeker, 1878

★ホシススキベラ A. twistii Bleeker, 1856

★ムシベラ A. geographicus Valenciennes, 1840

★クロフチススキベラ A. melanurus Bleeker, 1857

★ホクトベラ  A. meleagrides Valenciennes, 1840

ラインドラス A. lineatus Randall, 1972 (インド洋・紅海)

サイケデリックラス A. chrysocephalus Randall, 1958 (ハワイ諸島周辺)

ブルーアンドイエローラス A. lennardi Scott, 1959 (北西オーストラリア)

ブルーストライプオレンジタマリン A. femininus Randall, 1972 (南太平洋)

名称について

ニューギニアベラはあまり和名では呼ばれず、「ニューギニアラス」と呼ばれることが殆どです。海外産種の名前は安定しません。サイケデリックラスは、「レッドテールラス」、ブルーアンドイエローラスは「レナーズラス」、ブルーストライプオレンジタマリンは、「フェミニンラス」、または南太平洋に生息するため「サウスシーズラス」などと呼ばれることがあります。英語名は国、書籍によって変動が大きく、魚の名前はできるだけ学名をおぼえておくようにしたいものです。

ノドグロベラ属 Macropharyngodon

▲ノドグロベラの雌相個体

インド-中央太平洋に生息するベラの仲間です。世界で12種ほどが知られています。日本には3種が知られています。全長10cmほどの種が多く、60cm水槽で長く飼育できます。碁石模様や白い斑点などあるのが特徴で、体高があるところはススキベラの仲間にも似ています。ススキベラほどではないのですが臆病な種で、強いクマノミやスズメダイとの混泳は向いていないように思います。またフィリピンやインドネシアなどにすむものは状態がイマイチなこともあるため注意が必要です。

主な種 (★は日本に分布する種)

★ノドグロベラ Macropharyngodon meleagris (Valenciennes, 1839)

★セジロノドグロベラ M. negrosensis Herre, 1932

★ウスバノドグロベラ M. moyeri Shepard and Meyer, 1978

コーツラス M. choati Randall, 1978 (オーストラリア沿岸)

ジョフロワラス M. geoffroy (Quoy and Gaimard, 1824) (ハワイ、中央太平洋)

ディバイデッドラス M. bipartitus Smith, 1957 (西インド洋)

ブルースポッテッドラス M. cyanoguttatus Randall, 1978 (西インド洋)

シロタスキベラ属 Hologymnosus

▲シロタスキベラの稚魚

体が細く、体側に横線があることが多いです。小ぶりの幼魚が東南アジアから来ますが大きなものは全長30cmを超え、よく泳ぎ、大型水槽(120cmくらい)が必要なので注意が必要です。世界から4種が知られ、日本からは3種が知られています。

主な種 (★は日本に分布する種)

★シロタスキベラ Hologymnosus doliatus (Lacepède, 1801)

★ナメラベラ H. annulatus (Lacepède, 1801)

★アヤタスキベラ H. rhodonotus Randall and Yamakawa, 1988

サイドスポットロングフェースラス H. longipes (Günther, 1862)

テンス属 Iniistius

▲サンゴ礁にすむホシテンスの成魚。インド-汎太平洋の熱帯域に分布

▲本州~九州沿岸にみられるテンスもなかなか美しい

頭が角張り、第1背鰭が大きく伸びるのが特徴的です。砂に潜るベラの仲間としては丈夫で飼いやすいのですが、スズメダイの仲間との混泳ではぼろぼろにされる恐れがありますので、注意が必要です。世界で21種が知られ、うち日本では10種類が知られていてこのほかに学名や和名がついていないものもいます。日本にいてはテンスやホシテンスなどの種類は食用魚としても知られています。

主な種 (★は日本に分布する種)

★テンス Iniistius dea (Temminck and Schlegel, 1845)

ホシテンス I. pavo (Valenciennes, 1840)

★ヒラベラ I. pentadactylus (Linnaeus, 1758)

★バラヒラベラ I. verrens (Jordan and Evermann, 1902)

★モンヒラベラ I. melanopus (Bleeker, 1857)

★ホシヒラベラ I. evides (Jordan and Richardson, 1909)

★ハゲヒラベラ I. aneitensis (Günther, 1862)

★ヒノマルテンス I. twistii (Bleeker, 1856)

★クロブチテンス I. geisha (Araga and Yoshino, 1986)

★ホウキボシテンス I. celebicus (Bleeker, 1856)

オビテンスモドキ属 Novaculichthys

英名で「ドラゴンラス」と呼ばれる格好いい、現在のところは世界で1属1種のベラです。幼魚の体の模様や鰭が特徴的で飼育したくなりますが、大きいものは30cmほどになるので小型水槽では飼育しにくい種です。成長することを考えると、終生飼育には90cmほどの水槽が欲しいといえます。相模湾以南の太平洋岸、インド-中央太平洋域、東太平洋にまでの極めて広い範囲にすみます。

主な種 (★は日本に分布する種)

★オビテンスモドキ Novaculichthys taeniourus (Lacepède, 1801)

オオヒレテンスモドキ属 Novaculoides

オビテンスモドキ同様1属1種のベラの仲間です。緑色が美しいベラで、英語でシーグラス(海草)ラスとも言われるようにアマモなどの海草が生える場所に生息しています。大きくても全長は15cmほどと小ぶりなので、オビテンスモドキよりも小型水槽での飼育に適しているかもしれません。

主な種 (★は日本に分布する種)

★オオヒレテンスモドキ Novaculoides macrolepidotus (Bloch, 1791)

砂に潜るベラ 飼育に適した水槽

水槽

種類によって異なるのですが、キュウセンの仲間の小型種などを単独で飼育するのであれば45cmでも飼育できないことはありません。60cm水槽であれば、多くの種類を飼育することが可能です。90cm~120cm水槽であれば、多くの種類のベラを飼育できますが、カンムリベラなどの巨大な種や、シロタスキベラの仲間などよく泳ぐタイプの種類は、もっと大型の水槽が欲しくなったりします。

ろ過槽

大型水槽ではオーバーフロー方式を採用することが望ましいですが、そうでなければ上部ろ過槽を使用するのが良いでしょう。ベラの仲間は大食いですので、しっかりとした生物ろ過が可能なろ過装置で飼育する必要があります。

ろ過能力が足りないのであれば外部ろ過槽を追加します。上部ろ過槽を使っている水槽に上部ろ過槽を追加するのは現実的でなく、外掛けろ過槽は小型水槽向けであり、底面ろ過装置は底砂を動かすベラの仲間の飼育には適していません。

フタ

この仲間は遊泳力が強かったり、ベラ同士や他の魚との争いで、勢い余って水槽の外に出てしまうこともあります。水槽にはしっかりふたをしたいものです。

砂はきめの細かいパウダー状の砂を敷いておきます。大きめのものはベラの種類によっては傷がつくこともあるので注意します。また、あまりにも厚く敷きすぎると、硫化水素が発生する恐れがあるので要注意です。小さなコガネキュウセンの場合は3~5cmくらい砂を敷くのが丁度よいといえます。

水温

普通の種類はカクレクマノミなど亜熱帯の魚を飼育するような25℃で十分ですが、やや深場に生息するカンムリベラ属の一部の種やオグロベラ属の魚、あるいは温帯性のホンベラやテンスなどはやや低めの22℃前後で飼育するのが良いでしょう。キュウセンなど温帯性の種の一部は、冬がくると砂の中で冬眠することが知られています。

砂に潜るベラ 適した餌

ベラの仲間はエビなどの甲殻類が大好きです。しかし、わざわざ海水魚店で肉食魚用に販売している生きたエビをわざわざベラにあげる必要はありません。勿論スーパーで販売されている冷凍のエビなどをメインに与える必要も全くありません。市販されている配合飼料で十分です。

ペレットの配合飼料を与えるときは粒のサイズに注意します。そのベラのサイズに合わせた粒の大きさを選ぶ必要があります。例えば大きめのテンスの仲間の場合は、粒がやや大きい配合飼料をあたえるようにします。フレーク状の配合飼料は浮いており、ベラも食べられますが浮かんでいる餌の争奪戦になりますので勢い余って飛び出す可能性もあります。フタはきちんとしておきます。

オグロベラやススキベラの仲間のように食が細いベラは冷凍のイサザアミやコペポーダ、イカのミンチなども与えるとよいでしょう。ただしこれをやると水が汚れる恐れがありますので水替えの間隔を短くするなどの対策をとり、硝酸塩やリン酸塩などの栄養塩を低く抑える必要があります。サンゴ水槽ではなおさら必要です。

砂に潜るベラと他の魚との混泳

他の魚の混泳は多くの魚と組み合わせられますが、似合う組み合わせとそうでないものがあります。オグロベラの仲間であればハナダイの仲間や小型のスズメダイの仲間(比較的大人しいスズメダイ属)、小型のバスレットの仲間とよくあいます。

気が強いキュウセンの仲間などはスズメダイの仲間の小型種やクマノミなどと組み合わせることもできます。ただしハタやモンガラカワハギ、大きめのスズメダイなどとはあまり組み合わせるべきではありません。メギスの仲間は似た形の魚を執拗に攻撃することがあるので気を付けます。

またキツネベラの仲間など強すぎるベラとの組み合わせは注意します。相性が悪いと、砂の中に潜ったままになってしまいそこから出てこないなんていうこともあります。砂に潜るベラ同士の関係ではキュウセン属、カンムリベラ属が強めで、カミナリベラ属などはおとなしい感じです。勿論、小型水槽にたくさんのベラを詰め込みすぎたり、巨大な種と小型の種を組み合わせたり、日本近海やオーストラリアに生息する温帯性の種を熱帯産の魚と組み合わせるということは無理というものです。

砂に潜るベラとサンゴ・無脊椎動物との相性

サンゴとの飼育については注意点があります。夜間砂に潜って眠るので、大型のベラを飼育すると砂がかなり舞うようになってしまい、サンゴの上にかかったりすることもあります。砂の上に直接サンゴを置かないように注意したいものです。

もちろん甲殻類との関係もよくありません。ペパーミントシュリンプやキャメルシュリンプ、アシナガモエビなどは餌になってしまう恐れがあります。逆にオトヒメエビの仲間やその他大型の甲殻類との混泳では、逆にベラの方が餌食になってしまう恐れがあります。

砂に潜るベラ飼育まとめ

  • キュウセン類はベラの中でもとくに種が豊富
  • ホンベラ属やカンムリベラ属は丈夫で初心者にも飼育しやすい
  • ススキベラやノドグロベラ属、オグロベラ属はやや飼育しにくい
  • カンムリベラは巨大になるので要注意
  • オーバーフロー水槽か上部ろ過槽を使用するとよい
  • ろ過槽を追加するなら外部ろ過槽
  • 水温はコガネキュウセンなどであれば25℃
  • やや深場にすむオグロベラや温帯種はもっと低めの水温で
  • 砂は必須。パウダーサンドを3~5cmほど敷く
  • キュウセン類・カンムリベラ属などは最初からペレットフードを食ってくれる
  • ペレットフードを与えるときは魚のサイズに注意
  • ススキベラやノドグロベラの類は最初のうちは冷凍餌を与える
  • 飛び出すおそれあり。フタはちゃんとしめる

2020.05.07 (公開 2017.07.02) 海水魚図鑑

砂に潜らないベラの仲間・種類と飼育方法

ベラの仲間には夜間砂に潜って眠るものと岩陰で休息するものがいます。前者は飼育するのに砂が必要ですが、後者は砂が必要なく、魚水槽でも飼育がしやすいベラです。この記事では砂に潜って眠らないタキベラ類やモチノウオ類を中心にご紹介します。

砂に潜らないベラのうちホンソメワケベラなどはまた別項でご紹介します。また、イトヒキベラの仲間やクジャクベラの仲間はこちらをご覧ください。

またベラについてはこちらをご覧ください。

砂に潜らないベラの種類

イラ属 Choerodon

▲水族館で撮影したシロクラベラ。

以前は観賞魚店ではあまり見ることが出来なかったイラ属ですが、近年になって熱帯性種が少し輸入されるようになりました。また従来独自の属とされたシチセンベラや深海性のイラモドキは最近イラ属に入れられるようになりました。大きめのものが多く、長期飼育には大型水槽が必要になる種が多いので注意します。インド-太平洋に26種が知られ、日本産は10種が知られています。沖縄ではスジアラやハマフエフキなどと並ぶ高級魚であるシロクラベラも、この属の魚です。

基本的にこの属は大きく育つものが多く、大きなものは1mくらいにもなります。観賞魚店で見られるもので大きくなるものは少ないのですが、クラカケベラやクサビベラも20cm位になりますので、できるだけ大きな水槽で飼育したいベラの仲間です。動物食性が強く、甲殻類も貝も食います。

主な種(★は日本にも分布する種)

★イラ Choerodon azurio (Jordan and Snyder, 1901)

★シロクラベラ C. schoenleinii (Valenciennes, 1839)

★クサビベラ C. anchorago (Bloch, 1791)

★ミヤコベラ C. robustus (Günther, 1862) (分類学的精査が必要)

★ミナベイラ C. sp. (分類学的精査が必要)

★パープルアイブロードタスクフィッシュ C. zamboangae (Seale and Bean, 1907)

★クラカケベラ C. jordani (Snyder, 1908)

★シチセンベラ C. fasciatus (Günther, 1867)

★イラモドキ C. japonicus (Kamohara, 1958)

★ユウモドロベラ C. margaritiferus Fowler and Bean, 1928

ゾスターラス C. zosterophorus (Bleeker, 1868) (西太平洋産。クラカケベラとして販売されることも)

タキベラ属 Bodianus

▲フタホシキツネベラ

▲モンツキベラも気は強いが飼育しやすい。

英語ではその顔の様子からホグ(イノシシ)フィッシュと呼ばれるグループです。世界中の暖かい海域に40種以上が知られる大きなグループで、未記載種のものもいます。水深1mほどの浅場にすむものから、ネオンラスのような深海性のものまでおり、深海性のものはかなり高価で入手困難です。一方浅海にすむモンツキベラやケサガケベラといった種はよく流通し、価格も安価で入手しやすいと言えます。日本産は少なくとも16種。

大きいものは80cmを超えますが、そこまで大きく育つものは少ないです。しかし、タキベラやキツネベラは70cmに達しますが、幼魚が安価に売られており、このような種を安易に購入しないよう注意しなければなりません。

主な種(★は日本にも分布する種)

★スミツキベラ Bodianus axillaris (Bennett, 1831)

モンツキベラ B. dictynna Gomon, 2006 (インド洋産は別種)

★ケサガケベラ B. mesothorax (Bloch and Schneider, 1801)

★キツネダイ B. oxycephalus (Bleeker, 1862)

★アカホシキツネベラ B. rubrisos Gomon, 2006

★キツネベラ B. bilunulatus (Lacepède, 1802)

★タキベラ B. perditio (Quoy and Gaimard, 1834)

★ヒレグロベラ B. loxozonus (Snyder, 1908)

★ヒオドシベラ B. anthioides (Bennett, 1832)

★シマキツネベラ B. masudai Araga and Yoshino, 1975

★タヌキベラ B. izuensis Araga and Yoshino, 1975

フタホシキツネベラ B. bimaculatus Allen, 1973

★スジキツネベラ B. leucostictus (Bennett, 1831)

★イトヒキアカボウ B. thoracotaeniatus Yamamoto, 1982

★アカボウ B. cylindriatus (Tanaka, 1930)

ネオンラス B. sanguineus (Jordan and Evermann, 1903) (ハワイ諸島)

ボディアヌス・ベネッティ B. bennetti Gomon and Walsh, 2016 (太平洋)

ボディアヌス・ネオパーキュラリス B. neopercularis Gomon, 2006 (西太平洋)

ボディアヌス・オパーキュラリス B. opercularis (Guichenot, 1847) (インド洋と紅海)

メキシカンホグフィッシュ B. diplotaenia (Gill, 1862) (東太平洋)

スパニッシュホグフィッシュ B. rufus (Linnaeus, 1758) (西大西洋)

ベニキツネベラ(スポットフィンホグフィッシュ) B. pulchellus (Poey, 1860)(大西洋)

ミヤビベラ属 Terelabrus

タキベラの仲間ですが細長い体が特徴的です。「スレンダーホグフィッシュ」と称されます。赤い体と黄色の線が綺麗な種です。やや深場にすむものが多いので価格も高めです。

主な種(★は日本にも分布する種)

★アマナミヤビベラ Terelabrus rubrovittatus Randall and Fourmanoir, 1998

★キスゲミヤビベラ T. dewapyle Fukui and Motomura, 2015

コブダイ属 Semicossyphus

▲コブダイ

3種が知られている小さなグループで、うち2種が東太平洋に生息し、もう1種は北西太平洋の磯に生息します。日本に生息しているコブダイはたまに近海ものに強い観賞魚店にならぶこともありますが、成魚は1mを超える巨大な体の持ち主のため、終生飼育可能かよく考えてから飼育するようにしたいものです。水族館で食用になり、釣り、食用魚としては西日本で価値が高めです。東太平洋産の種であるカリフォルニアヒツジベラは観賞魚ではなく、食用として日本に輸入されていたこともあります。

主な種(★は日本にも分布する種)

★コブダイ Semicossyphus reticulatus (Valenciennes, 1839)

カリフォルニアヒツジベラ S. pulcher (Ayres, 1854) (東太平洋 アメリカ西岸)

クギベラ類 Gomphosus, Thalassoma

ヤマブキベラの成魚

ヤマブキベラの幼魚

吻が細長いクギベラ属と、吻は長くないニシキベラ属は其々別属とされていましたが、クギベラはニシキベラと同じグループだと思われます。生活様式もにていますが、交雑個体も報告されています。いずれの種類も遊泳力が極めて強いため大型の水槽が必要になります。また強い水流も欲しいところです。

ニシキベラ属はインド-太平洋域、東太平洋、大西洋、地中海の暖かい海域に広く分布していますが、クギベラ属はインド-太平洋域に2、または3種のみが分布します。観賞魚店で購入する他、一部の種は夏から秋にかけて磯採集も可能です。結構気が強いのが多いですが、タキベラの仲間やニセモチノウオよりは大人しめのものが多いです。

主な種(★は日本にも分布する種)

クギベラ属

★クギベラ Gomphosus varius Lacepède, 1801 (東インド洋-中央太平洋)

グリーンバードマウスラス G. caeruleus Lacepède, 1801 (インド洋)

ニシキベラ属

ニシキベラ Thalassoma cupido (Temminck and Schlegel, 1845)

★ハコベラ T. quinquevittatum (Lay and Bennett, 1839)

★キヌベラ T. purpureum (Forsskål, 1775)

★リュウグウベラ T. trilobatum (Lacepède, 1801)

★セナスジベラ T. hardwicke (Bennett, 1830)

★ヤンセンニシキベラ T. jansenii (Bleeker, 1856)

★オトメベラ T. lunare (Linnaeus, 1758)

ヤマブキベラ T. lutescens (Lay and Bennett, 1839)

コガシラベラ T. amblycephalum (Bleeker, 1856)

コルテスレインボーラス T. lucasanum (Gill, 1862) (東太平洋)

ブルーヘッド(ラス) T. bifasciatum (Bloch, 1791) (西大西洋)

サドルラス T. duperrey (Quoy and Gaimard, 1824) (ハワイ、ジョンストン島)

クルンジンガーズラス T. rueppellii (Klunzinger, 1871) (紅海)

レッドチークラス T. genivittatum (Valenciennes, 1839) (西インド洋)

モチノウオ属 Cheilinus

▲ミツバモチノウオ。40cm位になる大型種

インド-太平洋の熱帯域に7種類が生息します。ミツボシモチノウオを除き、全長30cmを超える大型種ばかりです。特にメガネモチノウオは全長2mを超える大型種で、成魚の飼育には巨大な水槽が必要になります。餌もよく食べ丈夫な種類が多いのですが、他の魚や甲殻類もごちそうにしてしまいます。逆に幼魚はやや神経質な面を見せますので他の魚との組み合わせは注意します。

主な種(★は日本にも分布する種)

★アカテンモチノウオ Cheilinus chlorourus (Bloch, 1791)

★ミツバモチノウオ C. trilobatus Lacepède, 1801

★メガネモチノウオ C. undulatus Rüppell, 1835

★ヤシャベラ C. fasciatus (Bloch, 1791)

★ミツボシモチノウオ C. oxycephalus Bleeker, 1853

ブルームテールラス C. lunulatus (Forsskål, 1775) (紅海とオマーン湾)

ホホスジモチノウオ属 Oxycheilinus

インド-太平洋の海に10種類が知られるベラの仲間です。大きくても40cmほどとモチノウオ属のものとくらべて小型ですが、成魚はモチノウオ属と同じように気が強く、小型個体は意外なほどデリケートなので気を付ける必要があります。分類学的にはモチノウオ属と近い仲間であり、ひとつの属にまとめるべきという意見も強いです。

主な種(★は日本にも分布する種)

★ホホスジモチノウオ Oxycheilinus digramma (Lacepède, 1801)

★ヒトスジモチノウオ O. unifasciatus (Streets, 1877)

★ハナナガモチノウオ O. celebicus (Bleeker, 1853)

★タコベラ O. bimaculatus (Valenciennes, 1840)

★カタグロホホスジモチノウオ O. orientaris (Günther, 1862)

★サカヤキホホスジモチノウオ O. samurai Fukui, Muto and Motomura, 2016

ニセモチノウオ属 Pseudocheilinus

▲ニセモチノウオ

7種がインド-中央太平洋に知られ、うち5種が日本に分布します。小型種が多いのですが、かなりきつい性格をしているものが多く、他のベラや小魚との混泳には気を付けなければいけません。その分丈夫で飼いやすく、初心者でも飼育可能です。小型水槽でも飼育できますが、大きな水槽で大型魚と飼育するのに向いています。

主な種(★は日本にも分布する種)

ニセモチノウオ Pseudocheilinus hexataenia (Bleeker, 1857)

★ヒメニセモチノウオ P. evanidus Jordan and Evermann, 1903

★ヨコシマニセモチノウオ P. ocellatus Randall, 1999

★ヨスジニセモチノウオ P. tetrataenia Schultz, 1960

★ヤスジニセモチノウオ P. octotaenia Jenkins, 1901

ササノハベラ属 Pseudolabrus

▲高知県で採集したアカササノハベラの雌型

日本では関東以南の磯釣りで釣れる代表的な種であるホシササノハベラ、アカササノハベラの2種が知られています。太平洋の南半球に多い仲間で、オーストラリア、ニュージーランドや南太平洋のイースター島などの深場には魅力的な種が色々と生息していますが、観賞魚として入ってくることはほとんどないものと思われます。夜間は岩影で寝ていますが砂にもぐっていることもあります。

主な種(★は日本にも分布する種)

ホシササノハベラ Pseudolabrus sieboldi Mabuchi and Nakabo, 1997

★アカササノハベラ P. eoethinus (Richardson, 1846)

レッドバンデッドラス P. biserialis (Klunzinger, 1880) (南東インド洋)

クレナイベラ P. miles (Schneider and Forster, 1801) (ニュージーランド)

ハーフバンデッドラス P. semifasciatus (Rendahl, 1921) (イースター島)

オハグロベラ属 Pteragogus

▲三重県で採集したオハグロベラ

日本産のオハグロベラ属魚類は波の穏やかな磯に多く生息するオハグロベラ1種のみとされていましたが琉球列島にはほかにも何種か生息していて、現在研究が進んでいるとのことです。この琉球列島に生息するオハグロベラ属の仲間はフィリピンにも生息しており、ごくまれに輸入されてきます。インド-西太平洋に生息し、紅海のものはスエズ運河を経由して地中海にも入っているものがいます。

主な種(★は日本にも分布する種)

★オハグロベラ Pteragogus aurigarius (Richardson, 1845)

砂に潜らないベラ 選び方

タキベラ類やニセモチノウオなどのような種は基本的に大変丈夫であり、気が強いのですがさすがに入荷直後の体調がすぐれない個体は止めるべきです。しかしお店で長くいる個体は大きくてかなり気が強くなっていることがありますので、これは注意が必要なところです。

近海産のニシキベラ、ササノハベラ属の魚やオハグロベラは釣りによっても入手できますが、針を深く飲み込んでしまった個体や、タキベラ属の魚のように深いところから釣り上げられて目玉が飛び出している個体などは避けるべきです。

砂に潜らないベラ 飼育に適した水槽

水槽

種類によって異なります。ニセモチノウオは小型水槽で飼育している例も見られますが、理想は60cm、大型になるベラを飼育するなら最低でも90cm水槽で飼育したいものです。2mを超えるような巨大魚であるメガネモチノウオは家庭での水槽で飼育するのにはあまり向いていませんが、家庭で飼育するなら巨大なオーバーフローのアクリル水槽を用意するべきです。

ろ過槽

ベラの仲間は餌をよく食うので水を汚しやすいといえます。ナチュラルシステムで飼育しないのであれば、できるだけ大きなろ過槽をもちいて、たくさんのろ材を入れることが出来るろ過槽を採用します。

オーバーフロー水槽でない場合は、上部ろ過槽がお勧めですが、大型魚にパイプをずらされないように注意したいものです。大西洋産や深場の種はクーラーがどうしても必須になるため、外部ろ過槽やマキシジェットなどの水中ポンプとホースを使ってクーラーを接続する必要があります。さらに、これに殺菌灯をつければ、文句もないでしょう。ただし殺菌灯を付けると水はどうしても温められてしまいますので、殺菌灯を通した水がクーラーを通るようにします。

砂に潜らないベラとされている種でも、同居しているベラの仲間やそのほか砂を敷く必要がある魚を飼育する場合は砂を敷きます。サンゴを飼育水槽でベラを飼育するのには砂を薄く敷くとよいでしょう。

フタ

ベラの仲間は意外と飛び出しやすいともいえます。ベラ通しの争いもありますが、クギベラの仲間などのように遊泳性が強い魚は水槽内でもびゅんびゅん泳ぎ、勢い余って外に出てしまうこともあります。したがって、フタはベラ飼育に必要不可欠といえます。

水温

ハワイや大西洋から魅力的なベラが来ることがあります。タキベラの仲間のスパニッシュホグフィッシュ、ニセモチノウオの仲間のヨスジニセモチノウオ、クギベラの仲間のブルーヘッドラスと言った種です。これらの種は水温を東南アジア産の魚よりも若干低めの22℃くらいの水温を好むようです。とくにハワイは常夏というイメージがありますので注意が必要です。

最近は深い海に生息するタキベラの仲間が来るようになりました。このようなタキベラの仲間のやや深海性のものはもっと低い水温で飼育します。ハワイ産のネオンラスや、体に紅白の縞模様がある種の中にはかなり深い場所に生息するのがいます。もちろん温帯の自家採集の魚も高水温には注意しますが、ササノハベラやオハグロベラは比較的高い水温でも強いといえます。ニセモチノウオや、アカテンモチノウオ、その他東南アジアのごく浅いサンゴ礁にいるベラは25℃で十分です。

砂に潜らないベラの仲間に適した餌

今回ご紹介したベラの仲間はどの魚も、肉食のかなり強い魚です。お店では肉食魚用の餌として生きた海産のエビが販売されていることがありますが、配合飼料もよく食べる魚なので、生きた餌を与える必要もないですし、冷凍のエビやイカ、魚の切り身などもたまにあたえるくらいでちょうど良いです。

配合飼料は、ベラの種類によって使い分けるのがベストです。小型のフタホシキツネベラやニセモチノウオであれば小粒の餌を、大きくなるタキベラやモチノウオの仲間であればそれなりに大粒の餌をあげるようにしたいものです。

クギベラ類のうち、コガシラベラなど一部の種の幼魚は他の魚についた寄生虫を食べたりすることもあります。他にも寄生虫を食べるベラは何種かいるのですが、どの種類も成長すると底生動物を食うようになります。

砂に潜らないベラと他の魚と混泳させる

▲タキベラ属の魚と他の魚との混泳は要注意。

ベラの仲間は気が強いのが多いのですが、その中でもタキベラの仲間、モチノウオの仲間はかなり気が強いため、混泳には注意します。大型ヤッコの仲間、雑食性のチョウチョウウオの仲間、クマノミ・スズメダイの仲間、同じくらいのサイズのフエダイの仲間、ニザダイの仲間など、大きく気が強い魚との組み合わせに向いています。小型種であるニセモチノウオやフタホシキツネベラは性格が強めですので、大きな魚との混泳もこなしますが、同じようなサイズのベラとの混泳は困難です。ベラとの混泳を避ける、または大きなベラと組み合わせるなどして争いを極力避けるようにします。

大型のモチノウオ属の魚やタキベラ属の魚はハタの仲間など口が大きい魚との飼育も可能なのですが、ハタの口に入るようなサイズのベラは混泳に向いていません。またコブダイやササノハベラの仲間などの温帯性種、深場にすむキツネベラの仲間と浅いサンゴ礁に生息する魚との飼育もあまり勧められません。またハワイや大西洋の魚は意外と低い温度を好むものが多いので気を付けます。

砂に潜らないベラとサンゴ・無脊椎動物との相性

甲殻類との飼育は困難です。砂に潜らないベラの仲間のニセモチノウオやキツネベラの仲間は甲殻類が大好物だからです。小さなエビ、カニはもちろんヤドカリの仲間も襲われることがあります。ヤドカリとの飼育もおすすめすることはできません。逆に大きすぎる甲殻類との混泳は危険です。

今回紹介した種とサンゴとの飼育は概ね問題ありません。水温が低い環境をこのむものも多いので、LPSや深場ミドリイシなどと組み合わせても良いでしょう。ただしタキベラやニセモチノウオの仲間は大食いですので、たくさん餌をあたえたくなりますが、サンゴと組み合わせる場合は常に硝酸塩の蓄積に気を付けるようにします。遊泳性の強いクギベラ類をサンゴと組み合わせることも可能ですが、あまりに多くのサンゴを組み合わせるとベラ類の大事な遊泳スペースが損なわれてしまいます。

クサビベラやキツネベラなど、タキベラ属やイラ属の大型種や、ミツバモチノウオ、メガネモチノウオといったモチノウオ属の大型種は遊泳スペースの問題からあまりサンゴとの飼育に向かず、強い力でサンゴをひっくり返したりすることもします。

砂に潜らないベラ飼育まとめ

  • 性格が強い魚が多い。混泳に注意。
  • 遊泳力が強い魚も多い。90cm水槽がお勧め。
  • 深場・大西洋産種は、高水温に注意。
  • 上部ろ過槽でも飼えるが、クーラーや殺菌灯も欲しい。
  • 肉食魚で配合飼料をよく食べる。
  • 小魚や甲殻類を好んで食う種も。
  • タキベラ類やニセモチノウオは他のベラを攻撃することも多い。
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